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目次
第T章 序論
A.課題の背景
B.既存研究の限界
C.本論文の目的
D.本論文の構成
第U章 持続性概念からみたエコロジカル経済学
A.背景と目的
B.持続性(Sustainability)概念とその分類
a.ブルントラント(Brundtland)以前の持続性について
b.ブルントラント以降の持続性について
c.多様化する持続性概念の分類
C.環境経済学とエコロジカル経済学に関する定義とアプローチ
a.環境経済学の定義
b.環境経済学のアプローチ
c.エコロジカル経済学の定義
d.エコロジカル経済学のアプローチ
e.環境経済学とエコロジカル経済学における持続性概念
D.小括
第V章 中国広西壮族自治区大化県七百弄郷の紹介
A.大化県七百弄郷の概況
a.地理的・自然的位置
b.社会的・経済的状況
c.七百弄郷の歴史的変遷
B.大化県七百弄郷の事例の位置付け
C.調査データの概要
第W章 Ecological Footprint を用いた人間活動の環境面積要求量と環境収容力の推定
A.本章の目的
B.エコロジカル・フットプリント(Ecological Footprint)分析の理論と既存研究
a.環境収容力(Carrying Capacity)と囲い込まれた土地扶養能力(Appropriated Carrying
Capacity)
b.オーバーシュート(Overshoot)
c.エコロジカル・フットプリント分析の定義と概要
d.エコロジカル・フットプリント分析を利用した既存研究
C.中国西南部七百弄郷への適用
a.基本データおよび分析データ
b.エコロジカル・フットプリントのフレームワーク
c.エコロジカル・フットプリント計測の詳細
c-1.農地カテゴリーの計算
c-1-1.耕種作物生産
c-1-2.家畜生産
c-1-3.その他の食料
c-2.森林カテゴリーの計測方法
c-2-1.林産物
c-2-2.二酸化炭素
c-3.生産能力阻害地カテゴリーの計測方法
D.試算結果
a.最大扶養可能人口の推計結果
b.エコロジカル・フットプリントの分析結果
E.小活
第X章 Emergy Flow Modelを用いた人間活動の定常状態のシミュレーション予測
A.本章の目的
B.エメルギーフロー分析(Emergy Flow Analysis)の理論と既存研究
a.エネルギー(Energy)とエメルギー(Emergy)の概念とその特徴
b.エメルギー分析を用いた既存研究
c.H.T.Odum によるエメルギーフローモデルの作成マニュアル
d.エネルギーフローモデルから微分方程式への変換
C.中国西南部弄石屯への適用
a.弄石屯におけるエメルギーフローのマクロモデル
b.弄石屯におけるエメルギーフローのミクロモデル
c.エメルギーフローモデルの数式化
d.分析データ
e.シミュレーションの仮定条件
D.シミュレーション結果と考察
a.耕種作物のエメルギーフローシミュレーション結果
b.家畜のエメルギーフローシミュレーション結果
c.農家のエメルギーフローシミュレーション結果
d.森林のエメルギーフローシミュレーション結果
e.各エメルギーシミュレーション結果の比較
E.小活
第Y章 要約と結論
謝辞
引用・参考文献
Summary
付表1−1 弄石屯の1世帯あたりのEF 分析結果
付表1−2 歪線屯の1世帯あたりのEF 分析結果
付表1−3 波欄ヤの1世帯あたりのEF 分析結果
付表1−4 弄力屯の1世帯あたりのEF 分析結果
付表2−1 弄石屯の1世帯あたりの耕種作物の消費に関するEF
付表2−2 歪線屯の1世帯あたりの耕種作物の消費に関するEF
付表2−3 波欄ヤの1世帯あたりの耕種作物の消費に関するEF
付表2−4 弄力屯の1世帯あたりの耕種作物の消費に関するEF
付表3−1 弄石屯の1世帯あたりの家畜消費に関するEF
付表3−2 歪線屯の1世帯あたりの家畜消費に関するEF
付表3−3 波欄ヤの1世帯あたりの家畜消費に関するEF
付表3−4 弄力屯の1世帯あたりの家畜消費に関するEF
付表4−1 弄石屯の1世帯あたりの森林消費・二酸化炭素吸収に関するEF
付表4−2 歪線屯の1世帯あたりの森林消費・二酸化炭素吸収に関するEF
付表4−3 波欄ヤの1世帯あたりの森林消費・二酸化炭素吸収に関するEF
付表4−4 弄力屯の1世帯あたりの森林消費・二酸化炭素吸収に関するEF
付表5 肥料単位あたりのエネルギー集約度
『第VI章要約と結論
本論文の目的は,従来の環境経済学とは異なるエコロジカル経済学の視点から,発展途上地域の人間活動の持続性評価を行い,新しい経済発展の方向性を示唆することであった。
第T章では,本論文の目的とその背景,既存研究の限界などを説明した。発展途上地域は,環境問題と貧困問題という密接に関連しあった問題に悩まされている。環境問題により発展途上地域の生活基盤をなす自然生態系が破壊され,農業や林業といった経済活動が十分に行えず貧困に陥っている。その結果,住民は生活のために自然資源の過剰な採取や労働力を確保しようと多産を行うことになる。さらに,自然生態系の持つ資源供給能力を考慮せずにおこなう資源消費活動と人間の増加は,生活基盤である自然生態系への環境負荷を増大させることになる。そして自然災害への耐久性を欠いた自然生
態系は新たな環境問題を生むことになる。このような環境問題と貧困問題の悪循環を打破するために,自然生態系が持つ「資源供給能力」と「廃棄物浄化能力」の限界点と現時点での「人間活動の規模」がどのような状態にあるのかを知り,その限られた条件の下での新しい経済活動を示唆するような研究が必要であることを示した。そこで本論文では,長い間,自然生態系の機能を壊すことなく自然資源を人間活動に有効利用してきたが,現在は過度な森林伐採により自然生態系の機能が失われつつある経緯を持つ中国西南部七百弄郷集落を対象に,エコロジカル経済学的な視点から持続性を評価し,今後
