(財)地球産業文化研究所(訳)(2005):温室効果ガス(GHG)プロトコル事業者排出量算定報告基準改訂版170p.


目 次

はじめに GHG プロトコルイニシアチブ -4
第1 章 温室効果ガス排出量の算定と報告の原則 基準およびガイダンス -11
第2 章 インベントリの事業者目的とその設計 ガイダンス -17
第3 章 組織境界の設定 基準およびガイダンス -24
第4 章 活動境界の設定 基準およびガイダンス -38
第5 章 排出量の経時的把握 基準およびガイダンス -55
第6 章 温室効果ガス排出源の特定と排出量の算定 ガイダンス -64
第7 章 インベントリの質の管理 ガイダンス -78
第8 章 温室効果ガス削減量の算定 ガイダンス -94
第9 章 温室効果ガス排出量の報告 基準およびガイダンス -101
第10 章 温室効果ガス排出量の検証 ガイダンス -108
第11 章 温室効果ガス目標の設定 ガイダンス -117
付録A 購入電力からの間接排出量の算定 -137
付録B 固定化された大気中炭素の算定 -141
付録C GHG 対策制度の概要 -145
付録D 産業セクターとスコープ -149
頭字語 -157
用語集 -159
参考文献 (省略)
貢献者リスト (省略)

はじめに
 温室効果ガス(GHG)プロトコルイニシアチブは、米国の環境NGO「世界資源研究所」(World Resources Institute, WRI)と国際事業者170 社から成る合議体でスイスに本部を置く「持続可能な発展のための世界経済人会議」(World Business Council for Sustainable Development, WBCSD)を中心に集まった世界の諸事業者、NGO、政府機関など多数の利害関係者の共同活動である。1998 年に発足したこのイニシアチブの使命は、国際的に認められる温室効果ガス(GHG)排出量算定と報告の基準を開発し、その広範な採用の促進を図ることにある。
 GHG プロトコルイニシアチブの成果物は、次の2 つの独立した互いに関連する基準から成る。
・ 「GHG プロトコル事業者排出量算定報告基準」(すなわち本書。事業者のGHG 排出量算定および報告のためのステップごとの手引き)
・ 「GHG プロトコルプロジェクト排出削減量算定基準」(近く発行の予定。GHG 削減プロジェクトによる削減量の算定のための手引き)
 本書、すなわち「GHG プロトコル事業者排出量算定報告基準(GHG Protocol Corporate Accounting and Reporting Standard)」(以下「GHG プロトコル事業者排出量算定基準(GHG Protocol Corporate Standard)」と略す)の第一版は、2001 年9 月に発行されて以来、全世界の事業者、NGO および政府機関によって広く採用され、受け入れられた。多くの産業、NGO および政府機関のGHG 対策制度は、本書の基準を自らの排出量算定報告システムの基礎として採用した。また、国際アルミニウム協会(International Aluminum Institute) 、森林・紙協会国際委員会(International Council of Forest and Paper Associatins,ICFPA)、WBCSD セメント持続可能性イニシアチブ(WBCSD Cement Sustainability Initiative)などの産業グループは、GHG プロトコルイニシアチブと連携して特定産業セクター向けの補足的な算定ツールを開発した。本書の基準がこのように広範に採用された原因は、多くの利害関係者がその開発に関与したことと、本書の基準が確固とした現実的な基準として数多くの専門家と実務家の経験と専門的知識に基づいて作成されたことにある。
本書、すなわち「GHG プロトコル事業者排出量算定基準」改訂版は、第一版の実務界での使用から得られた経験に基づき多数の利害関係者がこの2 年間に重ねた意見交換の集大成である。本書は、第一版の内容に加え、追加的なガイダンス、ケーススタディ、付録、および「温室効果ガス目標の設定」に関する新しい章を含んでいる。しかし、第一版の内容の大部分は2 年の時間を経ても変わっていないので、第一版に準拠してすでに作成されたGHG インベントリの多くはこの改訂によって影響を受けることはないだろう。
