小松伸行・石井裕一・渡邊圭司・本間隆満・北村立実・根岸正美・岩崎 順(2009):富栄養化した霞ヶ浦の堆積物に養殖の痕跡を残すリンの形態と分布陸水学雑誌69、193-208.


Abstract

摘要
 網生簀による内水面養殖業が盛んに営まれてきた霞ヶ浦において、水環境への影響評価を目的として、堆積物中のリンの存在形態から主要養殖漁場周辺の特性を検討した。強熱減量や全有機炭素量、全窒素量およびC/N比については、養殖漁場と非養殖漁場との間に明らかな違いはみられなかった。これに対し全リン含有量は養殖漁場で非養殖漁場よりも高く、その差は主に無機態リンの含有量の違いによるものであった。養殖魚場内の堆積物は養殖に伴う糞などの堆積が起源と考えられるHCl抽出(Ca結合)リンを多く含有することで明確に特徴付けられており、HCl抽出リンが養殖の影響を示す指標として有効であることが明らかになった。また、養殖魚場内にはHCl抽出リンと同時に溶出可能(Fe結合・Al結合)リンが堆積物に付加されていることから、養殖魚場内の底泥が非養殖漁場と比較して高いリン溶出ポテンシャルを有している可能性が示唆された。

キーワード:養殖;堆積物;自家汚染;HCl抽出リン;霞ヶ浦』

はじめに
方法
 調査地概要
 試料採取
 分析方法
 溶出実験
 流況データ取得
結果
 主要漁場周辺の堆積物の特性
 溶出試験
 養殖漁場内の流速
考察
 有機物の分布と養殖の影響
 形態別リンの分布と起源
 形態別リンの蓄積と流れ場との関係
 養殖漁場のリン溶出ポテンシャル
まとめ
謝辞
文献

図2.本研究で用いた分析および形態別リンの連続抽出の概要.(元は図)

〔リンの形態別分画定量法はWilliams et al.(1971)に準じたもの。CDFB=citrate(クエン酸塩)-dithionite(亜ジチオン酸塩)-bicarbonate(炭酸水素塩、重炭酸塩);RP=reactive phosphorus;NRP=non-reactive phosphorus。無機態リンの分析は、CDB抽出液についてはWatanabe and Olsen(1962)によるモリブデン青−塩化スズ(II)還元吸光光度法、NaOHおよびHCl抽出液についてはMurphy and Riley(1962)によるモリブデン青−アスコルビン酸還元吸光光度法により測定された。全リンは、Menzel and Corwin(1965)によるペルオキソニ硫酸カリウム分解法の後、モリブデン青−アスコルビン酸還元吸光光度法により測定された。各抽出液中P=RP+NRP、RP=IP(無機P)、NRP=TP(全P)−IP=有機P。〕

試料

処理

抽出リン画分
堆積物コア試料 薄切り、
計量
薄切り(sliced)堆積物試料 計量、
遠心分離〔3000回転/分(1430 G)、20分間〕
上記試料 酸揮発性硫化物態硫黄量(acid volatile sulfide)測定、
湿重量計量、
乾燥(105℃、2時間)、
乾重量計量(含水率)
乾燥試料 炭酸塩の除去(振とう、25℃、24時間)、
全有機炭素(TOC)と全窒素(TN)を測定
粒度分布測定、
強熱(550℃、2時間)、
強熱減量(ignition loss)測定
リンの分別 0.22M Na3C6H5O7・H2Oクエン酸ナトリウム
0.11M NaHCO3炭酸水素ナトリウム
Na2S2O4亜ジチオン酸ナトリウム
85℃で30分間抽出
CDB-RP(Fe-P;非アパタイト)
CDB-NRP(有機P)
残渣 1M NaOH水酸化ナトリウム
振とう、25℃で16時間抽出
NaOH-RP(Al-P;非アパタイト)
NaOH-NRP(有機P)
残渣 2M HCl塩酸
100℃で30分間抽出⇒加熱抽出法(井澤・清木、1982)
HCl-RP(Ca-P;アパタイト)
HCl-NRP(有機P)


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