市民エネルギー調査会(2004):持続可能なエネルギー社会を目指して−エネルギー・環境・経済問題への未来シナリオ−.市民エネルギー調査会、33p.


本報告書の要約

 本報告書は、エネルギーと温暖化の分野で政策提言を行っている環境NGOメンバーと専門家が集まるプロジェクトである「市民エネルギー調査会」の活動報告として発行するものである。なお、本プロジェクトの事務局は環境エネルギー政策研究所(ISEP)に置かれ、ISEP がプロジェクト全体の調整・取りまとめを行っている。
 この報告書は、環境やエネルギーに関するさまざまな分野で活動する政策決定者・行政・企業・研究者・マスコミ・市民団体などの方々に読んでいただき、環境的にも経済的にも持続可能な社会を実現するために、すべての人に開かれた議論の手がかりとして役立てていただくことを期待している。
 「市民エネルギー調査会」の活動は、2003年10月より、2004年7月まで、合計13回の全体メンバーによる検討会(準備会合を含む)と、専門分野ごとのサブミーティングを経て本報告書に取りまとめられ、2004年6月8日に最初のプレスリリースを行い、社会的に関心を集めている。
 本報告書の第1章では、現状のエネルギー政策に内包される問題点と、私たちの立場や問題意識、このプロジェクトやそのアプローチの特徴を説明する。すなわち、政府(経済産業省資源エネルギー庁)の総合資源エネルギー調査会が策定するエネルギー需給展望(長期エネルギー需給見通し)に対して、問題提起と代替提案を行う必要があるという問題意識をベースに、持続可能な代替シナリオを提示するという趣旨である。
 次に第2章では、現状の政府側の示すエネルギー政策の延長では、気候変動・核廃棄物の環境リスクから、環境面での持続可能性に欠ける(エネルギー起源CO2排出量:2010年で1990年比9%増)とともに、財政赤字(政府累積債務の対GDP 比:1.0倍(2000年)→4.5倍(2030年))、失業率(4.7%(2000年)→12.3%(2030年))のさらなる増大など、経済・社会的にも持続性が乏しいことを、定量的なシミュレーションを用いて示す。これを我々は「ゆでガエル」シナリオ(シナリオA)と命名した。同時に政府・総合資源エネルギー調査会のエネルギー需給展望では、シナリオの前提となるマクロ経済指標の想定が十分に公開されていないことも指摘している。
 これを受けて第3章で、破綻を避ける2つの代替シナリオを提起する。1つは「いきカエル」シナリオ、もう1つは「きりカエル」シナリオである。
 「いきカエル」シナリオ(シナリオB)は、現状の社会・経済システムを前提としつつ、環境産業の振興など、2010年と2030年を目標年次とした政策により、国際的な貢献、雇用と経済の回復、CO2の削減を進め、また最終的に脱原発を目指す。その結果、決して十分ではないが、「ゆでガエル」シナリオに比較すると、環境・経済の両面で改善が見られる。すなわち、エネルギー起源CO2排出量は、2010年に1990年比±0%となって京都議定書の目標を達成し、2030年の失業率は8.3%(「ゆでガエル」シナリオは12.3%)、同じく政府累積債務の対GDP比は3.4倍(同4.5倍)となる。
 一方で「きりカエル」シナリオは、現在GDPを主要な指標として評価される「経済」のあり方や、「消費」を基本とする私たちの働き方・暮らし方そのものの転換を前提とした、より革新的な方向を提示する。このため「きりカエル」シナリオでは、脱物質化が進み、環境面での改善はより促進される。すなわち2030年のエネルギー起源CO2排出量は1990年比42%減(「いきカエル」シナリオは9%減)となる。一方2030年のGDPの大きさは1985年程度となるが、新たな価値基準でみた生活の質の向上が達成される。
 第4章では、3つのシナリオにおける、エネルギー、環境、経済に関する主要な指標、すなわちエネルギー起源CO2排出量、一次エネルギー供給量及びそのエネルギー源別構成、最終エネルギー需要及びその分野別構成、経済指標(GDP)などを比較する。またその際に、シミュレーションの前提となる外国為替レート・原油価格・人口なども併せて示す。
 また第5章では、主な諸指標について、政府の総合資源エネルギー調査会との比較を整理している。
 第6章では、本報告書で得られた知見から、2つの代替シナリオの整理を行い、「市民エネルギー調査会」の提言のポイントをまとめている。
 巻末の「総合資源エネルギー調査会・市民エネルギー調査会比較表」では、両者の各ケース・各シナリオのエネルギーや経済の数値を表の形で整理している。
 冒頭にも述べたように、この報告書は、環境的にも経済的にも持続可能な社会を実現するために、すべての人に開かれた建設的な議論のために役立てていただくことを期待している。各方面の方々からのご意見・ご指摘を歓迎する。

2004 年8 月1 日

市民エネルギー調査会 参加者一同』

目 次
第1章 「市民エネルギー調査会」とは
 1)市民エネルギー調査会の問題意識とアプローチ
 2)市民エネルギー調査会の参加者・協力者など
第2章 現状延長シナリオ(シナリオA)
第3章 破綻を避ける2つのシナリオ
 3.1 シナリオとケース分けの違い
 3.2 シナリオを検討するにあたって考えるべき点
 3.3 「いきカエル」シナリオ(シナリオB)
  3.3.1 「いきカエル」シナリオの論理的背景
   1)ポーター仮説
   2)学習曲線
  3.3.2 「いきカエル」シナリオの考え方と想定
   1)「いきカエル」シナリオの考え方
   2)「いきカエル」シナリオの想定
 3.4 「きりカエル」シナリオ(シナリオC)
  1)シナリオの含意
  2)私たちは豊かになってきたか
第4章 3つのシナリオの比較
 4.1 エネルギー関連
  1)エネルギー起源CO2排出量
  2)一次エネルギー供給
  3)最終エネルギー消費
  4)発電構成
  5)原発と自然エネルギー・新エネルギー
  6)各部門のエネルギーの状況
 4.2 マクロ経済・産業構造関連
  1)海外要因
  2)人口と経済成長率
  3)主要物資生産量
第5章 総合エネ調との比較
第6章 市民エネ調が問いかけること
(注)
巻末表 総合資源エネルギー調査会・市民エネルギー調査会 比較表

図表25 一次エネルギー供給

参考:2000年実績・計22,396PJ(石油等50%、石炭19%、天然ガス14%、原子力13%、水力4%、新エネ1%)
※市民エネ調では統計データの連続性を重視し旧エネルギーバランス表を使用している。
※ここでの新エネは政府の新エネと同じ範疇としている(自然エネルギー(太陽・風力など)に、ごみ発電・炉頂圧発電などを加え、地熱・中小水力を含まない)。

図表26 最終エネルギー消費

参考:2000年実績・計15,729PJ(家庭14%、業務13%、産業47%、運輸24%、非エネルギー2%)
※市民エネ調では統計データの連続性を重視し旧エネルギーバランス表を使用している。

〔市民エネルギー調査会(2004):持続可能なエネルギー社会を目指して−エネルギー・環境・経済問題への未来シナリオ−.市民エネルギー調査会、33p.から〕


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