【た行】

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【た】

代謝（metabolism）⑨
『生体内で起こる物質的、化学的過程の総計。その酵素反応に対してのみ用いられることもある。同化作用（分子の生成）と異化作用（分子の分解）からなる。しばしば、ある特定の生体内の物質群に関連して用いられる（例、脂質代謝）。代謝速度という語は、しばしばあいまいに使われており、呼吸速度と同義に用いられることもある。好気生物の酸素消費レベルを生物の一般的な代謝活性の指標とする。』
代謝（たいしゃ）⑫
『生体内における物質の酵素などによる変化をさす。広くは、物質ばかりでなく生物体内におけるエネルギーの交代（エネルギー代謝）をも含める。新陳代謝、物質交代ともいうが、教育用語としては、両方の意味をくんで代謝とする。』
代謝（産）物（metabolite）⑨
『代謝に関与する物質。生化学経路の中間体と、環境から取り込まれるものがある。生物の生命活動に不可欠な反応の産物あるいはその反応に必要な物質を一次代謝（産）物といい、生物の生命活動の維持に不可欠ではない反応の産物あるいはその反応に必要な物質を二次代謝（産）物という。』
代償植生（substitutive community、substitutional community）⑪
『人為植生（artificial vegetation）。本来の自然植生の代償として二次的に生じた群落。何らかの人為的干渉によって成立し、持続している植物群落を指す。ほとんどのアカマツ林・クヌギ-コナラ林などの二次林、スギ・ヒノキ植林などの人工林、路上のオオバコ群落、畑の雑草群落などはみな代償植生である。代償植生は一般に不安定で、それを持続させている人為的干渉が停止されたときには、他の群落への遷移を開始する。個々の自然植生としての植物群落は、それぞれいくつかの特定の代償植物群落をもつ。』
大胞子（megaspore、macrospore）⑨
『異形胞子性のシダ類がつくる2種類の胞子（減数胞子）のうち大形のもの。これらのシダ類や種子植物の雌性配偶体世代の最初の細胞。これは被子植物では胚嚢になる。』
大胞子（だいほうし）⑫
『一つの植物に、大・小2型の胞子が形成される場合の大型の胞子。大胞子が発生すると雌性配偶体に、小胞子は雄性配偶体になる。種子植物の胚珠のなかで減数分裂の結果できる細胞も、他の多くの植物と比較すると、大胞子に相当するものであることがわかる。小胞子の対語。』
対流（convection）①
『液体の実質の流れによって熱や流体中に混じっている物質が運ばれる現象。例えば、流体内部のある区域が絶えずあたためられ、その温度が周囲よりも高くなると、この部分の流体は膨張により密度が小さくなり、浮力によって上昇し、周囲の低温度の流体がこれに代わってその区域に流入し、循環する流れが生じる。温度の不均一によって生じる対流を熱対流とよび、典型的な例はベナール対流である。あたためられる区域が流体の下部にあるときは、この過程により容易に流体全部の温度を高めることができる。重力の作用だけでなく、熱源に外部からの流れが当る場合も、熱の移動が容易におこる。この場合を強制対流（forced convection）とよぶ。対流の理論的研究は、主としてブシネ近似を適用したナヴィエ-ストークス方程式と連続の方程式を用いて行なわれる。』
多核錯体（polynuclear complex）⑩
『一つの錯体中に、2個以上の金属（イオン）が中心原子として含まれるものをいう。含まれる金属（イオン）の数によって、二核錯体、三核錯体などとよばれる。多核錯体には、中心金属（イオン）間にいくつかの配位子が架橋している場合と、架橋配位子をもたず、直接金属－金属結合が存在する場合がある。中心金属（イオン）間を架橋する配位子としてはCl^-、Br^-、O^2-、O2^-、O2^2-、OH^-、S^2-、SR^-、NH2^-、P(C6H5)2^-、H^-、C2O4^2-、RCO2^-などがある。架橋配位子を含む錯体の場合、それぞれの中心金属（イオン）のまわりに形成されている配位多面体が頂点共有、稜共有あるいは面共有することによって多核錯体が形成される。頂点共有は1個の架橋配位原子を共有し（[(NH3)5CrOCr(NH3)5]⁴⁺）、稜共有および面共有は、それぞれ2個および3個の架橋配位原子を共有する（「Co2(μ-OH)2(NH3)8]⁴⁺、[Co2(μ-OH)3(NH3)6]³⁺。[(NH3)5Co{NH2(CH2)12NH2}Co(NH3)5]⁶⁺のように配位原子を共有しないで形成される多核錯体も多い。金属－金属間結合を有する多核錯体はクラスター錯体ともよばれる。クラスター錯体の場合、中心金属（n個）どうしによっても多面体が形成される。n＝2の場合は直線形、n＝3は三角形となり（Os3(CO)12）、n＝4は四面体形（Ir4(CO)12）、n＝6は八面体形（[Mo6Cl8]⁴⁺）が普通である。架橋配位子と金属－金属間結合をともに含む錯体もある。たとえば、Fe2(CO)9は3個のCOが共有された面共有型多面体を形成するが、Fe－Fe間にも結合が存在する。』
他感作用⇒アレロパシー
脱窒素作用（denitrification）⑪
『脱窒。Pseudomonas denitrificans、Micrococcus denitrificansなどの脱窒素細菌が、硝酸または亜硝酸を窒素ガスに変えて放出する作用。窒素ガスはすべて無機硝酸または亜硝酸に由来し、NO3^-→NO2^-→NO→N2O→N2の順に還元されるので、N2のほかN2O、NOなども副次的に形成されることがある。呼吸における電子受容体として酸素の代りに硝酸を用いてエネルギーの調達を行っていると思われる（硝酸呼吸）。通常の高等植物や他の細菌類による硝酸、亜硝酸の還元過程が同化の過程であるのに対し、脱窒素作用は異化の過程であり、両者は区別される。』
脱窒（だっちつ）⑫
『自然界では、硝酸は一部の微生物によって有機物を酸化するための酸素に代わる酸化剤として利用され、嫌気的に還元されて窒素ガスが生成される。この作用を脱窒といい、自然界の窒素循環において重要である。脱窒は嫌気呼吸の一種であり、これをおこなう細菌を脱窒菌という。』
多糖（類）（グリカン）（polysaccharide（glycan））⑨
『多くの単糖類の単量体が縮合してつくられた炭水化物の重合体。長く、しばしば繊維状で溶解しにくく、浸透的には不活性な分子で、甘みはない。構造的（例、セルロース、キチン、グリコサミノグリカン）、またエネルギーの貯蔵に（例、デンプン、グリコーゲン、イヌリン）、非常に重要である。』
多糖類（たとうるい）⑫
『単糖類が多数結合してできた高分子で、デンプン、グリコーゲン、セルロースなどがその代表。前二者は、エネルギー源として植物・動物細胞に蓄積され、後者は植物細胞壁の構造多糖類である。ポリサッカライドともいうが、教育用語としては漢字表記を優先して多糖類とする。なお、単糖類が2-6個程度結合したものを少糖類という。』
玉葱状構造（たまねぎじょうこうぞう）（onion structure）②
『地表で風化を受けた岩石が、あたかもタマネギの皮をむくように、同心球状の薄殻となって表面からはがれる（剥離、exfoliation）ために生じた多殻球状の構造。玉葱状構造を形成する作用を輪剥作用という。表面と内部との膨張量の差によるひずみ割れ、または化学的作用により生ずる。花崗岩・安山岩・玄武岩などの火成岩によくみられる。堆積岩では塊状の泥岩や細粒砂岩に多い。〔礒見　博〕』
ダルシーの法則（Darchy's law）①
『微粒子を充填したものや素焼きのように間隙のある物質中に圧力勾配▽pをかけて粘性流体を流したとき、その平均流速v は
　　　ｖ＝－k ▽p
と表わせる。これをダルシーの法則という。k は粘性率や間隙の幾何学的性質によって決まる定数で、透水係数（permeability）とよばれる。地下水の流れの解析ではこの法則が使われる。』
単核錯体（mononuclear complex）⑩
『一つの錯体中に1個の中心金属（イオン）が存在するものをいう。多核錯体に対する語。』
単系（統）（monophyletic）⑨
『ある一群の分類群が単一の祖先種（既知の種または仮定された種）に由来することをいう。祖先種に由来するすべての分岐群を含む場合（完系統群）と、あるいはその中の１つまたは複数の小さな分岐群を除外する場合（側系統群）がある。』
単座配位子（monodentate ligand, unidentate ligand）⑩
『H2O、NH3、Cl^-などのように、一つの配位基（原子）のみで配位する配位子をいう。多座配位子に対する語。炭酸イオン（CO3^2-やグリシナトイオン（NH2CH2COO^-）のように、二つの配位原子で配位可能な二座配位子でも、一つの配位原子のみで配位しているときには単座配位子として配位しているという。π-アリル基のように、単座配位子なのか三座配位子なのか明確に定義されないものもある。』
担子器（basidium、複数はbasidia）⑨
『担子菌類の有性生殖の際に形成される特殊化した細胞。棍棒状か円柱状のものが多く、ときに4細胞からなるもの（サビキン類）もある。核の融合と、それに続く減数分裂がこの担子器の中で行われる。その結果、4つの担子胞子が担子器の外側の小柄上に形成される。』
担子器（たんしき）⑫
『担子菌類にみられる胞子嚢。ふつう棍棒状、このなかで核の合体と減数分裂をおこなう。その後この担子器の外部に小柄ができ、その先端に担子胞子をつける。』
担子菌類（Basidiomycota）⑨
『以前は担子菌亜門（担子菌綱）とされた。非常に多様な種からなる菌類の一門（例、シロキクラゲ類、サルノコシカケ類、ハラタケ類、イグチ類、スッポンタケ類、ホコリタケ類、コロボキン類、サボキン類）。これらの菌類の普通名の大部分は、可視的な大きさに発達する子実体（担子器果）の形状に由来する。子実体は植物や土壌中に広がって栄養分を吸収する菌糸によって、栄養的に支持されている。担子菌類は、棍棒形の胞子形成器官である担子器の外側につく担子胞子の形成によって特徴づけられる。菌糸には常に隔壁がある。胞子は発芽すると一次菌糸を形成する。これは最初は多核体だが、すぐに隔壁が形成されて、一次菌糸となる。一次菌糸が接合して、二次菌糸が生じる。この接合は、交配型が同じ（ホモカリオン）、または異なる（ヘテロカリオン）一次菌糸の間で起こり、生じた二次菌糸は二核菌糸（二核共存体）となる。二次菌糸の頂端細胞は、通常はかすがい連結とよばれる特徴的な構造を形成して分裂をする。担子菌類は多くの外菌根の構成要素である。
