太田充恒・今井 登・岡井貴司・遠藤秀典・川辺禎久・石井武政・田口雄作・上岡 晃(2002):山形市周辺地域における元素分布の特徴について−山形盆地南部地域の地球化学図−地球化学36、109-125.


Abstract

1.はじめに
 地球温暖化や酸性雨など近年の環境問題への関心は年々高まっており、国際的な取り組みも積極的になされている。このような地球規模の環境問題に対し、大気汚染、地下水汚染、土壌汚染といった身近な環境問題もまた重要な課題である。特に人口密度が高く人間活動の活発な都市部において、人為的活動によって放出された元素がどのような過程を経て、大気や河川・海洋もしくは生活圏である地表へ拡散するかを調べることは大変重要な課題である。
 生活環境に密接な地殻表層では、亜鉛や鉛などの有害元素の濃集は必ずしも人為的な過程だけではなく、鉱床形成による濃集過程も同時に存在する。地殻表層での元素の分布を調べるのに用いられるのが地球化学図である。イギリスやドイツなどの西欧諸国やアメリカなどでは鉱床探査の手段として用いられ、全国規模の地球化学図がすでに作成されている(Webb et al., 1978; Weaver et al., 1983; Fauth et al., 1985; Kautsky and Bolviken, 1986; Thalmann et al., 1988)。日本ではこれまで北関東地域(伊藤ほか、1991)、秋田県(椎川ほか、1984)、愛知県(Tanaka et al., 1994; 山本ほか、1998)など限られた地域でのみ地球化学図作成が行われてきた。しかし、現在産業技術総合研究所では、地球化学図を国土の重要な基本情報の一つと位置づけ、全国的な地球化学図の作成に取り掛かっている(今井ほか、2001)。
 地球化学図を効率よく作成するためには、一つの試料ができるだけ広範囲の面積を代表する必要があり、試料として岩石・土壌・河川堆積物・湖沼堆積物・地表水・植物などが用いられる(Howarth and Thornton, 1983)。日本は山地が多く、河川系が発達しているため、試料としては河川堆積物が最適である。また、河川堆積物は、採取地点の流域(集水域)に分布する岩石・土壌の混合試料と考えられる(一國、1991;上岡ほか、1991)。
 日本は大陸と異なり、複雑な地質を示す。そのため、地球化学図上での特定元素の濃集が人為的汚染の結果であるか、基盤岩などの風化に伴う自然拡散によるのか判断が困難な場合が多い。全国的な地球化学図作成においては、人的汚染が少ない地点を選ぶことで、地質・鉱床などのバックグラウンドの影響を調べる事を一つの目的としている(今井ほか、2001)。一方、都市及びその周辺地域における都市地域の代表として宮城県仙台市周辺と、内陸盆地の代表的な地域である山形県山形市周辺をモデル地域として選び、比較的狭い地域で地球化学図を作成する試みも進めている(今井ほか、1997,2000)。本研究においては、今井ほか(2000)による山形市を中心とした地域の地球化学図の報告に加え、上山市から5試料、山形市東部から3試料を採取した上で、元素濃度分布の詳細な要因を明らかにするため新たに以下の検討を行った。
 調査地域において、元素濃度分布を支配する大きな要因としては、地質、温泉・鉱泉、人為的活動などが考えられる。元素濃度分布の傾向と周辺の地質との関連を調べるために、河川堆積物だけでなく、山形市周辺で採取した岩石試料の化学分析も行った。また、地球化学図を用いた研究には、様々な空間解析が必要である。そこでESRI社のGIS(地理情報システム)ソフトウェアArcView 3.2を用いて、元素濃度分布図と地質図・温泉分布図・土地利用図との間の空間的な関連性を調べることにより、元素濃度分布を支配する要因の検討を行った。さらに標高データを基に流域解析を行うことで、河川堆積物の供給過程についての検討も行った。これまで、地球化学図は視覚的な情報に基づいて議論する場合が多かったが、元素濃度分布図と地質、温泉・鉱泉、人為的活動との関連性や流域解析を可能な限り客観的に判断するために、数理統計解析を行った。
 本研究は工業技術院特別研究「生活環境に密接な地域地質要素の調査・解析手法開発の研究」の一環として行われた。』

2.調査地域
3.分析方法
4.結果
 4.1 元素濃度分布図の作成
 4.2 元素の濃度分布傾向
 4.3 希土類元素存在度パターンの特徴
5.考察
 5.1 元素濃度のバックグラウンド評価
  5.1.1 数理統計学を用いた解析法
  5.1.2 須川を境にした東西地域間に見られる元素濃度分布傾向の違い
  5.1.3 須川の東部地域に見られる元素濃度分布傾向の違い
  5.1.4 須川の西部地域に見られる元素濃度分布傾向の違い
 5.2 有害元素の分布
  5.2.1 山形市周辺に見られる有害元素濃集
  5.2.2 ヒ素の濃度分布傾向と温泉分布の関係
  5.2.3 水銀の濃度分布傾向
 5.3 流域解析
6.まとめ
謝辞
文献



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