熊澤・丸山(編)(2002)による〔『プルームテクトニクスと全地球史解読』(37-38p)から〕


第2部 新しい地球史

2−1 地球誕生−太陽系形成からマグマオーシャンまで

 日本の近代的な惑星形成の理論的研究は、京都大学の林忠四郎による星形成に関する画期的理論から始まるといえよう。その後、都城の隕石の組成を惑星形成に関連づけた先駆的研究(科学、37、520(1967))からかなりの時間をおいて南極隕石の組織的収集と分析が始まった。一方、惑星科学は、実験的惑星学が開拓した基盤のもとに惑星探査に向かう流れの中にる。しかし、日本の固体惑星探査は、飛翔体とその運用におけるハンディキャップを負って苦難の道を歩いているが、太陽系における地球の環境と進化の理解に惑星探査は不可欠なアプローチだ。これを支えて推進するために、周辺関連分野に格段のレベル向上が求められている。
 最近の隕石の研究に基づく惑星形成論の新展開の一つは、先太陽系物質の発見である(甘利論文)。隕石中の微粒のダイヤモンド、シリコンカーバイドの発見がそれで、放射性年代の測定はまだなされていないが、46億年よりも古い年代をもつはずである。
 もう一つの重大な発見は、天体観測によっていろいろな進化段階の原始太陽系が確認されたことだ。現段階では、木星型惑星の発見にとどまっており、地球型惑星の発見は今後の重要な課題となっている。少なくとも現時点ではっきりしてきたことは、中心星−惑星系には著しい多様性があり、わが太陽系は必ずしも原始惑星系の標準ではないらしいことである(井田論文)。
 赤外線天文学によって、双極子流による物質の放出が発見されたが、その放出と重力による集積の場における物質循環過程モデルが検討された。そして、隕石の元素鉱物組成とその多様性を、整合性をもって説明する詳細なモデルを作ることも可能になった(圦本・倉本論文)。
 地球のユニークな点は、異常に大きな天体、月を衛星としてもっていることである。火星と木星の間にある小惑星をすべて足しても月に及ばないほどに月は大きい。月が地球の衛星になった物理的メカニズムとして、火星サイズの天体が形成期の地球に衝突して1週間で月が誕生した、とする最近の数値実験結果は注目を集めた(もう一つの井田論文)。
 現在はすでに消滅してしまったが、地球形成期には、深さが1000キロメートルにも及ぶマグマの海(マグマオーシャンと呼ぶ)が存在した、と考えられている。その活動と消滅の直接的物証もどこかに存在するはずである。地球誕生後6億年間の記録は、地球上には砕屑性鉱物粒を除いていまだ発見されていないので、世界各地の造山帯での物証探索が期待される。世界で目標に最適と考えられる造山帯の地質調査と試料の解読が1989年から始まった。その成果に基づいて提案された地球形成期からの新しい地球史モデルの説明を最後に置いた(丸山論文)。』


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