　これまでに約2万5000種の担子菌類が記載されている。その中でもよく知られているのは、ハラタケと商業的に重要なツクリタケ（マッシュルーム）である。後者は東洋産のシイタケとあわせて、全世界のキノコ生産の約80％を占める。そのほか、非常に毒性が強いもの（例、テングタケ属）やLSDに似た幻覚誘発物質を含むものもある。サビキン類とクロボキン類は他の担子菌類とは異なり、担子器果を形成しない。これらの菌類は世界中で多くの作物に甚大な被害を与えるため（例、Puccinia graminis、コムギの黒さび病菌）、経済的に非常に重要な病原菌である。』
担子菌類（たんしきんるい）⑫
『有性生殖により、担子器や担子胞子を形成する菌類の一群。通称キノコ（子実体の一型）とよばれる担子器果や担子器の形態などにもとづき、分類される。』
担子胞子（basidiospore）⑨
『端子菌類の有性生殖の際に形成される胞子。減数分裂は担子器の中で進行し、担子胞子は担子器の外に生じる。』
単子葉類（Monocotyledonae）⑨
『被子植物を2つの綱に分類したときの小さいほうの綱。胚に子葉が1つあることから双子葉類と区別される。他の構造的な特徴として、葉の葉脈が平行である、茎の維管束組織がばらばらに独立している、花の構成要素の数が3または3の倍数、などがあげられる。数種の単子葉類は大型であるが（例、ヤシ類）、ほとんどのものは小型である。多くの重要な食用植物（例、穀類、家畜の牧草、バナナ、ヤシ類）や、観賞植物（例、ラン、ユリ、チューリップ）を含む。』
単子葉類（たんしようるい）⑫
『被子植物のうち、子葉が1枚とみなされる一群の植物をさす。子葉は地上に展開することがなく、一般に胚乳から栄養を吸収する器官に特殊化している。葉脈が平行、花部器官が3数性、幼根が主根にならず、不定根がひげ根状に発達するなどの点で双子葉類と区別される。双子葉類の対語。』
炭水化物（carbohydrate）⑨
『Cx(H2O)yの実験式（文字どおり含水炭素）を与える有機化合物群。単糖ではｙ＝x、二糖および多糖ではnを分子内の単量体の数としたとき、y＝x－（n－1）で表される。生物学的には構造上およびエネルギー源として非常に重要である。窒素や他の元素を含むこともある（例、アセチルグルコサミン）。炭水化物には、セルロース、キチン、グルコース、グリコーゲン、リボース、デンプン、スクロースなどがあり、糖脂質、糖タンパク質の構成成分でもある。』
炭水化物（たんすいかぶつ）⑫
『単糖類、それが脱水縮合してできる少糖類および多糖類からなる。一般式Cm(H2O)nで表わされ、みかけ上は炭素と水の組成となっているのでこのように命名されている。酢酸なども同じ一般式で表わされるが、化学構造の上から炭水化物には含めない。タンパク質、脂質と並ぶ生体の主要構成物質であり、エネルギー源、構造の保持のほか、核酸などの複雑な化合物の構成要素としても重要である。糖、糖質、糖類は炭水化物の同義語として、また炭水化物およびそれに関連した化合物を含む広義の用語として用いられる。教育用語としては、これらを炭水化物に統一して用いるが、他の物質と結合した場合には、糖の語を用いる。』
炭素循環（carbon cycle）⑪
『炭素にかかわる物質循環。地球上の炭素循環過程では、大気中から海洋への二酸化炭素の溶けこみ、海洋中での炭酸塩の溶解平衡、火山からの二酸化炭素の放出などの地球化学的な過程のほか、呼吸、植物の光合成作用による大気中の二酸化炭素の固定、生物遺体の微生物による分解、植物プランクトンやサンゴの遺体の海底への堆積など、さまざまな生物学的過程が関与している。産業革命以降の人間による化石燃料の燃焼と土地利用形態の変化は、地球レベルの炭素循環に大きな影響を与えている。』
炭素循環（たんそじゅんかん）⑫
『有機物の主要元素である炭素に関する自然界の物質循環をいう。植物の光合成において二酸化炭素の形で生体内に取り込まれ、それからつくられた有機物から出発して、その生物または他の生物がそれを消費し、呼吸により生じた二酸化炭素として炭素を放出する。その1年間の循環量は、大気中に二酸化炭素として存在している炭素の15％以上になる。地球の歴史において、循環にかかわる炭素の量は、石灰化や未分解有機物の地殻への堆積（たいせき）などにより著しく減少してきた。しかし、近年は、石油や石炭などの燃焼により、この量は増加してきている。』
単糖（類）（monosaccharide）⑨
『単一の糖で、多くの場合5個（リボースなどのペントース、C5H10O5）、または6個（グルコースやフルクトースなどのヘキソース、C6H12O6）の炭素原子を含む分子である。いくつかの単糖類、特にグルコースやそのアミノ酸誘導体は、生物学的に重要な多糖類やグリコサミノグリカンを構成する単量体である。炭水化物と同じように、その実験式はCx(H2O)xと近似している。ホスホグリセルアルデヒドやホスホグリセリン酸などのトリオース（三炭糖）は、多くの生化学経路（例、解糖、光合成）の重要な中間体である。』
単糖類（たんとうるい）⑫
『炭水化物のなかでこれ以上加水分解されないものをいい、化学的には還元性を示す。グルコース、フルクトース、リボースがその代表。多糖類や少糖類の加水分解によっても得られる。』
タンパク質（protein）⑨
『非常に大きな分子量の重合体で、1つ以上のポリペプチド鎖からなる。ポリペプチドを構成する単量体はアミノ酸で、ペプチド結合でつながっている（縮合反応による）。また、ポリペプチド内の2つのシステイン残基の間に酸化反応によって生成される‘ジスフィルド結合’をもつ場合もある。ポリペプチドの種類は無限である。普通のアミノ酸は20種類あるため、そのうちの2つを結合させると20×20＝400種類のジペプチドをつくることが可能である。生物に見られるポリペプチドは、しばしば数百個のアミノ酸が連なった長さであり、生物体内で実際につくられるのは可能なポリペプチドのうちのほんの少しである。いくつかのタンパク質（例、アクチン、チューブリン）は、ポリペプチド分子のフィラメントを形成する。このようなタンパク質は、（タバコモザイクウイルスの外被タンパク質のように）4000万ドルトンにもなることがある。
　以下に述べるタンパク質の構造の分類は、重複もあると考えられるが、教科書的には有用である。ポリペプチドは構成アミノ酸の数と順序で決定される一次構造をもつ。分子の両端は、アミノ末端（-NH2）とカルボキシル末端（-COOH）である。ポリペプチドはリボソーム上で合成される間に、二次構造として普通はらせん状に巻いたαヘリックスの構造をとる。この構造はポリペプチド鎖内で、1つのアミノ酸残基の窒素に結合した水素原子と、そこから3番目のアミノ酸残基の炭素原子に結合した酸素原子との間の水素結合によって形成される。分子内の水素結合は、ほかにも二次構造の形成に寄与している。例えば、ペプチド鎖が互いに逆向き平行に並んで平面を形成している状態での、一方の鎖の水素原子と隣に並んだ鎖の酸素原子との結合に関与している。このようなβプリーツシートは多くの球状タンパク質分子で見られ、また、（絹のフィブロインや他の繊維状タンパク質のように）同じタイプのポリペプチドの結合にも見られる。αヘリックスとβプリーツシートの領域は、明確な二次構造の見られない（すなわち、より不規則な構造をとる）領域とともに、ポリペプチドの3次元的な立体構造（三次構造）の形成に関与している。αヘリックスの部分は、しばしばアミノ酸のR基の電荷分布による静電的な引力と斥力によって折りたたまれる。タンパク質には親水性領域と疎水性領域があり、受容体タンパク質のような膜貫通型分子では、前者は膜のどちらかの側の水性領域に、後者は膜の脂質層の内部に位置する。球状タンパク質の溶液中での三次構造はpH（R基の電荷がpHに依存するため）と硫黄原子間の（ジスルフィド）結合に依存している。酵素は典型的な球状タンパク質である。その機能は形に依存し、pHと温度の変化に影響される。多くの重要なタンパク質（複合タンパク質）は、タンパク質分子にタンパク質以外の基が共有結合して構成され、混成分子を構築している（例、ヘモグロビン、シトクロム）。タンパク質の四次構造は、2つ以上のポリペプチド鎖が機能的なタンパク質分子を生じるために（非共有的に）会合する際に形成される。酵素ではないヘモグロビンも酵素である乳酸デヒドロゲナーゼ（イソ酵素）も、異なる2種類のポリペプチド4つからなる四次構造を形成している。実際、機能的な酵素分子はしばしば2つ以上の異なるポリペプチドのサブユニットから構成される。タンパク質の構造については、さらにDNA結合タンパク質、領域（１）、受容体および図76（略）を参照。
　繊維状タンパク質はしばしば、重要な構造的な役割を担っている（例、細胞骨格、結合組織、黄紋筋、染色体）。植物の細胞壁にも構造的な糖タンパク質が含まれるが、繊維状タンパク質の構造的な役割は、植物よりも動物において顕著である。すべての細胞は酵素の触媒作用に依存しており、細胞膜には輸送タンパク質がある。一般に呼吸色素は複合タンパク質である。タンパク質はまた、抗体や糖タンパク質やリポタンパク質の主要な構成要素である。タンパク質溶液は普通、緩衝液として働き（例、血漿）、細胞内や細胞間液の水ポテンシャルを下げるコロイドになる。タンパク質は脂質溶媒には溶けないが、球状タンパク質は、水や低濃度の塩溶液には溶ける（繊維状タンパク質は溶けない）。タンパク質はタンパク質分解酵素や鉱酸で加水分解される。また普通は、クロマトグラフィーや電気泳動によって分離できる。独立栄養生物だけが無機の前駆体からタンパク質の構成要素であるアミノ酸を合成できる。2種類以上のタンパク質が非常に異なるアミノ酸配列をもつにもかかわらず、同じような構造と機能をもつ場合もある。あるタンパク質のアミノ酸配列が、すでに構造のわかっている他のタンパク質のアミノ酸配列と明らかに関連がある場合でも、アミノ酸配列からタンパク質の構造を予測することはまだできない。』
タンパク質（たんぱくしつ）⑫
『多数のアミノ酸がペプチド結合により連結した高分子化合物（ポリペプチドともいう）の総称で、酵素、筋肉タンパク質など生体機能にとってきわめて重要なものが多い。数個のポリペプチドが集まって一つのタンパク質となっている場合も少なくない（例：ヘモグロビン）。天然に存在するタンパク質をつくるアミノ酸の種類は20種であるが、アミノ酸の組み合わせと配列によっては無数といってもよいほど多種類のタンパク質ができる。アミノ酸だけで構成される単純タンパク質のほかに、それ以外の成分を含む複合タンパク質（核タンパク質、糖タンパク質、色素タンパク質など）がある。』

