Abstract
1.はじめに
2.レアメタルの定義
3.世界のレアメタル資源の現状
3.1 ニッケル/3.2 クローム/3.3 マンガン/3.4 コバルト/3.5 タングステン/3.6 モリブデン/3.7 バナジウム/3.8 アンチモン/3.9 ニオブ/3.10 タンタル/3.11 白金グループ/3.12 ゲルマニウム/3.13 ストロンチウム/3.14 チタン/3.15 リチウム/3.16 ベリリウム/3.17 レアアース/3.18 ガリウム/3.19 ほう素/3.20 セレン/3.21 テルル/3.22 ルビジウム/3.23 ジルコニウム/3.24 ハフニウム/3.25 インジウム/3.26 セシウム/3.27 バリウム/3.28 レニウム/3.29 タリウム/3.30 ビスマス
『4.世界のレアメタル資源の将来の供給
以上がレアメタル資源の現況で全体的に次のような特徴を有している。
4.1 供給の脆弱性を持ったレアメタル資源
世界のレアメタルの生産と埋蔵量はほとんどの鉱種について特定の少数の国に集中している。しかもそれらの国の中には発展途上国や南アフリカ共和国、旧ソ連などのように政治・経済上の不安要素を持っている国の多いことが特徴的である。加えて前述のニッケルにみられる如く特定の国への集中だけでなく、少数の会社に集中している場合も多い。
このことは、生産国あるいは保有国(会社)が政治・経済上の不安に陥ったり、ストライキなどが生じた場合、生産や開発が阻害され供給障害が引き起こされる可能性が高いことを意味する。過去、ザイールにおける紛争による「コバルトショック」(1978年)や、カナダ、インコ社(1969年)やプラサー社(1979年)のストライキによるニッケル、モリブデンの供給障害などのほかに影響の大小はあるがかなりの事例が知られている。また、レアメタル資源保有国の戦略的な意図による供給停止などの可能性も指摘されている。
佃(1992)は供給の脆弱性を、資源の生産と埋蔵量にカントリーリスクを加え分析した。その結果、(A)心配はない品目としてカドミウム、モリブデン、ほう素、マグネシウムを、(B)まず心配はない品目としてベリリウム、チタン、モナズ石、ジルコン、バリウム、ストロンチウムを、(C)不安要素はあるがまあ大丈夫な品目として金、バナジウム、ビスマスを、不安がある品目としてクローム、マンガン、ニッケル、アンチモン、タングステンを、そして(D)大いに不安がある品目としてコバルトをあげている。
4.2 レアメタル資源の耐用年数
レアメタル資源が将来の需要に対して必要な量存在するかを判断する目安として、埋蔵量を年間生産量で除した値で示されるレアメタル資源の耐用年数を第19図に示す。
現在の生産量程度では少数の例外を除いて十分な耐用年数を有しているといえる。図中50年以下の耐用年数を示す鉱種でレアメタル31鉱種ではビスマス、インジウムの2鉱種しかない。またベリリウム、ほう素、クローム、コバルト、ガリウム、ゲルマニウム、リチウム、ニオブ、白金グループ、レアアース、レニウム、チタン、バナジウムなどは100年以上の耐用年数がある。これはベースメタルである銅の40年、亜鉛の21年、鉛の20年に比較すると対照的で、むしろベースメタルより豊富に存在する資源であるともいえる。
4.3 レアメタル資源の将来の供給と問題点
データから判断するかぎりレアメタル資源の埋蔵量は豊富にあり、生産規模が現在の水準付近で推移するかぎり現在把握しているだけの埋蔵量だけで十分で枯渇の心配はないと言える。ただビスマスやインジウムなどは他の資源の副産物でしか生産されないので、主生産物の耐用年数に支配されるので注意が必要である。
しかしレアメタル資源の生産、保有資源の開発という点については以下のようないくつかの問題点をあげることができ、これらが円滑な操業や鉱山開発を妨げる要因になりうる。
