経済産業省(2006):新・国家エネルギー戦略.経済産業省、2006年5月、65p.


新・国家エネルギー戦略について

 原油をはじめとするエネルギー資源の需給が中長期的に逼迫するという懸念が高まるとともに、化石燃料由来の温室効果ガスの排出が増大する中で、世界のエネルギー情勢が大きく変化してきています。
 こうした中で、世界の国々や地域では、自らのエネルギー資源の安定的な確保や環境問題への対応に迫られており、それぞれにエネルギー戦略の練り直しを行っています。
 我が国はエネルギー資源の96%を海外に依存しており、こうした世界情勢と無縁ではいられません。我が国のエネルギーに関する課題を担当する経済産業省として、平成18年5月、こうした世界の情勢をにらみつつ、当面の我が国のエネルギー戦略について、取りまとめました。
 この国家戦略に基づいて、様々な政策を実施してまいります。
 
新・国家エネルギー戦略について(PDF形式:27KB)
新・国家エネルギー戦略の骨子(PDF形式:624KB)
新・国家エネルギー戦略(PDF形式:1,868KB)
新・国家エネルギー戦略要約版(PDF形式:1,485KB)


経済産業省による『新・国家エネルギー戦略について』の中の『新・国家エネルギー戦略の骨子』から〕

目次

T.現状認識と課題

 1.現状に対する基本認識
  (1)エネルギー需給の構造変化
    @需要側の構造変化
    A供給側の構造変化
    B国際的な枠組みを巡る議論の動向
     i)気候変動問題に関する動向
     ii)原子力を巡る国際的動向
    C国内的な環境変化
  (2)政情不安等の市場混乱要因及び混乱増幅要因の多様化
  (3)各国で進むエネルギー戦略の再構築

 2.新・国家エネルギー戦略の構築
  (1)戦略によって実現すを目指す目標
    @国民に信頼されるエネルギー安全保障の確立
     i)需給逼迫状況と高水準の石油価格の長期化に伴う影響拡大の可能性
     ii)中長期的な石油・天然ガスの供給確保に係る不安定性
     iii)エネルギー市場を巡るリスクの多様化・多層化の進行
    Aエネルギー問題と環境問題の一体的解決による持続可能な成長基盤の確立
    Bアジア・世界のエネルギー問題克服への積極的貢献
  (2)戦略策定に当たっての基本的視点
    @世界最先端のエネルギー需給構造の実現
    A資源外交、エネルギー環境協力の総合的強化
    B緊急時対応策の充実
  (3)戦略実施に際しての留意事項
  (4)数値目標の設定
    @省エネルギー目標
    A石油依存度低減目標
    B運輸部門における石油依存度低減目標
    C原子力発電目標
    D海外での資源開発目標

U.実現に向けた取組

 1.戦略を構成する具体的なプログラムと位置付け
  (1)世界最先端のエネルギー需給構造の実現
  (2)資源外交、エネルギー環境協力の総合的強化
  (3)緊急時対応策の充実
  (4)共通的な課題

 2.省エネルギーフロントランナー計画
  (1)考え方
  (2)目標
  (3)具体的取組
    @省エネルギー技術戦略の構築
    Aセクター別ベンチマークアプローチの導入と初期需要の積極的創出
     i)産業部門
     ii)住宅・ビル部門
     iii)運輸部門
     iv)横断的取組
    B省エネ投資が市場(投資家等)から評価される仕組みの確立(省エネIR等)
     i)省エネ投資の事業価値評価の整備
     ii)セクター別ベンチマーク及び評価制度の国際的整備
    C省エネ型都市・地域の構築
  (参考:2030年に向け、実現が期待される技術例とそのコンセプトグループ)
   【超燃焼システム技術】
   【時空を超えたエネルギー利用技術】
   【省エネ型情報生活空間創生技術】
   【先進交通社会確立技術】
   【次世代省エネデバイス技術】

 3.運輸エネルギーの次世代化計画
  (1)考え方
  (2)目標
  (3)具体的取組
    @自動車燃費の着実な改善
     i)自動車の燃費改善を促す燃費基準の策定
     ii)レギュラーガソリンのオクタン価向上
    A燃料多様化に向けた環境整備
     i)バイオマス由来燃料供給インフラの整備
     ii)ディーゼルシフトの推進
     iii)バイオマス由来燃料及びGTLの一層の活用のためのインフラ整備
    Bバイオマス由来燃料、GTL等新燃料の供給確保
     i)バイオマス由来燃料の供給促進・経済性向上
     ii)次世代燃料に関する技術開発促進
    C電気・燃料電池自動車等の開発・普及促進
     i)電気・燃料電池自動車等の普及促進策
     ii)「新世代自動車」向け電池に関する集中的な技術開発の実施
     iii)燃料電池自動車に関する技術開発の推進

 4.新エネルギーイノベーション計画
  (1)考え方
  (2)目標
  (3)具体的取組
    @成長ステージに応じた導入支援措置による「需要」と「供給」の拡大
     i)普及期に移行しつつある新エネルギーの市場拡大
     ii)離陸準備段階にある新エネルギーの中長期的な成長支援
    A周辺関連産業や地域との融合を通じた厚みのある「産業構造」の形成
     i)太陽光発電産業群の形成
     ii)燃料電池・蓄電池等の戦略的分野における関連産業群の育成
     iii)風力、バイオマスなどを活用した地域ビジネスの育成
     iv)次世代エネルギーパークの整備
    B革新的なエネルギー高度利用の促進
    C新エネルギー・ベンチャービジネスに対する支援の拡大

 5.原子力立国計画
  (1)考え方
  (2)目標
  (3)具体的取組

    @電力自由化環境下での原子力発電の新・増設、既設炉建て替えの実現
    A現在の軽水炉を前提とした核燃料サイクルの早期確立
     i)プルサーマルの推進等
     ii)技術開発及び新技術の導入推進
    B高速増殖炉サイクルの早期実用化
     i)高速増殖炉サイクル実用化に向けた移行シナリオの早期策定
     ii)移行シナリオにおける国の役割の明確化
     iii)戦略的な国際協力の推進
    C原子力発電拡大と核不拡散の両立に向けた国際的な枠組作りへの積極的関与
    D次世代を支える技術開発、人材育成
    E我が国原子力産業の国際展開支援
    F放射性廃棄物対策の着実な推進
     i)最終処分地の候補地選定に向けた取組の強化
     ii)TRU廃棄物の地層処分事業の制度化
     iii)放射性廃棄物の安全規制制度の整備
     iv)地層処分技術に関する技術開発工程表の策定と技術開発の推進
     v)研究開発等の活動に起因する低レベル放射性廃棄物の処分の推進
    G品質保証の充実・強化による安全水準高度化のための検査制度の見直し
    H高経年化対策、耐震安全対策等の充実
    I国と地方の信頼関係の強化等

 6.総合資源確保戦略
  (1)考え方
  (2)目標
  (3)具体的取組

    @資源確保に向けた戦略的・総合的な取組の強化
     i)資源国との総合的な関係強化
     ii)石油・天然ガス開発企業に対する支援の強化
     iii)供給源の多様化
     iv)資源確保指針策定と政府・関係機関一体となった取組の推進
     v)エネルギー市場の透明化・安定化の推進
     vi)ウラン資源開発及びバイオエタノールの開発輸入に係る支援の強化
    A戦略的な資源技術開発の推進
    B天然ガス調達戦略の強化
    C化石エネルギーのクリーンな利用の開拓
    D鉱物資源戦略の強化
     i)ウラン資源をはじめとする鉱物資源の探鉱開発及び関連投資活動強化
     ii)鉱物資源に関するリサイクル促進・代替材料開発等総合的な対策の強化

 7.アジア・エネルギー環境協力戦略
  (1)考え方
  (2)目標
  (3)具体的取組

    @「アジア・省エネルギー・プログラム」に基づく省エネルギーの促進
     i)二国間政策対話の実施とアクションプランの策定
     ii)アジア諸国の制度的取組への支援
     iii)民生・運輸・電力部門の協力の実施
     iv)我が国企業によるビジネスベースの省エネ機器・設備の普及に向けた支援
     v)国際機関等との連携、政府及び関係機関の連携
     vi)アジア太平洋パートナーシップなど国際的枠組みの積極的活用
    Aアジアにおける新エネルギー協力
     i)アジア諸国の制度的取組への支援
     ii)技術開発・実証開発を通じた導入支援
     iii)事業活動支援
    Bアジアにおける石炭のクリーン利用、生産・保安技術の普及
     i)石炭のクリーン利用技術の普及
     ii)石炭液化技術に関する協力
     iii)石炭の生産・保安技術の普及
     iv)二国間政策対話の実施、国際的枠組みの活用
    Cアジアにおける備蓄制度の構築
     i)緊急時対応体制整備に向けたノウハウ・制度面での協力
     ii)緊急時融通制度等地域的枠組みの構築
    Dアジアにおける原子力に関する地域協力の推進
     i)原子力安全確保のための地域的協力枠組みの創設
     ii)原子力の平和利用推進に関する地域協力の推進

 8.緊急時対応の強化
  (1)考え方
  (2)目標
  (3)具体的取組

    @製品備蓄の導入をはじめとした石油備蓄制度の強化
    A天然ガスに関する緊急時対応体制の整備
    B危機管理におけるエネルギー源横断的な連携強化

 9.エネルギー技術戦略の策定
  (1)考え方
  (2)目標
  (3)具体的取組

    @エネルギー技術戦略の提示
    Aエネルギー関連技術開発に対する支援の強化

 10.「新・国家エネルギー戦略」の実現に向けて
  (1)8つのプログラムに共通する課題
    @強い企業の形成促進
    A予算、税などの政策資源の効率的かつ効果的な活用
    Bエネルギーに関する広聴・広報やエネルギー教育の実践
  (2)おわりに


T.現状認識と課題

 1.現状に対する基本認識
  (1)エネルギー需給の構造変化
   国際エネルギー市場は、石油ショック以降の推移、今後30年間の展望を踏まえれば、需給両面の様々な要因から大きな構造変化を迎えていると認識される。
 現在の高水準の原油価格は、国際エネルギー市場の構造的な需給逼迫状況を踏まえると、中長期的に継続する可能性が高い。

    @需要側の構造変化
   需要側においては、アジアを中心とした世界的なエネルギー需要の急増及びその長期的継続の見通し、中国、インド等による権益確保に向けた動きの活発化及びこれらの国際エネルギー市場における影響力の拡大、運輸部門における燃料需要の増大の可能性、さらに、エネルギー流通インフラや二次供給設備の不足・偏在による需要国の供給余力の不足など様々な課題が顕在化してきている。

    A供給側の構造変化
   供給側においては、産油・産ガス国におけるエネルギー資源の国家管理・外資規制強化の動き、パイプライン等の大規模流通インフラの不足、非OPEC諸国の供給力の低下・中東依存度の高まり、石油ピーク論に代表される長期的な資源制約に対する意識の高まりなどが顕在化している。

    B国際的な枠組みを巡る議論の動向
   エネルギー需給構造に大きな影響を与える気候変動問題や核不拡散に関する国際的な枠組みを巡る議論が活発化しつつあり、新たな枠組みの実現に向けて、我が国が積極的に協力・貢献することの必要性が増している。

     i)気候変動問題に関する動向
     ii)原子力を巡る国際的動向
    C国内的な環境変化
   我が国の購買力が、将来、国際エネルギー市場において相対的に低下していくことに伴うエネルギー資源の確保力の低下に対する懸念、自由化の進んだ環境下における適切な供給余力の維持等への投資の確保など、新たな課題に直面している。

  (2)政情不安等の市場混乱要因及び混乱増幅要因の多様化
   中長期的なエネルギー需給のタイト化をもたらす構造的な変化のみならず、一時的にエネルギー供給に対して支障を生じる可能性のある市場混乱要因、さらに市場の混乱を増幅させる要因も多様化しつつある。