【ち】

縮まない流体（incompressible fluid）①
『流体のつりあいや運動を考えるとき、密度変化が無視できる場合には、この流体を縮まない流体または非圧縮性流体という。密度変化を考慮する必要がある流体は縮む流体または圧縮性流体という。ふつうの流れでは液体は縮まない流体と考えられる。音速にくらべて遅い運動、すなわちマッハ数M＝U/a<<1（Uは代表的な速度、aは音速）の場合は、気体も縮まない流体とみてよい。⇒流れの関数』
窒素固定（nitrogen fixation）⑪
『生物が空気中に存在する分子状窒素を固定して、これを窒素源として同化する現象。固定された窒素はアンモニアに還元され、これがさらに同化されるため、この還元反応が窒素固定に固有の過程である。単独で窒素固定をする生物は好気性細菌であるAzotobacter、脱窒による以外は好気性のAzospirillum、通性嫌気性細菌であるKlebsiella、Bacillus属のある種、嫌気性細菌であるClostridium属の多くの種や各種光合成細菌、および多種類の藍藻がある。共生的窒素固定系としては、根粒菌がマメ科植物と、ある種の放線菌がヤマモモやハンノキと、いずれも根粒を作って共生する場合があげられる。分子状窒素をアンモニアに還元するためには、反応を触媒する酵素ニトロゲナーゼのほかにATPと電子供与体とが必要であり、細胞内での直接の電子供与体はフェレドキインまたはフラボドキシン（flavodoxin）である。窒素固定菌であっても、一般にアンモニアなどを利用して成長した場合には菌体内にニトロゲナーゼは生成されない。ニトロゲナーゼは酸素により速やかに失活するため、通性嫌気性細菌では無酸素下でのみ、好気性の場合は低酸素分圧下か、または細胞内で酸素濃度を低下させるための特別な機構をもつ場合（Azotobacterの細胞、藍藻の異質細胞、根粒細胞）は、大気中で窒素固定が行われる。窒素固定を支配する遺伝子はnif 遺伝子とよばれ、Klebsiellaでは20個近くの互いに隣接した遺伝子群からなっている。ニトロゲナーゼは分子状窒素以外にアセチレンをエチレンに還元するが、この反応は測定が容易であるため、菌体や菌抽出液での窒素固定能の検出にしばしば用いられる。』
窒素固定（ちっそこてい）⑫
『大気中の分子状窒素に水素原子を付加し、アンモニアにする過程をいう。工業的方法についてもいうが、生物による窒素固定では生化学的なエネルギーを使って酵素反応でおこなう。自然界での窒素循環で重要な役割を果たしている。』
窒素循環（nitrogen cycle）⑪
『自然界において、各種の窒素化合物が主に生物とのかかわりで相互に関連をもちながら循環する現象。窒素は大気中の分子状窒素をはじめ、硝酸・アンモニアなどの無機化合物から蛋白質・核酸など生体構成物質に至るまで、極めて多様である。空中の分子状遊離窒素は根粒菌RhizobiumやAzotobacter、Clostridium、各種光合成細菌、ある種の藍藻類などにより固定され、アンモニアを経由して窒素源として同化される。光合成を行う植物のほとんどすべて、および菌類や細菌の多くは、アンモニアや硝酸などの無機態の形で窒素を吸収し、同化して蛋白質・核酸などをつくる。動物のほとんどは無機化合物を同化できないので、植物などが合成した有機窒素化合物をとり入れ、さらに複雑な窒素化合物につくり変える一方、それぞれの動物群によって尿素、尿酸あるいはアンモニアの形で窒素を排出する。動物および植物は死後の分解ではアミノ酸・アミド・アンモニアを生じ地中にかえす。また多くの細菌はアミド・尿素・尿酸などを分解してアンモニアに変える。硝化細菌のうちNitrosomonasなどの亜硝酸細菌はアンモニアを亜硝酸に、またNitrobacterなどの硝酸細菌は亜硝酸を硝酸に酸化する。脱窒素細菌Psedomonas aeruginosa、Alcaligenes faecalis、Micrococcus denitrificansなどは硝酸を還元して亜硝酸をつくり、これから分子状窒素を生ずる。循環の各過程のすべてについて、量的な測定がなされているわけではないが、例えば主な作物の吸収する年間の窒素量は50～90kg/ha、広葉樹林では55kg/ha、針葉樹林では35～45kg/ha程度と推定され、畑地では約25％、森林では約80％が土壌に戻るといわれる。他方、窒素固定細菌の固定する窒素のほかに、降雨や塵などで運ばれる窒素化合物（NH3、NO2、NO3）の中の窒素は毎年2～14kg/ha以上あって、これも植物の窒素源となる。生物的窒素固定量は地球全体で0.5～3.3×10¹¹kg/年（その三分の一は大洋）と推定されているが、工業的な窒素固定量は0.6×10¹¹kg/年である。地球全体での脱窒量もほぼ同程度（0.4～7.2×10¹¹kg/年）と考えられている。』
窒素循環（ちっそじゅんかん）⑫
『窒素に関する自然界の物質循環をいう。大気中の多量の窒素ガスを固定できるのは、窒素固定細菌などわずかな生物であり、動物以外の多くの生物は土壌や水のなかの硝酸やアンモニアの形の窒素を同化する。分解者による生物体の分解においても硝酸やアンモニアの形成が主であり、それらはふたたび生物体へと循環する。また、一部は脱窒素細菌などにより、無機窒素として大気中に離脱する。近年では、化学合成による窒素ガスの固定や、化石燃料からの窒素化合物の排出などの影響も無視できない。』
中心柱（ちゅうしんちゅう：維管束環）〔stele（vascular cylinder）〕⑨
『【植】根や茎の中心にある円柱状または芯を形成する維管束組織で、木部、師部、内鞘および一部の中心柱では髄と一次放射組織からなり、内皮によって囲まれている。中心柱の構造は植物の群により異なる。』
中心柱（ちゅうしんちゅう）⑫
『維管束植物の茎や根の中心にあって木部および師（篩）部を含む部分で、厳密には内皮よりも内側をさすが、多くの茎には内皮が存在しない。維管束植物の体を、表皮（最外層）、皮層（表皮より内側で内皮まで）、中心柱の3部分に分けることもある。中心柱のなかでの木部と篩部の配置には、植物の種類と器官によってさまざまな型がある。内皮がなく、中心柱の範囲が不明確であっても、中心柱の型を問題にすることはでき、真正中心柱、不整中心柱、などが区別される。』
中葉（middle lamella）⑨
『隣接する細胞の一次壁どうしを接着する細胞間物質の層。ペクチン酸カルシウムを含む。』
長石（feldspar, felspar）②
『NaAlSi3O8（アルバイト分、Ab）、CaAl2Si2O8（アノーサイト分、An）、KAlSi3O8（正長石分、Or）を主成分とするテクトアルミノ珪酸塩固溶体鉱物の総称。An-Or間では、ほとんど固溶体をつくらない。Ab-Or系のアルカリ長石は、高温では連続固溶体であるが、低温ではソルバスが存在し不連続固溶体。An-Ab系の斜長石も、高温では連続固溶体と考えてよいが、低温では、Si・Alの配列に起因するアルバイトとアノーサイトの構造の違いから、中間に3種類の組成ギャップが存在する。カリ長石は、Si・Alが無秩序配列をした単斜晶系のサニディンと秩序配列をした三斜晶系の微斜長石の二形がある。正長石は、サニディンから微斜長石への転移途中の準安定のもので、対称性は単斜にとどまりながらSi・Alの秩序化が進んでいる。アデュラリアは特徴ある形態をもち、低温で急速成長した結果、セクターごとに秩序度の異なる成長組織をもつカリ長石。アノーソクレースは、Ab成分寄りの一定の組成範囲で定義される高温無秩序型のアルカリ～三成分長石。アルバイト・アノーサイトにも、Si・Alの配列の違いによるいくつかの構造型が存在する。長石の構造は、SiO4四面体が三次元に網目状に連なるテクト珪酸塩に属する。4個ないし2個のSiのうち1個をAlが置き換えるので、電荷のバランスをとるため1価ないしは2価の陽イオンが大きなすきまの位置に入る。一般的な長石はOr-Ab-An系で、重土長石（セルシアン、cslsian；BaAl2Si2O8）、アンモニウムを含むアンモニウム長石（buddingtonite、NH4AｌSi3O8）などがある。バリウム長石とカリ長石との固溶体の中間組成のものはハイアロフェン（hyalophane）。Or-Ab-Anの三成分系長石の相図は、斜長石側のソリダス下に不明の点が多い。結晶過程における斜長石の累帯構造は古くから知られ、三成分系長石の結晶作用に関してラパキビ型とアンチラパキビ型のマントル長石が知られている。後者は最近ではマグマ混合によるとされている。アルカリ長石・斜長石ともに、低温ではソルバスの存在のために複雑な微細構造を生じる。アルカリ長石のパーサイト組織は、顕微鏡オーダーのマイクロパーサイト、より微細なクリプトパーサイト。相分離の過程は、Si・Alの秩序化も伴い複雑である。クリプトパーサイトの生成と粗大化には、冷却速度が影響する。マイクロパーサイトの形成は、熱水の触媒作用が重要視されているが詳細は不明。交代作用・同時晶出の機構もあるといわれている。斜長石の組織は、一部のものを除き電子顕微鏡オーダーで、ラメラ構造・反位相ドメイン構造などからなり複雑。長石は、根水変質の過程で、アルバイト化作用・パーサイト化作用などを受けるほか、緑れん石・緑泥石・セリサイト・方解石などに置換される・風化挙動が割れ目・溶解などの観点で注目。長石の色は本来無色透明であるが、白濁、赤色化している場合も多い。発色の原因について、緑色の微斜長石アマゾナイトは、微量の鉛の効果といわれている。日長石あるいは赤色斜長石は、微小赤鉄鉱を含むためと考えられてきたが、最近では微小自然銅による場合もあることがわかった。月長石の青白い閃光とラブラドライトの虹色の閃光は、クリプトパーサイトとベッジルド組織の存在による。長石は、多様な原子置換と多形の現象を示し、地殻の約6割を占めるほど広範に産出し、ほとんどの岩石に含まれ、重要な造岩鉱物である。野原（field＝feld）で光っているもの（spar＝spath）に由来、D.Tilas（1740）の命名。〔中野聰志〕』
頂端分裂組織（apical meristem）⑪
『植物において、成長軸の先端に存在し細胞を増殖する組織。植物は体制上、茎・葉・根などいずれの器官も一つの軸にそって頂端分裂組織から成長する。これに対して、軸をとりかこんで存在し太さを増す方向に細胞を増殖する組織つまり形成層やコルク形成層などを側部分裂組織（lateral meristem）という。頂端分裂組織は茎や根の先端あるいは葉原基の先端に認められるが、その組織構成はシダの茎頂にみられるようなごく少数の細胞群からできている簡単な場合から、被子植物の茎や根の成長点のようにいくつかの層に分化した分裂組織からなる場合までいろいろな様式が知られている。また、Psilotum、Lycopodium、Selaginellaなどでは、茎の頂端分裂組織が真中から二つの等しい部分に分れて二又分枝を起す。』
頂端分裂組織（ちょうたんぶんれつそしき）⑫
『茎および根の先端部にある分裂組織。ここでの細胞分裂が茎や根の成長のもとであることから、成長点とよばれたこともあるが、小さな点ではなく多くの細胞から成るので、現在はこの語は用いない。茎頂分裂組織と根端分裂組織があり、葉の発生の初期には葉原基の先端にもみられる。』