(1)レアメタルの需要の不安定性と市場規模
一般にレアメタルは様々な用途に利用されている。中でもハイテク部門での用途は将来にわたってレアメタル需要の増加をもたらす要因としてあげられる。しかしこの分野はフェロアロイなどと違って技術革新が激しく、ために個々の製品の寿命は短いものが多い。例えばレアアースを使用した永久磁石が誕生した結果、従来のアルニコ磁石は急激に代替された。そして、永久磁石の市場をリードするまでになったが、レアアース磁石についても当初のサマリウムコバルト系に続いてより良い磁気特性を示すネオジム−鉄−ほう素系のものが現れ代替が始まっている。
このように技術の進歩により常に新製品が開発され、それまでの製品を代替する結果、個々の製品の寿命は短く1つの鉱種について安定した需要をもたらさない。また個々の製品に使用される量もハイテク分野では小さい場合が多く、まとまった需要とはならないことが多い。
(2)レアメタルの価格と付加価値
一般にレアメタル製品は価格が高いものが多い。しかし高いのは鉱石を精製・加工して製造された製品の価格である。鉱石の価格は必ずしも高いわけではない。すなわちレアメタルは加工度をあげることによって高価格を設定できる付加価値率の高い資源なのである。そこで鉱山ではできるだけ山元で付加価値をあげようとし、精製・加工を行おうとするが、レアメタル製品はフェロアロイなどを除いて多品種少量生産の典型で、ユーザーの要求仕様も複雑多岐にわたる。このため生産地よりは消費地の近くで精製・加工を行なったほうが有利となる。ベースメタルが一般的に現地山元で精製されることが多いことと対照的である。
即ちレアメタル鉱山では山元で付加価値をあげにくいため収益を十分に得られない。カナダやオーストラリアではレアメタルの探鉱・開発プロジェクトが多数存在しながら中々開発が進まないのは、インフラストラクチャーの欠如と相まって収益性がないと判断された場合が多いからである。
また、資源保有国のなかには外貨獲得のため、あえて大量に輸出しようとする動きがみられることがあり、このことが価格低迷につながり世界のレアメタル鉱山の操業や新規開発を妨げる要因になっている。
(3)鉱石処理技術の問題
レアメタルの持つ供給の脆弱性を克服し、レアメタル資源の供給の安定をはかるためには供給源を多様化させることが望ましいが、埋蔵量が偏在しているので難しい。現在、経済的に採掘でき、処理できる鉱石の種類は限られている。しかし例えばレアアース資源ではバストネサイト、モナズ石、イオン吸着鉱の他にアルカリ複合岩体に伴う鉱床や珪酸塩鉱物中にふくまれるものがあるが、経済的に見合う処理技術がないために開発ができないのが実情である。
4.4 将来の新しいレアメタルの供給源
レアメタル資源の安定供給をはかる上で供給源の多様化は一つの有力な解決手段である。現在の既知の鉱床のほかに、将来の有望な供給源としてあげられるものに深海底鉱物資源、リサイクル資源などがある。
深海底鉱物資源にはマンガンノジュール、コバルトリッチクラスト、海底熱水鉱床などがある。マンガンノジュール鉱床は水深4000〜6000mの海洋底に、コバルトリッチクラストは海山の斜面を皮殻状に覆って、海底熱水鉱床は海膨などに沿って分布しており、特に前2者はコバルト、ニッケル、マンガン、プラチナなどのレアメタルを、後者はガリウム、インジウム、バリウムなど多種類のレアメタルを含有しており、資源量も莫大である。ただ採鉱、製錬など、技術的に解決しなければならない課題が多い。
リサイクルについては、レアメタルは特殊な用途に使用されることが多いためリサイクルが容易である場合が多い。しかし現実には組織的に十分にリサイクルが行われているとは言いがたい。リサイクルが十分に行われれば結果的に供給源を多様化させたことになる。』
5.結論
文献