梶原・正路(1997)による〔『エネルギー・資源ハンドブック』(1015-1020p)から〕


1.2 鉱床の型
 鉱床をなす岩石を鉱石といい、鉱石中で有用な鉱物を鉱石鉱物、不要な鉱物を脈石鉱物という。
 鉱床の地質学的分類は、関与した地質作用および鉱物の濃集過程や機構を考慮して行う。ただし、これらの生成要因を特定できない場合も多いので、通常は鉱床型として示す。鉱床の探査にとって周囲の岩石(母岩)との関係が重要である。両者の生成時期の間に明瞭な間隔が認められる場合を構造規制型、認められない場合を層準規制型と呼んで区別する。これらはそれぞれ、後生型鉱床同生型鉱床とも呼ばれる。鉱床はまた、その形態から塊状層状脈状と分けられる。表1.3に、鉱床の型と、母岩および形態との関係を示す。

1.2.1 マグマ成鉱床
 高温溶融体(マグマ)に由来し、その冷却過程に直接関係して生成した鉱床をマグマ成鉱床という。一般的には、ケイ酸塩マグマに由来する。特異なマグマに由来するものとして、炭酸塩マグマの固結したカーボナタイト鉱床が重要である。珍稀な例として、磁鉄鉱マグマの固結した鉄鉱床(チリのエルラコ火山)や、溶融硫黄の固結した自然硫黄鉱床(北海道知床硫黄山)が知られている。
〔1〕正マグマ成鉱床
 マグマの結晶分化作用に起因する結晶分化型鉱床と、マグマの液体不混和に起因するマグマ不混和型鉱床に分けられる。いずれも、超塩基性ないし塩基性マグマの冷却過程に関係して生成したものである。主に、先カンブリア紀の大陸盾状地に分布する。これらの鉱床には、鉄、チタン、ニッケル、クロム、バナジン、白金族元素などが濃集する。
 (1) 結晶分化型鉱床   マグマの冷却に伴って、鉱物は一定の順序に従って晶出する。初期に晶出する鉱石鉱物(例えば、自然白金やクロム鉄鉱)は、一般にマグマ残液より比重が大きい。このため、これらの鉱物はマグマ溜りの底に沈積し、白金やクロムの層状鉱床が火成岩体底部に形成される。
 (2) マグマ不混和型鉱床   硫黄含量の高いある種のマグマは、冷却過程の酸化還元条件によってケイ酸塩マグマと硫化物マグマに分離する。この硫化物マグマは比重が大きく、マグマ溜りの底に沈み、ニッケルや銅を濃集した層状硫化物鉱床を火成岩体底部に形成する。
〔2〕ペグマタイト鉱床
 酸性マグマの冷却固結過程の末期には、マグマ残液中に揮発性物質(水、炭酸ガス、フッ素、塩素など)が濃集する。このマグマ残液から石英、長石、雲母などの巨大結晶からなる半深成岩(ペグマタイト)が生成する。ペグマタイトには、スズ、タングステン、モリブデンのほか、リチウム、ベリリウム、希土類元素などの鉱石鉱物が濃集する。一般に、花崗岩体中あるいはその近傍に、塊状ないし岩脈として産する。
〔3〕カーボナタイト鉱床
 炭酸塩溶融体が固結して生成した岩石をカーボナタイトという。炭酸塩鉱物(方解石、苦灰石)を主とし、若干のケイ酸塩鉱物(準長石類、アルカリ単斜輝石、オリビン、金雲母など)を伴う。副成分鉱物として、リン酸塩やニオブ酸塩鉱物のほか、蛍石、重晶石、チタン鉄鉱などを特徴的に含む。ニオブ、タンタル、希土類元素などを濃集している。先カンブリア時代の大陸盾状地に、超塩基性岩やアルカリ火成岩に伴って、岩床または岩脈として産する。

1.2.2 熱水成鉱床
