鈴村昌弘・鎌谷明善(1993):酸−アルカリ連続抽出法による海底堆積物中の有機態リン化合物の分画水環境学会誌16(6)、416-423.


Abstract
1.はじめに
2.実験方法
 2.1 試料
 2.2 リンの抽出および分析法
3.結果および考察
 3.1 堆積物からのリンの抽出パターン
 3.2 有機態リン化合物の抽出パターン
 3.3 共存する有機物のリン抽出パターンに及ぼす影響
 3.4 抽出条件のリン抽出パターンに及ぼす影響

4.まとめ
 堆積物に既知の有機態リン化合物を添加し、これらの化合物の酸−アルカリ連続抽出法による抽出パターンについて調べた。その結果、次のことが明らかとなった。
 1)リン抽出パターンは堆積物中に共存する有機物の有無、抽出条件などに強く依存しており、単純に堆積物中の有機態リン化合物の化学的特性を表す指標とはならなかった。
 2)堆積物に含まれる有機態リンは、酸−アルカリ連続抽出法では完全に抽出することができず、過小評価される可能性が示唆された。
 3)1N HCl(室温15分間、3回繰り返し)、0.05N NaOH(室温18時間および90℃4時間)抽出による有機態リン化合物の抽出パターンは、酸によって容易に抽出されるタイプ(ATP、AEP)、冷アルカリに抽出されるタイプ(IHP、DNA、RNA)および熱アルカリに抽出されるタイプ(PC)に分類された。また、ATPは酸抽出時に添加リン量の約40%が加水分解を受け無機化したが、他の化合物の加水分解率は2%以下と小さく安定であった。
 4)有機物を除去した堆積物に添加したIHP、DNA、RNAおよびATPは酸およびアルカリにより完全に抽出された。従って、堆積物中に共存する有機物が有機態リン化合物を抽出され難くしていると判断された。
 5)1N HCl(室温18時間)、0.3N NaOH(室温18時間および90℃8時間)を用いたより強い抽出条件について検討したところ、抽出条件を強くすることによって有機態リン化合物の抽出される分画に変化がみられた。しかし、加水分解の割合には大きな変化がみられなかった。』

謝辞
引用文献

図1 堆積物試料からのリンの穏やかな抽出法の概略図.(元は図)

〔鎌谷・前田(1989)による酸−アルカリ連続抽出法に準じたもの。全リンはMg(NO3)2灰化法による(定量はMurphy and Riley (1962)によるアスコルビン酸還元−モリブデン青法)。各分画について、測定した全リン無機態リンの差を有機態リンとみなす。〕

試料

処理

抽出リン画分
凍結乾燥試料(〜0.25 g) 25 mlの1N HCl塩酸)を加え、
室温で15分間振とう、
遠心分離
 
残渣 15 mlの0.1M NaClを加え、
遠心分離
 
上澄み液(酸抽出) 酸分画
残渣 25 mlの0.05N NaOH水酸化ナトリウム)を加え、
室温で18時間振とう、
5 mlの飽和NaClを加え、
遠心分離
 
残渣 15 mlの0.1M NaClを加え、
遠心分離
 
上澄み液(冷アルカリ抽出) 冷アルカリ分画
残渣 25 mlの0.05N NaOHを加え、
90℃で4時間静置、
5 mlの飽和NaClを加え、
遠心分離
 
残渣 15 mlの0.1M NaClを加え、
遠心分離
 
上澄み液(熱アルカリ抽出) 熱アルカリ分画


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