の経済発展への方向性を示唆することを目的とした。
第U章では,持続性の概念から環境経済学とエコロジカル経済学を整理した。持続性の定義は,ブルントラントの定義中のニーズ(優先的に貧困者に与えられるべき必要不可欠な物)の解釈により,4つの持続性概念に分かれていることを説明した。またその分かれた持続性に従ったアプローチに,環境経済学とエコロジカル経済学があることも解説した。エコロジカル
経済学は日本においてまだ認知度が低いため,環境経済学との相違点を明らかにした。エコロジカル経済学の依拠する持続性概念は,自然資本と人工資本の一方的な代替関係を認めず,一定量以上の自然資本の確保が必要であるとするコンスタントな自然資本ルールに従う強い持続性"
であった。なお本論文の持続性評価は,エコロジカル経済学の強い持続性の視点から分析を行った。
第V章では,七百弄郷の概要と歴史的変遷や事例の位置付けを紹介した。本論文で取り上げた調査対象地域は,高い山々に囲まれ,外部との交流が少ない閉鎖的な特殊事例である。しかし,このような利便性の悪い閉鎖的な立地条件は,自然科学・社会科学両面のデータの移出入関係が把握しやすく,外部からの影響を受けにくい分析結果を与えてくれる可能性を持つ。また,本論文の研究対象である七百弄郷は,永きに渡り,自然生態系を壊すことなく,自然資源が人間活動に利用されてきた集落である。現在,七百弄郷では先進地域と発展途上地域間の所得や福祉などの生活水準の格差是正を目的に開発が行われている。しかしながら,従来の経済開発では,先進国の二の轍を踏むことになる。それを回避するためにも,発展途上地域周辺の自然生態系を含めた経済開発が必要であり,具体的にどのようなものであるかを提示することが重要である。そこで,自然生態系の持つ資源供給量と廃棄物浄化量の再生産速度の限界量を表す環境収容力概念に基づいたEcological
Footprint分析とEmergy Flow Model分析をおこなう重要性を示した。
第W章では,Ecological Footprint 分析を用いて,七百弄郷の4つの屯集落の最大扶養可能人口(ある地域で環境問題を発生させることなしに最大何人生活できるか)を推計し,Ecological
Footprint 結果の内訳から中国農村地域の実態を明らかにした。4つの屯集落では土地単位面積あたりの人口が過剰な状態であり,各集落で1.4〜2.3倍の過剰人口を抱えていることが明らかとなった。また,Ecological
Footprintの内訳とEcological Footprint の移出入の結果から,化学肥料と有機肥料を生産するために確保しなければならない農地・林地バイオマスに関するEcological
Footprint が高いことも明らかにした。さらに,各集落とも家畜を販売し,化学肥料を購入するという活動をおこなっていた。すでに大量の余剰窒素が農地に残って
いる4つの屯集落において,農家の化学肥料の購入は窒素汚染という環境問題をさらに悪化させる恐れがあることも明らかにした。
第X章では,自然生態系と生産・消費・廃棄といった人間活動の場を往来するエネルギーに注目し,七百弄郷を対象にエメルギーフローモデルのシミュレーションを行った。その結果,現在の自然生態系の状況を考慮したエメルギーフローモデルのシミュレーションでは,農家のエメルギー量の減少から,現在の弄石屯の農家人口を維持することは困難であることが明らかとなった。また,森林のエメルギー量の増加は,耕種作物,家畜,農家のエメルギー量の増加を促すことから,家畜や農家の活動量は森林生態系のエメルギー量に規定されることも明らかとなった。そのため,人工資本と自然資本の代替を一方的に認めず,コンスタントな自然資本ルールに従う強い持続性"
の観点から考えると,経済活動を含む持続的な人間活動をおこなうには,まず森林生態系の一定量(定常状態量)の確保が必要であることも明らかとなった。
これらの結果から,発展途上地域の一事例の考察ではあるが,自然生態系の質,特に森林資源量のバランスを考えることが人間活動の前提条件であり,物資の移出入を改善させる技術開発が必要であることがわかった。実際に七百弄郷においても,貧困解消のために開発政策が進められており,開放経済への移行は不可避である。また,開発政策は,これら弄集落の自然生態系に影響を与えつつある。これまで閉鎖的生態系・生活圏であった弄集落において,人間活動によって減少し,劣化した森林生態系を修復し,人間活動と共生し得る生態系を再構築することが緊急に必要とされる。
以上のことは他の発展途上地域に対しても同様に当てはまるといえよう(ただし,現実の実施にあたっては,留意すべき点も多い)。よって,自然生態系が供給する窒素や森林資源などの様々なバイオマスを循環利用し,経済活動を含む人間活動の起点となる森林の再構築,ならびに人間活動面から求められる一定量以上の森林資源を確保していくことが,発展途上地域における新しい持続的な発展方向の一つと結論できる。』
『Odum(2000b)によると、エメルギーは「物・サービスを生み出すために、直接ないし間接的に消費された任意の有効エネルギーであり、エクセルギー(実質エネルギー)×Transformityにより求められる。またその単位はエマジュール(eMjoule)と表される」と定義されている。また、エメルギーの定義中にも使用されているTransformityは、「ある生産エネルギー1Jを作るのに必要な任意のエネルギー量であり、エメルギー÷エクセルギーの関係式からなる」と定義される。』