(株)東京工業品取引所市場構造研究所(2011):世界の石油市場と商品先物取引所石油・天然ガスレビュー45(2)、1-28.


はじめに
1. 先物市場発展の歴史
 1-1.先物市場の誕生
 1-2. 近代の先物市場
 1- 3. 金融先物の登場
2. 先物取引の仕組み
 2-1. 先物取引とは何か
  2-1-1. 現物取引と広義の先物取引
  2-1-2. 先渡取引と狭義の先物取引
  2-1-3. 先物取引の取引対象と種類
  2-1-4. 価格指標としての先渡価格・先物価格
 2-2. 商品先物取引の機能
  2-2-1. 透明かつ公正な価格形成機能
  2-2-2. 価格変動リスクのヘッジ機能
   a. 買いヘッジの例
    (1) 設定事例
    (2) 買いヘッジの方法
    (3) 買いヘッジの損益計算
   b. 売りヘッジの例
    (1) 設定事例
    (2) 売りヘッジの方法
    (3) 売りヘッジの損益計算
   c. クロス・ヘッジ
   d. 原料価格と製品価格のヘッジ― さまざまなスプレッド取引 ―
    (1) クラック・スプレッド(crack spread/cracks)
    (2) スパーク・スプレッド(spark spread)
    (3) クラッシュ・スプレッド(crush spread / crush)
    (4) ヘッジ期間延長のためのロール・オーバー(roll-over)
  2-2-3.実物取得機能と換金機能を通じた在庫調整機能
  2-2-4. 資産運用機能
   a. ハイ・レバレッジ型の資産運用機能
   b. 現代ポートフォリオ理論と資産運用手段としての商品先物取引
 2-3. 先物取引の特徴
  2-3-1. 契約条件の標準化(先物取引の特徴 その1)
   a. 取引の相手方の決定についての標準化
    (1) 取引所における契約締結のプロセス
    (2) 取引所取引における契約関係
   b. 取引の対象物品の標準化
    (1) 標準品取引
    (2) 受渡供用品
   c. 取引数量に関する標準化
    (1) 取引単位と受渡単位
    (2) 受渡供用品の量目の許容限度
   d. 取引価格に関する標準化
    (1) 呼び値と呼び値の単位
    (2) 取引の倍率
   e. 契約履行の方法に関する標準化 その1: 納会前の決済
    (1) 先渡取引における契約の履行
    (2) 先物取引における不特定多数の市場参加と転売・買い戻しによる差金決済
   f. 契約履行の方法に関する標準化 その2: 納会後の決済
    (1) 現物先物取引の場合−現物受け渡しによる決済−
    (2) 現金決済先物取引および指数先物取引― 差金の授受による決済 ―
   g. 取引期間・受け渡しの時期に関する標準化
    (1) 限月
    (2) 新甫発会日・納会日・受渡日
  2-3-2. 証拠金制度と値洗制度(先物取引の特徴 その2)
   a. 証拠金制度
   b. 先物取引のレバレッジ効果
    (3) 値洗制度
  2-3-3. 取引所と取引資格制度(先物取引の特徴 その3)
   a. 多数の市場参加者と取引資格制度
   b. 受託制度
  2-3-4. 取引所の取引仕法(先物取引の特徴 その4)
   a. コール方式と連続取引方式― 板寄仕法とザラバ仕法 ―
   b. フロア取引とスクリーン取引
3. 世界の石油市場と主要商品取引所
 3-1. 世界の主要な石油市場
  3-1-1. 北米市場
  3-1-2. 欧州市場
  3-1-3. アジア市場
 3-2. 世界の主な石油先物取引所
  3-2-1. ニューヨーク商業取引所(NYMEX)
   a. 取引所の概要
   b. 石油先物市場の概要
   c. 米国における先物規制の動向
  3-2-2. インターコンチネンタル欧州先物取引所(ICE Futures Europe)
   a. 取引所の概要
   b. 石油先物市場の概要
  3-2-3. 東京工業品取引所(TOCOM)
   a. 取引所の概要
   b. 石油先物市場の概要
  3-2-4. ドバイ商業取引所(DME:Dubai Mercantile Exchange)
   a. 取引所の概要
   b. 石油先物市場の概要
  3-2-5. その他の石油先物市場
   a. シンガポール
   b. 中国
   c. インド
4. 世界の商品取引所をめぐる最近の状況

 4-1. 拡大する世界の商品先物市場
 4-2. 商品先物市場に対する規制強化の動き
 4-3. 世界における取引所間競争の激化
  4-3-1. 高速取引システムを中心とした取引所間競争の激化
  4-3-2. 新興市場の台頭
5. 日本における商品取引所をめぐる最近の状況と今後の展望
 5-1. 一般投資家に対する勧誘規制の強化と業態の変化
 5-2. 商品先物取引法の施行による商品先物市場の信頼性と利便性の向上
 5-3. 総合取引所構想
 5-4. 会社法改正による事業会社におけるリスク管理の義務化
  5-4-1. 会社法と金融商品取引法の施行
  5-4-2.棚卸資産の評価基準の変更
 5-5. OTCデリバティブに対する規制
 5-6. 国内証券取引所におけるコモディティETFの上場
おわりに


