島崎(1977)による〔『現代鉱床学の基礎』(175-176p)から〕


第12章 スカルン鉱床

島崎 英彦

§1 はじめに

1.1 定義と用語

 スカルン(skarn)とは、本来スウェーデンの鉱山用語であったものが、広く世界的に用いられるようになった言葉で、厳密な定義はないが、ほぼ次のような成因の岩石を意味している。すなわち、スカルンとはカルシウムやマグネシウム、まれにマンガンの炭酸塩岩に、シリカ・アルミナ・鉄などが付加され反応を起こし、カルシウム・マグネシウム・アルミニウム・鉄などのけい酸塩鉱物(スカルン鉱物)の集合体となったものである。
 これとは逆に、炭酸塩岩を原岩とせず、泥質岩・凝灰岩あるいは花崗岩などのカルシウムに乏しい岩石に、カルシウムが付加され反応して形成される岩石も、スカルンと同様の鉱物組成をもつことがあり、これもスカルンとよぶのが適当であろう。スカルン化を受けた炭酸塩岩の上・下盤の岩石や、スカルン化を起こしたと考えられる火成岩自身が、このようなスカルンになることは、しばしば観察されており、炭酸塩岩を原岩とするスカルンとの間が連続的で、原岩を容易に識別できないこともある。スカルンの形成に伴って、有用金属が多量に濃集することがあり、これをスカルン(型)鉱床とよんでいる。このような金属鉱床のほかに、ざくろ石・けい灰石・金雲母・石墨などが稼行の対象となることもある。
 スカルン鉱床は、しばしば火成岩と炭酸塩岩との接触部付近に形成されるため、接触変成鉱床(contact metamorphic deposits)とよばれることがあり、また高温で形成されたと考えられていたことから、高熱交代鉱床(pyrometasomatic deposits)とよばれることもある。北米では、かつてcontactに形成される岩石という意味で、スカルンのことをタクタイト(tactite)とよんでいたこともある。しかし、スカルンは火成岩と被貫入岩との接触部からやや離れて生成されるものも多く、これらの用語はいずれも難点があり、現在では北米も含めスカルンという言葉が広く使われている。

1.2 特徴
 不純な炭酸塩岩が熱変成作用をうけて再結晶した場合や、炭酸塩岩と周囲の岩石(たとえばチャート)との境界部が熱変成作用により反応した場合にも、スカルンは形成される。しかし、このようなスカルンでは、もともと堆積岩中に同生的な金属の濃集などがなければ、有用金属の鉱床がみられることはない。また、中性〜塩基性の岩株・岩脈などが炭酸塩岩に貫入した場合、マグマと炭酸塩岩の反応によってラーナイト・スパー石・ティレー石・モンチセリかんらん石・ゲーレン石などを含むスカルン帯が両者の接触部に形成されることがある。このようなスカルンは、一般に規模も小さく、金属鉱物の濃集はほとんどみられない。これらの場合を除くと、通常のスカルン鉱床を生成したシリカ・アルミナ・有用金属・硫黄などは、主として熱水によりかなりの距離を運ばれて、炭酸塩岩に付加されたと考えられている。すなわち、スカルン鉱床は熱水性鉱床の一つであり、熱水の起源について、たとえば鉱脈鉱床との間に、とくに大きな違いがあるとは考えられていない。
 スカルン鉱床が、他の熱水性鉱床と大きく違う点は、炭酸塩岩との反応を伴うことであろう。後述のように、この反応により炭酸塩岩の全部または一部が、スカルン鉱物により完全に交代されるのがふつうである。このような特徴をもつことから、スカルンやスカルン鉱床の研究においては、他ではみられないスカルン鉱物の諸性質や共生関係の追求もさることながら、交代作用の機構を明らかにすることが重要な課題であるといえる。
 ここでは、スカルン鉱床についてのごく初歩的な知識を紹介するが、文末に掲げた参考書により、容易に参照できる事柄については、重複して記述することをできるだけ避けるようにした。』

§2 産状と鉱物共生
2.1 産状
2.2 スカルンの鉱物共生
2.3 特殊なスカルン鉱床
2.4 累帯構造
2.5 有用金属鉱物の沈殿
2.6 鉱床生成区
§3 生成条件
3.1 生成条件
3.2 酸素分圧の影響
3.3 炭酸ガス分圧
§4 スカルンにおける交代作用
4.1 交代作用の機構
4.2 開いた系での相律とスカルン解析への応用
主な参考書