西暦2000年の鉄資源
崎元雄厚・浜辺修二
Abstract
1.はじめに
2.鉄鉱原料
2.1 鉄鉱石の種類
2.2 鉄鉱床
3.てっこうせきの賦存状況と埋蔵量
3.1 アジア地域
3.2 オセアニア地域
3.3 北米地域
3.4 南米地域
3.5 アフリカ地域
3.6 欧州地域
4.国内鉄鉱石資源
『5.日本の過去の鉄鉱石の輸入状況
1980年以降世界の鉄鉱石生産は、毎年9億tを越え、1990年の生産は9億7,417万tであり、上位4国(旧ソ連、中国、ブラジル、豪州)で世界総生産量の69%を占める。1990年の日本の生産量は、砂鉄を含めて3万4,000tにすぎない(第3表:略)。日本の鉄鉱石の輸入は1970年以降1億tを越えており、1990年の輸入量は1億2,529万tである(第4表、第5図)。砂鉄、硫酸焼鉱を除く鉄鉱石の海外依存率は1874〜1926で84%、1927〜1945年で77%、1946〜1960年で84%、1970年で97%、1970年代後半からはほぼ100%である。以下に日本の鉄鉱石の輸入状況を時代別に4期に分けて述べる。
第1期(1857〜1945) :戦前および戦時中の鉄鉱石の輸入は1900年に中国の大治鉱山からの輸入に始まり、第一次大戦終了までは主に中国および朝鮮から輸入された。1920年代前半から東南アジアからの輸入が増加し始め、1935〜1941年頃の主な輸入先はマレーシア、フィリピン、中国、朝鮮を主とし、この他、インド、仏領インドシナ、豪州などであった。この期間、特にマレーシア、フィリピンからは全輸入鉱石の57%に達した。
1938年に豪州が、1941年にフィリピンが鉄鉱石の対日輸出を禁止した。1940年に米国が鉄屑、1941年にはインドが銑鉄の対日輸出を禁止した。
1941年太平洋戦争突入後、マレーシア、フィリピンなど東南アジアからの輸入が途絶し、輸入鉱石の大部分は再び中国に依存することになった。すなわち、1942〜1944年の3年間の輸入鉱石の90%は中国産であった。終戦までの主な対日供給鉱山は次のとおりである。
中国 :大治、桃冲、海南島の石碌山及び田独
朝鮮 :載寧、价川、茂山、殷栗
マレーシア :ズングン、ジョホール
フィリピン :カランバヤンガ(後のララップ)、サマール、マリンズケ
第2期(1946〜1960年) :海外原料供給源捜しと手当に明け暮れた期間といえる。近距離の東南アジアの小規模鉱山が主な対象であり、鉄鉱石の長期安定確保のため、海外の有望な鉱山に対しては積極的に金融、技術指導を行った時期である。
海外鉱の輸入は1947年まで占領軍により禁止されていた。1948年戦後最初の鉄鉱石が中国の海南島から輸入され、その後マレーシア、フィリピン、米国と輸入先が拡大していった。1948〜1949年は政府間貿易であったが、1950年から民間貿易に切り替えられた。1952年に海外製鉄原料委員会が設立された。
1950年に朝鮮動乱が勃発するや鉄鋼の生産が急増し、鉄鉱石の安定確保が必要となり、供給源としてマレーシア、フィリピンを第一に、インド(ゴアを含む)、米国、カナダなどの鉄鉱石調査が積極的に行われた。なお、1953年香港の馬鞍山鉱山が、続いて1954年マレーシアのケダー鉱山が日本側の開発投資、技術指導により操業を開始し、日本の戦後における海外開発の先鞭をつけた。
1948〜1960年の輸入実績は7,615万tで、その比率は、マレーシア(30%)、フィリピン(18%)、インド(26%、うちゴア11%)、米国(10%)、カナダ(7%)、中国(1%)、その他(8%)である。中国からの輸入は1951年より途絶した。
この期間の主な供給鉱山は、マレーシアではズングン、ロンピン、スリメダン、フィリピンではララップ、サマール、マリンズケ、ゴアではチョーグリ、デンポー、サルガオンカー、米国ではユタ州およびネバダ州の諸鉱山であった。
第3期(1961〜1974年) :原料需要の急速な増大を受け、低廉で長期的に安定な鉄鉱石の確保に重点をおいた時期である。この期間の特徴はインドの鉄鉱山の長期開発計画、ブラジルと豪州に対する長期契約の成立である。さらに、事前処理鉱(粉鉱とペレット)の輸入増加および大型専用船・兼用船の開発・使用によって南米鉱やアフリカの鉄鉱石が安定供給源となったことである。
1961〜1974年の輸入実績は9億9,684万tで、その内訳は豪州(31%)、インド(16%、うちゴア9%)、チリ(9%)、ペルー(8%)、ブラジル(7%)、マレーシア(6%)、カナダ(3%)、米国(3%)、南アフリカ共和国(3%)、フィリピン(2%)、その他(12%)である。