この「GHGプロトコル事業者排出量算定基準」は、GHG排出インベントリを作成する事業者(companies)およびその他のタイプの組織(organizations)のために基準(standard)とガイダンス(guidance)を提供するものである。本書は、京都議定書で定められた6つの温室効果ガス、すなわち、二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)、亜酸化窒素(N2O)、ハイドロフルオロカーボン(HFCs)、パーフルオロカーボン(PFCs)および六フッ化硫黄(SF6)の排出量の算定と報告を扱っている。本書の基準とガイダンスは、次のことを目的に設定されている。
・ 事業者が標準化されたアプローチと原則を利用することにより真実かつ公正な排出量の算定結果を表すGHGインベントリを作成することを支援すること
・ GHGインベントリ作成の簡易化と作成コストの低減を図ること
・ 事業者がGHG排出の管理と削減のための効果的な戦略を策定する上で利用できる情報を提供すること
・ 自主的および強制的なGHG対策制度への事業者の参加を促進するための情報を提供すること
・ 様々な事業者およびGHG対策制度の間でGHG 算定・報告の一貫性と透明性を増大させること
共通の基準へと収束することにより、事業者とその他の利害関係者の双方が利益を得る。
事業者にとっては、共通の基準の使用により、同じ1つのGHGインベントリで様々な内部的および外部的情報要求のすべてを満たすことができるようになれば、作成コストが低減する。その他の利害関係者にとっては、共通の基準は、報告された情報の一貫性、透明性および理解可能性を向上させ、経時的な変化の把握と比較を容易にする。
GHGイベントリのビジネスの上での有用性
 地球温暖化と気候変動が、持続可能な開発における重要問題としてクローズアップされている。そのため、多くの政府機関が、国家政策によるGHG排出削減対策(たとえば、排出量取引制度、自主的削減制度、炭素税またはエネルギー税、エネルギー効率および排出に関する規制と基準、等々の導入)をとるに至っている。その結果、事業者が競争的な事業環境の中で長期的な成功を確保しつつ、将来の国家的または地域的な気候政策に対応していくためには、自社のGHGリスクを理解して管理できなければならない。
 適切に設計され、維持されている事業者GHGインベントリは、たとえば次のような目的に役立つ。
・ GHGのリスクマネジメントおよび削減機会の特定
・ 公表および自主的GHG対策制度への参加
・ 強制的な報告制度への参加
・ 温室効果ガス市場への参加
・ 早期の自主的削減行動の認知
「GHGプロトコル事業者排出量算定基準」の想定利用者
この「GHGプロトコル事業者排出量算定基準」は、主としてGHGインベントリを作成する事業者を念頭に置いて作成された。しかし、この基準は、GHGの排出をもたらす活動をしているその他のタイプの組織、たとえばNGO、政府機関、大学などに対しても同等に適用される。しかし、この基準は、GHG排出削減プロジェクトによる削減をオフセットまたはクレジットとして使用するために算定する目的に用いるべきでない。その目的のための基準とガイダンスは、近く発行される予定の「GHGプロトコルプロジェクト排出削減量算定基準」(GHG Protocol Project Quantification Standard)が提供することになっている。
 政策決定者やGHG対策制度設計者も、制度の排出量算定・報告の要求事項を設定する際の基礎としてこの「GHGプロトコル事業者排出量算定基準」の該当部分を用いることができる。
他のGHG対策制度との関係
 GHGプロトコルイニシアチブと他のGHG対策制度とは性格が異なることを認識することが重要である。この「GHGプロトコル事業者排出量算定基準」は、排出量の算定と報告だけに焦点をあてており、排出量の情報をWRIやWBCSDに報告することを要求していない。また、この基準は、検証可能なインベントリの作成を意図しているものの、検証のプロセスをどう行うべきかに関する基準は提供していない。
 この「GHGプロトコル事業者排出量算定基準」は、いかなる制度や政策に対しても中立不偏であることを目指している。しかし、すでに多くの既存のGHG対策制度がこの基準を自らの排出量算定および報告の要求事項の設定のために利用しているため、この基準はそれらの大部分と矛盾なく用いることができる。そうした制度として、次のものが挙げられる。
