JOGMEC(2005):資源経済の基礎.(独)石油天然ガス・金属鉱物資源機構、271p.


表紙
目次

1.はじめに

2.そもそも資源経済学とは何だ? 

3.資源プロジェクトの経済評価(DCF 分析)

 3−1 DCF 分析の基礎 
  ・額面価値の時間変化
  ・NPV とIRR
  ・実際の計算方法
  ・現実案件への適用
 3−2 DCF 分析の応用
  ・必要収益率
  ・OPR とOML
  ・現実上の制約
  ・リスクの評価
 3−3 DCF 分析の発展形 
  ・Decision Tree
  ・確率分布DCF 分析
  ・リスクの取り扱い

4.ミクロ経済学の基礎
 4−1 需要と供給のバランス 
  ・物の値段はどうして決まる?
  ・価格の変動はなぜ起こる?
 4−2 価格と余剰
  ・金属の需給曲線と価格変動
  ・有難味の大きさの計測
  ・誰が得して誰が損するのか?
  ・社会全体の収支計算
 4−3 経済現象と余剰の変化 
  ・税金と余剰
  ・価格弾力性と課税効果
  ・関税と自由貿易

5.プロジェクトリスクの扱い
 5−1 リスクの評価 
  ・効用関数
  ・βの値の意味
 5−2 リスクと収益のバランス 
  ・ポートフォリオ理論
  ・ポートフォリオの評価基準
  ・市場ポートフォリオと資本市場線
  ・投資収益と必要収益率
 5−3 DCF 分析の限界
  ・長年にわたる後年度支出
  ・リスクが大きすぎる
  ・事業計画にオプションを想定する余地がある
  ・資産として評価される場合がある
  ・資源プロジェクトのための評価法

6.資源市場のメカニズム
 6−1 需給バランスと備蓄 
  ・安定供給と供給曲線
  ・需要曲線の区分
  ・備蓄の影響
  ・アナウンスメント効果
  ・長期的な影響
 6−2 技術開発の意義 
  ・探査技術と資源の価格
  ・技術と限界費用曲線
  ・新技術の性格分類
  ・コスト削減とロマン
 6−3 安定供給とその達成手段 
  ・安定供給の定義
  ・資源の安定供給とは
  ・探鉱活動のジレンマ
  ・多様な活動が与える供給曲線への影響

7.資源プロジェクト評価の理論
 7−1 資源の確定価値 
  ・先物取引の仕組み
  ・先物相場の形成メカニズム
  ・さや取り価格形成理論による価格推移予測
  ・ホテリング評価原理
  ・経済評価法としての位置付け
  ・資源の確定価値の意味
 7−2 開発オプションの価値 
  ・鉱業権と開発オプション
  ・総支出E と総収入V
  ・Black-Scholesの式
  ・オプション評価の実例
  ・オプションの有効期限と価値の関係
  ・金属価格の変動度とオプション価値との関係
  ・金属価格の水準とオプションの価値との関係
  ・資源開発案件向けのオプション評価
 7−3 資源向けオプション評価 
  ・開発先送りのコスト
  ・価格の見込み上昇率と変動率
  ・CAPM理論による必要収益率
  ・オプション価値の厳密な計算方法
  ・Black-Scholes 型の評価の限界
  ・オプション評価の意義

8.金属資源の経済学
 8−1 資源のリサイクル 
  ・「新しいスクラップ」と「古いスクラップ」
  ・「新しいスクラップ」からの二次生産
  ・「古いスクラップ」からの二次生産
  ・スクラップの全体の供給曲線
  ・金属全体の供給曲線
 8−2 多種金属の同時生産 
  ・一次生産のバリエーション
  ・BYPRODUCT
  ・COPRODUCTS
  ・金属全体の供給曲線
 8−3 市場の周期変動への対処
  ・金属市場の変動の傾向
  ・金属産業における問題点
  ・コストの再定義
  ・従来の対処法
  ・新しい概念

9.資源の有限性の認識
 9−1 資源は枯渇するか? 
  ・資源は枯渇しない?
  ・ホテリング理論
  ・資源の存在形態と枯渇問題
  ・鉱物学的バリア
  ・その他の経済的枯渇要因
  ・資源を上手に枯渇させるために
 9−2 資源は誰のもの?
  ・もはや地下資源は有限ではない?
  ・「持続的成長」の意味するもの
  ・環境資源への市場メカニズムの導入
  ・環境資源の経済価値
  ・天然資源の所有権は誰に?
  ・資源開発は生産行為ではない?
  ・何が問題か?

