鎌谷明善・武田重信(2007):生物ケイ酸の溶解度と溶解速度について海の研究16(6)、471-512.


要旨
 ケイ酸を特異的に要求し、硬いケイ酸殻を形成するケイ藻は、海洋の基礎生産に占める割合が高い。それ故、ケイ藻は海洋におけるケイ素の循環・マスバランスにおいて重要な位置付けにあると同時に、炭素・窒素をはじめとする生元素の運搬ならびに循環にも深い係わりを持っている。また、表層で生産されたケイ酸殻の一部は、溶解から免れ、海底にケイ藻遺骸として保存されている。これらの遺骸は、古環境の復元や地球環境の変動を解析する上での指標として注目されている。このようなことから、ケイ酸殻の溶解の難易性といった問題が提起される。本論文では、ケイ藻のケイ酸殻の溶解に関する研究の足跡を辿りながら問題点を整理し、その結果を踏まえ、今後の研究課題を提示した。

キーワード:生物ケイ酸;溶解度;溶解速度;ケイ藻』

1.はじめに
2.生物ケイ酸の特徴
 2.1. 生物ケイ酸の物理化学的特徴
 2.2. 生物ケイ酸の生化学的特徴
3.生物ケイ酸の溶解度
 3.1. 二酸化ケイ素の溶解度
 3.2. 溶解度に及ぼす温度と圧力の影響
 3.3. 粒径が溶解に及ぼす影響
 3.4. 溶解度に及ぼす溶存イオンの影響
 3.5. 生物ケイ酸に含まれる不純物が溶解に及ぼす影響
4.生物ケイ酸の溶解速度
 4.1. 室内実験手法(実験装置)
  4.1.1. バッチ法(閉鎖系)
  4.1.2. フローシステム(開放系)
 4.2. 溶解速度の数学的解析手法
  4.2.1. 拡散モデル
  4.2.2. 境界面での化学反応モデル
  4.2.3. 表面積の減少を考慮したモデル
  4.2.4. 沈着モデル(放物線則)
  4.2.5. 活性錯合体モデル
  4.2.6. その他の手法
 4.3. 同位体を用いた海洋表層における溶解速度の測定手法
5.考察
 5.1. 溶解速度式の取り扱いにおける問題
  5.1.1. 基本的な実験データの取り扱い:時間(t)に対する ln [(Ce-Ct)/Ce] のプロット
  5.1.2. 溶解モデルの新しい方向性
 5.2. 表面の問題
 5.3. バッチ法とフローシステムの問題
 5.4. 海洋の現場における溶解速度測定に関わる問題
  5.4.1. 安定同位体を用いた溶解速度の測定
  5.4.2. 有光層威以深における溶解速度の測定
 5.5. 生物ケイ酸の溶解に関わる生物化学作用
  5.5.1. ケイ酸の殻表面の有機膜に対する付着バクテリアの生物化学作用
  5.5.2. 動物プランクトンの摂食活動が溶解に及ぼす影響
 5.6. 溶液の性質が溶解速度に及ぼす影響
  5.6.1. 溶液のpHの影響
  5.6.2. 溶液中の陽イオンの影響
  5.6.3. 活性化エネルギー
6.結語
謝辞
References
Abstract


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