熊澤・丸山(編)(2002)による〔『プルームテクトニクスと全地球史解読』(127-128p)から〕


第2部 新しい地球史

2−3 生命の誕生と進化

 生命はある範囲の物理化学的条件があれば自然発生する。水が液体として存在できるようになった初期地球の海底火山の近傍には、エネルギー源となるイオンを含む高温の水が循環していて、原始的自己触媒機能をもつ分子が合成される条件はあった。最近の分子系統進化の研究によると、最も原始的な生命は好熱嫌気性細菌であり、生命誕生の場所はかなり絞り込まれてきたとみてよい。大気、海洋はもとより、固体地球が変動すると生命のすむ表層環境は激変する。そのたびに生物は環境に適応する変異を重ね、絶滅や多様な進化を経てきたと考えられる。その原始生命からみると、その後のある時期からの、われら地表近傍にすむ地球生命の進化は、光合成によってエネルギーを獲得し(光食)、低温で(好冷)、酸素のある(好気)環境にすむ、いわば光食好冷好気性の生命システムができてきたのである。
 生命は地球の物理的環境と物質循環を決定的に変える。濃い二酸化炭素の大気を固定して固体地球内部に取り込ませ、水を還元して酸素大気をつくり、地球表層の温度をいちじるしく下げた。要するに生命と地球は密接な相互作用をしながら進化してきたので、生命と地球は共進化(coevolution)してきたといってよい。このような見方に立つ地球生命観ののレビューが川上・大野論文である。磯崎・山岸は近年飛躍的な発展をしてきた分子生物学からみた生命進化理論と地球表層に残された物証を比較検討して初期生命を推論する。西オーストラリアピルバラ地塊ノースポール地域の世界最古微化石含有試料の産状、分布層準、組織、炭素同位体分析から初期生命の物理環境が推測された(上野論文)。
 地球生命史の中でもっとも重要な進化の節目は、27億年前と6億〜7億年前のイベントであろう。27億年前とは、生物が光合成を開始し、表層環境が酸化的な状態になりはじめた時期である。松浦・伊藤がそのシナリオを解説する。二つ目の重大な変化はベンド紀-カンブリア紀境界とも呼ばれる5.5億年前にある。イランにみられるベンド紀−カンブリア紀境界層に残された記録を松本・角和が解説する。
 超大陸の分裂初期に出現する生物の大絶滅の代表例が2.5億年前の古生代-中生代境界にみられる。これはわれわれが認識している限りで、地球上最大の生物大量絶滅事件である。この時の固体地球変動と生物大絶滅の因果関係を説明する作業仮説が磯崎によって提案される。また、中生代末(6500万年前)の巨大隕石の衝突に伴う恐竜の絶滅は、世間でよく知られている。絶滅の直接の原因である表層環境変動が、大型化石だけでなく有孔虫などの微化石の変化の検討や、他の時代におこった絶滅の特徴と比較することで、詳しく解明された(海保論文)。同じく、この時期の変動を特徴づける異常津波堆積物に着目して、カリブ海周辺の津波堆積物の分布を調べ、その特徴から隕石衝突時の物理変動が推定された(多田・松井論文)。
 長谷川・曹は分子生物学的手法を駆使して、従来の形態分類に基づいて作られた哺乳類の進化系統樹の問題をさらに掘り下げて確立した、より現実的な新しい進化系統樹と大陸移動の歴史を比較した新研究を紹介する。』


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