  (3)各国で進むエネルギー戦略の再構築
   こうしたエネルギー市場を巡る情勢変化の下、世界各国においても、改めて、エネルギー問題が国家的な最重要課題の一つとして捉えられ始めている。エネルギー消費国においては、国内エネルギー需給構造の体質強化や権益確保を強化する動きなどが見られる一方で、エネルギー供給国においては、エネルギー資源の国家管理を強化するなど、それぞれの国益を踏まえた形で、エネルギー国家戦略の再構築に向けた動きが活発化している。


 2.新・国家エネルギー戦略の構築
  (1)戦略によって実現すを目指す目標
   「新・国家エネルギー戦略」においては、以下の三つを達成すべき目標とする。
○ 国民に信頼されるエネルギー安全保障の確立
○ エネルギー問題と環境問題の一体的解決による持続可能な成長基盤の確立
○ アジア・世界のエネルギー問題克服への積極的貢献

    @国民に信頼されるエネルギー安全保障の確立
   現在の石油価格の高騰は、我が国経済全般に対して、石油ショック当時のような大きな混乱をもたらしていないものの、我が国のエネルギーを取り巻く環境は、引き続きリスクの高い状態にある。
 このため、世界最先端のエネルギー需給構造の構築に向けた取組を強化すると同時に、対外的な戦略の強化によって多様化・多層化を続ける様々なリスクの発生を食い止め、併せて緊急時においても混乱を最小化する取組を強化することによって、エネルギー安全保障の確立を図る。

     i)需給逼迫状況と高水準の石油価格の長期化に伴う影響拡大の可能性
     ii)中長期的な石油・天然ガスの供給確保に係る不安定性
     iii)エネルギー市場を巡るリスクの多様化・多層化の進行
    Aエネルギー問題と環境問題の一体的解決による持続可能な成長基盤の確立
   2005年7月に英国で開催されたグレンイーグルズ・サミットでは、エネルギーと気候変動問題を一体的に対処することの重要性について、首脳レベルで共通の認識が得られ、「気候変動、クリーンエネルギー及び持続可能な開発に関するグレンイーグルズ行動計画」が合意された。この合意に見られるように、地球環境問題は、エネルギー政策と表裏一体の関係にあるとの理解が深まっている。
 エネルギー安全保障の確立に向けて、多様化・多層化するエネルギー供給制約への対応を進めるに当たっては、気候変動問題をはじめとする地球環境問題を一体的に克服していくことを視野に入れて取り組む必要がある。また、そのためには、化石燃料への依存度を可能な限り下げていく(いわゆる脱炭素化)等の技術面における中長期的な取組が不可欠である。

    Bアジア・世界のエネルギー問題克服への積極的貢献
   国際エネルギー市場は、資本市場動向を含めた世界経済全体の動向と連動している。加えて、我が国の産業・経済は、先端的な産業群を中心に、既にアジアを中心とした稠密な国際分業ネットワークに取込まれている。
 こうした実態を踏まえると、我が国におけるエネルギーの安定供給確保を図ることを第一義的目標として、国内対策、対外対策を含め総力を挙げて取り組むが、その際、こうした取組の結果、国際的な資源獲得競争を煽るようなことのないようにしなければならない。そのためには、アジア、世界経済と共生するとの基本的立場の下、我が国の持つ技術力、エネルギー問題に取り組んできた経験などを国際的な場で活かしていくことにより、アジア、世界とともに歩み、課題を克服し、発展のための基盤を形成していくとの地球レベルの視野に立った目標が、「新・国家エネルギー戦略」の重要な基本姿勢とならなければならない。

  (2)戦略策定に当たっての基本的視点
   「新・国家エネルギー戦略」における目標達成の基本的視点を以下の三点に置く。
○ 世界最先端のエネルギー需給構造の実現
○ 資源外交、エネルギー環境協力の総合的強化
○ 緊急時対応策の充実

    @世界最先端のエネルギー需給構造の実現
   エネルギー資源に乏しい一方、資源消費大国である我が国にとって、多様化・多層化を続けるエネルギー供給上のリスクに対応していくための最も確実な対策は、エネルギーの利用効率の向上、エネルギー源の多様化・分散化、エネルギー供給余力の保持などにより、世界最先端のエネルギー需給構造を確立することである。
 中でも、供給安定性に優れ、発電過程においてCO2の排出のない原子力に我が国のエネルギー供給の一定比率を依存することは不可欠である。その推進に当たっては、品質保証を核とする安全の確保に万全を期すことが重要である。

    A資源外交、エネルギー環境協力の総合的強化
   構造的なエネルギー需給の逼迫をはじめとして、多様化・多層化が進むリスクに対して、この発生を食い止め、また、その影響を最小限に抑えるべく、資源外交、エネルギー環境協力の総合的強化を図ることが必要である。

    B緊急時対応策の充実
   我が国のエネルギー安全保障を抜本的に強化するためにも、緊急時対応能力の向上について再検討することが不可欠である。

  (3)戦略実施に際しての留意事項
   「新・国家エネルギー戦略」の具体的内容を策定していくに当たっては、エネルギー問題固有の特性を踏まえた対応を検討することが必要であり、戦略の実施に当たっては、以下の三点について、十分留意することが必要である。
@ 中長期にわたる軸のぶれない取組とそのための明確な数値目標の設定
   エネルギー安全保障の向上には、長期にわたる戦略性と、長期にわたって、官民が軸のぶれない取組を行うことが不可欠である。このため、明確な数値目標等を設定し、官民が目指すべき方向性を共有することが有効である。

A 世界をリードする技術力によるブレークスルー
   革新的なエネルギー技術の開発、導入に向けて、官民が一体となって取り組み、各国に先んじて次世代型のエネルギー利用社会の構築を目指す。

B 官民の戦略的連携と政府一丸となった取組体制の強化
   エネルギー安全保障は、国益に関わる国家的な課題であり、その戦略を具体化するに当たっては、官民それぞれが明確に役割分担をしつつも、体外的な局面では、官民一体となって行動し、互いにサポートしあうことが必要である。同時に、政府内においても、課題に応じて関係する機関が明確に目的を共有し、一体となった取組の強化を図ることが必要である。

  (4)数値目標の設定
   エネルギー安全保障の確立に向けて、官民あげて軸のぶれない取組を行うに当たり、官民が共有すべき長期的な方向性として、次の五つの数値目標を設定する。

    @省エネルギー目標
   今後、2030年までに更に少なくとも30%の効率改善を目指す。

    A石油依存度低減目標
   今後、2030年までに、40%を下回る水準を目指す。

    B運輸部門における石油依存度低減目標
   今後、2030年までに、80%程度とすることを目指す。

    C原子力発電目標
   2030年以降においても、発電電力量に占める原子力発電の比率を30〜40%程度以上にすることを目指す。

    D海外での資源開発目標
   今後、更に拡大し、2030年までに40%程度を目指す。


U.実現に向けた取組

 1.戦略を構成する具体的なプログラムと位置付け
   小資源国である我が国のエネルギー安全保障にとって、エネルギー供給の大宗を占める石油・天然ガス等の安定供給確保は不可欠の課題であり、政府自ら、権益獲得及び資源調達の総合的強化に向け資源外交の強化をはじめ積極的に取り組む必要がある。
 同時に、屋内的には、エネルギー利用効率の一層の向上、原子力発電の推進等エネルギー源の多様化・分散化、化石資源の有効利用の促進などの需給構造改革に、我が国の優れた技術力を活かし、官民一体となって中長期的に取り組まなければならない。
 さらには、そこで得られた知見やノウハウの海外展開を通じ、アジア、ひいては、グローバル経済全体の成長基盤の確立に貢献することも求められる。
 政府は、これらを中心とした国家的な諸課題に対して、以下に示す具体的なプログラムに積極的に取り組み、官民一体となった取組の好循環が社会全体に定着するようイニシアティブを発揮していく。

  (1)世界最先端のエネルギー需給構造の実現
   国際的なエネルギー需給の構造的な逼迫により今後も中長期的に継続することが見込まれる新たなエネルギー価格体系の下、世界最先端のエネルギー需給構造を構築する。
 具体的には、省エネルギーを徹底して推進するとともに、100%近くを石油に依存する運輸部門のエネルギーの次世代化、新エネルギーの導入拡大、供給安定性及び地球温暖化問題への対応双方に優れ、持続的な成長に不可欠な原子力発電の推進などを通じて、石油依存度の低減を含めエネルギーのベストミックス実現に取り組む。
○ 省エネルギーフロントランナー計画
○ 運輸エネルギーの次世代化計画
○ 新エネルギーイノベーション計画
○ 原子力立国計画

  (2)資源外交、エネルギー環境協力の総合的強化
   エネルギー外交の大宗を占める石油・天然ガス等の安定供給確保と、その有効利用を促進するため、総合的な資源確保戦略の強化を図るとともに、第一次石油ショック以来蓄積してきた経験とノウハウを活かし、様々な面から対外関係・国際貢献を強化し、アジアをはじめとする世界のエネルギー需給の安定に積極的に貢献する。
 なお、近年需給逼迫が激しく、産業活動全体のボトルネックとなることが懸念される金属資源の確保戦略についても総合的な強化を図る。
○ 総合資源確保戦略
○ アジア・エネルギー環境協力戦略

  (3)緊急時対応策の充実
   以上のような課題に全力で取り組みつつ、同時に、万が一、危機的事態が発生した場の備えを強化する。
○ 緊急時対応の強化

  (4)共通的な課題
   上記のような強靭な需給構造の実現、総合的な対外戦略の強化に向けた取組を通じ、エネルギー安全保障を担う強い民間企業を育成する。中でも、その取組の核の一つとなる技術については、原子力をはじめ長期の取組を要するものが多く、特に官民連携した軸のぶれない取組を必要とするため、並行して、中長期を展望した総合的なエネルギー技術戦略を策定する。
○ エネルギー技術戦略


 2.省エネルギーフロントランナー計画
  (1)考え方
   1970年代以来、官民あげて取り組んできた省エネルギーは、産業構造の転換や新たな製造技術の導入等により相当程度の成功を収めた。これまでと同様の成果を今後30年にわたりあげていくためには、産業部門はもとより、全部門において、エネルギー利用効率の向上に資する技術開発とその成果の受入を促していくことが不可欠である。
 このため、将来を展望した省エネルギー技術戦略と省エネルギーの成果を定量的に示すベンチマークの開発・普及を核に、助成措置や税制、若しくは規制等を通じた初期需要の創出促進策などを積極的に組み合わせつつ、技術革新とそれを受け入れる社会システム側の変革との好循環を確立する。
 その際、各分野(セクター)の特徴にも留意することが重要である。これまで規制や助成などによる個別対策が相当の効果を上げてきた産業部門においては、分野横断的な取組も含め革新的技術開発が重要となる。一方、民生、運輸両部門においては、省エネルギーがコスト削減効果や顧客獲得効果に直接的に結びつきにくい、実効ある対策には関心の異なる複数関係者の調整を要するといった課題の克服が必要となる。
 このため、省エネ効果に関する表示制度の充実や、省エネ投資や省エネを魅力ある付加価値に変えるビジネスモデルを積極的に創出するための支援策を充実する。さらに、中長期的には、新しい都市・地域の在り方やライフスタイルの変革に関し政府全体で検討を加速させ、新たな省エネ都市・地域、新たな省エネライフの実現に取り組む。

  (2)目標
   我が国経済は、1970年代の石油ショック以来、30%を超えるエネルギー消費効率の改善を実現してきた。今後、技術革新と社会システム変革の好循環を確立させることにより、2030年までに更に少なくとも30%のエネルギー消費効率改善を目指す。

