鹿園(1992)による〔『地球システム科学入門』(85-92,131p)から〕


4-2 資源とは
 資源とはたいへん幅広い意味をもつ言葉である。資源を最も大きな意味でとると、人間にとって役に立つもとになるものといってよいであろう。それでは人間にとって役に立つとはどういうことであろうか。最もわかりやすい例は人間が使用するエネルギーである。このエネルギーには人間自身が体を動かすのに必要なエネルギーがある。このエネルギーは食物を消費することによって得られる。したがって、その食物のもととなる食料は資源といえる。この食料は生物資源の一種である。また、車や電車の乗れば、人間はエネルギーの補助を受けることになる。車や電車を動かすもととなるのは電気エネルギーやガソリンであり、それらのもとの多くは、石油や石炭などのエネルギー資源である。
 人間は昔から天然の岩石中に濃集した有用金属元素や有用鉱物を取り出し、利用してきた。鉄、銅、鉛、亜鉛などの金属元素は人間の生活に欠かせないものである。これらの人間の役に立つもととなる天然物質を鉱物資源という。
 人間は以上の生物資源エネルギー資源鉱物資源を天然から取り入れており、これらを天然資源という。しかし、生物資源はすべてが天然資源とはいえない。むしろ人間により、栽培された資源のほうが現代では多くなってきている。
 資源にはこの天然資源以外に文化的・人的資源といわれる資源がある。これらは、人間の労働力、士気、資本、技術、技能、制度、組織などである。また情報、芸術なども文化的資源といえる。これらの資源は人間社会システム内で生みだされた資源といえる。この資源は天然資源に比べ、ソフト的かつ、内的であり、逆に天然資源はハード的、外的である。このように資源は大きく天然資源文化的・人的資源と2つに分けられる。しかし、これらは必ずしもはっきりと区別できるものではない。たとえば、芸術のなかの絵画について考えてみると、絵画作製のためには、塗料、紙、木などの材料は欠かせない。これらの基は天然資源である。つまり芸術という文化的資源を生み出すためには天然資源の存在が不可欠である。また情報資源であるコンピュータの作動のためには半導体などの電子材料が欠かせないが、その素材としてのレアメタルは天然資源である。また資源と情報はともにエントロピーと関係している。したがってこのことからも両者は密接に関係していることが明らかである。
 この本のなかでは、人間社会システム内におけるさまざまな現象や文化的・人的資源に関しては述べない。ここで取り上げるのは、天然資源である。天然資源のなかでも鉱物資源とエネルギー資源について取り上げるが、生物資源については述べない。
 それでは以上の資源を熱力学的かつシステム学的に定義するとどういうことになるのであろうか。図4-2(略)に示すように、資源とは、システムに外界から入ってくるもの(インプット)をさす。出口から出ていくもの(アウトプット)は廃棄物である。システム内で人間が資源をエネルギーや製品に変え消費し、いらないものを廃棄物として排出する。システムに入ってくるものは低エントロピーであり、出ていくものは高エントロピーであり、システム内で作られる製品は低エントロピーである。ここでエントロピー(S)はdS=dq/Tで表される。ここでq:熱量、T:温度である。この過程は非可逆的であり、外界を含めた全体を1つのシステムとみなせば、システム全体のエントロピーは増大し、この過程は熱力学第2法則(すなわちエントロピー増大の法則)に従っている。システム内で行われる操作(たとえば、資源の製品化プロセス)は1度だけではなく何回も行われる(図4-2)。そして、そのたびに材料から製品ができ、そしてその製品が材料になり、また製品ができる。それぞれの材料はそれぞれのステップで資源化(低エントロピー化)されていく。またそれぞれのステップで不要な物や熱が廃棄物として外界に捨てられる。捨てられないで人間システム内で再利用されることもある。これを資源のリサイクリングという。

