松村(1991)による〔『資源リサイクリング』(9-11p)から〕


1.3 資源リサイクリングの役割
(1) 資源リサイクリングの位置付け

 資源リサイクリングとは「資源を社会システムの一環(たとえば産業活動における生産ルート)に組み入れた形で循環使用すること」と定義することができる。
 天然鉱物資源の賦存量は有限のため、人類の消費によって確実に減少していく。その消費量は、人類の歴史の中で、近年急激に増加している。わが国の電気銅生産量を例にとると、高度成長が始まる1955年が12万トン、第1次石油ショックがあった1973年が119万トンと18年で10倍に膨らみ、また1985年は143万トンとその後12年で1.2倍増え、ローマクラブ報告などで資源利用の限界が指摘されても、その消費は減少していない。発展途上国での今後の消費の増加の可能性を考えると、人類の将来のために資源を末永く確保していくことは困難といわざるを得ない。
 一方、産業廃棄物や都市ゴミ中には再利用可能な物質(2次資源)が多量含まれるが、これらを地上に堆積し続ければ、われわれの生活環境が破壊される。資源リサイクリングを進めて、2次資源を最大に活用することは「資源の延命」と「環境の保全」という、人類が直面する問題の解決につながる。
 社会システムと資源リサイクリングの関係を、金属生産を例にとって示すと図1.2(略)のようになる。金属資源は、その賦存箇所と量を把握する「探査」、地殻から資源を分離し鉱石として回収する「採鉱」、製錬原料に適した品位と形状に仕上げる「選鉱」、原料から金属を抽出し、所要純度に精製する「製錬」の各工程を経て金属となる。この金属を加工・利用して金属製品が生産され、消費の段階を経て、やがては都市ゴミとなり、製品の製造段階で発生した不要物は産業廃棄物となる。リサイクリングとは、都市ゴミ、産業廃棄物中に含まれる2次金属資源を、製錬工程内の所要箇所にフィードバックできる状態に仕上げる一連の操作を指す。
 また、資源から消費に至るまでのプロセスを生産・排出源として一括したうえで、広義のリサイクリング・プロセスの内容について示すと図1.3のようになる。「自家処理」は工程内リサイクリングに相当し、プロセスの途中で発生した廃棄物をその性状を考慮して、直接または工程に戻せるよう処理した後使用する事例である。「再使用」は、家電製品、自動車などのように、部品交換や修理によって再び使用できるようにすることや、ビールびんや清涼飲料水びんのように何度も繰り返して使用するリターナブル・ビンの事例がある。「再資源化」は、つぎの3つの方法に分類される。
@物質回収
 廃棄物を処理して特定の2次物質(たとえば鉄スクラップ、紙類、アルミなど)を回収する
A物質転換
 廃棄物の中から副製品となる物質を新しい形態(たとえばガラスくずや焼却灰の道路用舗装材料・建材への利用、有機物ごみのコンポスト(堆肥)利用など)で回収する
Bエネルギー転換
 廃棄物からエネルギー(温水利用、発電など)またはエネルギー源(メタンガス、固形燃料など)となるものを回収する
図1.3 リサイクリング・プロセスの内容
生産・排出源
↑← 自家処理
↑← 再処理
↑← 再資源化
↑← 最終処分

 「最終処分」は埋立処分が一般的であるが、これは自然から採取したものを自然に戻すという意味から自然の物質循環系の利用といいかえることもできる。処分場の跡地利用がなされるときは、土地造成としての役割も果たすことになる。
 図1.3の中で、一般的には内側のループほど、収集・輸送、処理技術などの面から、そのリサイクリングが容易で、経済的にも有利となることが多いので、リサイクリング技術の開発にあたっては、できるだけ短いループで処理することが重要である。
 たとえばステンレス鋼スクラップの事例をあげると、そのフィードバックさせる対象先としては、@ステンレス再生鋼製造工程、Aステンレス鋼製造工程、Bフェロアロイ(フェロニッケル)製造工程、C金属ニッケル製造工程などが考えられる。以前は加工段階で発生する新切くず以外は@の工程の主原料であったが、現在では大部分のステンレス鋼スクラップがAの原料となっている。しかし、技術、経済両面の制約からB、Cへフィードバックしてニッケルを回収することは行われていない。すなわち、生産工程の上流へ戻すとしても、組成的に近く、2次原料として利用しやすい、より小さなループとなる工程に戻すことが、リサイクリングを容易にすることになる。』