萬谷(2000)による〔『鉄鋼製錬』(7-10p)から〕


1.4 鉄製錬の作業温度による分類
 鉄はその原料である鉄鉱石(酸化鉄)を炭素(木炭またはコークス)で高温に還元して得られる。従って製錬過程で鉄中に炭素が溶解する。この時生成した鉄材の炭素溶解度は高温になるほど高くなり最高4〜5%に達する。一方鉄材の融点は純鉄では1809Kであるが、炭素含有量が高くなる程低くなり、[%C]=4.26で1426Kになる。そのため、鉱石の処理温度により、生成鉄の形状と取り扱い方法が著しく異なり、その作業温度により鉄鋼製錬法は図1.4(略)のように分類される。
 高品位鉱石を1300K以下の低温で還元すると、酸素のみが除去された多孔質の海綿鉄が得られる。海綿鉄はこれを更に粉砕して還元鉄粉などとして粉末冶金用原料として使用されている。1500K程度で還元すると脈石成分は溶解してスラグを作るが、鉄分は一部凝集して半溶融状態の餅状鉄塊が得られる。これを粒鉄(ルッペ)と呼び鋼の溶解用原料として使用する。1500〜1800Kでは生成鉄は半溶融状態で、スラグとメタルの分離は更に進むが、未だ両者は混在した状態である。これを炉外に取り出し、鍛錬によりスラグ成分を絞り出したものが錬鉄または錬鋼であり、以上の方法を直接錬鋼製造法と言う。鉄鉱石を1900K以上にて溶鉱炉(高炉)を用いて還元すれば溶けた銑鉄が得られる。これを1500〜1800Kで酸化精錬して、錬鉄、錬鋼を得る。このように、還元工程と酸化工程により錬鋼を製錬する方法を間接錬鋼製造法と呼ぶ。これら直接または間接錬鋼製造法は19世紀中頃以前に行われていた製鉄法である。
 これに対し、1900Kにて溶鉱炉(高炉)を用いて還元工程により溶銑を作り、更に1900Kにて製鋼炉を用いて、酸化工程により溶融状態で鋼を精錬する方法を間接溶融製錬法と呼び、今日行われている近代製鉄法である。また鉄鉱石より高温にて直接的に溶鋼を作る直接溶融製錬法も研究されているが、未だ安定した大量生産方式は確立されていない。
 どの方法が最も有利であるかは、地方的な原料事情、技術水準、経済性などによって左右される。近代製鉄法として間接溶融製錬法が現在の主流をなしているのは次の理由による。
 (1) 大量生産方式が確立し、経済性が高い。
 (2) 成分制御が容易で、製品が均一であり、性能が保証されている。
 (3) 鉄分歩留が高く、原料および使用エネルギーの効率が高い。
 (4) 広い範囲の原料を使用可能である。
などがあげられる。

1.5 近代製鉄法の作業系統図
 既述のように近代製鉄法の基幹をなすものは間接溶融製錬法であり、その作業系統図は図1.5のようである。
 すなわち主原料である鉄鉱石類(塊鉱、焼結鉱、ペレット)と還元剤と熱源であるコークス、および鉱石中脈石成分の融点と流動性を調節する媒溶剤である石灰石を高炉上部より装入し、炉下部より予熱した空気を送り、鉄鉱石を還元し、溶銑と溶融スラグを製錬する。これを製銑工程と言い還元の工程である。
 次いで溶銑や鉄くず(スクラップ)を原料とし、転炉や電気炉などの製鋼炉中に装入して加熱溶解すると共に酸素または鉄鉱石を用いて溶銑中の不純物を酸化除去して目的組成の鋼を精錬し、連続鋳造機または造塊法により鋼片(粗鋼;ビレット、ブルーム、スラブ)を作る。これを製鋼工程と呼ぶ酸化の工程である。
 最後に、できた鋼片を加熱してから圧延機にかけて圧延し、棒、線、板、管などの鋼材に仕上げる。これは圧延工程と呼ばれ、機械的な工程である。
 以上のように製銑−製鋼−圧延の3工程を一単位の工場で行うことを銑鋼一貫作業と呼び、近代的な大型工場は大部分がこのような銑鋼一貫製鉄所(総合製鉄所、Integrated Iron and Steelmaking WorksまたはIntegrated Mill)である。このような工場では(1)高炉で生産された溶銑を高温のまま製鋼所にまわせるので効率がよく熱を経済的に利用できる。(2)高炉、転炉、コークス炉より出るガスは燃料に、またコークス炉より取れる副産物などを化学製品などに有効に利用できる。(3)高炉や製鋼炉より出るスラグなどはセメント原料や骨材などとして利用できるなどの利点がある。銑鋼一貫製鉄所の巨大工場では、敷地は700〜1000万m^2、3000〜10000人以下の人員で年間600〜1000万トン以上の粗鋼を生産する合理化した工場になっている。これに対し、地方的な原料事情や経済状態の下で、製銑のみを行う高炉メーカー、鉄くずなどを原料として、製鋼−圧延のみを行う電炉メーカー(ミニ・ミル)、圧延のみを行う単圧メーカーなど、年間数10万トンから、数万トン規模の工場も多数併存している。』