あとがき



1.はじめに

 資源開発に関するビジネスや行政には、常にその経済的価値とか社会に対する経済効果といった尺度で物事を考える機会が多々あります。こうした考察には科学や工学の言葉では語り尽くせない社会・経済的な面があることを日々の仕事の中で感じ、幸いにも米国でそれを学ぶ機会を得たのは、もう15年近く前のことで、帰国後その成果を本人だけでなく周囲の人々と分け合えればと書き始めたのが、本書の元となった原稿です。こうした分野について日本国内で系統的に学ぶ機会がなかなか無い状況は今も変わらないようで、10年前に書いた連載記事を一部修正して一冊の本にすることになりました。
 本書の内容として、プロジェクト評価関係では、全ての基礎となるDCF分析(第3章)から始まり、リスク評価とDCF分析の限界(5章)、更に当時株式投資から他の分野に急速に広まりつつあったオプション評価(第7章)について説明します。DCF分析は古典的な分析手法ですが現在でも多くの鉱山評価で利用されており、この知識がなければその発展系である新しい評価法を理解することは難しいと思います。またオプション評価は最近ではリアルオプションと呼ばれ、資源産業のみならず、航空機、製薬、不動産業など多くの分野で利用されています。
 一方、その他の章ではミクロ経済学の手法による資源産業の多様な活動や現象のメカニズムの分析例を紹介します。これらは資源業界の実際の活動に使われる理屈ではありませんが、資源特有の現象や問題を扱う一つの形として資源産業に関わる者なら知っていて損はない話題として採り上げたものです。市場の完全性を前提としたこのような考え方は10年前に比べると最近では余り流行らないようですが、複雑な事象を整理・単純化して考える時の常套手段として使えるものです。内容の多くは金属鉱床探査や金属鉱山開発を例にしていますが、その概念はエネルギー資源や非金属などにも共通していると思います。

2.そもそも資源経済学とは何だ?

 日本の大学に「資源経済学」という名前の学科や講座は無いようですが、だからと言って資源経済学が日本には存在しない学問だという訳ではありません。諸外国で資源経済学と呼ばれている学問は、日本では地質学や資源工学、経済学、金融学等の中にバラバラになって紛れ込んでいます。資源経済学とは、これらの分野から「資源」と「経済」に係る部分をくくり出したものだと言えます。
 実際には、このくくり出し方に明確なルールがある訳ではなく、そのカバーする範囲や各分野への比重の置き方にはケースによってかなり違いがあるようです。これからその各論を紹介しようとしている以上、まず始めにその全体のイメージについて示しておこうと思います。そこで、本書で言う「資源経済学」は以下の3つの部分から構成されると考えて下さい。

 1:一般的な経済学(経済学の基礎理論、専門用語、仮定の置き方など)
 2:鉱業活動のノウハウの経済学的側面(企業、投資家の立場での資源経済)
 3:資源に的を絞った特殊な経済学(政府、研究者の立場での資源経済)

 経済学はその議論の対象が何であるかに関わらず常に共通の手法で物事を論じようとするので、2や3の議論のために1がどうしても必要となります。しかし、こうした基礎知識の導入部というのは、往々にして単調で退屈なものです。そこで本書では、一般経済学の知識を事前に一通り説明することはせず、個別の内容ごとにその理解に必要な概念や用語をその場で簡単に解説しながら話を進めたいと思います。詳しい説明は、経済学の参考書を読んでみて下さい。
 分類の2は鉱山開発の現場での収支計算術を源とする現場サイドの経済学であるのに対し、3は資源問題を政策論として論じる際の理論的裏付けとして持ち出される特殊な経済理論です。これから各論として紹介する内容は、この両者のいずれか一方に属するものです1)。経済学という手法で資源という対象を論じるには、その視点の置き場所の違いによって2通りのアプローチの仕方があるのだとお考え下さい』


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