この期間の主な供給鉱山は豪州ではマウントニューマン、ハマスレー、ローブリバー、マウントゴールドワージ、ヤンピーサウンド、サベージリバー、インドではバイラデイラ、キリブル、チリではサンタフェ、サンタバーバラ、アルガロボ、ロメラル、ペルーではマルコナ、ブラジルでは主にイタビラ地区のカウエおよびコンセイソン、アグアスクララス、カナダではキャロルレーク、南アフリカ共和国ではイスコールなどの鉱山であった。なお、現在稼行中の主要鉱山は、殆どこの時期に開発されたものである。
第4期(1975〜現在) :この期間には、第3期の計画・契約が実行に移され、粗鋼生産1億tに対する原料の安定供給体制が確保された。特に1983年以降、豪州、ブラジル、インド3国からの輸入は全輸入量の80%以上を占めるに至った。1986年には総工費35億ドルを要したブラジルのカラジャス鉱山が生産を開始した。
1975年〜1990年の輸入実績は19億8,444万tで、その内訳は豪州(44%)、ブラジル(21%)、インド(14%)、チリ(5%)、南アフリカ共和国(4%)、フィリピン(3%)、カナダ(2%)、その他(7%)である。この期間の主な供給鉱山は、終掘した抽象鉱山を除くと、1961〜1974年とほぼ同じである。しかし、この期間に新たに供給源として開発された主な鉱山として、インドのクデルムク、ブラジルのカラジャス、カパネマ、豪州のヤンデクーギナなどの鉱山があげられる。
6.鉄鋼原料の現状と将来
6.1 鉄鋼原料
鉄はクラーク数でも酸素、珪素、アルミニウムについで豊富に存在する元素であり、鉄の地殻存在度は重量比で5%である。埋蔵鉱量/生産量に基く余命をみると、鉄(1989年)は121年であり、銅(1989年)の40年、石油の44.5年(1988年)に比較すると資源量が豊富である。また、Klinger(1987)は、2000年までの鉄の需給予測として2.4%の年平均成長率を見込んでいる。
現在日本の原料供給体制は、基本的には投融資により長期契約で保証され、カントリーリスク回避のための供給源も分散多角化されている。
しかし、鉱山の宿命として、採掘すればその分鉱量は減少するので新規供給源の確保が必要であり、また、韓国、中国をはじめとする鉄鋼新興勢力の発展を考慮すれば将来とも鉄鉱資源の供給に不安がないとはいえない。
将来の開発対象として考えられる供給源としては、現在主要な供給源である豪州、ブラジル、インドの鉱山周辺の新規開発(鉱量枯渇による既存鉱山の代替や拡張を含む)のほか、過去何度か検討されたギニアやリベリアなどの鉱床が考えられる。
旧ソ連の極東地域、中国、北朝鮮にはかなりの鉄鉱石が賦存するので将来は対日供給源となりうるが、政治面、インフラを含む経済面などを考慮するとすぐ近い将来に実現する可能性は大きくないものと思われる。
将来開発される鉱山の賦存条件、採掘条件は今後ますます悪くなり、インフラをはじめとして巨額の投資が必要となると思われる。従って、将来は一層国際共同投融資により開発される方向に進むことになるであろう。
高品位鉱の減少に伴い、低品位の縞状鉄鉱石(特にソフトイタビライト、ソフトBIF)およびピソライト系の褐鉄鉱の開発が増加する傾向にあるので、今後ペレット用、焼結用の粉鉱の増加することが予想される。また、ラテライトについては、一部ニッケル原料として使用されており、将来は鉄鉱石として使用される時期もくると思われるが、その時期はかなり先のことと考えられる。
6.2 副原料
製銑工程・製鋼工程で、石灰岩、ドロマイト、蛇紋岩、蛍石、マンガン鉱、珪石が、また合金鉄用にマンガン鉱、クロム鉱、ニッケル鉱、珪石などが使用される。1990年の自給率は石灰岩と蛇紋岩100%、ドロマイト77.3%、珪石99.6%で、それ以外の鉱石は全量輸入に頼っている。1990年度の輸入量はマンガン鉱148万t、クロム鉱77万t、蛍石57万tである。主要な輸入国と輸入割合は次の通りである。
マンガン鉱: 南アフリカ共和国66万t(45%)、豪州64万t(43%)、ガボン5万t(4%)、ブラジル5万t(4%)、ガーナ3万t(2%)、その他4万t(3%)
クロム鉱: 南アフリカ共和国48万t(63%)、マダガスカル5万t(7%)、アルバニア4万t(6%)、イラン4万t(5%)、ブラジル4万t(5%)、その他11万t(15%)
蛍石57万t: 中国46万t(81%)、タイ5万t(9%)、南アフリカ共和国4万t(7%)、ケニア2万t(3%)
副原料に関しては、国内資源の賦存状況からみて、石灰岩、ドロマイト、蛇紋岩および珪石を除いて将来ともその殆ど全量を輸入に頼らざるを得ないと思われる。』
7.鉄鋼原料探査関係者の役割
文献