  (3)具体的取組
   技術革新と社会システム改革の好循環を実現するような改善サイクルを社会全体に広め、定着させることを目指し、以下のような取組を展開する。

    @省エネルギー技術戦略の構築
   省エネルギー技術開発は、需要サイド、ニーズ志向の技術開発要請が強く、個々の分野における漸進・改良型の技術開発が重要となる。同時に、大きなブレークスルーを実現するためには、産官学、異なる事業分野、メーカーとユーザーなど、分野の異なる様々な主体間でそれぞれの取組の融合・組み合わせとシナジー効果が鍵となる。
 このため、異なる事業分野をまたぐテーマを設定し、様々な技術の融合・組合せを促すよう、2030年に向けた中長期の省エネルギー技術戦略及びロードマップを示すこととし、2006年度中には、その第一版を示す。また、定期的に進捗の評価と改訂作業を行うことにより、関係者間の連携を深めていくこととする。

    Aセクター別ベンチマークアプローチの導入と初期需要の積極的創出
   各事業主体がそれぞれの事業環境に応じて、最大限、エネルギー利用効率を高めていくことを促進すべく、セクター別のベンチマークアプローチの導入を強化する。具体的には、エネルギー利用効率の向上を牽引するトップランナー設備、機器、システム等の省エネ価値を市場に明示しその普及を加速化させるため、分野毎にトップランナーの省エネ性能を反映させるベンチマークを提示するとともに、それぞれの普及状況等に応じた設備投資支援など初期需要の創出に向けた支援策を充実する。
 具体的には、以下に例示するような取組から着手する。

     i)産業部門
   事業用途の設備・技術についてトップランナーの省エネ水準を明示するようなベンチマークの整備を積極的に進めていくとともに、助成制度・税制の活用などを通じたトップランナーの認知とその導入支援、ESCO事業のような省エネ促進ビジネスへの支援などを、よりきめ細かく行う。

     ii)住宅・ビル部門
   省エネ性能を、建物と、そこに組み込む省エネ機器や太陽光発電装置などの設備・機器とを総合的に捉えて計測する手法の標準化やそれに基づくベンチマークを整備し、これらを満たす住宅等の省エネ性能を可視化する表示制度の充実を図る。
 建物と設備・機器等の開発・製品化動向や普及の見通し、更には求められる施策を統合的にまとめたロードマップの提示、販売業者による住宅・ビルの省エネ性能に関する説明促進、及び省エネ性能の高い住宅・ビルへの助成制度の拡充を進める。特に、必要な断熱が施され、かつ住まい方に見合った設備・機器を備えた快適で環境に優しい住宅の実現・普及を推進する。

     iii)運輸部門
   2005年度に行われたエネルギーの使用の合理化に関する法律(省エネ法)の改正により、輸送事業者・荷主に対する省エネ基準が策定され、計画策定・報告の制度が確立したことから、まずは本制度の着実な普及・定着を目指す。また、ITの活用等により輸送事業者のエコドライブを促進する。同時に、自動車単体の効率改善として燃費基準の改定、レギュラーガソリンのオクタン価向上に向けた検討を急ぐ。

     iv)横断的取組
   民生家庭はじめ、全部門で用いられる機器、車両に対し、省エネ法に基づくトップランナー制度の拡大・充実を図る。また、省エネ機器等の販売に熱心な小売店や、省エネルギーに対する取組に熱心な企業、行政機関、教育機関、個人等に対する奨励や表彰制度等の充実を図る。

    B省エネ投資が市場(投資家等)から評価される仕組みの確立(省エネIR等)
     i)省エネ投資の事業価値評価の整備
   省エネルギーには、中長期の腰を据えた取組が必要である。企業等が景気や経営状況に過度に左右されず安定的に取り組んでいくためには、省エネ投資自体が市場(投資家等)から評価されるような事業価値評価の仕組みを整えることが必要である。
 省エネルギー技術の導入によって改善するプロセス毎の原単位改善率や省エネ設備導入率など、企業等における省エネルギーに向けた取組を可視化するための確認・評価手法を2008年までに開発する。また、評価手法の市場における効果を検証しつつ、必要に応じ、その評価手法の活用を後押しするような形で、省エネ投資を促進する助成や規制などを検討する。

     ii)セクター別ベンチマーク及び評価制度の国際的整備
   こうした枠組みを更に国際的にも広め、ひいては、地球的規模での気候変動問題の解決にも積極的に貢献していくため、各部門・分野で整備されたトップランナー基準等ベンチマークを整理し、セクター別ベンチマークの全体像として国際的に公表するとともに、これらのベンチマーク及び評価制度そのものを認定する世界共通の省エネルギー制度の確立に向けて、我が国でG8サミットが行われる2008年までに、国際的な対話の本格化を目指す。

    C省エネ型都市・地域の構築
   高温排熱の有効利用による都市・地域の省エネルギーはもとより、交通流円滑化に資する道路ネットワークの整備やIT等を活用したシステムの開発・普及、物流分野における環境負荷低減活動の推進、未利用排熱等を利用した面的なエネルギー融通の推進、さらには、地域におけるカーシェアリングの普及促進や都市における公共交通へのシフトの促進といった交通システムの在り方の見直しなど、社会システムや都市構造そのものに変革を迫るような課題について、中長期的に検討を進める。

  (参考:2030年に向け、実現が期待される技術例とそのコンセプトグループ)
   省エネルギー技術開発は、多種多様にわたる実用型・実証型の技術開発について、きめ細かくテーマを発掘し、効果的かつ効率的に研究開発を進めていくことが重要である。ただし、要素技術の融合・組合せにより更に大きな効果を生み出す省エネルギー技術開発を実現するためには、異なる事業分野をまたぐコンセプトグループを設定し、異分野間での連携を進めていくことが必要である。以下に、その例を示す。

   【超燃焼システム技術】
   製造プロセスでは、化石燃料を燃焼させて化学エネルギーを熱エネルギーに転換してから利用しているが、エネルギー価値を最大限に利用できていないことも多い。
 このようなエネルギー価値の損失を伴う燃焼をできるだけ省く、又は超高効率に利用することを「超燃焼」と捉えて、素材製造工程にプラズマ技術、マイクロ波、バイオプロセスなどを活用することにより、使用燃料を削減し、廃熱の最小化を目指した省エネルギー型の産業構造、エネルギー利用体系の実現を図る。

   【時空を超えたエネルギー利用技術】
   製造プロセスにおいて発生する余剰エネルギー(廃熱)等は、時間的・空間的な輸送が困難であることから、十分に利用されないまま排出されることも多い。
 このような制約を蓄熱効率が高い材料を用いた温熱・冷熱の蓄熱技術等により克服し、エネルギーの需要と供給のマッチングを行うことにより、エネルギーの高効率利用を図る。

   【省エネ型情報生活空間創生技術】
   民生部門では、高度情報化や豊かさを求めるライフスタイルの変化の影響などから、産業部門に比べてエネルギー消費の伸びが大きいため、機器設備などのハード面だけでなく、生活スタイルなどのソフト面と融合させた技術開発が必要になっている。
 このため、高効率の給湯、空調、コージェネレーション等の民生用機器の普及や更なる効率改善と併せて、IT技術との融合を進め、BEMS(Building Energy Management System)、HEMS(House Energy Management System)等の最適管理技術や予測評価技術等による省エネ型空間の創生を図る。

   【先進交通社会確立技術】
   ハイブリット自動車が実用化されるなど、ハード面における省エネ対策は改善が進んできているものの、運輸部門の大幅なエネルギー消費量の削減には至っていない。先進的な交通社会を確立するためには、輸送機器ハード面の技術開発を更に進めるとともに、効率的な利用を社会システムとして進めるための技術開発を併せて行っていくことが必要である。これらによりモーダルシフトなど輸送機器の利用形態の高度化を含めた先進交通社会確立を図る。

   【次世代省エネデバイス技術】
   幅広い分野において使用される省エネ型デバイスの技術開発を図ることにより、分野横断的に大きな省エネ効果の実現を図る。
 例えば、工場等のモーター、情報家電及び自動車等の産業・民生・運輸の各分野にまたがった幅広い分野において使用される半導体電力素子の技術として「パワーエレクトロニクス」がある。そのキーデバイスである「パワー半導体(電力制御変換用半導体)」に電力損失低減や高耐圧などの特性に優れたSiC(炭化ケイ素)を用いることにより効率化が進み、各分野において、大きな省エネ効果が期待される。


 3.運輸エネルギーの次世代化計画
  (1)考え方
   2005年に米国で発生したハリケーン被害がガソリン不足を招き、ひいては国際的な原油価格高騰の引き金を引いたように、ほぼ100%を石油に依存している運輸部門は、世界的に見て、エネルギー需給構造の中で最も脆弱性が高く、その需給構造の次世代化は、将来に向けた早急な対応が不可欠の課題となっている。
 しかし、現実には、運輸部門では、荷主・乗客いずれも利便性とコスト効率に対する要請が強く、利便性・熱効率ともに優れ、既に燃料供給インフラも整っている石油に依存せざるを得ない面がある。
 運輸部門におけるエネルギー需給構造改善のためには、燃費改善に向けた取組を引き続き進めるとともに、バイオマス由来燃料やGTL(ガス・トゥ・リキッド)等の新燃料を既存の石油系燃料に混合することにより運輸部門の燃料多様化を図ることが必要である。また、中長期的には、次世代内燃機関等に係る技術開発の進展を踏まえた対応や、燃料電池自動車、電気自動車等の次世代を担う自動車の実用化・普及により、運輸部門の燃料を電力、水素等に多様化していくことも必要となる。
 こうした運輸エネルギーの次世代化には、車両側における対応車両の開発・普及、燃料側における新燃料に係る技術開発や燃料供給インフラの整備等の双方からのアプローチが必要となるとともに、両業界の取組を円滑化する政府による環境整備を、三位一体で総合的に進めることが必要となる。
 このため、自動車開発・燃料供給に関する中長期的なシナリオの共有をはじめ、官民一体となった意識の共有と計画的な取組を実現するため、2030年に向けたアクションプランを策定する。

  (2)目標
   石油市場における需給逼迫などエネルギー市場の変動にも柔軟に対応でき、高効率な運輸インフラを確立するため、2030年に向け、運輸部門の石油依存度が80%程度となることを目指し、必要な環境整備を行う。

  (3)具体的取組
   エネルギー市場の変化に対し柔軟かつ強靭で、エネルギー消費効率の高い需給構造を、運輸部門に確立するため、以下の課題に対し、並行して、効果的に取り組むこととする。

    @自動車燃費の着実な改善
     i)自動車の燃費改善を促す燃費基準の策定
   ハイブリッド技術等の燃費改善技術の導入・普及等を促すべく、乗用車等の低燃費化を促す新たな燃費基準を2006年度中に策定する。また、中長期的に我が国の自動車燃費の継続的な改善を促すため、適時適切に燃費基準の策定・改定を進める。

     ii)レギュラーガソリンのオクタン価向上
   CO2排出削減や石油消費の抑制に貢献する可能性のあるレギュラーガソリンのオクタン価向上の是非について、経済性、基材の安定供給、国際的な燃料規格動向等を踏まえて検討し、2008年度中、なるべく早期に結論を得る。