・ 自主的なGHG排出削減制度、たとえば、世界自然保護基金クライメイト・セイバーズ・プログラム(WWF Climate Savers Program)、米国環境保護庁クライメイトリーダーズ・イニシアチブ(U.S. EPA Climate Leaders Initiative)、クライメイト・ニュートラル・ネットワーク(Climate Neutral Network)および気候変動に関するビジネスリーダーズ・イニシアチブ(Business Leaders Initiative on Climate Change, BLICC)
・ GHGレジストリ、たとえば、カリフォルニア・クライメイト・アクション・レジストリ(California Climate Action Registry, CCAR)、世界経済フォーラムグローバルGHGレジストリ(World Economic Forum Global GHG Registry)
・ 国および地域レベルの業界団体によるイニシアチブ、たとえば、ニュージーランド持続可能開発事業者協議会(New Zealand Business Council for Sustainable Development)、台湾持続可能開発事業者協議会(Taiwan Business Council for Sustainable Development)、温室効果ガス削減事業者協会(Association des entreprises pour la reduction(eの頭に´) des gaz aeffet(aの頭に`) de serre, AERES)
・ GHG取引制度、たとえば、英国排出量取引制度(UK ETS)、シカゴ・クライメイト・エクスチェンジ(CCX)、EU温室効果ガス排出量取引制度(EU ETS)
・ 様々な国際的な業界団体−たとえば、国際アルミニウム協会(International Aluminum Institute)、森林・紙協会国際委員会(International Council of Forest and Paper Associations, ICFPA)、国際鉄鋼協会(International Iron and Steel Institute)、WBCSDセメント持続可能性イニシアチブ(WBCSD Cement Sustainability Initiative)および国際石油産業環境保護協会(International Petroleum Industry Environmental Conservation Association, IPIECA)−によって開発された特定の産業セクター専用のプロトコル
GHG対策制度はその制度固有の排出量算定・報告の要求事項を設けていることが多いため、事業者は、インベントリの作成にとりかかる前に、関連する制度を必ず確認して追加的な要求事項がないかどうかを確かめるべきである。
GHG算定ツール
 本書で提供される基準とガイダンスを補足するため、GHGプロトコルイニシアチブのウェブサイト(www.ghgprotocol.org)で、いくつかのセクター横断算定ツールおよび特定産業セクター専用算定ツールを提供している。それには、小規模な事務活動中心の組織のためのガイダンスも含まれる(算定ツールの詳細については第6章を参照)。これらのツールは、特定の排出源や産業からのGHG排出量の算定を助けるステップバイステップのガイダンスと電子ワークシートを提供するものであり、気候変動政府間パネル(IPCC)が国レベルの排出量算定のために提案したツールとも整合する(IPCC, 1996)。これらのツールは、専門外の事業者スタッフに対してもユーザフレンドリなように、しかも全社レベルの排出量データの正確性を増すように改善されている。GHG算定ツールは、多くの事業者、組織および専門家による徹底的なレビューを通じての協力のおかげで、最新の「ベストプラクティス」を具現化したものになっていると考えることができる。
「GHGプロトコル事業者排出量算定基準」に準拠した報告
 GHGプロトコルイニシアチブは、GHGインベントリの作成経験があるか否かにかかわらずすべての事業者にこの「GHGプロトコル事業者排出量算定基準」の利用を奨励する。基準(standards)を含む章では、「GHGプロトコル事業者排出量算定基準」に準拠したGHGインベントリの作成と報告には何が要求されるのかを明らかにするために、「shall」(…なければならない)という語を用いている。これは、第一版の当初の意図から逸脱することなく、基準の適用の一貫性とその結果として公表される情報の一貫性を高めることを意図したためである。それはまた、(検証を受けるという)追加的なステップをとることに関心ある事業者にとっては、検証可能な基準を提供するという利点も持っている。
