熊澤・丸山(編)(2002)による〔『プルームテクトニクスと全地球史解読』(197-198p)から〕


第3部 全地球ダイナミクスへ向けて

3−1 プレートの問題

 プレートテクトニクスの理論は、1960年代半ばから1970年ごろにかけて作られ、プレート境界でおこる多様で複雑な諸現象を体系的に理解する基本枠を提示したことによって、一つのパラダイムとなった。これによって、プレート境界における地質現象の理解は一気に進んで、一見、落着したように見える問題も多い。しかし、その後もいくつかのトピックス的な発見が続き、また数値実験と室内実験の精度の向上がみられ、地球変動の定量的理解は深まりつつある。
 海洋プレートとその下のリソスフェアの境界は、800〜1000℃程度で、マントルかんらん岩の変形様式が脆性破壊から塑性流動する温度に対応すると考えられてきた。唐戸はこの伝統的な考えに疑問を呈し、この境界が無水(リソスフェア)と有水(アセノスフェア)境界であると推定する(唐戸論文)。
 マントル構成物質と考えられるレルゾライトがさまざまな温度で部分溶融して生じるマグマの組成を正確に決定することは、実験岩石学の研究開始の初期からの目標であった。プレートテクトニクスの時代になってみると、このマグマが中央海嶺で冷却固結したものが海洋プレートである、ということである。カーネギー研究所で岩石の部分溶融の研究が始まってからすでに50年が経過しているにもかかわらず、いまなおこの種の研究が続いているのは、ごく少量生成するメルト組成を凍結して正確に決定する実験技術に困難があったのも一因である。日本人グループが工夫を重ねて開拓したダイヤモンド粉末法によって精密測定されたメルト組成にもとづいて、中央海嶺玄武岩の成因が廣瀬・久城によって論じられる。
 沈み込み帯では若いスラブがマントルに沈み込む場合、現在の地球では、含水海洋地殻の表層が溶ける場合がある。このような現象は、太古代ではもっと普遍的であったと推定されている。時代とともにプレートテクトニクスの働き方が変化するさまを巽が議論している。沈み込み帯の火成作用の数値モデル実験結果が岩森によって示される。
 二つの大陸プレートが衝突するとその間には衝突型造山帯が生まれる。かつては、変成岩に含まれている鉱物の解析から、プレートの埋没深度は30kmを越えないと考えられてきた。ところが、ヨーロッパアルプスでのコーズ石の発見を皮切りに、世界の主要な衝突型造山帯からつぎつぎとコーズ石やダイヤモンドなどの100kmを越える深さでしかできない高圧鉱物が発見報告されるようになった。現在では超高圧変成作用は大陸衝突型造山帯では普遍的な現象とみなしてよい(坂野ほか論文)。
 さて、日本列島は太平洋型(都城秋穂氏の業績を讃えて都城型と呼ぶ)造山帯の世界の標準地域とみなされる。9億年にわたるその発達史を磯崎が要約した(磯崎論文)。』


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