【つ】

通気帯（vadose zone）②
『地層中において、地下水面より上位の地下空気が移動しうるゾーン。浸透水位より上の部分。炭酸塩岩では圧密作用や空隙部を二次的に充填・膠結するような早期の続成作用が進行する。この過程でできるセメントはvadose cementと呼ばれ、一般に粒子周囲に針状（繊維状）方解石のモザイク構造（drusy cement）が現れることが特徴である。さらに、その上位には内部浸食によってもたらされた細粒物質（vadose silt）とブロック状方解石（blocky cement）が層をなして粒子間隙を充填することがあり、通気帯での生成を示す指標となる（R.J.Dunham, 1969）。〔川村寿郎〕』

【て】

⇒DNA（デオキシリボ核酸）
定常状態（stationary state）①
『流体の流れ、熱の伝導、電流など動的でありながら、運動の様相（状態を決定する諸量）が時間的に不変な現象をいう。量子論では系のエネルギーが確定値を保っている状態をいう。原子や分子などのエネルギー準位には、いずれも定常状態が対応する。』
定常状態法（method of steady state）①
『化学反応が進行しているとき、反応中間体の濃度が時間的に変わらず、定常状態にあると仮定して反応速度式をもとめる近似的方法をいう。反応中に原系物質を絶えず補給し、また生成物の一部を除去してそれらの濃度を一定に保つと、反応中に生じている反応中間体の濃度もまた一定となる。このとき反応系は定常状態にあるという。このような状態の下では、反応中間体の濃度の時間的変化も0となり全反応の反応速度式を原系および生成系物質の濃度だけの関数として表わすことができる。一般の非定常状態の場合でも、反応中間体の濃度が原系および生成系物質の濃度にくらべて十分小さく、その生成、消失速度が大きいときには、近似的に反応中間体の濃度が定常状態にあるとしてこの方法が適用される。定常状態法は、クリスチャンセン（J.A.Christiansen）、ヘルツフェルド（K.F.Herzfeld）、ポラーニ（M.Polanyi）らによってはじめて臭化水素生成反応H2＋Br2→2HBrに適用され（1919）、反応中間体HおよびBr原子の定常状態を仮定して実測と一致する反応速度式が得られた。』
低速電子回折（LEED、low-energy electron diffraction）⑩
『略称LEED。結晶表面による低速電子線の弾性散乱の結果として起こる回折現象。回折パターンは表面での二次元のブラッグの条件によって決まるが、実際には結晶内の原子による多重散乱や非弾性散乱のために複雑な解析が必要である。他の条件を一定にして、回折強度 I を加速電圧Ｖに対してプロットしたものをLEEDスペクトル（LEED spectrum）とよんでいる。低速電子回折は結晶表面の原子配列構造、表面に吸着した原子の配列、結晶成長の過程などの情報源として重要であり、反射高速電子回折（RHEED）とともに表面を研究するためのきわめて有力な手段となっている。』
泥流（mudflow、mud flow）②
『堆積物重力流の一種で、一般には泥質分を多く含んだ、したがって流体のマトリックス強度が比較的大きいが、粗粒な礫質分の含有量の少ない流れを指す。粗粒な礫質分を大量に運搬している場合には土石流と呼ぶことが多いが、礫質分の量に関係なく泥流と呼ぶこともあり、土石流との使い分けは必ずしも明瞭ではない。火山周辺における火山砕屑物を中心とする再堆積も（火山）泥流と呼ばれており、それは泥質分の含有量が高いとも限らない。インドネシアの lahar は、こうした火山体周辺における泥流を指す用語として広く知られている。古くは発生原因のよくわからない火山性の大規模な土砂移動に対して泥流という用語が使われた。〔徳橋秀一・井上公夫〕』
泥流（mud flow）⑥
『多量の水を含んだ泥質物が急激に斜面を流下する現象。岩屑を多く含む場合は土石流と呼ぶほうが適当。泥流は比重が大きいため、比較的大きな岩塊をも遠方へ運ぶ力をもっており、その破壊力はすさまじい。豪雨や融雪時などや、地震や火山活動のために発生する場合が多い。火山活動によって出現した溶岩流、火山灰のために河川や渓谷が埋められ、ダムアップされた河川水が一度にあふれて火山泥流となって下流へ押し出し、大量火山泥流堆積物を形成することはめずらしくない。地震に誘発された地すべりや山崩れのため、同じような過程で泥流、土石流が発生することがある。』
鉄アルミナ富化作用（ferrallitization）②
『高温・多湿の熱帯気候下で、塩基類や珪酸が溶脱し、鉄やアルミニウムの酸化物が相対的に富化する土壌生成作用。熱帯気候下では、土壌有機物は表層で分解されるため浸透水中には可溶性有機酸を含まず、浸透水のpHは中性ないし弱アルカリ性となっている。この条件下で塩基類および可溶性メタ珪酸が溶脱作用を受ける。しかし、鉄やアルミニウムは中性付近では不溶性のため残留。遊離のアルミニウムは結晶化してギブサイトとなる（アリット化）。このような鉄やアルミニウムの相対的集積に対して、地下水中に含まれる可溶性の鉄、アルミニウムの移動集積によって富化することを絶対的集積といい、プリンサイトの生成と関係があると考えられている。従来、ラテライト化作用という用語が鉄アルミナ富化作用と同義に用いられてきたが、現在ではラテライト化作用という用語は、プリンサイトが硬化してラテライト皮殻が形成される過程に限って用いる。〔永塚鎮男〕』
電解質（electrolyte）①
『ある溶媒に溶かしたとき、その溶液が電気伝導性をもつ物質をいう。電解質は溶液中でイオンに解離（電離）し、電場がかけられると、このイオンが電荷を運ぶ。電解質を電離させる溶媒としては水が最もふつうであるが、そのほかにも液体アンモニア、過酸化水素、フッ化水素などがある。いずれも誘電率が大きく、分子の電気双極子モーメントが大きい有極性液体である。電解質は電離度の大小により強電解質と弱電解質とに区別される。またNaClのように1価のイオン1個ずつ合計2個のイオンに電離するものを1価2元電解質、K2SO4のように2価のイオン1個と1価のイオン2個合計3個のイオンに電離するものを2価3元電解質などという。電解質塩類の固体はふつうイオン結晶をつくり、融解状態（溶融塩）でも電気伝導性をもつ。』
電気二重層（electrical double layer）③
『異なった2つの物質の界面において正負の電荷がきわめて短い距離の間に分布している状態をいう。電気二重層の成因は次の3つに分けられる。
①イオン二重層といわれるもので正負のイオンのうちひとつが強く界面に吸着される結果、残りのイオンが引き寄せられて生じるもの、
②双極子二重層といわれ双極子モーメントをもつ分子が正負のいずれかの電荷を界面に向けて配列するもの、
③正負の電荷が界面から他方へ移るとき移りやすさが異なる場合に生じるものである。
接触電位差や界面電気化学現象はすべて電気二重層の存在から説明されるので、粘土類を溶媒に入れたときの溶媒と粘土結晶表面との相互作用に関係してくる。〔加藤忠蔵〕』
デンプン（starch）⑨
『緑色植物にある不溶性の炭水化物の集合体で、植物の最も重要なエネルギー源となる物質。数百個のグルコース単位（C6H10O5）が重合（縮合）して形成され、酵素反応で容易に分解されてグルコース単量体になる。アミロースとアミロペクチンの2種類からなる。アミロースは、α-1,4結合でグルコース残基が直鎖状に連なっており、ヨウ素-ヨウ化カリウム溶液で青黒色に呈色する。アミロペクチンは分子内にα-1,6結合による分枝があり、ヨウ素-ヨウ化カリウム溶液で赤く呈色する。多くの植物の貯蔵組織にある無色の色素体（白色体）や葉緑体のストロマにあるデンプンは粒状になり、同心円状の層状組織が見られる。』
デンプン（でんぷん）⑫
『植物の種子や根茎などに存在する貯蔵炭水化物で、光合成の最終産物の一つである。光合成により葉の葉緑体に蓄積するデンプンを同化デンプン、光合成器官から同化産物が転流して、根や茎などに二次的に貯蔵されたデンプンを貯蔵デンプンとよぶ。化学的には、多数のグルコースが脱水縮合した構造をもつ高分子で、グルコースが直鎖的に結合したものをアミロース、ところどころに枝分かれのあるものをアミロペクチンという。うるち米デンプンは前者、もち米デンプンは後者である。』
転流（translocation）⑨
『【植】植物体内での物質（例、水、金属イオン、光合成産物）の長距離輸送。土壌の溶液からの金属イオンの吸収は、根の表皮から内皮まではシンプラストを通して行われる。イオンは、表皮細胞から皮層細胞の最初の層まで、表皮-皮層間の細胞壁にある原形質連絡を通って移動する。イオンの放射方向への移動は、表皮のシンプラストの中で、細胞から細胞へ（プロトプラストからプロトプラストへ）と原形質連絡を経由し、内皮をとおって維管束柱の柔細胞へと、拡散によって続いていく。ほとんどの無機（金属）イオンは、能動輸送によって取り込まれる（この仮説は、金属イオンの吸収がエネルギー要求性の過程であるという事実によって支持されている）。実際に、イオンの輸送（土壌から木部への）は、2つの担体に仲介される膜で起こる事象である。その事象は、最初は表皮細胞の細胞膜において生じ、次に、維管束柔細胞の細胞において木部道管内への分泌が生じる。細胞膜を横切るイオンの能動輸送は、電気化学的勾配を確立する結果となる。これが起こると、膜を隔てて電位差（膜電位）が生じる。水素イオン（H⁺）は、関連する最も重要な陽イオンの一つである。H⁺イオンの外側へのくみ出しは、負ポテンシャルを細胞の内側膜上に生じ、正に荷電したイオン（例、Na⁺、K⁺）を引きつける。金属イオンがひとたび木部道管内に入れば、これらは蒸散流に乗って上方の植物全体へ移動する。
　有機物（例、糖類、アミノ酸）といくつかの無機イオンの移動は、師管を通って葉から貯蔵器官へ、また活発に成長（あるいは貯蔵）している部分へと、上方向へも下方向へも起こる。このパターンは季節あるいは発達の段階によって変化する。師部の中での移動速度（60～120cm/h）は、水中での普通のスクロースの拡散速度よりも大幅に速い。同化輸送はソース-シンク形式に従っているといわれている。圧流説（図84参照：略）は、最も単純で広く受け入れられている師管中の長距離同化輸送の説明である。この説によると、同化物質はソースからシンクへと浸透膨圧差に従って移動する。葉（ソース）で光合成によって生産された糖は、師管へと能動的に分泌される。この能動輸送は、師管負荷（ローディング）といわれ、師管の中の水ポテンシャル（および浸透ポテンシャル）をいっそう負にする。そして浸透圧により、師管の中へ動き、蒸散流で水が葉へと入る。糖は貯蔵所（シンク）へと受動的に大量流動（マスフロー）し、そこで師管から放出される。糖の除去は、シンクにおける師管中の負の水ポテンシャル（および浸透ポテンシャル）を少なくする結果となり、水は師管から外へ移動する。このように、師管は糖の移動において受動的な役割を果たしているように見える。しかしながら、能動輸送は、ソース-シンクにおける糖や他の物質の師管への負荷と、たぶん師管からの放出にも関与している。証拠としてはソースにおける師管負荷にはプロトンポンプ（ATPによってエネルギーを供給され、細胞膜のATPアーゼによって仲介される）、スクロース-プロトン共輸送系が関与していることがあげられる。これに必要とされる代謝エネルギーは、師管を取り囲んでいる伴細胞または柔細胞によって消費される。負荷は伴細胞の細胞膜を横切って起こる。しかし、いくつかの師管はそれ自身で負荷を行うことができ、能動輸送の場はそれ自身の細胞膜に存在する。』
転流（てんりゅう）⑫
『植物の一つの器官から他の器官へ物質が輸送されることをいう。たとえば、光合成による同化産物は、葉から成長部分や貯蔵器官へ転流される。』

