加藤文隆・高岡昌輝・大下和徹・武田信生(2007):下水処理システムからのリン回収技術の現状と展望土木学会論文集G63(4)、413-424.


要旨
Key Words
1.はじめに
2.リンの現状とリン回収研究の意義
3.下水処理システムからのリン回収技術の現状
 (1)下水・返流水等からの回収
  a)MAP法
  b)HAP法
 (2)下水汚泥、脱水汚泥からの回収
 (3)下水汚泥焼却灰等からの回収
 (4)リン回収技術の現状の課題
4.今後の展望
 (1)リン回収技術の評価
 (2)リン回収メカニズムの把握
 (3)リン回収物の利用
 (4)まとめ
参考文献
(Abstract)


表−1 リン回収技術の現状(部分:長所・短所・文献は省略) 

対象

処理方法

原理

回収物
リン
実用化
レベル







MAP法 MAP法 PO43-、NH4+、Mg2+の晶析作用で、リン酸マグネシウムアンモニウム(MAP)を生成。消化脱離液等のリン濃度が高い下水に薬剤を添加後、ばっ気により攪拌混合。 MAP
AF-BNR-SCR 下水処理で発生する初沈汚泥・余剰汚泥と生ごみを混合し、消化処理をした脱離液に対してMAP法を適用。
CSIR CSIR社(南アフリカ)により開発。A2O法の嫌気槽から一部晶析槽を経由させ、MAP法、HAP法により回収。 MAP,
HAP
HAP法 HAP法 PO43-、Ca2+、OH-の晶析作用で、カルシウムヒドロキシアパタイト(HAP)を生成。下水二次処理水等のリン濃度が低い下水に薬剤を添加後、晶析材充填塔に通水。 HAP
DHV晶析法 DHV社(ドイツ)によち製品化。NaOHと乳状石灰を添加。
P-RoC フォストリップ法の返流水に対してCSH(ケイ酸Ca水和物)を晶析材としたHAP法によりリン酸Caを回収。 リン酸カルシウム
Sydney Water Board Sydney Water Board社(オーストラリア)により製品化。Ca源としてgypsum(石膏)、晶析材としてMgOを使用。 HAP
電気、磁気による回収 電解法 下水中にFeなどの電極を浸し、直流電流を流すことで、陽極表面において鉄イオンの溶出と、リンの凝集反応を進行させ、リンを沈殿除去。 FePO4
Smit-Nymegen 下水二次処理水に対して、石灰、磁石、ポリマーにより凝集沈殿後、超音波処理等により磁石とリンを分離。 リン酸カルシウム
その他 吸着法 Zr系、活性アルミナ系の吸着剤充填塔に下水二次処理水を通水させ、リン酸イオンを吸着除去。吸着剤は再利用。 リン酸、
リン酸カルシウム
RIM-NUT 下水二次処理水から、イオン交換樹脂でNH4+、PO43-を除去し、NaClで各イオンを溶出後、MAPとして回収。 MAP




加水分解・物理化学的処理 Cambi-KREPRO 消化汚泥を脱水後、硫酸を添加し、150℃、pH1〜2で加水分解し、有機物、重金属を沈殿分離後、上澄みにFe塩を添加し、FePO4を回収。過剰なFeは凝集剤に再利用。 FePO4
Heatphos法 嫌気・好気法の余剰汚泥を70℃で熱処理し、リン抽出、上澄みにCaCl2を添加しリンを凝集、回収。 リン酸カルシウム
Aqua Reci 超臨界水によって脱水汚泥を1分間湿式分解し、無機物を含む残さにNaOHと石灰を添加し、リンを回収。 リン酸カルシウム
Seaborne 消化汚泥に酸を添加し、リン、重金属類、有機物を分解、上澄みに消化ガスを通気し重金属類を沈殿させ、Mg添加によりMAP、消化ガスからはメタンを回収。 MAP、
リン酸カルシウム
酸添加、熱処理 余剰濃縮汚泥に酸を添加し、熱処理することで加水分解し、リンを抽出。リン抽出液は吸着剤を用いて回収。
オゾン、アルカリ溶出 活性汚泥に対し、汚泥を攪拌しながらオゾン注入後、NaOHによってpH10〜12で攪拌、オゾンによって微生物細胞膜が裂傷し、アルカリで細胞膜の溶解が促進。
亜臨界水処理+MAP法 高温・高圧状態の亜臨界水と余剰汚泥を接触させた後、可溶化汚泥にMg(OH)2を添加し、MAPを回収。可溶化汚泥はさらに消化工程を経て、高速メタン発酵され、消化液は再び活性汚泥法で処理される。 MAP
薬剤添加 前凝集沈澱汚泥からのNaHS法 塩化第二鉄を最初沈殿池に添加して発生した汚泥にNaHSを添加し、リン酸とFeSを生成。リン酸にCa塩を添加しリン酸Caを、FeSに酸を添加しH2S、Feを回収。H2SはNaHSに、Feは凝集剤に再利用。 リン酸カルシウム
アルカリ抽出 生物槽にPACを添加して得た余剰汚泥をNaOHでpH12に調整し、汚泥を可溶化。上澄みはCaCl2を添加しHAPを回収した後、凝集剤に再利用。 HAP
その他 HYPRO 前凝集処理により、リンと有機物を沈殿除去し、その汚泥を加水分解することで、脱窒の炭素源として利用。リンは汚泥中にAl、Fe塩として回収。 AlPO4
FePO4
フォストリップ法 A/O法において返送汚泥の一部を、滞留時間4〜12時間、嫌気適条件下で、上澄みにリン放出させる。上澄みは石灰あるいは他の凝集剤により処理され、固液分離。 リン酸カルシウム
オゾン溶出+HAP法 A/O法において返送汚泥の一部がオゾン接触槽へ送られ、有機物、リンが可溶化され、生物学的嫌気槽へ、嫌気槽から一部の混合液を抜き、HAP法によりリン回収。 HAP
Kemicond 下水汚泥に硫酸を添加し、pH4でリン酸Feを溶出させ、H2O2の添加によりFePO4を沈殿させ、汚泥を改質。 FePO4
ZS吸着 沈砂池流出水に鉄、シリカ重合凝集剤(PSI)を添加し、沈殿汚泥を生成。沈殿汚泥に硫酸を添加し、リン酸を溶出後、ジルコニウムメゾ構造体(ZS)により吸着。 ZS吸着態