 水を主成分とする温度の高い流体(熱水)の作用によって生成した鉱床を熱水成鉱床という。熱水は、その主な由来に注目すると、マグマ源熱水と天水源循環熱水に大別される。前者は、高温高圧下のマグマ中に溶融していた水やほかの揮発性成分が、温度圧力の低下によって流体相として分離したものである。後者は、地表水が、地殻の割れ目などに沿って地下深部まで侵入し、マグマや高温岩体などの局地的な熱源あるいは広域的な地温勾配によって温められたものである。各種元素を多量に溶解している熱水を、鉱化熱水溶液(鉱化流体)という。この鉱化熱水溶液から物理化学的条件(温度、圧力、pH、Eh、組成などの示強因子)の変化に応じて、各種鉱物が沈殿晶出し、多様な鉱床が生成される。
〔1〕鉱脈型鉱床
 地殻岩石の構造的割れ目を充填して産する熱水成鉱床を鉱脈型鉱床という。鉱脈型鉱床は、その生成温度と生成深度(圧力)によって、深熱水成鉱脈(450〜300℃、200〜40MPa)、中熱水成鉱脈(350〜200℃、80〜10MPa)、浅熱水成鉱脈(250〜100℃、20〜0.1MPa)に区別される。これらはそれぞれ、スズ・タングステン・モリブデン・金、銅・亜鉛・鉛、鉛・金・銀・水銀・アンチモンの鉱化作用で特徴づけられる。時に、これらすべての性格を備えた鉱床があり、これをゼノサーマル型という。
〔2〕斑岩型鉱床
 酸性(花崗岩質)ないし中性(閃緑岩質)の半深成岩(斑岩)の岩体内部、あるいはその周縁部に形成されている熱水成鉱床を斑岩型鉱床という。銅を主とし、金やモリブデンを伴う。低品位で大規模な鉱床である。黄銅鉱を主とする鉱石鉱物は、母岩中に散点状ないし網状細脈として産する。斑岩型鉱床の多くは、中生代以降の造山帯(アンデス山脈、ロッキー山脈、南西太平洋島弧など)に分布する。このうち、アメリカ大陸に分布するものはモリブデンに富む斑岩銅鉱床であり、一部にタングステンやスズを伴うものもある。南西太平洋島弧のそれらは金に富む斑岩銅鉱床である。
〔3〕スカルン型鉱床
 石灰岩などの炭酸塩岩が高温の熱水溶液と反応すると、カルシウム、アルミニウム、鉄に富むケイ酸塩鉱物からなる岩石(スカルン)が生成する。この過程で各種の鉱石鉱物が濃集し、スカルン型鉱床を形成する。このため、この型の鉱床の出現は、石灰岩の分布に大きく規制される。高温交代型鉱床ともいう。しばしば貫入火成岩体(主に酸性の深成岩ないし半深成岩)との接触部に産することから、接触交代型鉱床とも呼ばれる。鉄、銅、亜鉛、鉛、タングステン、モリブデンなどが濃集する。
〔4〕ミシシッピー渓谷型鉱床
 北米ミシシッピー河中流域に分布する古生代(カンブリア紀〜石炭紀)の炭酸塩岩層(石灰岩と苦灰岩)を交代して産する鉛−亜鉛鉱床を、ミシシッピー渓谷型鉱床という。しばしば、多量の蛍石および重晶石を特徴的に伴う。産状は層準規制を受けているが、後生鉱床である可能性が高い。スカルン鉱物を伴わず、熱源となる火成岩も存在しない。流体包有物の化学的および同位体的性質は、近傍油田地域の油田塩水のそれと酷似している。また、鉱石硫化物の硫黄と、原油に含まれる硫黄も、同位体的に類似している。これらのことから、油田塩水に起源を持つ低温(150℃以下)で高塩濃度(15%NaCl以上)の熱水と、原油そのものが、鉱床の生成に関与したと考えられている。中央ヨーロッパのアルパイン型鉛−亜鉛鉱床も、この型の鉱床に比較される。
〔5〕キースラガー型鉱床
 硫化鉄に富む層準規制型の銅鉱床を、キースラガー型鉱床という。中生代以前の超塩基性ないし塩基性岩に関連した堆積岩、あるいはそれらから変化した結晶片岩中に存在する。この型の鉱床の地質学的特徴は、大西洋中央海嶺や東太平洋海膨などのプレート拡大軸で発見されている現世の海底熱水成鉱床に類似することである。日本の別子型鉱床はその典型の一つとされる。