    A燃料多様化に向けた環境整備
     i)バイオマス由来燃料供給インフラの整備
   バイオマス由来燃料の導入を急ぐため、バイオエタノールを原料として製造されるETBE(エチル・ターシャリーブチル・エーテル)に関するリスク評価や、バイオエタノールの活用に係る実証試験を引き続き進める。併せて、バイオマス由来燃料供給インフラの整備を進めるため、早急に、土壌汚染対策及びバイオマス由来燃料導入のために必要な給油所の地下タンク・配管等の環境・安全対策に対し、適切な支援等の措置を講ずる。

     ii)ディーゼルシフトの推進
   ディーゼル車は、ガソリン車より燃費に優れ、CO2の排出量の低減に繋がるなどの長所があるが、厳しい排出ガス規制や、国土交通環境、消費者のイメージ等から普及が低迷している。2010年代半ばを目途に一定量の供給も予想されるGTLの活用を促すためにも、需要サイドにおけるディーゼル車の普及拡大は重要である。
 このため、排出ガス規制の在り方も含め、そのエネルギー政策上の意義を見直しつつ、ガソリン車と遜色のない排出ガス性能を有するディーゼル車の普及を図る。

     iii)バイオマス由来燃料及びGTLの一層の活用のためのインフラ整備
   バイオエタノール導入量の更なる拡大のためには、バイオエタノールの安定供給や経済性の確保等の課題に留意しつつ、自動車等のインフラ面の整備が不可欠である。
 国は、自動車産業に対し、今後モデルチェンジする車種を、順次、バイオエタノールが10%程度混合されたガソリンにも対応する車とするよう、その対応を促しつつ、販売車の買い換え、中古車市場からの退出等に10年以上の期間を要することにかんがみ、2020年頃までを目途に、対応車の普及状況を勘案しつつ、既販車の安全性及び排ガス性状を確認した上で、品確法施行規則に定めるエタノールを含む含酸素化合物の混合上限規定を見直すこととする。
 さらに、バイオマス由来燃料やGTLを中長期的に一層活用していくため、各燃料の供給安定性や、環境適合性・安全性といった車両側の対応も見極めつつ、中長期的な導入促進目標や環境整備の在り方について総合的に検討を行う。

    Bバイオマス由来燃料、GTL等新燃料の供給確保
     i)バイオマス由来燃料の供給促進・経済性向上
   国内外からのバイオマス由来燃料の供給促進に向け、国産ビイオエタノール生産拡大に向けた地域の取組に対する支援、開発輸入支援の在り方の検討、バイオエタノール大規模実証事業、木材等セルロース系原料からの高効率エタノール製造技術開発等、バイオマス由来燃料の経済性向上に向けた支援策を導入する。

     ii)次世代燃料に関する技術開発促進
   我が国独自のGTL技術は、従来利用が困難であったCO2を含む天然ガスの利用を可能とするといった長所を併せ持つことから、その技術開発を一層促進する。また、GTL製造技術を応用して、BTL(バイオマス・トゥ・リキッド)、CTL(コール・トゥ・リキッド)など、次世代の液体燃料に関する技術開発を急ぐ。さらに、アジア諸国の石油依存度の低減のために、CTLに関するアジア諸国との協力を行う。

    C電気・燃料電池自動車等の開発・普及促進
     i)電気・燃料電池自動車等の普及促進策
   既に実用化が始まりつつあるハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車等について、更なる普及拡大を目指し、導入助成など、普及促進策を展開する。

     ii)「新世代自動車」向け電池に関する集中的な技術開発の実施
   エンジンにモーターと電池を組み合わせることで大幅な低燃費化を実現するハイブリッド自動車、クリーンエネルギーである電気や水素を使い、高効率なモーターを使って走行する電気自動車や燃料電池自動車といった自動車は、「新世代自動車」と位置付けられる。これら新世代自動車にとって、電池技術は欠かせぬ共通基盤技術である。このため、電池の高度化やコスト削減に繋がる電池の技術開発を、産官学で連携しつつ集中的に行う。

     iii)燃料電池自動車に関する技術開発の推進
   燃料電池自動車については、電池の高性能化に加え、燃料電池の抜本的低コスト化や耐久性・効率の更なる向上、安全・簡便・効率的かつ低コストな水素貯蔵技術の確立といった課題を解決することが必要であることから、引き続き技術開発・実証研究を実施する。


 4.新エネルギーイノベーション計画
  (1)考え方
   資源の再生可能性が高く、二酸化炭素の排出も少ない太陽光、風力などの再生可能エネルギーについて、我が国は、例えば太陽光発電の導入量が世界一となるなど、一定の実績をあげてきた。しかし、全般的には、エネルギー変換効率や設備利用率も上がらないなど競合するエネルギーと比較してコストが高く、系統連系や電力品質の確保など、事業性確保に向け未だ多くの課題が残されている。
 このため、新エネルギーのいうち、再生可能エネルギーであって、太陽光、風力、バイオマスなど特に導入を促進すべきエネルギー源を特定し、重点的に支援を行う。さらに、新たなエネルギーの貯蔵・輸送技術やバイオ技術を活かしたバイオマス由来燃料の高効率製造技術など、効率性の飛躍的向上やエネルギー源の多様化を実現するような「革新的なエネルギー高度利用技術」の開発と利用を強化する。
 再生可能エネルギーについては、周辺装置産業げの連関効果が大きいもの、地域産業との調和性が高いもの、農業との相乗効果が高いものなど、そのエネルギー源毎に、異なる特性がある。こうおした各エネルギー源の特性に着目しつつ、技術開発、実証実験といった離陸支援、モデル事業、設備導入補助等による初期需要創出、公共機関による関連設備の率先導入や電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法(RPS法)等による市場拡大支援など、普及ステージに応じた「需要」と「供給」の拡大策を推進し、市場選択を通じ我が国の実情に応じた新エネルギーや革新的なエネルギー高度利用技術(以下「新エネルギー等」という。)の導入を進める。また、ベンチャービジネスの参入促進や、周辺関連産業の育成などによって新エネルギー等の産業構造に厚みを増し、新エネルギー産業全体としての経済性の向上を図るとともに、将来を見据えた長期的な技術開発を進め、その可能性の拡大を図る。

  (2)目標
   産業としての自立を目指しつつその導入拡大を図ることによって、2030年までに、例えば以下のような方向性で普及に取り組む。
→太陽光発電に要するコストを火力発電並みとする。
→バイオマスエネルギー、風力発電による地産地消型の取組を推進し、地域におけるエネルギー自給率を引き上げる。
→自動車の新車販売の多くをハイブリッド化するとともに、電気自動車・燃料電池自動車の導入を促進する。

  (3)具体的取組
   エネルギー源毎の技術の特性に応じた新エネルギー等の導入拡大を図るため、以下のような政策を展開する。

    @成長ステージに応じた導入支援措置による「需要」と「供給」の拡大
     i)普及期に移行しつつある新エネルギーの市場拡大
   離陸期から普及期に移行しつつある、太陽光発電、風力発電、バイオマスエネルギーについては、必要に応じ助成・税制等による関連設備の導入支援を継続するとともに、公共機関における太陽光発電設備等関連設備の率先導入や、RPS法等による市場拡大を着実に進める。

     ii)離陸準備段階にある新エネルギーの中長期的な成長支援
   中長期的視野をもって新エネルギー市場を形成・拡大するため、新材料を用いた太陽電池、風力の出力変動の抑制に資する蓄電池、水素社会実現を目指した燃料電池等の革新的技術について、技術オプション間の競争を促す方向で、技術開発支援、実証試験等を進め、将来の「需要」と「供給」の芽を育てる。
 さらに、海洋エネルギー利用(波力発電、潮汐発電等)や宇宙太陽エネルギー利用(SSPS)などについても、国際的な技術開発の動向に注視しつつ、基礎的な研究開発を進める。

    A周辺関連産業や地域との融合を通じた厚みのある「産業構造」の形成
     i)太陽光発電産業群の形成
   周辺産業の裾野の広がりが大きい太陽光発電については、技術開発支援等を通じて非エネルギー産業の新規参入を促すとともに、その競争を通じた部品・材料コストの低減などを進めるなど、太陽光発電産業群の形成を目指す。

     ii)燃料電池・蓄電池等の戦略的分野における関連産業群の育成
   太陽光発電に加え、燃料電池や蓄電池等の戦略的産業分野においても、これを支える分野横断的な関連産業群の育成・展開を図り、産業構造全体で経済性を向上させることを狙う。

     iii)風力、バイオマスなどを活用した地域ビジネスの育成
   風力発電、バイオマスなど地域性の高い新エネルギー等については、これらの「地産地消」をベースにした地域ビジネスに対する支援などにより、地域に密着した新エネルギー・ビジネスの育成を図る。また、自治体や地域住民を中心とした新エネルギー等の活用を進める取組に対しても、積極的に支援を行う。

     iv)次世代エネルギーパークの整備
   国民が新エネルギーや省エネルギーなど新たなエネルギーの生産・利用に目で見て触れて理解できるよう、次世代エネルギーパークという形でエネルギーの地域拠点を整備する。

    B革新的なエネルギー高度利用の促進
   超燃焼とエネルギー貯蔵を鍵として、化石燃料依存からの脱却を可能とするような将来のエネルギー経済を支える基幹技術を戦略的に開発する。
 また、化石燃料自体の有効利用も含め、革新的技術の開発と普及を推進し、エネルギーの高度利用を促進する。
 具体的には、非シリコン系太陽電池の開発・普及、シリコンの皮膜化による薄型太陽電池の開発、バイオ技術等を活用したバイオエタノールの高効率製造技術の開発、バイオマス起源ガス活用技術の開発、次世代蓄電池技術の開発、燃料電池の抜本的低コスト化、非在来型石油等重質油利用拡大技術の開発、メタンハイドレート生産技術の開発や石炭ガス化複合発電など、エネルギーの可能性を開くための新たな技術オプションの開拓を続ける。

    C新エネルギー・ベンチャービジネスに対する支援の拡大
   有望ベンチャー企業の登竜門である米国エネルギー省のSBIR(Small Business Innovation Research)を参考に、技術オプションの拡大を進めるベンチャービジネスを提案公募により段階的に選抜することで、革新的技術にチャレンジする企業を絞り込み、重点的な資金投下を行うとともに、多様な技術オプションの商業化を支援する。


 5.原子力立国計画
  (1)考え方
   原子力発電は、供給安定性に優れ、また、運転中にCO2を排出しないクリーンなエネルギー源である。
 この原子力発電を、安全の確保を大前提に核燃料サイクルを含め着実に推進していくことは、エネルギー安全保障の確立と地球環境問題との一体的な解決の要であり、我が国エネルギー政策の機軸をなす課題である。
 世界的に見ても、米国が原子力発電の発展と核不拡散の両立を目指した国際原子力エネルギー・パートナーシップ(GNEP)構想を提唱し、欧州各国においても地球温暖化対策やエネルギー安全保障の観点から原子力発電を評価する気運が高まるなど、核燃料サイクルを含む原子力発電を推進する動きが急激に進展しつつある。他方、国内においては、電力需要の伸びの低迷や電力自由化の進展といった環境下で、中長期にわたる計画的な遂行と巨額の投資が必要とされる原子力発電の新・増設、高速増殖炉を含む核燃料サイクルの早期確立・実用化、高レベル放射性廃棄物の最終処分場の確保などの課題に適確に対応していくことが大きな課題となっている。
 このため、国内的には、国は、電気事業者、メーカなど関係者との共通認識を醸成しつつ、こうした課題に対し積極的な役割を果たす。また、国際的には、我が国でこれまでに蓄積された技術的な強みなどを発揮して、世界的な原子力発電の推進に先導的な役割を果たす。加えて、国、事業者等は、原子力発電推進の大前提となる、万全の安全確保や立地地域などの理解と協力を得るため、最大限の努力を行う。

  (2)目標
   世界最先端のエネルギー需給構造を実現するという観点から、原子力発電を将来にわたる基幹電源として位置付け、2030年以降においても、発電電力量に占める比率を30〜40%程度以上とすることを目指す。
 また、現在の軽水炉を前提とした核燃料サイクルの着実な推進、高速増殖炉の早期実用化などの諸課題に計画的かつ総合的に取り組むとともに、核融合エネルギー技術の研究開発を推進する。