乾燥 Swiss Combi ドラム式乾燥機により脱水汚泥を150℃で乾燥し、得られた乾燥汚泥は肥料および低品位の燃料として利用。 肥料
コンポスト Simon-N-Viro 脱水汚泥に対して、50℃でアルカリを添加してコンポスト化し、得られた乾燥汚泥を土壌改良剤として利用。 有機質土壌







熱処理 Bio-Con 焼却灰に硫酸を添加し、リン、重金属類を溶出後、溶出液をイオン交換し、リン酸、FeCl3、KHSO4を回収。 リン酸
酸、溶媒抽出法 焼却倍灰に硫酸を添加し、リンを抽出後、抽出液から水難溶性の有機溶媒にリンを液液抽出。さらに有機溶媒中のリンを水中に逆抽出し、リン酸として回収。 リン酸
硫酸抽出、アルカリ回収法 硫酸により焼却灰からリンを酸抽出し、固液分離後、上澄みにアルカリを添加し、中和することで、pH4ではリン酸Ca、pH10では重金属類を分離回収。 リン酸カルシウム
酸抽出、Ca凝集 焼却灰のリン濃度から最適硫酸添加量を決定。焼却灰に硫酸を添加し、抽出液にCa薬剤を添加し、リン回収。 リン酸カルシウム
酸抽出、吸着法 焼却灰に硫酸を添加し、リンを抽出後、上澄みから吸着剤でリンを吸着除去。吸着されたリンはNaOH溶液で脱着後、リン溶出液を冷却し、リン酸Naを回収。 リン酸ナトリウム
SEPHOS 焼却灰に硫酸を添加し、pH1.5で攪拌後、上澄みをpH3.5に調整しAlPO4を回収。AlPO4にアルカリを添加し、pH12〜14で溶解後、Ca塩添加により、リン回収。 AlPO4
リン酸カルシウム
ミョウバン法 焼却灰に硫酸を添加し、リンを抽出後、硫酸アンモニウム等を加え、冷却し、溶液中Alを複塩として回収。残った溶液に炭酸Naなどを加えてリン酸Naとして回収。 リン酸ナトリウム
ゲル化法 焼却灰に硫酸を添加し、炭酸水素Naを添加し、AlPO4を回収。それにNaOH添加で溶解し、珪酸Na添加でゲル化させ、リン酸Na、ゼオライト状物質を回収。 リン酸ナトリウム
加熱処理法 焼却灰に硫酸を添加し、溶解させ、二酸化ケイ素と炭酸Naを加えて900℃に加熱することで、リン酸Naとゼオライト状物質を生成。 リン酸ナトリウム
アルカリ処理 アルカリ抽出+Ca法(Na法) 焼却灰からNaOH溶液によりリン、Alをアルカリ抽出し、上澄みにCa(OH)2の添加によりHAPを生成(Ca法)、または上澄みの放冷によりリン酸Naを析出(Na法)。 リン酸カルシウム(ナトリウム)
熔融処理 還元熔融+ガス冷却、燃焼 焼却灰にコークスを添加し、1250〜1500℃で還元熔融し、黄リンガスを揮発分離し、冷却して液状黄リンを回収、または黄リンガスを燃焼し、酸化リンを湿式回収。 黄リン、
リン酸
薬剤添加熔融処理 焼却灰にMgO、CaO、SiO2を添加して熔融することで、熔性リン肥相当品を製造。 熔性リン肥




酸処理 酸、溶媒抽出法 熔融飛灰に硫酸を添加し、リンを抽出後、抽出液から水難溶性の有機溶媒にリンを液液抽出。さらに有機溶媒中のリンを水中に逆抽出し、リン酸として回収。 リン酸




酸処理 酸溶出 炭化汚泥に、硫酸を添加し、90℃で、リン、Al、重金属類を溶出。抽出液にアルカリを添加し、リン、重金属類を分離回収。 リン酸カルシウム
硫酸抽出、アルカリ回収 硫酸により炭化汚泥を酸処理し、リン抽出する。上澄みにアルカリを添加し、中和することで、pH4ではリン酸Ca、pH10では重金属類を分離回収。 リン酸カルシウム
加熱処理 加熱処理法 炭化汚泥に含まれるSi、Al、Caを利用し、NaOHを添加して800℃で焼成することで、リン酸Naとゼオライト状物質を生成。 リン酸ナトリウム
還元加熱 下水汚泥を原料に炭化し、還元雰囲気下、1000〜1200℃で加熱して、黄リンを揮発させ、黄リンあるいはリン酸を製造する。 黄リン、
リン酸
◎…実用化、○…パイロットプラント、△…ベンチスケール、▲…実験室。


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