総合資源エネルギー調査会需給部会(2005):2030年のエネルギー需給展望.総合資源エネルギー調査会需給部会、平成17年3月、209+11p.

※この経済産業省による報告書はリンク切れですが、Selectra(フランス発祥の電気・ガス料金比較サービスの会社)の山田 大(ヤマダ ヒロシ)氏のご厚意で、復元ファイルを教えてもらいましたので、こちら(224p)をご参照ください(2019/2/20)。


目 次

序章 2030年エネルギー需給展望の検討の視座
(国民生活及び経済活動とエネルギー)

 私たちの生活や経済活動は、エネルギー無しには語れない。人類は、薪を燃やして暖を取り、煮炊きを行った太古の昔からエネルギーを使ってきたが、18世紀の産業革命以後、私たちのエネルギー利用は急速に拡大してきた。
 一方で、国際的な政治経済社会情勢等がエネルギー情勢、ひいては国民の生活・経済活動にもたらす影響は極めて大きい。1973年に我が国が経験した第一次石油危機時には、エネルギー供給の主役を既に石炭から石油へと転換していた我が国経済は、原油価格の高騰と供給削減に直面、高度経済成長期の終焉を迎えた。国民生活においても、生活必需品の価格高騰と品不足感のため、パニック的状況を現出した。こうした第一次石油危機の経験は、国際的な政治情勢が我が国のエネルギー構造や国民生活・経済活動に大きな影響を与えるものであることを改めて認識させた。
 国際化や情報化、モータリゼーションの進展等とも相まって、私たちの生活・経済活動が量的にも質的にもエネルギーへの依存を更に高めており、内外の経済社会構造とエネルギーとはより密接に関連するようになってきている。

(エネルギー政策に関する3つの課題)
 国民生活及び国民経済の基盤であるエネルギーをめぐっては、「エネルギー政策基本法」及びこれを受けて策定された「エネルギー基本計画」において、「安定供給の確保」、「環境との適合」、及びこれらを十分に考慮した上での「市場原理の活用」、という3つの基本的な課題が掲げられている。
 これら3つの基本的な課題には、相互にトレードオフ関係となる部分があることは否定できず、我が国の置かれた状況に即して、3つの基本的な課題について、いかにバランスをとるかが今日のエネルギー政策の要諦である。そのためには、将来のエネルギー需給構造がどうなるかを想定したうえで政策展開を図る必要があり、「エネルギー基本計画」の中でも、「将来のエネルギー需給構成についての情報提供を国民に対して行うとともに、施策の検討と評価の基礎とするため」、「定量的な見通しを示すこととする」とされている。
 以上を踏まえ、今般、定量的に将来のエネルギー需給構造を見通すとともに、当該見通しを踏まえて、中長期的なエネルギー戦略の在り方を検討する。

(エネルギー需給展望の検討に必要な時間軸)
 エネルギーの歴史を振り返ると、薪などのバイオマスが石炭に取って変わられたのが20 世紀初頭、その石炭が原油に取って変わられたのが20世紀後半であり、本来エネルギーの主役は長期的に変遷する。一方で、エネルギーの変遷に対応するにはやはり長い準備期間を要する。
 例えば、原油や天然ガスの可採埋蔵年数は数十年と言われているが、現在進められている様々な省エネルギー・新エネルギーの技術開発も、それが実用化され普及に至るまでに数十年以上の時間を要するものも多い。インフラ整備の側面を見ても、エネルギー関連では大規模な投資と長い懐妊期間を伴うものが多く、例えば、原子力発電所の新規建設では、事業者の意思決定、地元との調整、建設期間等リードタイムが相当長期にわたるケースがある。エネルギーと密接に関連する地球温暖化問題は2100年における温暖化の程度を念頭に置きつつ現在の枠組みの議論がなされているところである。
 エネルギー政策を的確に検討し実施していくためには、長期的な視点を持って目前の課題に対応する、いわば「視線は高く、地に足をつける」戦略が必要である。
 もっとも、政策立案・展開の基礎となるエネルギー需給構造の将来像については、ある程度確からしいものが求められる。見通す期間が長期になれば不確実性が高まることを勘案すると、現時点においては概ね四半世紀後、2030年前頃までを見通すことが妥当であろう。

(国際環境の将来像を巨視的に捉える必要性)
 我が国のエネルギー構造は国際経済社会と密接に関連しているが、それでは、2030年頃の世界は一体どうなっているだろうか。
 中長期的には、中国やインドを始めとするアジア諸国の経済成長などに伴い、世界の経済的、政治的、軍事的パワーバランスは大きく変化するだろう。こうした中、エネルギー需要はアジア地域を中心として世界全体で大幅に増大すると思われる。こうした増大するエネルギー需要を満たすエネルギー源は一体何になるのだろうか。
 政治情勢を見ると、米国とソ連とを中心とする東西対立の構図によって一種の安定が図られてきた冷戦時代が終結した後、新たな安定に向けた模索が続く中、様々な地域的紛争が生じている。特に、中東地域においては、近時、情勢が複雑化・緊迫化してきているが、こうした傾向は安定化していくのだろうか。中国やインドなどの超大国化は世界の政治情勢にどういった変化をもたらすのだろうか。
 国際商品であり、かつ、国際政治の格好の対象であるエネルギーについて2030年を見通す際には、こういった不確実性のある世界の将来を巨視的な視点で捉える必要がある。