【と】

同化（assimilation）⑪
『生物体が外界から摂取した物質に特定の化学変化を加え、それ自身に特徴的なまたは自己に有用な物質に作り変えること。』
同化作用（anabolism）⑨
『同化ともいう。酵素がより単純な分子から複雑な分子を合成（構築）すること。同化作用の過程には、多段階反応である光合成、核酸、タンパク質、多糖の合成が含まれる。反応にはATPまたはそれと同等のものが必要とされ、反応の進行に使われる。』
同化（anabolism）⑪
『同化作用。物質代謝において、原料物質の化学的複雑さを増加する化学変化。異化作用と対置される。通常この過程は吸エルゴン的であり、平行して進行する発エルゴン反応（異化作用）から吸収される自由エネルギーによって反応が進められる。独立栄養のものでは、このエネルギーを外部から吸収する。』
同化（どうか）⑫
『生物の代謝活動により物質がさまざまな化合物に変化するが、ATPなどの化学エネルギーを用いて簡単な物質から複雑な化合物がつくられることを一般に同化という。例として、光合成生物による二酸化炭素の同化などがあげられる。同化作用ともいうが、過程を意味するので、教育用語としては同化とする。異化の対語。』
道管（どうかん）（vessel、trachea）⑨
『木部の生きていない要素であり、端と端が配列された管状の細胞の列で構成される。道管は、それが存在する組織の長軸方向に平行に走っており、側壁にある多数の壁孔によって隣接する要素とつながっている。道管の構成要素、道管要素は柱状で、ときには長さよりも幅が広く、末端の壁に大きな穿孔があり、水や無機塩類の転流および機械的支持の機能をもつ。これらは仮道管から進化した。この進化の第一の特徴は、多数の穿孔がある末端の壁を除去して、単一の大型の穿孔を形成したことである。さらに末端が先細り状になっていることが少なくまたはなくなったこと、長く狭い要素から比較的短く広い要素へ変化したことである。穿孔を通って１つの道管要素から他の要素へと、比較的妨げられずに水が流れることができるので、一般に、仮道管よりも効率的な水の通路であると考えられる。ほとんど例外なく、被子植物に限られている。』
道管（どうかん）⑫
『被子植物の木部を構成する主要な組織で、水の通路となるもの。円柱形または多角柱形の細胞が縦に連なったもので、各細胞を道管要素という。道管要素は、側壁がリグニンを含んで二次肥厚している、末端壁が成熟の過程で全面的または部分的に消失して大きな孔（せん（穿）孔）があいている、それと前後して核も細胞質も失った死細胞であるなどの特徴がある。側壁には、二次肥厚したところとその他のところとでさまざまな模様ができる。裸子植物とシダ植物では、仮道管の集まりが道管と同様な役をするのがふつうであるが、道管をもつ裸子植物やシダ植物もあるし、道管がなく仮道管をもつ被子植物もある。』
同形置換（isomorphic substitution）③
『粘土鉱物の結晶構造は基本的にはSi-Oの四面体シートとAl-Oの八面体シートの積み重なり方によって決まる。通常四面体シートでは1個のSi⁴⁺が4個のO原子で囲まれているが、Si⁴⁺の代りにわずかにイオン半径の大きいAl³⁺が代りに入ることがある。また八面体シートでは1個のAl³⁺の代りにイオン半径のあまり違わないMg²⁺が入ることがある。これらの場合には結晶構造には大きい変化はなく同形置換といわれる。この置換により電荷の不足を生じ、それを補うためアルカリ金属またはアルカリ土類金属が結晶表面あるいは結晶層間に陽イオンとして入るようになる。これらの陽イオンの結晶への結合力に対しては、四面体シートの荷電は八面体シートの荷電に比べ4～8倍強い。結晶表面の陽イオンおよび膨脹性粘土鉱物の層間陽イオンは交換性であって、その総量は陽イオン交換容量（CEC）として測定される。2：1型粘土鉱物であるモンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイトなどは陽イオン交換容量が大きく、良質のもので80～90meq/100gを示すが、パイロフィライトやカオリナイトでは同形置換はほとんどみられない。〔加藤忠蔵〕』
透水係数（hydraulic conductivity、permeability coefficient）⑥
『地層や岩石の透水性を表す数値。水理伝導率ともいう。透水係数にはいくつかの定義のしかたがあるが、一般的には水温15℃、動水勾配が１のときに、単位断面積を単位時間に通過する水量をもって透水係数とする。次元は[LT^-1]でcm/sやm/sなどを単位として用いる。また記号としてKを用いる。透水係数Kは地下水の温度、すなわち、密度と粘性に関係しており、地層や岩石に固有な係数をk、地下水の密度をρ、粘性率をη、重力加速度をgとすると、K＝k・g・ρ/ηで表される。kは固有透過度または固有透水係数（intrinsic permeability）と呼ばれ、[L²]の次元をもつ。ふつうはcm²やダルシー（darcy）という単位を用いて表す。なお、１darcy＝0.987×10^-8cm²である。』
独立栄養（autotrophic）⑨
『自身の有機構成成分の供給が、外部からの有機炭素（有機物）源から独立している生物に対して用いる語。これらの生物は無機物だけを使用して必要な有機物をつくることができる。独立栄養生物にはエネルギー源の観点から、太陽エネルギーを利用する光（独立）栄養生物（光合成生物）、または化学エネルギーを利用する化学栄養生物（化学合成生物）がある。クロロフィルを含む植物のほとんどは独立栄養であり、太陽エネルギーを利用した光合成により、水、二酸化炭素、無機イオン（硝酸塩、リン酸塩、硫酸塩、金属イオンなど）から有機物をつくり出す。一部の細菌やラン藻もまた光栄養生物である。化学合成細菌は、無機物の酸化（例、硫黄細菌による硫化水素の酸化、水素細菌による水素の酸化）によって取り出されるエネルギーを利用する。無機栄養生物という語は、無機物の還元体を酸化するために、無機物の酸化体を利用する独立栄養生物（例、窒素循環における硝化細菌NitrosomonasおよびNitrobacter）に対して用いられる。他の生物はすべて従属栄養であり、エネルギーと栄養を独立栄養生物の合成能力に依存している。』
独立栄養（どくりつえいよう）⑫
『生物が炭素源として二酸化炭素を利用して成育する様式。独立栄養で生育する生物を独立栄養生物という。生命過程に必要なエネルギーを、光から得る場合を独立栄養光合成、無機物の酸素による酸化反応で得る場合を独立栄養化学合成という。独立栄養光合成生物には、緑色植物、藻類と一部の光合成細菌がある。独立栄養化学合成生物はすべて細菌（独立栄養化学合成細菌）で、たんに化学合成細菌とよばれることもある。従属栄養の対語。』
土壌（soil）⑪
『土。
