熊澤・丸山(編)(2002)による〔『プルームテクトニクスと全地球史解読』(313p)から〕


第3部 全地球ダイナミクスへ向けて

3−3 水とマントルのダイナミクス

 水はH2Oの液相を指すのが普通であるが、固体地球内部を扱う領域では、水素や水和化合物中のOHも一括して「水」と呼ぶことが多い。固体地球のダイナミクスや地球内部物質大循環を考える上で、揮発性物質、例えば二酸化炭素や水の役割がきわめて重要であることは、すでに多くの研究者が指摘している。マントルからもたらされたダイヤモンド結晶中の微小な空包を満たす液相は、主として二酸化炭素である。炭素は、地球表層から核までの全域に存在すると考えられるけれども、その分布とマントルダイナミクスに果たす役割の解明には手がかりがまだ?めていない。一方、水は微量でも物質の流動性や化学的活性を著しく上げる機能があり、かつ、炭素よりももっと多量に存在する可能性がある。火山岩の組成から見て、プルームは水と炭酸ガスに富んでいること、したがってマントル中に水が多く含まれていることが推定される。また、マントルからもたらされた岩石にいくつかの水和ケイ酸塩鉱物が発見され、かつ超高圧実験によって、高圧高温でも安定な含水化合物が存在することがわかってきた。超高圧下での含水鉱物の安定条件の実験的解明は大谷ほか論文に紹介してある。
 今回の再掲載にあたって、水がマントルダイナミクスに果たす役割について最近の超高圧実験データを中心に、最新成果の書き下ろしをお願いした(大谷論文)。大谷は、超高圧実験から推測したプルーム内部のダイナミクスを推測している。
 奥地は、核の溶融鉄合金中に溶けこむ水素量を決める超高圧実験をおこない、外核には地球形成期に大量の水素が取り込まれ、後の時代になって断続的にマントルに漏れ出すことによってマントル底でプルームが発生することを示した。つまり温度ではなく、核から供給される密度の小さい物質の浮力によってプルームが発生上昇することを示したのである。
 海嶺におけるプレートの形成などの火山活動によって、マントルから水が地表に運ばれることは明らかであり、沈降するプレートが海の水をマントルに持ち込むことも今や疑いなくなった。表層海水がマントル深部に運ばれる機構の解明には、含水鉱物の安定性に関する研究が決定的な役割をもっている(岡本論文)。含水鉱物の安定性から予測されることは、地球の冷却史とともに表層海水がマントル深部へと逆流し、最後には海水が地表から消えてしまう日がやがてくるということである。この変化は、固体惑星のダイナミクスとその進化だけでなく、地球型惑星の表層環境の変遷に大きな影響を与えるに違いない。
 これらの諸問題は非常に重要なので、本書のあとがきにも再度論及した。』


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