4-3 天然資源とは
 以上の操作(資源化と廃棄のプロセス)は人間社会システム内だけでなく、自然システム内においても行われる(図4-2)。自然の働きにより資源化された例として鉱床(4-6節参照)があげられる。地球に散在していた元素が太陽エネルギーや地球内部エネルギーの働きにより移動・濃集して、鉱床となる。このプロセスにおいて水が重要な役割を演ずる場合が多い。水が岩石やマグマから有用な元素を溶かし出し、そして水から有用元素が沈殿・濃集し、鉱床がつくり出される。この鉱床から人間によって鉱石が採掘され、鉱石から金属が取り出される。したがってこれらの太陽エネルギーや地球内部エネルギーは根元的または究極な天然資源といえよう。また鉱床や鉱石はこれらが人間社会システムに入り、これから人間社会システム内で資源化されていくので初生的な天然資源とみなせる。この初生的資源をここでは鉱物資源と呼ぶ。そしてここでは鉱物資源にはどういうものがあり、自然システム内における資源化のプロセスとはどういうものであるかについて述べる。
 この鉱床は一度掘ってしまうとなくなってしまうものである。したがって、こういう資源を非再生資源(または非更新性資源)という。しかし、食料となる植物は刈り取ってもまた生えてくる。この種の資源を再生資源(または更新性資源)という。一般的に、鉱物資源、石炭・石油などのエネルギー資源は非再生資源で、生物資源(森林、食料など)や水資源は再生資源といわれている。しかし、このように再生資源と非再生資源をはっきりと区別できるのであろうか。最近、海底から熱水が噴出し、鉱床が現実に生成されている現象がみいだされた(4-6節)。こういう鉱床の生成速度は速い。そのために仮にここから鉱石を採掘し終わったとしても、またすぐに鉱床が生成されるであろう。したがって長期の時間スケールでみれば、鉱床などの鉱物資源や石炭、石油などのエネルギー資源は再生はされるのである。しかし、これらを人間の手によって再生することはできない。あくまでも自然が再生しているのである。人間の手により鉱床をつくり出す試みもあるが、経済的に採算の合う鉱床をつくり出すことは今のところできない。これに反し生物資源は、人間の努力で性質、分布、量などを人為的に変えることができる。特にバイオテクノロジーが発達してきた近年ではこういうことが可能になってきた。しかし、これに反し、鉱物資源や石油、石炭などは、現在では、@天然により与えられているもので、人間の努力で性質、分布、量を人為的に変えることができない、A一度掘りだしたら、そこから二度と同じものを得ることができない、という性質をもっている。そのために非再生資源といえるのである。

