長沢・クズヴァルト(1989)による〔『工業原料鉱物資源』(1-3p)から〕


1.1 工業原料鉱物とは
 工業原料鉱物(industrial mineral)という術語、金属原料を指す鉱石(ore)という言葉や、エネルギー資源である石炭、石油、天然ガスを指す化石燃料(fossil fuel)という言葉ほど厳密には定義されていない。この本の中では、次の様なものを工業原料鉱物の名の下に扱うことにする。
 1.工業において、色々加工して使用される鉱物あるいは岩石。例えば、タルク、アスベスト、ダイヤモンド、珪藻土、ベントナイト、オーカーなど。
 2.非金属元素、またはその簡単な化合物を得るための原料。例えば、硫黄、フッ素を得るための蛍石、リンを得るためのりん灰石、H3BO3あるいはB2O3を得るためのホウ酸塩鉱物など。
 3.金属原料にもなるが、金属製錬以外の目的に使われる金属化合物の原料になるもの。例えば、耐火物原料としても使われる緑柱石、マグネサイト、ボーキサイトなど。
 4.建築材料。例えば、花こう岩、砂利、煉瓦用粘土など。
 同じ原料が色々な用途に、用いられることがある。例えば、赤鉄鉱は、鉄鉱石構成するとともに、顔料になる鉱物である。また、クロム鉄鉱は、クロームの鉱石になるとともに、耐火物原料にもなり、研磨材にもなる。
 鉱石も化石燃料も、化学的性質をその特徴とするのに対し、工業原料鉱物の場合は、物理的性質により特徴づけられ、例えば、アスベストの繊維状態とか、雲母の絶縁性とか、重晶石の高い比重とかが特徴となっている。そこで、工業原料鉱物資源の研究には、単に地質学の面のみならず、原料の工学的な評価が重要である。

1.2 工業原料鉱物の分類
 工業原料鉱物の鉱床の成因についての学説や、その工業における利用、経済的な重要性は時とともに変化するので、工業原料鉱物の分類は、そのいずれに基づくにせよ、所せん一時的なものである。むしろ、この3つの要素のいずれかにとらわれることなく、適当な分類を行うことの方が実際的であろう。
 工業原料鉱物の地質学の教科書として著名なBates(1960)の本では、industrial mineralsとindustrial rocksに大別し、その各々の中を地質学的な成因によって細分している。この本の原著であるKuzvart(注:zの頭にvが付く)(1984)の本では、やはりindustrial mineralsとindustrial rocks、及びさらにbuildind raw materialsを加えて、3つに大別し、それぞれの中を、各原料名のアルファベット順に配列して記述している。
 Industrial mineralsとindustrial rocksの区分は、この両者の間で単位重量当たりの経済的価値が違い、そのためこう分けるのに意義があるという面はあるが、カオリンや珪砂の様にほとんど単一の鉱物から成るindustrial rocksも多く、またわが国では、工業原料岩石という言葉も概念も使われていないということもあるので、本書では、原著における大別を行わず、industrial rocks、building raw materialsまで含めて工業原料鉱物と呼び、これを日本名のアイウエオ順に配列して記述することにした。』