熊澤・丸山(編)(2002)による〔『プルームテクトニクスと全地球史解読』(259-260p)から〕


第3部 全地球ダイナミクスへ向けて

3−2 プルームの問題

 プレートの下のマントルについて具体的な描像を得ることは、1980年代後半になるまでほとんど不可能だった。大量の地震波のデータ解析による高精度地震波トモグラフィーが実現し、新しい時代が始まった。それは、0.1%程度の地震波速度変化の空間分布を高い空間解像度で明らかにすることである。そのパイオニアの一人である谷本によって、S波速度分布を使ったマントル浅部の構造の解析がなされた(谷本論文)。その結果、中央海嶺の下に存在するはずだと予想していたカーテン状のマントル上昇流は、せいぜい150km深度までしか続かないことがわかった。つまり、プレートテクトニクスの影響はマントル浅部にしか及んでいなかったのである。ホットスポットとは、高温のマグマが円柱の中を上昇してくる場所(例えばハワイ)のことであるが、その根はさらに深いはずである。しかし、上部マントルの深部まで追跡してその根の深さを紛れなく推定するのはまだ困難で、将来の課題とみられる。
 一方、深尾らによるP波の全マントルトモグラフィー像は、下部マントルに横たわる巨大なスーパープルームの存在を明らかにした。また、沈み込み帯深部では、スラブが660km境界面を突き破れないで滞留することが世界で初めて、日本列島の直下でもっとも明瞭に観察された。その傾向は大林の改良したトモグラフィー(第1部の大林の補足を参照)でも確認され、それは日本列島以外でも認められる普遍的なものと見られる。660km深度でスラブが滞留しているか、突き抜けているか、それを観測的に明らかにすることは、マントル対流が二層対流であるか、全マントル対流であるのか、その手がかりを与える重要問題である。これには趙大鵬(2000)が決着をつけた。つまり660km境界面の凹凸のモデルを設定し、その境界面を含まないグリッドを使うことによってトモグラフィーの局所的空間解像度を上げた結果、世界のすべての海溝深部において、スラブが対流している様子が明らかになった。解像度が低かった時には、660km相転移面の微細な凹凸はボケてしまい、スラブはどこでも突き抜けているようにも見えてしまっていたのである。
 さて660km境界面がマントル対流のバリヤーになることは本多ほかの数値実験でも確かめられた。彼らはプルームの時間発展を数値実験によって調べ、660km境界付近に滞留した低温のマントルの塊(メガリス)は突然崩落し、突発的なプルームイベントを誘発することを示した。この数値実験は、マントルの粘性を上部と下部のマントルで同じという非現実的仮定のもとではあるが、定常または準定常対流ではないフラッシュ型の対流を示した点で重要である。現実の下部マントルは上部マントルよりも粘性が二桁程度大きいと推定されるから、対流は660km境界でさらに強い抵抗を受けるはずである。一方、唐戸は鉱物物性の立場から、660km深度に達したスラブが抵抗を受けて滞留するのか、それとも突き抜けるのか、何がその違いを決めるかを論じ、スラブの滞留と海洋地殻の剥離の可能性を強く示唆した。
 プレートやプルームの駆動源は密度差による浮力にあることは間違いない。これまでの考え方の主流は、密度差の原因を保証はないけれども温度差(温度異常)にあるとみなし、マントル物質として均質なレルゾライトを仮定して議論してきた。地震波トモグラフィーの結果は、弾性波速度という物性定数の空間分布を与え、それらがマントル物質とその状態の情報を含んでいるとはいえ、これを読み出す字引に相当する基礎が不足していたからやむを得ない面もあった。プレートの発生はマントルの表層における組成分化であり、その沈降はマントル深部にまで化学的不均質性(組成異常)を発生させる過程でもある。近年、唐戸(2001)によって、マントル深部の組成不均質を観測データから推定する手法が提案され、太平洋スーパープルームの底にカルシウムペロブスカイトに富んだ組成異常があると指摘されている。これは、プレートテクトニクスやプルームテクトニクスなど、マントル対流の駆動源が温度異常だけでなく、組成異常が非常に重要であることを示唆している。
 海溝からマントル深部に沈み込んだ海洋地殻は全マントル規模でリサイクルし、いくらかは再び上昇してホットスポットや洪水玄武岩の原因物質となる可能性がある。高橋・中嶋論文はハワイホットスポット火山のマグマはリサイクル海洋地殻であるとする説を提案する。プルームが下部マントル起源である直接的な根拠はプルーム岩によって地表へ運ばれたマントル捕獲岩の鉱物にみられる。具体例は、ダイヤモンド中の微小な捕獲結晶のなかに下部マントルで安定なペリブスカイトやウスタイトが見つかることである(入舩論文)。
 ところでプルームは定常的な活動をするのではなく、間欠的なイベントとして発生すると見られる。10億年という長い時間間隔でしか発生しない超巨大なスーパープルームから、もっと小規模で短い時間間隔で発生する多数の赤ちゃんプルームまでがフラクタル的に存在しているものと推定される。太平洋スーパープルームでは、活動が活発な時期と非活発な時期が約1億年周期で繰り返しているらしいことが、太平洋の内部の巨大海膨や海台を作った記録に明瞭に残されている(斎藤・平論文)。短期間にきわめて大量の玄武岩質マグマを生みだすためには、従来の考え方では均質なマントル内部に異常に大きな温度異常が必要となる。しかし、先述の高橋・中嶋論文では、もしマントル内部にリサイクル海洋地殻がポケット状に点在している(組成異常)ならば、不自然に大きな温度異常を想定する必要はなくなることを指摘している。
 もっと長い周期として、巽は日本列島周辺の造山帯に付加した緑色岩の化学組成から、太平洋スーパープルームの1〜2億年の周期的な活動史を論じ、先1億年前にもプルームパルスが存在することを指摘した。また木川は、スーパープルームの活動史が、地表の平均気温や地球中心核のダイナモ活動を示す地磁気の逆転頻度が相関している事実を紹介している。』


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