〔１〕母材が、水分・温度・空気などの気候、高等植物および土壌生物、地形などの総合的影響を受けて生成した、地殻表面の非固結物質の最表層部分（アースearthあるいはレゴリスregolith）。非固結物質が主として鉱物質からなる場合、上記の影響要因を土壌生成要因（soil formation factor）とよび、その影響の結果として、地表面に平行に性質が異なる土壌層位が出現、上からA層・B層およびC層が区別される（土壌断面）。この層位の状態により、ポドゾル・チェルノジョーム・褐色森林土などの土壌型（soil type）が分類される。土壌のこのような生成に注目した区分を土壌分類とよび、生物の種分類に似た方法がとられることがある。土壌は固体・液体・気体の三つの相から構成されており、固相は鉱物粒子群と有機物からなり、固相間の孔隙が液相（土壌水）と気相（土壌空気）により占められている。
〔２〕地殻表面の未固結物質の中で、植物の根が現に伸長している範囲か、あるいは根が伸長しうる部分。特に陸上植物の生育の培地としての機能面を重視していう。』
土壌（どじょう）⑫
『地表の最外層で、母岩が風化した鉱質土層に動植物の遺体である腐植が蓄積し、これをえさとする土壌微生物や土壌動物が生活し、また、植物の根系などが分布する複合土層をいう。たんなる鉱質のみから成る土とは異なる。』
→土壌
→『土壌とは』のページを参照。
→『土壌資源』のページを参照。
土壌呼吸（soil respiration）⑪
『土壌生物全体の呼吸量。現象的には土壌から大気中にCO2が排出されること。高等植物の根や土壌中の細菌・菌類・地中動物の呼吸で排出されるCO2は拡散などで大気中へ返還され、炭素循環の一経路をなす。よく根の発達した群落では根の呼吸は土壌呼吸の約30％にもなるが、一般にはずっと小さく、好気的な微生物の呼吸によるものが主である。土壌中の多量の有機物、栄養塩類の施肥、適当な土壌気候（soil climate、土壌中の水分・空気・温度などの環境条件）は菌類や好気性細菌を活動させ、土壌呼吸を大にする。単位面積・時間あたりの土壌呼吸の量、すなわち土壌呼吸速度（soil respiration rate、単位はCO2/m²/hr）は熱帯多雨林で0.4～1.0、暖帯照葉樹林で0.2～0.6、温帯落葉樹林で0.15～0.4。土壌微生物による呼吸部分は溶解性の有機炭素量と密接に関係する。』
土壌水（soil water）③
『土壌中に保持されている水。土壌中には、粘土鉱物・有機物などの荷電をもつ物質が存在するので、土壌水は中に必ずイオンを含有しており、土壌溶液（soil solution）ともよばれている。
保持力：　土壌水は、毛管力および吸着力によって土壌に保持されている。毛管力は、土壌水中の孔隙内に形成される微小な水面（空気－水界面）のメニスカスの存在によって生ずる。毛管力は、土壌粒子間あるいは団粒間に水を保持する働きと同時に、土壌粒子を互いに結びつける機能をも果たしている。吸着力は、土壌粒子と水分子の間に働く分子間力と、粘土粒子や有機物の有する荷電がつくる電場と双極子としての水分子の間に生ずる静電気力からなっている。吸着力の及ぶ範囲は、土壌や粘土鉱物の種類によって異なるが、20分子層前後と見なしてよいようである。
状態：　土壌水の状態は、同一の土壌であれば保持される水分量によってきまる。しかし、異なった土壌のそれは、水分量では比較することができない。たとえば、同一の水分量であっても粘質土では植物がしおれ、砂質土では生き生きと生育しているのは、よく見られる現象である。さらに、水は土壌－植物－大気という形で循環している。この現象を統一的に把握するためには、水分量とは別の水の状態を規定する概念が必要とされる。このようにして生まれたのが、水ポテンシャルである。水ポテンシャルは、同温度の水を基準として表現された、着目する水の化学ポテンシャルを意味する。水ポテンシャルは、溶質の存在に由来する浸透ポテンシャルと土粒子との相互作用（毛管・吸着力）に起因するマトリックポテンシャルとからなる。
構造：　土壌粒子、特に粘土粒子周辺の水は、強い電場（100万V/cm）および分子間力場のもとにあるとともに、高濃度のイオン（一般に陽イオン）を溶解している。このような特異な条件のもとにある水が、どのような構造をもっているかについては、2つのまったく相反する見解が存在する。ひとつは、粘土粒子近傍の水は、エピタキシーによって表面から数十Åにわたり固体的な構造をとるとしている。他は、イオンの周囲の水分子構造モデル（Frank and Wen）との対比から、粘土粒子周辺の水は、通常の水と比べて、構造性の低い単量体に富むと主張する。なお風乾状態で吸着されている水の解離度は、通常の水より異常に高い（10³～10⁶）と推定されている。
移動：　土壌水の移動は、一般に、飽和・不飽和を問わず、Darcy則にしたがうとされている。移動の駆動力は、マトリックポテンシャルの差である。しかし、粘質土中の水の移動が、非ダルシー的である場合もしばしば認められる。〔岩田進午〕』
土壌生物群集（community of soil organism）⑪
『エダフォン(edaphone)、土壌群集（soil community）、地中生物群集。土壌中で生活する生物群の総称。この生物群には動物すなわち動物性エダフォンと、植物すなわち植物性エダフォンがあり、それぞれ土壌ファウナ（地中動物相 soil fauna）、土壌フロラ（地中植物相 soil flora）を形成する。植物は菌類・藻類などに加え、高等植物の根も含まれる。陸上群集の栄養動態において、土壌生物群集は植物の枯死体、動物の排出物・遺骸などの有機物を、腐食連鎖を通じて分解、再び無機物に還元する機能を担う。土壌生物群集総体の呼吸量を土壌呼吸といい、その大部分を土壌微生物と根の呼吸が占め、土壌における生物活性の指標とされる。』

土壌の種類（kind of soils）③
『土壌は各国の伝統に左右されてさまざまな方式で分類される。ソ連は前世紀後半の近代土壌学発祥地という歴史をになって土壌生成因子とその地理的分布に重点を置いた分類を、ドイツ、フランスはソ連の方式と土壌の発達段階、水文学的条件を加味した分類をそれぞれもっている。米国の旧分類（1960年まで）はソ連色が濃かったが、それ以後は発想を異にした新分類（Soil Taxonomy）を採用した。FAO/Unescoの世界土壌図の分類は上記各国の傾向を混合し簡単化したものである。いずれも多段階分類方式であるが、土壌の基本的名称には大体似かよった分類レベルが用いられる。ドイツ、ソ連の土壌型、フランスの土壌群、米国の大土壌群（旧）、土壌大群（新）、FAO/Unescoの土壌単位がそれである。米国の新分類以外はいずれも近代土壌学発生以来の伝統的ななじみの深い土壌名を使用している（表）。ここではそれを中心として土壌の種類を概説する。なお、日本の土壌についても諸分類があって統一されていないが、土壌の基本的名称は世界のそれと大体共通である。これらと異なるものは〔　〕内に補記した。アンダーラインを施したものが日本での土壌の種類である。