〔6〕黒鉱型鉱床
 我が国の日本海側に、第三紀中新世の海底火山活動の産物である安山岩ないし石英安山岩質の凝灰岩(グリーンタフ)が広く分布する。これらを噴出した火山活動に伴う熱水と海水との相互作用により、海底あるいはその直下に生成した層状ないし塊状の亜鉛・鉛・銅を主とする多金属硫化物鉱床を、黒鉱型鉱床という。金属鉱石には常に重晶石が含まれ、しばしば大規模な石こう(および硬石こう)の鉱床を随伴している。同様の鉱床は、フィージー、インドネシア、トルコなどから報告されている。カナダ盾状地の変成岩中に産する塊状硫化物鉱床(ノランダ型鉱床)は、変成作用を受けた先カンブリア時代の黒鉱型鉱床とされている。原生代の大陸地殻のリフト帯中に産する巨大な層状の鉛−亜鉛硫化物鉱床(カナダのサリバン、オーストラリアのブロークンヒル、マウントアイザ、マッカーサーなどの鉱床)も、しばしば黒鉱型に比較される。しかし、これらは火山性物質の乏しい砕屑性細粒堆積物シーケンスに胚胎しているため異論も多い。黒鉱型鉱床は、小笠原諸島や沖縄西部のプレート沈み込み帯に位置する背弧海盆で、現在発見されている海底熱水成鉱床の地質学的特徴に類似する。

1.2.3 堆積成鉱床
 岩石の風化、浸食、運搬、沈積といった地殻表層環境で営まれている地質諸過程に関係して生成した鉱床を、堆積成鉱床という。大気圏、水圏、生物圏との多様な相互作用が関与するため、元素および鉱物を濃集させる機構もまた多様である。
〔1〕風化残留鉱床
 地表の岩石は、地表水、大気、生物との物理化学的相互作用(風化作用)によって破壊・分解される。この過程で、原岩の構成成分の大部分(易溶性のアルカリ、アルカリ土類元素など)は流失するが、一部の成分は風化環境下で安定な鉱物として原位置に濃集し、風化残留鉱床を形成する。風化残留土壌は原岩の性質を大きく反映する。一般に鉄に富んだ残留土壌(ラテライト)を形成するが、アルミニウムが濃縮したもの(ボーキサイト)もある。また塩基性〜超塩基性岩の風化残留土壌にはニッケルが濃縮される。主に、高温多雨の熱帯および亜熱帯地域、すなわち風化作用の激しい地域に分布する。
〔2〕機械的堆積鉱床
 高い硬度を持ち、化学的に安定な鉱物は、風化、浸食、さらに河川による運搬の過程で最後まで比較的大きな粒子として残る。これらの鉱物が流水あるいは波浪の作用で淘汰濃縮され、砂鉱床(漂砂鉱床)を形成する。砂鉱床には一般に比重の大きい、いわゆる重鉱物が濃集する。また、熱水変質作用あるいは風化作用で生成した粘土鉱物が、水で運搬される過程で淘汰濃縮されて沈積し、粘土鉱床が形成されることもある。
〔3〕地下水浸透型鉱床
 岩石い含まれている一部の成分が、地下水によって選択的に溶出され、別の場所まで運搬されて再沈殿することがある。このような過程で濃集生成したのが地下水浸透型鉱床である。この溶出と再沈殿には、地下水循環系における無機化学的あるいは微生物化学的な酸化還元作用が重要な役割を果たす。例えば、花崗岩中に酸化的な地下水が侵入すると、鉱物粒子の間に存在する微量の難溶性4価ウランが酸化され、易溶性の6価ウラン(ウラニルイオン)となって溶出する。このウラニルイオンが堆積岩中の有機物などと接すると再び還元されて4価のイオンとなり、種々のウラン鉱物として沈殿する。
〔4〕蒸発岩鉱床
