『（要旨）
　リン資源は世界的な枯渇性の資源であり、現在利用されている高純度のリン鉱石はこの数十年以内に枯渇するとの説がある。一方で、リンは閉鎖性水域の富栄養化の原因とされる物質である。したがって、リン資源の循環は、リン資源の確保と環境保全にとって有効な施策である。
　以上の背景から、本研究では現状でのリン収支の問題点を整理し、近年の技術的動向を踏まえて我が国におけるリン資源の循環利用の可能性について、生活排水処理分野を中心に基礎的な検討を行った。その結果、生活系でリン鉱石での輸入量の約２０％に相当する量の循環が可能であること、排水処理分野においてはリン回収と地球温暖化防止が条件づきではあるが両立できる可能性があることがわかった。また、さらなる循環に向けたいくつかの問題点の抽出を行った。

Key Words: Phosphorus; Resource recycling; Sewage treatment; Life cycle assessment』

１．はじめに
２．リン資源循環に関する既往研究等
３．我が国におけるリン資源収支
　（１）　我が国の全体収支
　（２）　生活系（排水、厨芥等生ごみ）の排出リン負荷量
　　a）　設定数値の根拠
　　b）　算定結果の既往文献との比較
　（３）リン収支（図−１）にもとづく課題等の抽出
　　a）　土壌蓄積について
　　b）　生活排水からの排出
　　c）　厨芥等の生ごみ
　　d）　建設資材等への蓄積
　　e）　畜産系からの排出
４．現状技術での潜在的リン回収可能量の検討
　（１）　検討方針と内容
　　a）　下水道での回収
　　　（a）　検討ケース
　　　（b）　排水中のリン回収
　　　（c）　焼却灰中のリン回収
　　b）　汚泥再生処理センターでの回収
　　c）　浄化槽汚泥から回収
　（２）　処理過程で対象となる回収可能なリン資源量
　　a）　下水道での回収可能量
　　b）　汚泥再生処理センターでの処理対象量と回収可能量
　　ｃ）　浄化槽での処理対象量と回収可能量
　（３）　我が国での潜在的回収可能なリン資源量の把握
５．リン資源回収のCO2収支の検討
　（１）　検討ケース
　　a）　下水道（脱リン＋嫌気性消化）脱水ろ液リン回収
　　b）　下水道（脱リン）汚泥焼却灰リン回収
　　c）　下水道（標準法）汚泥焼却灰リン回収
　　d）　汚泥再生処理センターリン回収
　（２）　検討条件
　　a）　リン回収技術
　　b）　下水道での脱リン処理（リン高度処理）の検討条件
　　c）　リン酸肥料製造について
　（３）　ベースラインからの増加量と肥料製造でCO2排出量の比較
６．まとめ
　（１）　リン資源循環の改善について
　　a）　リン一次資源消費の減量及び回収量の増加について
　　b）　地球温暖化影響との関連から
　（２）　今後の課題
　　a）　LCA解析の精度向上
　　b）　生活排水処理汚泥再生利用の総合的比較評価の必要性
　　c）　地域モデルの提案
　　d）　我が国全体でのリン収支に向けた改善検討
謝辞
参考文献
（Abstract）

図-2 我が国の生活系排出でのリンの収支 ��巻峰夫・吉田綾子・星山英一（2008）による『リン資源循環を実現するシステム構築のための基礎的条件に関する検討』から