はじめに

 「先物」という言葉を、経済関連の新聞記事やニュースなどで頻繁に目にするようになった。ことに本誌の読者にとっては、ニューヨーク商業取引所NYMEX(New York Mercantile Exchange、以下NYMEX)のWTI(West Texas Intermediate)原油の先物価格は、原油取引の国際的な価格指標として既になじみ深いものであろう。しかし、先物取引の意義やその具体的な実態については、わが国のビジネスパーソンの間で必ずしも十分に理解されているとは言い難いのが実情である。
 そこで本稿では先物取引に関する理解を深めていただくことを目的として、先物取引の意義や仕組み、商品取引所の役割とその歴史と現状について、基本的な事項を解説する。その上で、原油先物取引に軸足を置きつつ、先物取引をめぐる昨今の国際的な規制の動向や、わが国における「総合取引所構想」の展望についても言及する。


表5 世界のマーカー原油の特徴
  ドバイ原油 オマーン原油 WTI原油 ブレント原油
生産量(推定) 6.5万bbl/d(2007年) 58.1万bbl/d(2007年) 30万bbl/d(2007年) 18.7万bbl/d(2007年)
転売・仕向け地限定 制限なし 制限緩い 制限(国内パイプライン) 制限なし(一部仕向け地限定)
価格 市場価格 OSP(準市場価格) 市場価格 市場価格
API度 約31度 約33.5度 約35〜50度 約38度
消費地域 主にアジア向け 主にアジア向け 米国内 主に欧州
(北米、アジア向けもあり)
特徴 埋蔵量と生産量が少ない
ブラッツウインドウ上の取引では売り手オプションにより、オマーン原油で代替受け渡しが可能となっている
DMEで上場しているオマーン原油先物取引の月間平均価格を翌々月に船積みされるオマーン原油のOSPとしている テキサス原油のパイプライン輸送による米国内向け原油製品価格に強く影響を受ける 主に欧州向けだが、水際原油として輸出の柔軟性がある
Forties、Osebergでの代替受け渡しが可能となっている
出所:筆者作成

表8 主要な原油先物取引の取引要綱
取引所 東京工業品取引所(TOCOM) ニューヨーク商業取引所(NYMEX) ICE Futures Europe ドバイ商業取引所
(DME)
取引対象 ドバイ原油およびオマーン原油の平均価格を指標とする中東産原油 WTI原油 ブレント原油 オマーン原油
現金決済先物取引 現金決済先物取引 現物先物取引 現金決済先物取引 現物先物取引
取引時間 日中立会: 9:00〜15:30
夜間立会:17:00〜翌日4:00
※電子取引のみ
CME Globex(電子取引)、CME Clearport:18:00〜翌日17:15(日〜金NY時間)オープン・アウトクライ:9:00〜14:30(日〜金NY時間) 1:00〜23:00(日〜金ロンドン時間)
※日曜日は23:00から取引開始
※電子取引のみ
18:00〜翌日17:15
(日〜金NY時間)
※電子取引のみ
取引単位 50キロリットル 1,000バレル(159キロリットル) 1,000バレル(159キロリットル) 1,000バレル(159キロリットル
呼値と単位 円/1キロリットル(10円刻み) USドル/1バレル(0.01ドル刻み) USドル/1バレル(0.01ドル刻み) USドル/1バレル(0.01ドル刻み)
限月構成 連続6限月
(最長6カ月先まで)
6年先までの連続する各限月、7〜9年先までの6月限、12月限(最長78限月) 6年先までの連続する各限月、7〜9年先までの6月限、12月限(最長78限月) 連続72限月
値幅制限 なし(サーキット・ブレーカー) なし(サーキット・ブレーカー なし なし
建玉制限 一般委託者:各限月の売りまたは買いのそれぞれにつき2,400枚
当業者と投資信託等の委託者:各限月につき 12,800枚
Accountability Level:
全限月:20,000枚
各限月:10,000枚
当月限建玉制限:3,000枚
Reporting Level:350枚
Reporting Level:各限月:100枚 なし
納会日
(当月限取引最終日)
当月限の最終営業日(日中立会まで) 当月限の前月25日の3営業日前に当たる日 当月限1日の16日前に当たる営業日 当月限の2カ月前の月末営業日
最終決済価格 プラッツ社が発表する当該限月のドバイ原油とオマーン原油の平均価格 なし 19:27〜18:00(ロンドン時間)の間に約定した当月限の加重平均価格 16:15〜16:30(シンガポール時間)の間に約定した当月限の加重平均価格
上場年月日 2001年9月10日 1983年3月30日 1988年6月23日 2007年6月1日
出来高(2010年) 943,450枚 168,652,141枚 100,051,669枚 309,182枚
出所:筆者作成


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