 乾燥気候の卓越する地域の閉鎖的あるいは半閉鎖的な堆積盆では、太陽熱により海水あるいは湖水の蒸発が激しく、飽和濃度に達した塩類(炭酸塩、硫酸塩、塩化物塩など)が順次析出沈殿する。このような過程で生成した鉱床を蒸発岩鉱床という。岩塩鉱床がその代表である。この型の鉱床は、北米大陸、ヨーロッパ大陸、インドシナ半島などの各地に分布する。これらの多くは、先カンブリア時代、古生代、第三紀中新世に形成されたものである。現在でも、乾燥地帯の塩湖(米国のソルトレイクや、中近東の死海)では、その湖岸に各種の塩類が沈殿している。蒸発岩鉱床は、リシウムなどの希少アルカリ元素の重要な供給源でもある。
〔5〕鉄鉱層
 無機化学的あるいは微生物化学的過程によって沈殿した堆積成鉄鉱層は、組織構造的性質から、縞状鉄鉱層ミネット型鉄鉱層に大別される。縞状鉄鉱層は先カンブリア代に特徴的な鉄鉱層であり、さまざまな次元の調律的な縞状構造(マイクロバンド、メソバンド、マクロバンド)を持つ。これらはさらに、堆積地質環境の相違によって、アルゴマ型スペリオル型に分けられる。前者は火山性堆積物を原岩とする緑色岩(グリーンストーン)中に胚胎するものであり、主に始生代に生成したものである。後者は砕屑性の砂質ないし泥質堆積物と互層するものであり、原生代の初期(大気酸素濃度が増加し始めたと考えられている22〜19億年前頃)と末期(8〜6億年前頃)に集中的に形成されている。一方、ミネット型鉄鉱層は、魚卵状(ウーライト状)ないし糞状(ペレット状)の構造を持つ鉄鉱層である。顕生代の鉄鉱層の大部分はこのミネット型である。
〔6〕含銅砂岩
 アフリカ大陸の南部(ザイールとザンビアの国境沿い)に、北西−南東方向に約500km延長する銅の鉱床帯(銅帯:カッパーベルト)がある。この銅帯に産する鉱床を銅帯型鉱床という。これらは、先カンブリア時代の石灰岩、頁岩、砂岩中に銅鉱床が鉱染状に濃集した層準規制型鉱床である。この型の鉱床は、コバルトやニッケルも濃集しており、特にコバルトの供給源としても重要である。カザフスタンのヂェズカズガン銅鉱床も砂岩を母岩とする層準規制型鉱床である。しかし、コバルトは伴わない。
〔7〕含銅頁岩
 ヨーロッパ大陸には、古生代末〜中生代初期(ペルム紀末〜トリアス紀初期)に生成した含銅頁岩層が広く分布する。これらの鉱床には、亜鉛や鉛あるいはマンガンも濃集することがある。これらの元素の濃縮には、おそらく微生物化学的作用が重要な役割を果たしたと考えられる。
〔8〕有機的堆積鉱床
 生物の遺骸あるいは生物の排泄物が堆積して生成した鉱床を有機的堆積鉱床という。石灰岩、けいそう土、りん灰土は、生物の遺骸が堆積したものである。グアノは、リンに富む海鳥の排泄物と石灰岩(サンゴ礁)の反応産物である。石油も石炭も、生物体の遺骸が堆積、埋没した後、地熱の作用などにより生成した鉱床である。

1.2.4 変成鉱床
 以上で述べた既存の鉱床が変成作用を受けると、その形態や鉱物組合せが変化し、変成鉱床となる。変成作用の過程では、物質はあまり移動しないので、この過程自体によって濃集した重要な金属鉱床はほとんどない。鉄鉱層やキースラガー型鉱床の多くは広域変成作用を受けている。炭酸塩岩を母岩とする鉱床が接触変成作用を受けると、接触変成鉱床となる。スカルン型鉱床の一部には、この種のものが含まれている可能性がある。また、有機物を多量に含む地層からは、石墨の鉱床が生成する。火山性堆積岩からは、続成作用ないし低度変成作用の過程で、沸石鉱床が生成する。』