  (3)具体的取組

    @電力自由化環境下での原子力発電の新・増設、既設炉建て替えの実現
 

 電力自由化の進展や需要の伸びの低迷が見られる中で、原子力発電の当面の新・増設や2030年前後からと予想される既設炉の本格的な建て替えが円滑に実現できるよう、以下のような事業環境の整備を進める。なお、今後の電気事業制度の在り方の検討に当たっては、原子力投資に及ぼす影響に十分配慮して慎重に議論を行う。

  • 初期投資などの負担平準化(新・増設、既設炉建て替え促進に向けた2006年度中の企業会計上の手当など)
  • 原子力発電に特有な投資リスクの低減・分散(2006年度中の第二再処理施設向けの企業会計上の手当、官民によるリスク分散の対応策の検討など)
  • 原子力発電のメリットの可視化(2006年度中のCO2排出係数の統一的な算定方法の策定など)
  • 広域的運営の促進(連系線の建設・増強円滑化などに向けた事業者間費用負担ルールの柔軟な取扱など)

    A現在の軽水炉を前提とした核燃料サイクルの早期確立
     i)プルサーマルの推進等
   六ヶ所再処理工場の操業の開始(事業者は2007年を計画)、プルサーマル導入(電気事業者は全国で16〜18基の導入を目指す)の推進等核燃料サイクルの確立に向けて、必要性・安全性等に関する国民との相互理解促進活動を強化する。

     ii)技術開発及び新技術の導入推進
   2010年度頃の新型遠心分離機の導入、2012年の軽水炉MOx燃料加工工場操業開始などに向け、技術開発を推進する。

    B高速増殖炉サイクルの早期実用化
     i)高速増殖炉サイクル実用化に向けた移行シナリオの早期策定
   高速増殖炉サイクルの実用化に向け、移行シナリオを早期に策定し、実証・実用化段階への円滑な移行のための研究開発側と導入者が側の協議を速やかに開始する。
 「もんじゅ」の運転を早期再開し、ナトリウム取扱技術の確立等を図るとともに、マイナーアクチニドの混合抽出など必要な技術開発を進める。
 また、実証炉及び関連サイクル実証施設の2025年頃までの実現を目指すこととし、商業炉を2050年よりも前を目指して開発する。
 第二処理工場は、六ヶ所再処理工場の操業終了時頃(2045年頃)の操業開始を目指して、必要な技術開発を進める。

     ii)移行シナリオにおける国の役割の明確化
   高速増殖炉サイクルの実証段階における軽水炉発電相当分のコストとリスクは民間負担を原則とし、それを超える部分は相当程度国の負担とするなど、移行シナリオにおける国の役割の明確化を図る。

     iii)戦略的な国際協力の推進
   高速増殖炉サイクルを支える基盤となり、かつ世界をリードしうる技術に集中した戦略的開発を行うとともに、これを集約したシステムの世界市場での採用を通じた国際標準化など、高速増殖炉サイクルのフロントランナーを目指して戦略的な国際協力を推進する。

    C原子力発電拡大と核不拡散の両立に向けた国際的な枠組作りへの積極的関与
   我が国は、これまで一貫して核燃料サイクルを含む原子力発電を推進し、この分野において世界の最先端を進んできた。GNEP構想や原子力供給国グループ(NSG)45ヶ国による原子力関連資機材・技術の輸出管理強化など、核不拡散と原子力の平和利用の両立に向け始動しつつある新たな国際的枠組作りの動きに対して、これまでの経験や技術を最大限に活かし、積極的に協力・貢献を行う。

    D次世代を支える技術開発、人材育成
 

 既設炉の本格的な建て替えが始るまでの新規建設低迷期の間、原子力発電を支える原子力産業の技術、人材の厚みの維持・強化を図る。
 また、核融合エネルギー技術(ITER計画)、高温ガス炉などを用いた水素製造技術、放射性廃棄物処分の負担軽減のための核変換技術など先進的エネルギーに関する研究開発についても、長期的視点から着実に推進する。

  • 20年ぶりの官民一体での次世代軽水炉開発プロジェクトの着手(国際競争力のある日本型軽水炉開発の事業化調査を2006年度開始)
  • 現場技能者の育成・技術承継への支援開始(個別企業の枠を超えた地域の取組への支援を2006年度開始)
  • 立地地域をはじめとする大学・大学院で原子力を学ぶ学生への支援や大学などにおける原子力教育の充実の検討

    E我が国原子力産業の国際展開支援
 

 我が国原子力産業の技術・人材を維持するという観点に加え、世界的なエネルギー需給逼迫の緩和や地球温暖化防止に貢献する観点から、原子力産業の国際展開を積極的に支援する。

  • 政府としての支援スタンスの明確化
  • ベトナム、インドネシアなどへの制度整備のノウハウ支援の2006年度開始、人材育成協力の強化
  • 中国向け人材育成協力・金融面の支援
  • CDM(Clean Development Mechanism)スキームの対象に原子力を加えるよう国際枠組みに対する働きかけの強化

    F放射性廃棄物対策の着実な推進
     i)最終処分地の候補地選定に向けた取組の強化
   2030年代中頃の最終処分の開始を目指し、2006年度から、地域支援の充実、国の全国各地における重点広報の強化を行うなど、高レベル放射性廃棄物の最終処分地の候補地選定に向けた取組を早急に強化する。

     ii)TRU廃棄物の地層処分事業の制度化
   TRU廃棄物の地層処分事業の在り方を検討し、早期に制度化する。

     iii)放射性廃棄物の安全規制制度の整備
   高レベル放射性廃棄物を含む放射性廃棄物の安全規制制度の整備を進める。

     iv)地層処分技術に関する技術開発工程表の策定と技術開発の推進
   地層処分技術の信頼性・安全性の向上を計画的に実現していくための長期的な技術開発工程表を2006年度中に策定するとともに、それに基づき国、関係機関など関係者が一体となって技術開発を推進する。

     v)研究開発等の活動に起因する低レベル放射性廃棄物の処分の推進
   これまで処分が行われていない研究開発等の活動に起因する低レベル放射性廃棄物の処分事業の在り方を検討し、早期制度化を行う。

    G品質保証の充実・強化による安全水準高度化のための検査制度の見直し
   原子力施設の安全確保の向上を図るため、品質保証を重視した検査制度を充実・強化する。また、現在、運転停止中に集中している検査から、運転中も含めた個別プラントの保安活動全体を的確に確認する検査への移行に取り組み、安全規制の実効性を高める。

    H高経年化対策、耐震安全対策等の充実
 

 運転年数が長期にわたる原子力発電所の安全対策として、2005年末に、事業者に対し、以下を法令上義務付ける等の更なる充実を図っている。今後とも、この新制度を着実に運用する。

  • 総合的な技術評価の実施及び国への報告
  • 新たに追加した保守管理活動を実施するための長期保全計画の策定及び同計画の国への報告

 また、改定される「耐震設計指針」による基準地震動の策定法の高度化を推進するとともに、耐震安全性に対する信頼性の一層の向上のために、「耐震設計指針」に照らして、全国に立地している原子力発電所の耐震安全性を確認する。
 加えて、改正された核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(原子炉等規制法)に基づき、核物質防護対策等を確実に実施する。


    I国と地方の信頼関係の強化等
   立地地域の実情に応じ、国の顔が見える形で、各レベルにおける真摯な取組を行い、日頃からの立地地域との信頼関係を強化する。
 具体的には、立地地域の住民との直接対話の強化や、国と地方の各レベルによる信頼関係の構築、その上での国の責任者の考え方・方針の表明、地域振興に向けた継続的な支援、きめの細かい広聴・広報の実施などを進める。


 6.総合資源確保戦略
  (1)考え方
   エネルギー資源の大宗を輸入に依存する我が国にとって、エネルギー資源の安定供給確保は国家安全保障に直結する課題である。
 このため、石油・天然ガス等の我が国への安定供給確保を目指し、資源国と我が国との幅広い関係強化、我が国企業に対する支援等を通じた資源国における資源開発、供給源の多様化等の施策を戦略的・総合的に推進する。
 我が国企業による海外における石油・天然ガス開発は、直接生産・操業に携わっていることから、通常の売買契約に比較して、長期安定的に一定量の石油・天然ガスを確保することができる可能性が高いことに加え、
ア)産油・産ガス国への直接投資であり、生産された石油・天然ガス(LPGを含む)の販売にも直接関与することから、我が国と産油・産ガス国との幅広い相互依存関係の強化に寄与する。
イ)産油・産ガス国における石油・天然ガス政策に直接触れる機会が増えることから、石油・天然ガスの需給環境の変化の予兆を事前に察知することが可能。さらに、国営石油会社や国際石油資本等の経営戦略・技術を含め、世界の開発動向が把握され、事業連携の基盤が醸成される。
ウ)国際的にエネルギー分野、とりわけ資源開発分野における投資がもとめられている中で、経済力を有する我が国として、世界のエネルギー分野の投資に寄与する。
等のメリットがあり、石油・天然ガスの安定供給を確保する上で重要な役割を有する。このため、我が国の石油・天然ガスの海外における開発は、民間企業の主導の下で行い、これを行う我が国企業を政府の資源外交及び関係機関によるリスクマネー供給等によって強力に支援するとの基本的な考え方の下、取組の強化を図る。
 また、エネルギー市場の環境変化を踏まえ、調達の集約化などによる天然ガスの調達力強化を図る。さらに、資源小国である我が国にとって、世界のエネルギー市場の安定と成長がエネルギー安全保障の確立に不可欠であることから、世界全体のエネルギー市場の安定化に向け国際貢献を強化する。
 なお、近年、石油と同様厳しい需給逼迫が進みつつあり、その資源の偏在性からも対策が求められているウラン資源や鉱物資源についても、総合的な対策強化を図る。

  (2)目標
   我が国への資源の安定供給を確保するため、資源国との総合的な関係強化や資源開発企業に対する支援の強化等に取り組み、我が国の海外における資源開発を戦略的かつ強力に推進する。こうした取組によって、我が国の原油輸入量に占める我が国企業の権益下にある原油引取量の割合(自主開発比率)を、今後更に拡大し、2030年までに、引取量ベースで40%程度とすることを目指すとともに、供給源の多様化を推進する。