**世界土壌の対比表**
本稿で使用する世界土壌名（おもに米国旧分類による）		FAO/Unesco 世界土壌図土壌単位	米国新分類（Soil Taxonomy）
砂漠土	Desert soil	Yermosol	Aridisol
シーロゼム（半砂漠土）	Sierozem	Xerosol	Aridisol
リソソル	Lithosol	Lithosol	Lithic subgroup
レゴソル	Regosol	Regosol	Orthent, Psamment
ランカー	Ranker	Ranker	Lithic Haplumbrept
レンジナ	Rendzina	Rendzina	Rendoll
チェルノゼム	Chernozem	Chernozem	Boroll
グルムソル	Grumusol	Vertisol	Vertisol
栗色土	Chestnut soil	Kastanozem	Ustoll
プレーリー土（ブルニゼム）	Prairie soil	Phaeozem	Udoll
灰色森林土	Grey forest soil	Greysol	Argiboroll
褐色森林土	Brown forest soil	Cambisol, Eutic	Ochrept & Umbrept
アンドソル（黒ぼく土）	Andosol	Andosol	Andept
ラトソル	Latosol	Ferralsol	Oxisol
褐色レシベ土	Sol brun lessive（最後のeの頭に´）	Luvisol	Alfisol
赤黄色ポドゾル性土（赤黄色土）	Red-yellow podzolic soil	Acrisol	Ultisol
地中海赤褐色土（テラロッサ）	Mediterrainean reddish brown soil（Terra rossa）	Chromic Luvisol	Rhodoxeralf
ソロネッツ	Solonetz	Solonetz	Natric subgroup
ポドゾル	Podzol	Podzol	Spodosol
ソロンチャック	Solonchak	Solonchak	Salorthid
褐色低地（沖積）土	Brown lowland soil	Fluvisol	Fluvent
灰色低地（沖積）土	Grey lowland soil	Gleysol	Aquent, Aquept
グライ土	Gley soil	Gleysol	Aquent, Aquept
地下水ポドゾル	Ground-water podzol	Gleyic Podzol	Aquod
地下水ラテライト	Ground-water laterite	Plinthic Ferralsol	Plinthaquox
停滞水グライ土	Stagnogley soil	Planosol
擬似グライ土	Pseudogley soil	Planosol
酸性硫酸塩土（cat clay）	Acid sulfate soil	Thionic Fluvisol	Sulfaquent, Sulfaquept
泥炭土（黒泥土）	Peat soil	Histosol	Histosol
ツンドラ土	Tundra soil	Gelic group	Pergelic Cryaquept
*　灰褐色ポドゾル性土　Grey brown podzolic soil

（１）　断面発達の弱い土壌：　土壌分化の不十分な土壌でA-Cまたは（A）-C層からなる。（A）は発達の弱いA層。岩盤が浅くから出るものもこれに入る。①母岩の年代が新しい、②侵食を受ける、③土層の上下かく乱がある、④気候の制約がある、などの場合に分かれる。①は河川敷や海浜の非固結堆積物や火山放出物上のレゴソル〔砂丘未熟土、火山放出物未熟土〕、②は山腹斜面のリソソル〔岩屑土〕やランカー（非石灰岩由来）〔残積性未熟土〕、レンジナ（石灰岩由来）、③はグルムソルや極地の構造土、④は砂漠土、高山岩屑土、ツンドラ土などである。
　グルムソルは熱帯･亜熱帯の黒色土ともよばれ、乾期の著しいサバンナ気候区を分布中心とし、塩基性岩・石灰岩やその周辺の沖積地帯に現れる。pHが高く、モンモリロナイト質粘土に富むため、乾燥によって大きな割目を生じ表土がその中に落ちこむ。
　半乾燥地の草原（ステップ）下のチェルノゼムは黒色で腐植（石灰と結合）に富むA層と炭酸石灰沈積物を含む黄灰色のC層からなる。栗色土はより少ない雨とより貧弱な草原のため、A層が暗褐色、炭酸石灰質となり、下層土には石こう沈積物も見られる。さらに乾燥地寄りに半砂漠土（シーロゼム）がくる。プレーリー土（ブルニゼム）はチェルノゼムより多雨なプレーリー草原下にあり暗色のA層、暗褐色のB層（しばしば粘土集積を伴う）は非石灰質である。以上の土壌は科学的風化の炭酸塩段階にあたり、半砂漠土以外は世界でもっとも肥沃な土壌であり、また、しばしばレスを母材とする。
（２）　移動集積のないB層をもつ土壌：　B層は黄、褐、赤色、土性は壌土以上の細かさで遊離の塩類や炭酸石灰を含まない。
　大陸内部の温帯の広葉樹林下の褐色森林土〔富塩基褐色森林土〕は活発な生物学的循環のため塩基に富むA層と2：1型粘土を主とし塩基飽和度の高いB層からなる。酸性褐色森林土〔褐色森林土〕は塩基に乏しいタイプで、より雨の多い沿海部に分布する。化学的風化のシアリット粘土段階の飽和型が前者、不飽和型が後者にあたる。
　アンドソル〔黒ぼく土〕は全層を通じ活性のアルミナで特徴づけられる。火山灰起源土壌が多い。日本と違って黒色A層をもつものが少ない。アンドは暗土である。
　上記よりもさらに洗脱が進み、明るい黄～赤色、埴質、1：1型や層間アルミニウムをもつ2：1型（緑泥石中間体）粘土鉱物のB層の土壌がある。ラトソルは1：1型粘土鉱物と鉄・アルミニウム含水酸化鉱物を主とし、ときにラテライト（プリンサイト層）を伴う。塩基性岩起源のラトソルは遊離鉄に富んで濃赤色、砕けやすいB層を有する。これらは化学的風化のシアリット粘土段階にあたる。日本の赤黄色土はこれよりやや洗脱の程度が弱く不飽和シアリット段階との中間にあるものと見られる。
（３）　粘土集積のB層をもつ土壌：　典型的なものは褐色レシベ土（灰褐色ポドゾル性土）で欧米に広く分布する。B層の粘土鉱物は褐色森林土のそれとほぼ同じで塩基飽和度も高い。レス母材起源のものが多く、雨量の増加で脱石灰が進むとA層の粘土が分散され下層に移動しやすくなるためといわれる。移動がさらに進むと擬似グライ土（後述）となる。
　熱帯・亜熱帯には、赤黄色土と同程度の洗脱・粘土化を受けた赤黄色ポドゾル性土が多い。夏乾冬湿気候下でこれより洗脱の弱いものが地中海式赤褐色土（テラロッサ）である。ソロネッツは塩類土が脱塩されてナトリウムイオンに富むようになってアルカリ性化し、粘土の分散移動が促進されるに至った土壌でB層の円頭柱状構造が特徴である。
（４）　酸化鉄・アルミナ集積のB層をもつ土壌：　ポドゾル（ポドゾル性土）が典型で、灰白色のA2層と鉄さび色のB2 ih 層が特徴である。前記の「ポドゾル性」とは意味が違う。むしろ粘土化の弱い酸性岩や砂質母材でよく発達する。寒帯・高山の針葉樹下に多いが温帯や熱帯でも見いだされる。
（５）　塩類・石灰集積層をもつ土壌：　乾燥地には表層近くにこの集積のある土壌が多い。塩類集積は凹地での高塩分地表水や地中毛管水（地下水の上昇）の蒸発で起こる（ソロンチャク）。炭酸石灰固結層を有する土壌（カリーチ）も珍しくない。化学的風化の塩類段階から炭酸塩段階に相当する。
（６）　水の影響を受けた土壌：　上述の各土壌は地下水位の低い、主として酸化的環境下で生成したものである（ソロンチャクを除く）。凹地や沖積地などで地下水位が高く通年飽水状態にあると還元性の強いグライ土層が、また、地下水位が変動すると還元と酸化の繰り返しで鉄・マンガンの溶解・拡散・沈殿・集積によって斑紋を生じ、基質が脱色灰色化した弱グライ化土層が、それぞれ現れる。前者や後者がそれぞれ浅くまで占めるものが、グライ土、灰色低地土である。外国では両者を含めた広義のものをグライ土とよぶ。両土層が深く上位を酸化的土層が占める場合、透水性のよい断面では全体が褐色化して褐色低地土が、また、埴質で透水性が悪いと地表近くに停滞水を生じて停滞水グライ土が、それぞれ、生成される。擬似グライ土は台地・丘陵での同類であるが、粘土移動によるB層の緻密化に由来して不透水性となる場合が多い。褐色の下層土が割目ぞいに灰色化し大理石紋様を呈する。
　地下水や停滞水の水位が地表近くで変動すると弱グライ土層（灰色、漂白層）が現れる。これが地下水ポドゾル（湿性ポドゾル、グライポドゾル）である。また、地下深部で斑紋形成・酸化鉄集積が顕著に起こり風化洗脱によるラテライト層と類似のものが生ずると地下水ラテライトとよばれる。熱帯・亜熱帯に多い。
　熱帯・亜熱帯海岸の塩水湿地での森林（マングローブ林など）下の有機質グライ土が排水改良で乾陸化して酸化を受けると硫化鉄から硫酸を生じて極強酸性土壌（酸性硫酸塩土、cat clay）となる。
　地表に水が停滞すると湿地植物が繁茂しその遺体が水中に集積して泥炭土となる。この有機物の分解が進むと黒泥土になる。
　極地では地下水の上部や土壌水が凍結したツンドラ土がある。夏にはその表部に融氷水がたまり、グライ化、湿地化、土層の流動化の原因になる。〔加藤芳朗〕』