(見直される諸外国のエネルギー政策)
 エネルギーは国際政治と密接に結び付いているという意味で、まさに国家戦略そのものであり、将来に向けた国際環境の変化を見越して、21世紀に入ってから諸外国においてもエネルギー環境政策の大幅な見直しが行われつつある。
 米国においては、経済成長や人口増加などを背景としてエネルギー需要の拡大が予想されるが、それを賄う域内での供給は十分ではなく、今後エネルギー自給率の低下が予想されている。そうした中、9・11 テロ、ベネズエラから原油供給途絶などの経験も踏まえ、エネルギー・セキュリティに軸足を置いた「国家エネルギー政策」(2001年)や2025年までの具体的なアクション・プランである「戦略計画」(2003年)が策定されている。
 欧州委員会は、今後20〜30年のEU のエネルギー政策に関する抜本的見直しの基礎とするため、2000年に「グリーンペーパー」を発表し、EU域内でのエネルギー需要が拡大する中、域内でのエネルギー資源減少や、原子力の伸びが大きく見込めない情勢にかんがみて、需要面での省エネルギー対策と供給面での再生可能エネルギー拡大を重視した政策を打ち出している。
 急速な経済成長を続けている中国は、既に国内の原油生産の頭打ちと石油輸入依存度の上昇や電力需要の拡大に直面する中、エネルギー需要の更なる拡大を見通して、2001年にエネルギー安定供給の重要性を強く意識したエネルギーの中期戦略を含む第10次五カ年計画を発表している。
 ロシアは、エネルギー資源を武器に国際社会での地位向上を図るため、エネルギー輸出拠点化を指向し、2003年に「2020年までのエネルギー戦略」を採択した。

(我が国の経済社会構造とエネルギー需給構造の変化)
 1970年代の石油危機は我が国の経済社会構造及びエネルギー需給構造に大きな変化をもたらした。
 エネルギー供給面では、技術進歩に裏打ちされて新しい革新的なエネルギーとしての原子力や液化天然ガス(LNG)の導入が大きく進展した。
 他方、需要面では、各分野で省エネルギーが大きく進み、GDP 当たりの一次エネルギー供給量で評価すると、先進工業国の中で最も高いエネルギー効率を達成した。
 エネルギー分野における制度改正や技術開発等を背景として、需要家ニーズに対応した市場競争も進展しつつある。
 それでは、今後の我が国の経済社会構造はどのようになるのだろうか。
 日本の総人口は2006年頃をピークに減少に転じ、高齢化は大幅に進展する見込みである。産業構造については、経済の成熟化や少子高齢化の影響もあり、経済のサービス化や高付加価値化経済が2030年に向けて更に進むことが予想される。また、都市化やIT 化の進展、循環型社会の形成といった社会構造の変化が継続することも見込まれる。さらに、国民
意識やライフスタイルも大きな変化を遂げ、快適性・利便性を追求する反面、環境意識の高まりやスロー・ライフ意識の広がりなども見られるだろう。こうした経済社会構造の変化は、エネルギー需給構造にも大きな変化をもたらすものと思われる。

(幅広い視点に立ったエネルギー需給展望の必要性)
 以上のような認識に立ち、内外の経済社会動向の変化や将来の不確実性を十分に踏まえ、2030年頃を念頭に我が国のエネルギー需給構造を見通すとともに、エネルギー戦略の検討を行うことが、今求められている。
 なお、その際、我が国の温室効果ガスの約9割がエネルギー起源であることにかんがみ、2030年に向けた通過点としての京都議定書の削減約束についても視野に入れて検討する必要があろう。
 以下では、第1部において2030年に向けたエネルギー需給構造の見通しについて検討し、第2部において当該見通しを踏まえた中長期的なエネルギー戦略の在り方について検討する。』

第1部 2030年のエネルギー需給見通し

はじめに
第1章 2030年の経済社会とエネルギー需給構造

 第1節 国際経済社会とエネルギー需給構造の将来像
    1.国際経済の将来像
    2.エネルギー需給構造
    3.環境制約の増大
    4.技術の胎動(21世紀の新潮流)
 第2節 我が国の2030年における姿とエネルギー需給構造
    1.人口構造の変化
    2.経済・産業構造の変化
    3.ライフスタイルと社会構造の変化
 第3節 2030年に向けた複数の将来像と道筋
   1.将来像と道筋を考えるに当たって
   2.2030年に向けて我が国の歩む道筋
第2章 長期エネルギー需給見通し
 第1節 2030年エネルギー需給見通し
   1.2030年見通しの基本的考え方
   2.各ケースの設定と試算結果
 第2節 2010年エネルギー需給見通し
   1.2010年見通しの基本的考え方
   2.各ケースの考え方
   3.マクロフレームの見通し
   4.部門別の動向と各種対策効果の評価
   5.エネルギー需給構成及びCO2 排出量の見通し

第2部 2030年に向けた中長期的なエネルギー戦略の在り方

第1章 エネルギー需給見通しを踏まえた4つの戦略

   1.アジアのエネルギー需要増加をにらんだ国際エネルギー戦略の確立
   2.国民や産業界の省エネルギー・環境対応努力の好循環の実
   3.エネルギー供給の分散と多様化による変化への対応力強
   4.これまでのエネルギー産業の業態の垣根を超えた柔軟で強靱なエネルギー供給システムの実現
第2章 中長期的エネルギー戦略実現に当たっての留意事項
   1.技術開発の戦略展開
   2.エネルギー関係特別会計の活用
   3.エネルギーベストミックスに係る今後の課題
   4.統計の整備
第3章 京都議定書目標達成計画の策定に向けて
   1.2010年エネルギー需給見通しの評価
   2.京都議定書目標達成計画策定に向けた基本的考え方
   3.対策強化の内容
   4.追加対策の評価

参考資料1 各ケースのエネルギー需給構成一覧
参考資料2 エネルギー需給モデルの基本構造
<主要参考文献>


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