  (3)具体的取組

    @資源確保に向けた戦略的・総合的な取組の強化
     i)資源国との総合的な関係強化
   我が国への資源の安定供給の確保等を図る上で、資源国との総合的な関係強化を図ることが重要である。
 このため、政府及び関係機関は、資源だけに頼らない経済の多角化・高度化を目指す資源国のニーズに的確に対応する形で、資源エネルギー分野にとどまらない広範な協力を行う。
 具体的には、我が国が有する先端科学技術は、経済の多角化・高度化を目指す資源国のニーズに合致したものであることから、こうした分野の研究開発協力を、経済協力の重要なツールと位置付け、積極的に推進する。さらに、中小企業振興、水資源開発、教育・医療など社会インフラの整備に対する協力や、様々なレベルでの人的交流の拡大、直接投資の受け入れを含む投資交流などを通じて資源国との戦略的な関係の構築・強化を図る。また、このような観点から、ODAの戦略的な活用や資源国との経済連携協定(EPA:Economic Partnership Agreement)の締結等を通じて経済関係の強化に取り組む。加えて、経済界と連携した積極的な資源外交を展開する。

     ii)石油・天然ガス開発企業に対する支援の強化
   資源獲得競争が国際的に厳しさを増しつつある中、我が国が、民間企業の主導の下で石油・天然ガスの開発を推進するため、その中心的な担い手となる国際競争力を有する経営規模・技術力等を備えた中核的企業の育成・強化を図るとともに、中核的企業をはじめとする石油・天然ガス開発企業に対する政府及び石油天然ガス・金属鉱物資源機構等の関係機関による支援を強化する。
 このため、石油天然ガス・金属鉱物資源機構によるリスクマネー供給の抜本的強化、資源金融制度を担う新政策金融機関(現国際協力銀行等の統合後機関)による資金供給の維持・強化、日本貿易保険によるリスクテイク能力の強化など、関係機関との戦略的な連携とそれぞれの機能の拡充・強化を図る。
 政府は、前述の資源国との総合的な関係強化のための取組を進めるに当たっては、我が国企業による個々の上流権益獲得を政府として支援するとの観点も踏まえ、戦略的に推進する。
 また、独立行政法人の評価の在り方やその会計基準等を、リスクマネー供給機能等が有効に発揮されるよう見直すなどの各般の環境整備について検討する。

     iii)供給源の多様化
   我が国は、石油輸入の中東依存度が極めて高い水準(約90%)にある。供給源の多様化を図ることは、我が国への石油の安定供給の確保に資するものであり、これを引き続き推進する。
 石油の供給源多様化の取組は、最近では、ロシア、カスピ海周辺地域などでの取組に成果をあげてきている。これらの地域に加え、今後、リビア、ナイジェリアをはじめとするアフリカ諸国、南米諸国、カナダなどでの取組を積極的に展開する。
 中でも、シベリアの原油をロシア太平洋岸まで輸送する太平洋パイプラインプロジェクトは、我が国の原油の中東依存度の大幅な引き下げ、我が国企業のシベリアにおける石油・天然ガス開発への参加などの意義を有しており、他方、ロシアにとっても直接原油を東アジア・太平洋市場に供給可能となるほか、東シベリア開発の起爆剤になるなど、日露両国にとって戦略的に重要なプロジェクトである。このため、両国の利益に適う形で実現されるよう日露協力を行う。

     iv)資源確保指針策定と政府・関係機関一体となった取組の推進
   政府及び関係機関一体となって、中核的企業を中心とする我が国資源開発企業の海外における資源開発権益の獲得を支援する。
 このため、エネルギー政策基本法により2006年度中に改定が予定されているエネルギー基本計画に基づき、資源開発権益獲得支援のための政府全体の指針を「資源確保指針」として2007年度までにとりまとめ、政府及び関係機関による資源金融や経済協力活動全般との戦略的な連携を強化する。
 石油天然ガス・金属鉱物資源機構、資源金融制度を担う新政策金融機関、日本貿易保険等の関係機関は、個別案件毎に政府と緊密に連携しながら、我が国企業を支援するものとする。

     v)エネルギー市場の透明化・安定化の推進
   エネルギー資源の大宗を輸入に頼る我が国にとって、国際的なエネルギー市場の透明化・安定化は、エネルギー安全保障の確保に際し重要な課題である。
 このため、産消対話や多国間協議の機会などを通じ、エネルギー需給に関する統計や見通し、それに基づき展開されている施策など、エネルギー市場に関連する情報共有を推進する。

     vi)ウラン資源開発及びバイオエタノールの開発輸入に係る支援の強化
   従来の石油・天然ガスに関する探鉱開発支援に加え、ウラン資源開発や、バイオエタノールの開発輸入案件に関する支援の拡充を図る。

    A戦略的な資源技術開発の推進
   我が国の高度な技術力を活用して、資源の獲得能力を強化するための技術開発を推進することは、資源国に対して我が国の魅力を高めることとなる。
 このような観点から、GTL(ガス・トゥ・リキッド)製造技術等の天然ガス利用技術、メタンハイドレート生産技術、EOR(Enhanced Oil Recovery:原油増進回収法)技術等の石油・天然ガスの探鉱開発・生産技術、DME(ジ・メチル・エーテルの開発利用技術、非在来型石油等重質油の軽質化技術や精製技術、石炭のクリーン利用技術や炭素貯留技術等の開発に重点的に取り組む。
 技術開発の成果の普及・実施段階においても、資源国との共同事業等を通じて、資源の上流権益の獲得や資源国との関係強化に活用することとする。

    B天然ガス調達戦略の強化
   LNGに関し、中国、インドなどの需要が拡大する状況下においても、我が国企業が今後も継続的に国際LNG市場のリーダーシップを維持するため、戦略的な企業間連携や、資源国に対し交渉上比較優位を得やすくなるような戦略的な技術開発に対する支援、関連した投資案件への政策金融等を通じた支援などを強化する。
 具体的には、主要な天然ガス調達事業者等による世界市場分析、需要動向等について戦略的な情報共有を進めるための場を創設するとともに、調達力強化に繋がる技術のエネルギー技術戦略への反映、調達力強化に繋がる投資案件の資源確保指針への反映を通じて、支援を強化する。

    C化石エネルギーのクリーンな利用の開拓
   我が国エネルギー供給の大宗を支える石油、天然ガス及び石炭について、より環境負荷の少なく効率的な利用の推進を図ることにより、先進的な化石燃料需要国となる。
 具体的には、火力発電や産業部門のボイラ需要など幅広い分野におけるCO2負荷の少ない天然ガス利用の拡大、石炭ガス化複合発電、石炭ガス化燃料電池複合発電などのクリーンコールテクノロジーの開発と普及促進、残渣油の有効活用技術の開発と普及、化石燃料の利用に伴い発生するCO2の回収・貯留技術の開発と普及の促進などに取り組む。
 加えて、天然ガスの広域的な流通を活性化し、その利用拡大に資するガスパイプライン網の整備については、投資インセンティブの付与を含めた多面的な支援により、引き続きこれを促進する。

    D鉱物資源戦略の強化
     i)ウラン資源をはじめとする鉱物資源の探鉱開発及び関連投資活動強化
   世界的に原子力発電の再検討が進む中、燃料となるウランの国際的需給はますます厳しさを増しており、ウラン資源の確保は我が国原子力発電の推進にとって重要な課題となっている。また、資源の偏在、生産者の寡占化及び中国等における需要の拡大を背景として、銅、亜鉛、鉛などはもとより、超硬工具や高速度鋼に不可欠となるタングステンや自動車向け鋼材等に不可欠なモリブデン、液晶パネルに不可欠なインジウムなど、金属資源全般に価格高騰と需給逼迫が続いている。さらに、石炭も近年価格が上昇している。
 このため、ウラン資源をはじめとする鉱物資源や石炭について、我が国企業による探鉱開発活動や関連投資活動に対する支援の強化や、資源国における経済協力案件の発掘強化、必要な二国間協定等の整備を進める。また、支援対象となる案件の資源確保指針への反映を図る。

     ii)鉱物資源に関するリサイクル促進・代替材料開発等総合的な対策の強化
   鉱物資源に関しては、上流活動に対する支援の強化に加え、マテリアル・フローの分析を行いつつ、その結果を踏まえ、国内におけるリサイクルの促進や代替材料の開発促進など総合的な対策の強化にも並行して取り組む。


 7.アジア・エネルギー環境協力戦略
  (1)考え方
   中国をはじめアジアは、世界で最もエネルギー需要を急増させつつある地域であり、その需給の安定化は、世界のエネルギー市場の安定的な成長にとっても不可欠の課題である。また、我が国産業構造は広くアジア諸国に拡がっており、アジア諸国におけるエネルギーの安定供給は我が国産業競争力の維持・強化にも重要な課題である。また、供給安定性とコストの双方に優れる石炭への依存は、中国などにおいて引き続き高く、その環境対策の遅れが懸念される。
 こうした中、アジア諸国においては、エネルギー需給の緩和や環境問題の解決に大きく貢献するものとして、特に省エネルギーに対する認識・関心が急速に高まりつつあるところであり、その中で世界最高水準の省エネルギー国家を実現した我が国政府及び産業界への期待は極めて大きくなっている。優れた省エネルギー技術を有する我が国産業界が、その事業活動を通じビジネスベースで省エネルギー協力を推進することは、アジア地域のエネルギー安全保障の確立、地球環境問題への解決のための大きな国際貢献であるとともに、我が国産業界のビジネスチャンスの拡大にもつながるものであり、アジア諸国と我が国がWin-Winの関係を構築できるものである。我が国としても、この機会を最大限活かしながら、アジア地域への省エネルギー協力を戦略的な観点で強化していくことが求められる。
 このため、以下のような視点から、アジア諸国に対するエネルギー協力を積極的に展開し、アジア全体でのエネルギー需給の安定化、エネルギー環境対策の推進に寄与するとともに、あわせて、我が国エネルギー技術の市場の拡大にも取り組む。特に、中国、インドの二大需要増加国には集中的に協力関係の強化を働きかける。
 なお、アジア諸国とのエネルギー協力を包括的に推進するに当たっては、我が国が主導するASEAN+3等アジア地域の多国間枠組みの積極的な活用拡充等、その実効性を確保するための国際的な枠組みの整備についても視野に置く。

  (2)目標
   アジアにおけるエネルギー利用効率の向上に貢献する。また、石炭の利用の加速化に伴う地球温暖化問題等の環境問題の解決に貢献をするとともにアジア産炭国の石炭生産の安定化を図る。さらに、エネルギー需給が一層逼迫した際に、アジア諸国を震源地としたパニック行動を防止するため、アジアにおける石油の効果的備蓄スキームの確立を目指す。

  (3)具体的取組

    @「アジア・省エネルギー・プログラム」に基づく省エネルギーの促進
     i)二国間政策対話の実施とアクションプランの策定
   我が国のアジア地域に対する省エネルギー協力の基本方針として、「アジア・省エネルギー・プログラム」を打ち出すとともに、エネルギー需要が急速に増加する中国、インドをはじめとするアジアの重点国と二国間政策対話を行いつつ、省エネ推進に向けた具体的アクションプランの策定を行う。
 今後の省エネルギー二国間協力については、本アクションプランに基づく明確な目的に従い継続的な協力を実施する。

     ii)アジア諸国の制度的取組への支援
   省エネルギー推進の基盤となる省エネ法制度等の構築やその実施といった相手国の制度的取組への支援を強化する。
 具体的には、人材育成、エネルギー統計の整備等省エネ制度を構築していく上での基盤整備に対して支援を行うとともに、地域省エネセンター運営支援をはじめとした相手国の省エネ制度の構築・運用を支援していく。

     iii)民生・運輸・電力部門の協力の実施
   従来の省エネルギー協力の中心分野であった産業分野に止まらず、ESCO分野の協力や、我が国の省エネ基準・ラベリングの国際展開等を通じた民生・運輸・電力分野における協力なども実施していく。

     iv)我が国企業によるビジネスベースの省エネ機器・設備の普及に向けた支援
   省エネルギーの進展のためには企業活動を通じたビジネスベースの協力が不可欠であり、優れた省エネ技術を持つ我が国企業のアジア諸国での事業活動を支援することにより、ビジネスベースでの省エネルギー機器・設備の普及を促進する。
 このため、産業間対話等のビジネス交流を促進するとともに、政策金融やCDMスキームの活用等を図る。

     v)国際機関等との連携、政府及び関係機関の連携
   アジアのエネルギー需給問題が世界的な影響を持つ問題であることにかんがみ、省エネルギー協力に当たっては、国際機関、国際NPOなどと連携を図り、省エネ投資事業へのファイナンスの促進、電気機器等の省エネ基準の策定支援を図る。これらの連携のために我が国としても必要な財政的貢献も行うこととする。
 また、実効性の高い協力を実施するため、政府及び我が国の協力関係機関の連携を強化し、政府・関係機関が一体となった集中的かつ効果的な支援を実施する。

     vi)アジア太平洋パートナーシップなど国際的枠組みの積極的活用
   アジア太平洋パートナーシップ(APP)では、セクター別に優れた技術の活用などによるエネルギー利用効率向上の取組を行うとともに、成果を一定の基準で評価・公開するベンチマークアプローチに基づき、技術力のある企業の活動支援と加盟国間での省エネルギー技術移転の推進に取り組んでいる。こうした国際的枠組みに我が国としても積極的に貢献することを通じて、ベンチマークアプローチを通じた省エネルギーの推進を図るとともに、ベンチマークを活用し、省エネルギーに取り組む企業の市場評価を高めるための取組を支援する。

