小川(1998)による〔『新・水とごみの環境問題』(15-18p)から〕


『◆水資源の状況
 わが国は世界でも有数の多雨地帯であり、年平均降水量は1,714mmである。これは世界の年平均降水量約970mmの約2倍となっている。しかし、これに面積を掛けて人口で割ると(年平均降水総量)約5,200m^3/人・年となり、世界の平均である2万7,000m^3/人・年の5分の1程度であり、諸外国に比べ必ずしも豊富なものではない。
 これらの水は、河川や湖沼、地下水、湧水などとして存在する。しかし、これらの水は定常的なものではなく、ダムや河口堰などの水資源開発施設によって確保され、浄水場などの水道施設やその他のさまざまな施設によってさまざまな用途に供給され、私達の生活や経済活動が支えられている。
 しかし、水は決して豊富な資源ではなく、限りある資源である。わが国の水需要は、生活水準の向上、産業経済の進展等にともなって今後とも増加が見込まれるが、ダムなどによる水資源の開発は、しだいに困難な状況になってきている。
 1997年3月末現在、ダム等の水資源開発施設による河川水の開発水量のうち、都市用水(生活用水および工業用水)の開発水量は約161億m^3/年である。一方、河川流量が豊富なときにだけ取水できる、いわゆる不安定取水の量は約23億m^3/年であり、都市用水の使用量に対する割合は約7.1%となっている。
 このため、水需要の増大に対して水資源開発が追いつかず不安定取水に頼らざるを得ない現況だが、近年の少雨傾向により、水需要の逼迫している地域を中心に渇水が頻繁に発生し、国民生活や経済、社会活動に大きな影響を与えている。
 1994年におけるわが国の都市用水および農業用水の取水量は、年間約908億m^3と推計され、このうち河川水等が86%、地下水が14%と推計されている。地域的には、北海道、東北、山陽、北九州および沖縄で河川水等への依存が9割以上となっており、逆に関東内陸、東海および四国では、地下水依存が2割以上を占めている。なお、海水淡水化プラントは、全国で12万8,309m^3/日(1997年3月現在)の造水能力に達しており、生活用が47ヵ所、6万1,043m^3/日の造水能力、工業用が26ヵ所、6万7,266m^3/日の造水能力となっている。

水使用の状況
 図2-2に示したように、水の用途には、飲み水をはじめ調理、洗濯、入浴、水洗トイレ、洗車、打ち水など家庭で使用する家庭用水があるほか、飲食店、デパート、ホテル、プール等の営業用水、事務所等の事業所用水、噴水、公衆トイレ等の公共用水、消化用水等といった都市活動用水としても使われている。また、工場などで使用する工業用水、田畑のかんがいなどに利用する農業用水、および親水公園や人工滝、小川、小池などに利用する環境用水などもある。
(図2-2) 水利用形態の区分
農業用水 水田かんがい用水、畑地かんがい用水、畜産用水等
都市用水 工業用水 ボイラー用水、原料用水、製品処理用水、洗浄用水、冷却用水、温度調節用水等
生活用水 都市活動用水 営業用水(飲食店、デパート、ホテル、プール等)、事業所用水(事務所等)、公共用水(噴水、公衆トイレ等)、消火用水等
家庭用水 飲料水、調理、洗濯、風呂、掃除、水洗トイレ、散水等

 このうち、家庭用水と都市活動用水をあわせたものを生活用水というが、1994年の生活用水の使用量は取水量ベースで約171億m^3/年に達している。なお、漏水等による損失分を差し引いた有効水量ベースでは約148億m^3/年、1人1日あたりでは平均339リットルとなる。
 生活用水の使用量の推移を有効水量ベースでみると、1960年代後半は毎年高い伸び率を示していたが、1970年代後半以降はその伸びが緩やかとなっている。なお、生活用水は水道により供給される水の大部分を占めているが、水道は1950年代から1960年代にかけて急速に普及が進み、1995年現在、上水道普及率は95.8%に達している。また、最近は親水公園の噴水や滝、小川など環境用水の需要も多い。
 一方、工業用水は、産業活動の発展に重要な役割を果たしており、ボイラー用、原料用、製品処理用、洗浄用、冷却用、温度調節用等、広範な分野で使用されている。
 1994年の工業用水の使用量は、1日あたり1億4,800万m^3であるが、このうち76.9%は回収して循環利用されており、淡水補給量は3,400万m^3/日となっている。工業用水使用量は、最近ほぼ横ばいで推移しているが、今後、とくに成長が期待されるIC産業やファインケミカルズ(医薬品)産業等では、その製品の特性から高品質の水が要求されるなど、従来型産業とは異なった水使用構造を示しており、これらのハイテク産業での需要は今後も伸びが予想される。このほか、電気、ガス供給、熱供給事業などの公益事業向けの淡水供給量は約470万m^3である(1994年、一部1994年度)。
 農業用水の使用量は近年横ばい状況であり、1994年には約587億m^3/年と推測されている。農業用水の主要部分を占める水田かんがい用水は横ばいで推移しており、畑地かんがい用水、畜産用水は今後とも増加する傾向にある。
 このほか、積雪地域では、道路の路側等に設置された流雪溝等に雪を投入して水の掃流力で雪を排出させる水利用もおこなわれている。また、養魚用水、発電用水などにも使われる一方、水の熱エネルギー利用として、従来から温泉水の施設園芸や住宅の暖房への利用、比較的水温が安定している地下水の冷却・冷房用水や積雪地域における消雪用水への利用、工場等の温排水の養魚用水への利用等がおこなわれている。
 以上、水環境の現況を、量的な観点、循環資源という観点から概観してきた。これまでは、水資源を水利用という視点に立ち、つねに、安全で安定した、安価な水の供給を求めてきたといってよい。しかし、これからの水利用にあたっては、今ある資源を有効に利用するという観点に立った合理的な利用を推進することが必要である。このため、水道の漏水防止対策、工業用途での回収・循環利用率の向上、雑用水利用の推進、用途間における水資源の配分・調達(転用)をおこなうなど、合理的な水利用システムへのいっそうの改善に努めるとともに、いっそうの節水の徹底を図ることが必要である。さらに、水を循環資源として考えながら利用していくことがもっと重要になるであろう。
 なお、水の質的な現況については、次章でふれる。』