土壌動物（soil animals）⑪
『地中動物。土壌生物群集を構成する動物の総称。腐食食性のミミズ類・陸生等脚類・トビムシ類・ダニ類と、その捕食者クモ類・ムカデ類などからなり、環境への作用としては次の2群に分けられる。（１）直接作用：有機物を摂食、分解に直接寄与するもの。ミミズ類、シロアリなど。（２）間接作用：糞塊排出により土壌の団粒構造をつくり、また菌体・胞子の地中での拡散に寄与し、土壌微生物の活動を間接的にたすける。なお、わが国の自然土壌における生息個体数は、1 m²あたりそれぞれ、大形土壌動物（ミミズ類、ヤスデ・クモなどの節足動物）：10²、双翅目幼虫：10³、ヒメミミズ・ダニ・トビムシ類：10⁴、自由生活線虫類：10⁵～10⁶とされる。』
土壌微生物（soil microbes、soil microorganisms）⑪
『地表面あるいは土壌粒子間隙や粒子表面に生存する微生物の総称。細菌類・放線菌類・子嚢菌類・担子菌類・酵母菌類・藻類・原生動物など多くの種類が見出されている。種類および個体数は表層からの深さ・水素イオン濃度・温度・湿度・季節などで著しく変化する。藻類は地表面あるいはその直下にいて光合成を行う。硝化細菌・鉄細菌・硫黄細菌などは化学合成による独立栄養を、他のものは従属栄養的生活をいとなむ。また深層土壌など特別な条件の場所にも特別の化学合成無機栄養細菌が発見されるが、一般に細菌類は中性ないし弱アルカリ性土壌に多く、好気性のものは上層に、嫌気性のものは下層に多い。わが国の自然土壌では表層土乾燥重１gあたり細菌は10⁶～10⁷の程度で、また菌類は酸性土壌い多く、10⁵の程度（菌糸の総延長は1～6km）におよぶ。枯草菌群・シュードモナス・クロストリディウム・腸内細菌・セルロース分解細菌・放線菌・各種の菌類など、従属栄養的生活をするものは、土壌中の有機物を分解し、分解者として自然界（生態系）における物質循環の中で大きな役割を果す。すなわち土壌微生物による呼吸は炭素循環に、窒素固定・硝化作用・硝酸塩還元作用・脱窒素作用などは窒素循環に深くかかわっている。生物体内に保持される栄養塩類も土壌微生物による分解の結果として無機物化し、再び植物の利用できる形に戻る。』
土壌微生物（どじょうびせいぶつ）⑫
『土壌中あるいは表面に生息する微小動物、藻類、菌類、細菌などの総称。独立栄養・従属栄養のいずれの場合もあるが、従属栄養のものは、生態系において分解者の役割を果たし、炭素や窒素の循環に深くかかわる。』
土壌有機物（soil organic matter）③
『土壌表面と土壌中に存在する有機物の総称。土壌に加わる落葉落枝その他の有機物および土壌生物の遺体は、土壌表面と土壌中で生物的・非生物的に分解されるが、この分解過程は一挙に進行するのではなく、分解の中間物が滞留する。分解に関与する生物の増殖もある。さらに、暗褐色ないし黒色の有機物が新しく合成される。この種の有機物の生成過程を腐植化（作用）という。
　腐植という言葉が土壌有機物の同義語として用いられる。一方、腐植は、土壌有機物のうち、暗褐色ないし黒色を呈する部分の意味に限定して用いられることもある。最近では後者すなわち狭義の腐植を腐植物質（humic substances）とよび、土壌有機物と腐植を同義に用いるのが、一般的傾向である。ただし、これらの用語の使い方は人によってさまざまであり、一致した見解は得られていない。【以下、土壌有機物を参照。】〔熊田恭一〕』
土壌要因（edaphic factor）⑪
『土壌中および土壌の上に生活する生物に影響を及ぼす、物理的・化学的および生物的な土壌の性質。物理的性質でとくに重要なのは土壌の粒度で、これと腐植質の量とは土壌の通気・容水量などを決定する。土壌の色は通気・含水量とともに地温に大きな影響を及ぼす。土壌の含む水に溶けている化合物の性質により土壌のpHや栄養塩類濃度などが決定される。一般に過湿の地では酸性に、海岸・乾燥地ではアルカリ性に傾き、pHは土壌溶液中の化合物の解離やコロイド状態に作用するとともに、土壌微生物の活動にも影響する。多くの場合、酸性は菌類に、中性ないし弱アルカリ性は細菌に有利。土壌の物理的・化学的性質は群落の分布・相観に関係があり、ふつう広葉樹は針葉樹に比べて肥えた地を必要とする。土壌動物や微生物の応働が果す役割も大きい。土壌中にある要素がとくに多いと（例えばMg、Al、Cl）、限られた植物が疎生しうるのみとなる。』

土性（どせい）（soil texture）③
『土性とは土壌中の砂、シルト、粘土の割合を意味する。土壌の粒度分析（器械分析ともいう）は土性を決定するために必要である。
　室内における土壌の粒度分析では、始めに2mm以下の風乾細土について集合体の結合をこわし、粘土を水中で分散状態にする。次に、ふつうふるい分けと沈降法によって粗砂、細砂、シルト、粘土部分の定量を行う。野外では、土壌に適量の水分を加えた後、指感で土性の判定を行う。
　粒度分析で得られた砂（粗砂＋細砂）、シルト、粘土の重量を合わせて100とした場合の3者の％を計算し、図（略）の土性三角図によって土性名を決定する。この図に示されている土性の正式名は以下のとおりである。〔庄子貞雄〕

HC	heavy clay	重埴土
SC	sandy clay	砂質埴土
LiC	light clay	軽埴土
SiC	silty clay	シルト質埴土
SCL	sandy clay loam	砂質埴壌土
CL	clay loam	埴壌土
SiCL	silty clay loam	シルト質埴壌土
SL	sandy loam	砂壌土
L	loam	壌土
SiL	silty loam	シルト質壌土
LS	loamy sand	壌質砂土
S	sand	砂土

』

土石流（debris flow）②
『表土・砂・礫などが水と一体となって流下（集合運搬）する現象。岩塊や流木などを多く含み、大きな岩塊などが先頭部に集中し直進しやすい。浸食力がきわめて強く、流動に伴い、渓床や渓岸の堆積土砂を深く削剥し、巻き込んで体積が増大する。古くは山津波とも呼ばれた。土石流本体の横断形は中央部が凸形をなし、縦断形は先端部が盛り上がって上方に凸形をなす。土石流堆積物は不淘汰で逆級化構造を伴うことが多く、山麓で土石流扇状地をつくる。〔大野勝次・井上公夫〕』
突然変異（mutation）⑪
『ミューテーション、変異。ゲノムを構成する染色体や核酸分子の一部に生じる永続的な変化。核酸分子の構造変化は、遺伝子変換や、遺伝的組換えによってすでに生物集団中に存在する変異の伝達、もしくは新しい組合せによっても生じるが、これは突然変異とは呼ばない。突然変異の最小単位は一つのヌクレオチド（かつてmutonとよばれた）で、DNA分子に変化を生じた部位を突然変異部位（mutation site）とよぶ。あるヌクレオチドが別のヌクレオチドに置き換ったものを点突然変異とよび、その点でのコドンが変化する。また、1塩基の欠失や挿入が翻訳領域でおこると、コドンの読み枠がずえ、それ以降の遺伝情報が意味をなさなくなることがある。しかし、欠失や挿入のおこる単位は一つのヌクレオチドとは限らず、数塩基長からときには長大なDNA領域にわたることもある。さらに、不等交叉やDNAスリッページによって遺伝子単位で挿入がおこると、遺伝子の重複がもたらされる。直列した重複遺伝子は、ゲノム全体の遺伝情報の位置関係を乱すことはないが、その遺伝子産物の量に不調和をきたすことがある。これに対して、染色体レベルでの逆位や転座は、遺伝情報の位置関係を変え、染色体の対合にも影響をおよぼす。一般に上記のような構造変化が大きい（大変化）ほど個体の生存に有害な結果をもたらすといわれる。突然変異は体細胞、生殖細胞を問わずおこる。体細胞突然変異が個体発生の初期におこると、その個体はある形質に関しモザイクになる。組織特異的な体細胞突然変異は免疫グロブリンやT細胞受容体の分子などに見られる多様性の獲得に寄与している。また特定の遺伝子における突然変異が細胞の癌化（発癌）を誘発する。生物進化のうえで重要な突然変異は、生殖細胞で生じた、後代に伝達されるものである。体細胞と生殖細胞が未分化な植物の例もあるが、一般には体細胞突然変異が後代に伝達されることはなく、したがって獲得形質は遺伝しない。なお蛋白質分子のアミノ酸配列の生物種間の比較などから、形質変化をほとんどともなわない変異、すなわち中立突然変異がしばしば起ることが知られている。』
突然変異（とつぜんへんい）⑫
『形質の異なる個体があらたに出現し、その形質が遺伝するとき、その現象・過程をさしていう。遺伝子突然変異と染色体突然変異がある。』
トポタクシー（topotaxy）①
『第1の物質とそれからできる第2の物質の間に3次元的に結晶学的関連がある場合をいう。固体反応において種々の例が知られている。Fe3O4を酸化するとγ-Fe2O3になるが、両者はともにスピネル型構造で、鉄原子はほとんど動かない。2種類の固体粒子を混合して加熱し、固体間反応をおこさせるときにも、たとえばMgOとAl2O3からMgO・Al2O3を生ずるときのように、反応物の一方（この場合はMgO）と生成物との間にトポタクシーが認められることがある。』
ドルトン（dalton）⑪
『ダルトン。Da（記号）。質量の単位で、原子・素粒子などの領域で用いられる原子質量単位（amu）と同じ。炭素の同位体¹²Cの1原子の質量が12ドルトンであり、したがって1ドルトンは1.661×10^-24（＝アボガドロ数の逆数）gに相当する。分子の場合、その1個の質量をドルトン単位で表わすと、数値的には分子量に等しい。しかし、分子量は問題の物質の質量と¹²C1原子の質量の1/12との比で定義される無名数なので、‘蛋白質Aの分子量がXドルトンである’という表現は誤りである。ドルトンはリボソーム・ミトコンドリア・クロマチン・ウイルスなどのように分子量の概念が当てはまらないものの質量を表わすのに特につごうがよい。例えば多種類の蛋白質、RNAから構成されるリボソーム（大腸菌）の質量は2.6×10⁶ドルトンである。』

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