    Aアジアにおける新エネルギー協力
     i)アジア諸国の制度的取組への支援
   アジアのエネルギー源の多様化を進めていくため、太陽光発電、風力発電、バイオマス由来燃料等の再生可能エネルギーの導入促進を支援する。
 具体的には、再生可能エネルギーは、現行では経済性の観点で、ビジネスベースでの普及が難しいことから、電気事業者に対して一定量以上の再生可能エネルギーを利用して発電した電機の利用を義務付けるRPS制度など、新エネルギーの導入を促進するための制度の構築支援を進める。

     ii)技術開発・実証開発を通じた導入支援
   相手国の自然条件、エネルギー源ごとの特性を踏まえた新エネルギー技術の開発・実証を行い、アジア諸国での新エネルギーの導入を支援する。特に、我が国の技術力に対する期待も高い太陽光発電、バイオマスエネルギーについては、共同実証開発などにより導入を促進する。また、アジア諸国における導入ポテンシャルが大きいバイオマス由来燃料については、我が国エネルギーの安定供給の観点から、中長期的な我が国への供給源となることも視野に入れながら、協力を進める。

     iii)事業活動支援
   我が国企業が優れた技術力を有する太陽光発電をはじめとした新エネルギー分野において、我が国企業のアジア諸国での事業展開を支援することを通じて、アジア諸国における新エネルギーの導入促進を図る。
 具体的には、円借款等の公的資金協力の活用、ビジネス交流、CDMスキームの活用等を図る。

    Bアジアにおける石炭のクリーン利用、生産・保安技術の普及
     i)石炭のクリーン利用技術の普及
   中国、インド等において、十分な環境対策が講じられないまま石炭の利用が拡大していることにかんがみ、我が国の優れた石炭クリーン利用技術をアジア地域に普及する。
 具体的には、研修生の受入れによる人材育成を行うとともに、我が国の技術を紹介するためのセミナーを開催する。また、今後、石炭のクリーン利用技術のビジネスベースでの普及のためにCDMスキームの活用を図る。

     ii)石炭液化技術に関する協力
   中国、インドネシア等で進められている石炭をガソリン及び軽油に転換する石炭液化の商業化を促進するために、小型の石炭液化試験装置を活用し、商業化に向けた液化成分等に関するデータの取得・分析、人材育成等に関する協力を実施する。

     iii)石炭の生産・保安技術の普及
   石炭の生産が拡大している一方で炭鉱事故が頻発している中国、インドネシア等アジア産炭国に対し、我が国の優れた石炭の生産・保安技術の普及を図る。具体的には、研修生の受入れ、専門家派遣により人材育成を行う。

     iv)二国間政策対話の実施、国際的枠組みの活用
   アジア産炭国や消費国との間で二国間政策対話実施することにより、アジア地域における石炭に関する課題の解決等を図る。また、アジア太平洋パートナーシップ(APP)等の国際的枠組を活用し、我が国の石炭のクリーン利用、生産・保安技術の中国、インド等への普及を図る。

    Cアジアにおける備蓄制度の構築
   中国をはじめアジアは最も世界でエネルギー需要を急増させつつある地域であり、政情不安やテロ、自然災害、関係水域の安全問題など短期的な要因に対する市場の変動にも脆弱な需給構造を有している。アジア地域の需給の安定は、世界のエネルギー市場の安定と成長にとっても不可欠の課題であり、備蓄制度をはじめアジア全体として緊急時対応体制を整えることは、我が国はもとより、世界全体のエネルギー安全保障のためにも重要な課題である。

     i)緊急時対応体制整備に向けたノウハウ・制度面での協力
   アジア各国における備蓄制度の構築など緊急事対応体制の整備に対し、必要なノウハウ・制度面での協力を進める。

     ii)緊急時融通制度等地域的枠組みの構築
   より強固な緊急事対応体制を構築するために、中長期的には、緊急時融通制度などを通じたアジアにおけるエネルギー協力の地域的枠組みの構築を模索する。

    Dアジアにおける原子力に関する地域協力の推進
     i)原子力安全確保のための地域的協力枠組みの創設
   中国・韓国など北東アジア地域では原子力発電の大幅な拡張が計画されており、原子力発電における世界の成長センターとなっている。北東アジア全体における原子力発電の一層の安全性向上を目指して、地域協力の枠組みの構築等、北東アジアの原子力発電諸国における原子力安全規制機関の連携を強化するための方策を検討する。

     ii)原子力の平和利用推進に関する地域協力の推進
   アジアにおいても原子力の平和利用を積極的に推進するため、我が国原子力産業の優れた技術をアジア諸国においても積極的に活用する動きを支援する。また、並行して、アジア諸国における人材育成支援や、二国間協定等による資機材移転のための枠組み作りなどにも、政府自ら積極的に取り組む。


 8.緊急時対応の強化
  (1)考え方
   国内におけるエネルギー市場の体質強化、エネルギー需給混乱回避に向けた国際的な取組の強化を図ってもなお、資源国における政情不安、関係水域の安全問題、事故、天災、テロといった市場混乱要因や、投機的資金のエネルギー市場への流入、アジアの危機未経験国によるパニック行動懸念といった混乱増幅要因は、完全には払拭されない。
 我が国の石油備蓄制度をはじめとした緊急時対応制度は、90年代の湾岸戦争をはじめこれまでも有効に作用してきたが、その根幹は、石油依存度が8割に近かった時代に設計されたものであることから、改めてエネルギー源全体を見渡し、それぞれの特性を踏まえ形での対応を強化する必要がある。
 このため、予想の難しい短期的かつ大きな市場変動に対しても迅速かつ安定的に対応できるよう、石油備蓄制度の一層の対象の拡大や強化を図るとともに、企業・業種横断的なエネルギー危機への緊急時対応シナリオの作成と対応の検討など、緊急時対応の充実・強化に取り組む。

  (2)目標
   石油備蓄制度について、国家備蓄の増強によって我が国全体の備蓄水準を引き上げを行う一方、国家製品備蓄を導入し、機動性のある石油備蓄制度を実現する。また、需要の拡大しつつある天然ガスに関する緊急時対応体制も検討する。さらに、エネルギー源全体を見渡した緊急時対応シナリオの作成を行う。

  (3)具体的取組

    @製品備蓄の導入をはじめとした石油備蓄制度の強化
 

 昨年米国で生じたハリケーン被害は国際的な石油製品不足を招き、IEA加盟国による協調備蓄放出が行われたが、これは石油備蓄制度が従来想定してきた「供給国側・原油」に係るリスクではなく、「需要国側・製品」に係るリスクから発生した供給不足であった。
 このため、早急に以下のような石油備蓄制度の強化を行う。

  • 国家備蓄における製品備蓄を実施する。
  • 貸付制度の導入等機動的な放出が可能となるような放出スキームを新たに導入する。
  • 我が国全体の備蓄水準の引き上げを行う。

 また、LPG備蓄についても着実に推進する。


    A天然ガスに関する緊急時対応体制の整備
   世界的に天然ガスへのシフトが加速化しており、我が国においても、転換部門や大企業用途はもとより、民生部門や中小企業事業用途に対しても、天然ガスへの燃料転換・導入促進が全国的に進みつつある。このように天然ガスの重要性が増す中、供給国における不測の事態等により、供給量の急激な減少等が起こった場合に備え、国内供給体制の強化を行う必要がある。
 このため、国内供給セキュリティの向上の観点から、民間主体の広域天然ガスパイプライン網の整備を促進し、その整備状況などを見極めつつ、これと並行して、枯渇天然ガス田等を活用した地下ガス貯蔵施設の整備を行うなど、天然ガスの供給途絶等に対する体制整備について実現可能性調査を行い、中長期的に、その実現に向けた検討を進める。

    B危機管理におけるエネルギー源横断的な連携強化
 

 自由化の進展した環境下において、国内の二次供給設備に対する投資余力を保持するインセンティブは低下しつつある。関係水域の安全問題、テロ、天災、事故といった緊急事態が発生した場合、国内の原子燃料加工施設等の燃料関連設備や発電設備、送配電ネットワーク、内航タンカーの確保など、消費者に至るまでのサプライチェーンの確保の重要性は、今後ますます高まる見通しである。
 このため、テロ等の未然防止に向けた所要の対応に加え、エネルギーの面からは、以下のような形で、緊急時対応シナリオの整備を含めた危機管理体制の強化を図る。

  • 石油備蓄等石油を中心に組み立てられてきた緊急時対応シナリオを、企業及びエネルギー源横断的な視点から2008年までに総点検する。
  • 内外においてテロ、天災、事故といった緊急事態が発生した場合に備え、事業継続計画のガイドライン(国際標準化機関で標準化予定)の活用を含めた危機管理における企業間の連携強化を図りつつ、個別エネルギー企業の危機管理体制の構築を推進する。


 9.エネルギー技術戦略の策定
  (1)考え方
   我が国のエネルギー戦略の核の一つは、我が国の優れた技術力を活かし、世界最先端のエネルギー需給構造と次世代のエネルギー利用社会を早期に構築することである。地球規模で深刻化するエネルギー関連の制約はもとより、気候変動問題をはじめとする地球環境問題関連の制約を本質的に解決するためには、技術によるブレークスルーが不可欠である。他方、エネルギー関連の技術開発には、次世代炉をはじめとする原子力分野にせよ、燃料電池をはじめとする新エネルギー関係にせよ、省エネルギーにせよ、長期のリードタイムと、それを実用化するための息の長い官民連携した努力が必要である。また、場合によっては、それを受け入れる社会の側で、社会システムの変革等にあわせて取り組む必要がある。
 このため、技術によって解決すべき課題を明示し、その解決に向け中長期的に求められる技術開発を技術戦略ロードマップの形で明示するとともに、それぞれに対する国家資源の投入の道筋を明確に示すことにより、軸のぶれない、官民一体となった取り組みの着実な推進を図る。

  (2)目標
   中長期的に必要となる技術開発戦略を提示し、官民一体となった軸のぶれない取り組みを実現することにより、省エネをはじめ多くのエネルギー関連技術分野で、我が国が世界のトップランナーとなることを目指す。

  (3)具体的取組

    @エネルギー技術戦略の提示
   2100年、2050年といった超長期の視点からバックキャストすることによって求められる技術の姿も踏まえつつ、2030年に向けて解決すべき技術面の課題を抽出し、その開発戦略についてロードマップの形で提示する。
 2006年度中に第一版を公表するとともに、定期的に改訂作業を行う。その際には、新・国家エネルギー戦略の各分野における取組との連携を図る。

    Aエネルギー関連技術開発に対する支援の強化
   科学技術基本計画との整合性を確保しつつ、ロードマップに則してエネルギー関連の技術開発を重点的に支援する。また、産学連携をはじめ、効果的なエネルギー技術開発の体制の在り方についても、検討を進める。


 10.「新・国家エネルギー戦略」の実現に向けて
  (1)8つのプログラムに共通する課題
   「新・国家エネルギー戦略」では、エネルギーに関わる国家戦略の全体像を、2030年という長期の時間設定の中で、特に重要と考えられる8つの施策プログラムに絞って提示した。その具体化には、いずれの施策プログラムをとっても、エネルギー安全保障を担うに足る強い企業、その活動を支える強靭かつ効率的な政府、並びに、エネルギー問題に深い理解を持った国民の3者が連携し、中長期にわたって軸のぶれない取組を実践することが求められる。政府は、8つの施策プログラムに共通する課題として、こうした3者の連携実現に向けた環境整備に努めなければならない。

