山本民次・北村智顕・松田 治(1996):瀬戸内海に対する河川流入による淡水、全窒素および全リンの負荷J. Fac. Appl. Biol. Sci., Hiroshima Univ.35、81-104.


要旨
 瀬戸内海の各海域に対して河川経由で流入する淡水、全窒素(TN)および全リン(TP)の負荷量を1990〜1992年の既往のデータをもとに見積った。大阪湾を除くすべての海域においては、淡水負荷とTN、TPの負荷は梅雨期に増加し、秋季から冬季にかけて減少する傾向が見られた。これに対して大阪湾だけは各項目の明瞭な季節的変動は見られなかった。各海域に流入する河川水のTNに占める溶存態無機窒素(DIN)の割合の平均値は58〜76%で、海域ごとの違い、季節的な変動は不明瞭であった。河川水の平均TN:TP比(モル比)は大阪湾が24と最も低く、燧灘が92と最も高かった。多くの海域ではTN:TP比は夏季に低く冬季に高い傾向が見られたが、広島湾だけは逆の傾向を示した。瀬戸内海全域に対する淡水負荷量は3.8×1010 m3 yr-1、TN負荷量は7.6×104 ton N yr-1、TP負荷量は6.6×103 ton P yr-1と見積もられた。これらのうち大阪湾に負荷される淡水量は約37%であったが、TNおよびTP負荷量はそれぞれ62%および68%と極めて高いことが明らかとなった。一方、燧灘、備後灘、安芸灘への河川経由のTN、TP負荷は瀬戸内海全体のわずか1%程度であった。これらの値を各海域の単位体積あたりに換算したところ、備後瀬戸に対する淡水負荷量は大阪湾のそれを上回り、TNおよびTP負荷量でも大阪湾に対するそれの半分程度あることがわかった。本研究によって明らかにされた各海域ごとのTN、TP負荷量の季節変化は、今後、瀬戸内海各海域の物質収支の季節変動モデルを構築する際の基礎的資料を提供するものと考えられる。

キーワード:河川;瀬戸内海;淡水;窒素;負荷;リン』

はじめに
材料と方法
結果と考察
 各海域に対する淡水およびTN、TP負荷量の季節変動
  大阪湾
  播磨灘
  備讃瀬戸
  燧灘
  備後灘
  安芸灘
  広島湾
  伊予灘
  周防灘
 河川水のTN:TP比
 海域ごとの流出特性
 瀬戸内海全域に対する負荷量と各海域への割合
 本研究法の問題点と利点
謝辞
引用文献
Appendix
(Abstract)

表2 河川から全瀬戸内海へ流出した淡水と全窒素(TN)と全リン(TP)の月変動

淡水
(億m3/月)
TN
(トン窒素/月)
TP
(トンリン/月)

1991
4 43 7500 590
5 43 7700 660
6 51 7900 690
7 56 8300 730
8 34 4800 530
9 27 5000 540
10 29 6100 600
11 19 4300 420
12 19 5400 460

1992
1 21 6700 500
2 25 6700 470
3 36 8400 600
4 35 7300 600
5 34 7000 620
6 32 6500 620
7 47 9300 860
8 49 8900 870
9 27 4700 440
10 20 5100 440
11 16 5700 460
12 18 5700 450

1993
1 19 6400 480
2 17 5900 460
3 15 4300 340

最小
15 4300 340

最大
56 8900 870

平均
31 6500 560

表3 瀬戸内海の各海域への淡水と全窒素(TN)と全リン(TP)の負荷量

海域

1990年

1991年

1992年

平均

単位面積あたり

単位体積あたり
 

 

淡水(×1000 m3/年)

m3
m2・年

m3
m3・年
大阪湾 14 13 15 14 37 9.2 0.33
播磨灘 ND 4 2.4 3.2 8 0.93 0.036
備讃瀬戸 ND 6.4 5.3 5.9 16 6.4 0.46
燧灘 ND 2.2 0.7 1.6 4 1.2 0.069
備後灘 1.1 0.83 0.43 0.79 2 0.83 0.053
安芸灘 0.46 0.28 0.97 0.28 <1 0.29 0.010
広島湾 4.2 3.6 4.0 3.9 10 4.1 0.16
伊予灘 2.7 5.0 2.7 3.5 9 0.88 0.016
周防灘 5.2 5.5 2.6 4.4 12 1.4 0.060

合計
ND 41 33 38   2.2 0.073
 

TN(×1000 トン窒素/年)
グラム窒素/
m2・年
ミリグラム窒素/
m3・年
大阪湾 45 45 52 47 62 30 1100
播磨灘 ND 8.7 5.7 7.2 9 2.1 81
備讃瀬戸 ND 6.8 6.6 6.7 9 7.3 530
燧灘 ND 1.8 0.46 1.1 1 0.85 47
備後灘 1.5 1.2 0.67 1.1 1 1.2 74
安芸灘 0.50 0.32 0.13 0.32 <1 0.33 11
広島湾 3.0 2.8 5.2 3.7 5 3.9 150
伊予灘 3.2 5.9 3.0 4.0 5 1.0 19
周防灘 5.5 6.2 2.8 4.8 6 1.5 65

合計
ND 79 77 76   4.4 146
 

TP(×100 トンリン/年)
グラムリン/
m2・年
ミリグラムリン/
m3・年
大阪湾 43 44 49 45 68 2.9 110
播磨灘 ND 7.7 3.5 5.6 8 0.16 6.3
備讃瀬戸 ND 5.5 5.2 5.4 8 0.59 43
燧灘 ND 0.37 0.16 0.27 <1 0.021 1.2
備後灘 1.2 0.86 0.65 0.90 1 0.094 6.1
安芸灘 0.32 0.17 0.052 0.18 <1 0.019 0.64
広島湾 2.5 2.4 3.9 2.9 4 0.27 12
伊予灘 2.7 4.1 2.6 3.1 5 0.078 1.5
周防灘 2.8 3.0 1.5 2.4 4 0.077 3.3

合計
ND 68 67 66   0.39 12.7

表4 本研究で見積られた全窒素(TN)と全リン(TP)負荷量および中西・浮田(1978)による汚染物質負荷因子法の比較

地域

本研究

中西・浮田(1978)
TN(トン窒素/月)
大阪湾 3900 5640
播磨灘 600 2310
備讃瀬戸 560 780
燧灘+備後灘 180 1140
安芸灘+広島湾 340 840
伊予灘 330 900
周防灘 400 1410

合計
6300 13020
TP(トンリン/月)
大阪湾 380 675
播磨灘 47 210
備讃瀬戸 45 78
燧灘+備後灘 9.8 90
安芸灘+広島湾 26 102
伊予灘 26 84
周防灘 20 138

合計
550 1377
中西・浮田(1978)は、1977年の原単位法によるもの(臨海工場地帯や大気からの降下物等が含まれる)。


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