4-4 資源問題とは
 近年、資源問題がクローズアップされている。なぜ資源問題が取り上げられるようになったかというと、主に次の2つの理由による。@資源消費量の指数関数的増加、A資源の有限性、である。われわれ人類はエネルギー資源、鉱物資源を大昔から利用してきた。その量の時間的変化をみてみると、大局的には近年になればなるほど増えてきている。たとえば、原始人の消費エネルギーは1人当り2,000kcal/人・日として、原始人の人口を8×107人とすると、2×1017J/年(原始時代の消費エネルギー)となり、現在の平均的地球人は4×104kcal/人・日で世界の人口5×109人をかけ、2×1020J/年(現在の消費エネルギー)となる。すなわち現代人は原始時代の1,000倍のエネルギーを消費しているといえる。エネルギー資源と同様に鉱物消費量も近年になるほど急増している。たとえば、1人当りの金属(アルミニウム)の消費量の変遷を図4-4(略)に示した。これよりアルミニウムの消費量は時間とともに顕著に増加しているといえる。他の有用金属元素の消費量・生産量についても大体同様な傾向にある。こういう増加の原因の1つとして、近年における人口増加があげられる(図4-5:略)。また使用用途の増大もあげられる。エネルギーの消費量が増えることにより技術が進歩し、そのことにより、資源採掘量が増えるというフィードバック効果もあげられる。このような増大は多くの場合、指数関数的である。このように指数関数的に増えていくと、将来的には資源の枯渇という事態になりかねない。特に埋蔵資源量が少なく、消費量の多い資源についてはこういう心配がある。
 それでは、資源の生産量や消費量は将来どのように変化していくのであろうか。その可能性を図4-6(略)に示した。カーブとして3つが』考えられる。それらは、Aが指数関数的増加、Bが定常状態、Cが減少カーブである。もしも代替品がみつかり、そちらのほうがすぐれている場合はCとなるかもしれない。また資源が枯渇した場合もCかBとならざるをえない。資源量が多くあり、何の問題もない場合はAのカーブとなる。しかし、現代では多くの資源には環境・公害問題がつきものであり、また資源の有限性という問題がある。したがって、Aのカーブをとる場合は一般的には今後あまりみられないか、またこのようなカーブをとらないように人間が資源消費量をコントロールし、省エネルギーを心がけていかなければならないであろう。
 以上が資源消費量と時間との関係の問題であるが、資源の有限性という問題に関連して、資源と空間との関係に関する問題もある。図4-7(略)は各大陸の1人当りの資源消費量である。これより明らかなように資源消費量(例:アルミニウム)には著しい偏在性がある。たとえば、アジアは人口が多いのにアルミニウム消費量は少ない。ところが北米は人口が少ないのにアルミニウム消費量は最も多い。資源の生産量にも著しい偏在性がある。たとえば、ほとんどのクロム鉱は南ア連邦から生産されている。国によっては鉱物資源の生産量が非常に少なく、その多くを海外に依存しているところもある。日本はかつては鉱山が多く、元素によっては自国の生産で間に合っていたが、最近ではその多くを海外に依存している状況にある(表4-1:略)。
 資源問題というとエネルギー資源(特に石油)問題をさす場合が多い。しかしながら、前に述べたように天然資源にはエネルギー資源以外に鉱物資源もある。鉱物資源がエネルギー資源ほど問題化されないのは、代替品をみいだすことが可能であり、時代による用途の変遷がみられ、リサイクリングが可能であるからである。鉱物資源の場合、時代により使用される種類が変遷する。たとえば、原始時代から現代までを考えると、その大筋は石器→青銅器→鉄器→合金→レアメタルという変化をしてきているといえよう。また最近ではセラミックスの用途も増え、第2の石器時代ともいわれている。
 鉱物資源は、加工をして使用されやすい形に変化させることはできるが、消費してなくなってしまうことはない。ところがエネルギー資源のうちで現在最も利用されている石油の代替品は今のところ存在しないし、石油は燃焼してしまうのでそのリサイクリングは不可能である。燃焼すると石油(液体)がガス(二酸化炭素、水など)へと変化するので、大気中へと拡散してしまうのである。もっとも最近では、排出されるガスの固定化という研究開発も進められている。たとえば、亜硫酸ガス(SO2)は硫酸カルシウム(CaSO4)として固定化することが可能である。そしてこの硫酸カルシウムを利用することができる。二酸化炭素の場合は、固定化することは難しいが、その固定化技術開発も現在進められており、将来的には大気中にガスとして廃棄しないですむようになるかもしれない。たとえば、二酸化炭素を液体のCO2に変えたり、ゼオライトへ二酸化炭素を吸着する技術の開発が進められている。しかし二酸化炭素を水と反応させても石油に戻すことはできない。したがって上で述べた例は、エネルギー資源→エネルギー資源という再利用ではなく、エネルギー資源→鉱物資源という再利用なのである。つまり鉱物資源はあまり消費されないが、これに比べてエネルギー資源は消費されやすいといえよう。もちろん全くなくなってしまうということではなく、拡散しやすいということである。』

4-8 天然資源の分類
 今までに述べてきた天然資源の分類を図4-26にまとめた。この分類をみればわかるように、ここではさまざまな基準で分類されている。成因(例:金属鉱床)、量(例:豊富にある金属資源と希少金属資源)、用途(例:非金属鉱物資源)などによって分類される。また実際にはそれぞれの資源は互いに関係しており、はっきりと分けることは難しいものもある。特に水資源は他の資源と密接の関係している。たとえば、エネルギー資源に分類した水力発電は水資源である。地熱エネルギーは熱水、蒸気の熱エネルギーから得られるのであるから、水資源の一種ともいえる。熱水性鉱床は熱水から沈殿し生成されたのであるから、水の役割がその生成にとって本質的に重要である。生物資源と水資源とは切っても切れない関係にある。化石燃料エネルギーは、生物体が起源と考えられるから、この場合も水の役割がたいへん重要といえる。
天然資源 エネルギー資源 地球外 太陽 太陽光発電
化石燃料 石炭
石油
天然ガス
オイルシェール
風力
海流
月−潮汐
地球内 原子力 核分裂
核融合
地熱
水力
鉱物資源 金属
(金属鉱床)
マグマ性
熱水性 海嶺鉱床
黒鉱鉱床
ほか
堆積性 縞状鉄鉱層
マンガンノジュール
ほか
風化
二次
非金属 肥料
化学製品
建築
ほか
生物資源
人的・文化的資源

図4-26 資源の分類



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