    @強い企業の形成促進
   第一に、強い企業の形成の促進である。我が国では、コスト構造の効率化や競争を通じた強靭な企業の育成を目指し、1980年代後半以降、特に90年代を通じてエネルギー市場の自由化に取り組んできた。その結果、競争と各企業の努力を通じて効率化が進展し、電気、ガス料金の低下などの成果が見られた。今後は、自由化の進んだ環境下において、効率的であることはもとより、適切な余力を持った供給設備の確保、国際的な競争の中での権益確保や調達力強化に向け、資金力、技術力、経営力などに一層磨きをかけていく必要がある。
 このため、政府は、資源確保の局面において海外の企業と伍していける中核的企業の形成促進、原子力発電の推進を含めた中長期的な投資を担えるエネルギー企業の形成促進、省エネルギー技術、クリーンコール技術、原子力技術などのアジア展開に取り組む企業の活動の支援、コンビナートにおける業種・企業の壁を越えた連携への支援など、様々な課題の要請に即しながら、エネルギー市場環境の整備や、国家的な課題に取り組む企業及びこうした企業を支える周辺関連産業への効率的な支援に取り組むことを通じ、強い企業の形成を促進していく。

    A予算、税などの政策資源の効率的かつ効果的な活用
   第二に、政府自ら予算、税などの政策資源を効率的かつ効果的に活用していくことである。「新・国家エネルギー戦略」の実現には、一定の志向性を持ち官民一体となって取り組む必要がある。このため、数値等による明確な目標の設定と達成度の評価を基本としつつ、さらに、予算、税、法制度など状況に応じ大胆に組み合わせ、その達成に向けた官民の取組に関するPDCAサイクル(Plan-Do-Check-Action Cycle)が稼働する仕組みを構築・定着することが不可欠である。加えて、エネルギー安全保障の視点から施策を再構築するにあたっては、様々なリスクに備えた供給余力・対応余力の確保といった外部不経済性を積極的に内部化することが必要である。
 このため、政府は、海外の資源確保に取り組む中核的企業への機動的かつ大胆な資源投入、原子力関連投資のうち民間ではカバーしきれないリスクに対する負担の確保、省エネルギー関連設備・機器に対するトップランナー基準と対応する税制の適用、技術戦略マップと対応する技術開発プロジェクトへの戦略的な予算資源の投入など、予算、税制及び関連制度を効果的に組み合わせ、各施策プログラムの総合的な推進を図る。また、現在検討が進められている特別会計制度改革においても、こうした国の役割を十分果たすことが出来るよう、その制度設計に取り組む。

    Bエネルギーに関する広聴・広報やエネルギー教育の実践
   第三に、広聴・広報やエネルギー教育を通じ、エネルギー問題に関する、相互理解に基づいた深い理解を国民の間に得ることである。省エネルギーの推進や新エネルギーをはじめとする新たなエネルギー技術の導入など、強靭な需給構造の実現には、特定技術の開発とその実用化といった個別の課題に対して、中長期に軸をぶらさず取り組んでいくと同時に、ユーザーにおける裾野の広い取組を得ていくことが不可欠である。また、こうした取組に強い企業を育成するには、国が指針を示すばかりでなく、エンドユーザーが、市場を通じて、こうした企業の取組を評価することが不可欠である。
 加えて、原子力発電の推進をはじめとするエネルギー供給施設・設備の整備についても、国及び企業の側における安全確保に向けた最大限の努力を大前提としつつも、情報が的確に届いていない等の理由により低関心とされている次世代層、女性層などへの働きかけを全国的に行うとともに、立地地域の深い理解を得ることが不可欠である。
 このため、政府は、立地地域の住民をはじめ国民各層との意見交換を通じて国民のエネルギーに関する考えを把握するための広聴活動を行い、それを基に、エネルギー問題に関する関心を高め、より幅広く深い理解を得るよう適切な情報発信や広報を実施する。また、次世代を担う子供達がエネルギーに関する適切な判断と選択を行うための基礎力を構築できるよう、学校・地域教育の場への講師派遣、教材・情報提供、エネルギー関連施設の見学会のアレンジ等の支援を行うなどエネルギー教育の充実を図る。

  (2)おわりに
   「新・国家エネルギー戦略」では、「2030年のエネルギー需給展望」(2005年3月総合資源エネルギー調査会)及びその後の状況変化をもとに、エネルギーに関わる国家戦略の全体像を、2030年という長期の時間設定の中で、特に重要と考えられる施策プログラムに絞って提示した。これは、官民がともに国家戦略の担い手であり、その戦略的な協調と腰を据えた取組を実現する枠組みを、官民がわかりやすい形で共有するためでもある。官民幅広い関係者の努力により、その実現を図り、我が国のエネルギー安全保障の確立をより確かなものとするよう期待したい。
 また、本戦略の内容は、その取組の進捗状況や市場環境の変化、更には温室効果ガスの削減に係る内外の検討結果を踏まえ、不断の見直しが必要である。政府は、エネルギー政策基本法に基づき、3年ごとにエネルギー基本計画の改定を行うこととなっているが、2006年中にも、「新・国家エネルギー戦略」に基づき、政府側からの対応について必要となる施策を同基本計画にとりまとめ、その具体化に着手する。加えて、改定後の基本計画を踏まえて中長期的なエネルギー需給見通しの改定に着手する。今後も、エネルギー基本計画の改定にあわせて、エネルギー需給見通しの改定を行いつつ、そうした施策の評価と不断の見直しを行い、「新・国家エネルギー戦略」の示す方向性を確認していくこととしたい。


10.「新・国家エネルギー戦略」の実現に向けて
(1)8つのプログラムに共通する課題

 「新・国家エネルギー戦略」では、エネルギーに関わる国家戦略の全体像を、2030年という長期の時間設定の中で、特に重要と考えられる8つの施策プログラムに絞って提示した。その具体化には、いずれの施策プログラムをとっても、エネルギー安全保障を担うに足る強い企業、その活動を支える強靭かつ効率的な政府、並びに、エネルギー問題に深い理解を持った国民の3者が連携し、中長期にわたって軸のぶれない取組を実践することが求められる。政府は、8つの施策プログラムに共通する課題として、こうした3者の連携実現に向けた環境整備に努めなければならない。

@強い企業の形成促進

 第一に、強い企業の形成の促進である。我が国では、コスト構造の効率化や競争を通じた強靭な企業の育成を目指し、1980年代後半以降、特に90年代を通じてエネルギー市場の自由化に取り組んできた。その結果、競争と各企業の努力を通じて効率化が進展し、電気、ガス料金の低下などの成果が見られた。今後は、自由化の進んだ環境下において、効率的であることはもとより、適切な余力を持った供給設備の確保、国際的な競争の中での権益確保や調達力強化に向け、資金力、技術力、経営力などに一層磨きをかけていく必要がある。
 このため、政府は、資源確保の局面において海外の企業と伍していける中核的企業の形成促進、原子力発電の推進を含めた中長期的な投資を担えるエネルギー企業の形成促進、省エネルギー技術、クリーンコール技術、原子力技術などのアジア展開に取り組む企業の活動の支援、コンビナートにおける業種・企業の壁を越えた連携への支援など、様々な課題の要請に即しながら、エネルギー市場環境の整備や、国家的な課題に取り組む企業及びこうした企業を支える周辺関連産業への効率的な支援に取り組むことを通じ、強い企業の形成を促進していく。

A予算、税などの政策資源の効率的かつ効果的な活用
 第二に、政府自ら予算、税などの政策資源を効率的かつ効果的に活用していくことである。「新・国家エネルギー戦略」の実現には、一定の志向性を持ち官民一体となって取り組む必要がある。このため、数値等による明確な目標の設定と達成度の評価を基本としつつ、さらに、予算、税、法制度など状況に応じ大胆に組み合わせ、その達成に向けた官民の取組に関するPDCAサイクル(Plan-Do-Check-Action Cycle)が稼働する仕組みを構築・定着することが不可欠である。加えて、エネルギー安全保障の視点から施策を再構築するにあたっては、様々なリスクに備えた供給余力・対応余力の確保といった外部不経済性を積極的に内部化することが必要である。
 このため、政府は、海外の資源確保に取り組む中核的企業への機動的かつ大胆な資源投入、原子力関連投資のうち民間ではカバーしきれないリスクに対する負担の確保、省エネルギー関連設備・機器に対するトップランナー基準と対応する税制の適用、技術戦略マップと対応する技術開発プロジェクトへの戦略的な予算資源の投入など、予算、税制及び関連制度を効果的に組み合わせ、各施策プログラムの総合的な推進を図る。また、現在検討が進められている特別会計制度改革においても、こうした国の役割を十分果たすことが出来るよう、その制度設計に取り組む。

Bエネルギーに関する広聴・広報やエネルギー教育の実践
 第三に、広聴・広報やエネルギー教育を通じ、エネルギー問題に関する、相互理解に基づいた深い理解を国民の間に得ることである。省エネルギーの推進や新エネルギーをはじめとする新たなエネルギー技術の導入など、強靭な需給構造の実現には、特定技術の開発とその実用化といった個別の課題に対して、中長期に軸をぶらさず取り組んでいくと同時に、ユーザーにおける裾野の広い取組を得ていくことが不可欠である。また、こうした取組に強い企業を育成するには、国が指針を示すばかりでなく、エンドユーザーが、市場を通じて、こうした企業の取組を評価することが不可欠である。
 加えて、原子力発電の推進をはじめとするエネルギー供給施設・設備の整備についても、国及び企業の側における安全確保に向けた最大限の努力を大前提としつつも、情報が的確に届いていない等の理由により低関心とされている次世代層、女性層などへの働きかけを全国的に行うとともに、立地地域の深い理解を得ることが不可欠である。
 このため、政府は、立地地域の住民をはじめ国民各層との意見交換を通じて国民のエネルギーに関する考えを把握するための広聴活動を行い、それを基に、エネルギー問題に関する関心を高め、より幅広く深い理解を得るよう適切な情報発信や広報を実施する。また、次世代を担う子供達がエネルギーに関する適切な判断と選択を行うための基礎力を構築できるよう、学校・地域教育の場への講師派遣、教材・情報提供、エネルギー関連施設の見学会のアレンジ等の支援を行うなどエネルギー教育の充実を図る。

(2)おわりに
 「新・国家エネルギー戦略」では、「2030年のエネルギー需給展望」(2005年3月総合資源エネルギー調査会)及びその後の状況変化をもとに、エネルギーに関わる国家戦略の全体像を、2030年という長期の時間設定の中で、特に重要と考えられる施策プログラムに絞って提示した。これは、官民がともに国家戦略の担い手であり、その戦略的な協調と腰を据えた取組を実現する枠組みを、官民がわかりやすい形で共有するためでもある。官民幅広い関係者の努力により、その実現を図り、我が国のエネルギー安全保障の確立をより確かなものとするよう期待したい。
 また、本戦略の内容は、その取組の進捗状況や市場環境の変化、更には温室効果ガスの削減に係る内外の検討結果を踏まえ、不断の見直しが必要である。政府は、エネルギー政策基本法に基づき、3年ごとにエネルギー基本計画の改定を行うこととなっているが、2006年中にも、「新・国家エネルギー戦略」に基づき、政府側からの対応について必要となる施策を同基本計画にとりまとめ、その具体化に着手する。加えて、改定後の基本計画を踏まえて中長期的なエネルギー需給見通しの改定に着手する。今後も、エネルギー基本計画の改定にあわせて、エネルギー需給見通しの改定を行いつつ、そうした施策の評価と不断の見直しを行い、「新・国家エネルギー戦略」の示す方向性を確認していくこととしたい。』



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