第一版からの主な変更点の概要
 この改訂版は、追加的なガイダンス、ケーススタディおよび付録を含んでいる。また、GHG目標の設定に関する新しいガイダンスを収めた章も加えられた。これは、インベントリを作成した後、削減目標の設定という新しいステップをとろうとした数多くの事業者からの要請に応えたものである。さらに、購入電力からの間接排出量の算定および固定化された大気中炭素の算定に関する付録も加えられた。
 個々の章に関する変更は次の通りである。
・ 第1章 原則の表現に軽微な変更が加えられた。
・ 第2章 活動境界に関する目的についての情報を最新化し統合した。
・ 第3章 支配力基準と出資比率基準の両方を使って排出量の報告範囲を決定することが望ましいことに変わりないものの、事業者は適切ないずれか一方のみの基準を使って報告してもよいこととなった。これは、必ずしもすべての事業者が報告の目的を達成するために両方の情報を必要とするわけでないという事実を反映したものである。支配力の判定に関する新しいガイダンスが提供された。報告の目的上範囲に含むべき組織の判断基準である出資比率の最小値は削除され、重要性に応じて排出量を報告できるようにした。
・ 第4章 スコープ2の定義が再販売用購入電力からの排出量を除外するよう変更された。この排出量はスコープ3に含めるようになった。これによって、複数の事業者が同スコープ内で同じ排出を二重計上することが回避できる。送配電ロスに伴うGHG排出量の算定に関する新しいガイダンスが加えられた。また、スコープ3カテゴリーおよびリースに関するガイダンスが追加された。
・ 第5章 比例調整の推奨が削除された。これは2度の調整の必要を回避するためである。また、算定方法の変更に伴う基準年排出量の調整に関してさらなるガイダンスが追加された。
・ 第6章 排出係数の選択に関するガイダンスが改善された。
・ 第7章 インベントリの質の管理システムの導入に関するガイダンスおよび不確実性評価の適用と限界に関するガイダンスが拡張された。
・ 第8章 プロジェクトによる削減量およびオフセットの算定と報告に関するガイダンスが追加された。これは、「GHGプロトコル事業者排出量算定基準」と「GHGプロトコルプロジェクト排出削減量算定基準」との関係を明らかにするためである。
・ 第9章 必須の報告事項と任意の報告事項を明確にした。
・ 第10章 重要性および重大な不整合の概念に関するガイダンスが拡張された。
・ 第11章 目標の設定と進捗の確認・報告のステップに関する章として追加された。
FAQ
 よく質問される項目のリストを関連する章の参照指示と共に以下に掲げる。
・ 温室効果ガス排出量の算定と報告に当たっては、何を考えるべきか。
→ 第2章
・ 複雑な事業者構造や共同出資事業をどのように扱うのか。
→ 第3章
・ 直接排出と間接排出の違いは何か。また、それらの関連性は何か。
→ 第4章
・ どの間接排出を報告すべきか。
→ 第4章
・ アウトソース(外部委託)およびリースされた活動についてどう算定し報告すべきか。
→ 第4章
・ 基準年とは何か。なぜ基準年を必要とするのか。
→ 第5章
・ 自社の温室効果ガス排出量が会社の買収や部門売却で変化した場合、どのように算定するのか。
→ 第5章
・ 自社の温室効果ガス排出源をどのようにして特定するのか。
→ 第6章
・ 温室効果ガス排出量の算定に役立つツールとしてはどのようなものがあるか。
→ 第6章
・ 自社の施設について、どのようなデータ収集活動およびデータ管理の問題に取り組む必要があるか。
→ 第6章
・ 自社の温室効果ガス排出に関する情報の質および信頼性を決定するものは何か。
→ 第7章
・ 売却または購入したGHGオフセットをどのように算定に反映させ、報告すべきか。
→ 第8章
・ GHG排出量の公表には、どのような情報を含めるべきか。
→ 第9章
・ インベントリデータについて外部検証を受けるためには、どのようなデータを提供しなければならないか。
→ 第10章
・ 排出量目標の設定には何が必要であるか、また、設定した目標に対する達成度をどのように報告すべきか。
→ 第11章


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