スピロ・スティリアニ(2000)による〔『地球環境の化学』(1-5p)から〕


第1章 エネルギー

A..はじめに

 ほとんどすべての環境問題の根底には、エネルギー利用の問題がある。工業化社会は、エネルギーを利用して、数多くの要求を満たすことによって経済を発展させてきたし、世界中の人々はよりよい生活を得るための鍵としてエネルギーを求めてきた。それと同時に、人々のエネルギー利用による環境の犠牲はとみに顕在化してきている。たとえば、油の流出、採鉱による土地の損傷、大気や水の汚染、炭酸ガスその他温室ガスの蓄積による地球の温暖化などである。安いエネルギーの供給を増加し続けることは、環境負荷への懸念から次第に難しくなってきている。この章では、エネルギーの供給と消費の背景を探り、環境を守りつつ社会のエネルギー需要を満たすための展望を検討してみたい。

1. 自然エネルギーの流れ
 人類のエネルギーの使い方を、地球表面の、大きな、連続したエネルギーの流れを背景にして眺めてみることは有益である。この流れを図1.1(略)に示す。エネルギーの流れの大きさは、1020キロジュール(kJ)/年の単位で示してある。(エネルギーの普通の形と単位については付録Aを参照。) 地球のエネルギーの一部は太陽以外から来ていて、潮汐エネルギーは月と地球の引力により、また地熱は溶融している地球の中心核(コア)によっている。(人工の核エネルギーは太陽以外のエネルギーであるが、全エネルギーの流れに比べるときわめて小さい。) 地球上のその他のエネルギーは、直接的または間接的に太陽に依存している。
 太陽はkJで測ると、想像も及ばないような量のエネルギーを毎年放射している−1.17×1031。そのごく一部、54.4×1020kJ/年が太陽から1億5,000万キロメートル(9,300万マイル)離れた地球によって遮られる。このうちの約30%は、地球表面または大気によって宇宙に向かって反射または散乱される。この部分をアルベドと呼び、地球全体のエネルギーバランスに大きな影響を与えている。
 太陽光の残りの部分は地球または大気によって吸収され、熱に変換されてから再び宇宙に放射される。この熱の流れが、風、雨、雪を通じて地球の気候のシステムを動かしている。吸収されたエネルギーの約半分は、水のサイクルによって流れる。すなわち、大量の水の蒸発と降雨があり、われわれは真水の供給をそれに頼っている。1グラムの水を1℃加熱するのに4.2ジュール(1カロリー)必要であるが、同じ重さの水を蒸発するのにはさらに多くのエネルギーが必要である(2.5kJ 、地球上の年間平均温度である15℃における水の潜熱)。1グラムの水蒸気が凝縮して雨になると潜熱は放出される。これが降雨と嵐が結びつく理由である。ちょっとした雨でも多量のエネルギーを放出するのである。われわれは水のサイクルのエネルギーのごく一部をダムや水力発電で利用しているが、これは太陽エネルギーをその流れから間接的に取り出していることになる。
 入射太陽光の約0.15%緑色植物や藻類によって光合成に用いられる。われわれは太陽光のこの部分に依存して食糧を得て、この地球に住んでいる。われわれは使用するエネルギーの一部を木材その他のバイオマス(ゴミや牛の糞)を燃焼して得ているが、残りの大部分ははるか昔に埋もれ蓄えられた光合成の産物を、化石燃料として採掘している。

2. 人類のエネルギー消費
 太陽によって供給される莫大なエネルギーに比較すると、人類の使うエネルギーはわずかである。1990年に人類が消費した全一次エネルギーは3.7×1017kJで、地球表面が吸収する太陽熱のわずか0.01%である。しかし、図1.2(略)によれば、世界のエネルギー消費量は急激に増加し、1960年から1990年の間にほぼ3倍になった。
 図1.2の影をつけた部分は、世界と米国のエネルギー消費量の将来予測で、さまざまな仮定に基づいている。世界の予測値の高いほうは、現在の傾向が2010年頃まで続くと予想した場合、すなわち発展途上国のエネルギー消費はエネルギー効率の目立った改善もなく、また再生可能エネルギーがこれ以上採用されることもなく増加するものとする。一方、世界の予測値の低いほうは、その反対を予想した場合、すなわち世界的にエネルギー効率の革新的な改善があり、再生可能エネルギー源が広く利用されるものとする。
 米国に関しては、高いほうの予測はブッシュ政権の際に作成されたシナリオに基づいている。すなわち、エネルギー効率の改善や再生可能エネルギーの採用はほどほどで、主に化石燃料への依存が続き、エネルギー効率の改善は経済成長によってある程度相殺される。低いほうの予測は、同程度の経済成長を仮定するが、エネルギー効率の大きな改善や再生可能エネルギーが使われるような動機づけがある場合である。
表1.1 地球上のエネルギー流量

エネルギー源

エネルギー流量
(1020kJ/年)
太陽から宇宙へ放射されるエネルギー 1.17×1011
地球に入射する太陽エネルギー 54.4
地球の気候や生物圏に影響するエネルギー 38.1
水の蒸発に使われるエネルギー 12.5
風力エネルギー 0.109
光合成に使われる太陽エネルギー 0.0836
純一次生産力に使われるエネルギー 0.0372
地球の内部から表面に伝達されるエネルギー 0.0100
人類が消費した全一次エネルギー、1990 0.00368
消費された化石燃料のエネルギー含量、1990 0.00297
潮汐と波力エネルギー 0.00126
米国の全エネルギー消費量、1990 0.000837
人類が消費した食糧のエネルギー含量、1990 0.000188

 表1.1には、これまでの議論に関係する数字を示してある。この表によると、1990年に化石燃料の燃焼で得られた全エネルギーは3.0×1017kJに達した。これは緑色植物が1年に変換するエネルギー(純一次生産力)の約8%にあたる。同じ年に人類が消費した食糧のエネルギー含有量ははるかに少なく、1.9×1016kJにすぎない。これは1人1日当たり9,200kJ または2,200キロカロリーになる。これは人間が1日に必要とする最低のエネルギーに近い。これよりもはるかに多く消費する人もいるが、世界中の大部分の人々の食糧は不足している。(栄養学者の測定値は通常大文字のCを用いたCalorieで示し、普通のcalorieの1,000倍である。通常、人間の平均の食事は2,300 Calorieとされている。この表示は混乱を招きやすい。)
 1990年に米国は世界人口の5%を占めるにすぎないが、世界の一次エネルギーの23%を消費した(表1.1)。しかし、過去15年間の米国のエネルギー消費量の伸びの速さ(年率0.7%)は世界全体(年率2.8%−図1.2参照〔略〕)よりかなり低かった。1960年から1973年までの年率の伸びはもっと大きく、米国は4.1%、世界は4.9%であった。しかし、1973年のオイルショックにより、米国およびその他の工業国はエネルギー節減対策をとるようになった。発展途上国のエネルギー消費量は未だに急増しているが、それは経済成長と人口の高い伸びとによるものである。
 同じ割合で増加するものは、すべて指数関数的に成長する(指数関数的な成長と減衰については付録Bを参照〔略〕)。しかし、このような成長は永久に続くものではない。年に4%増加するものはわずか18年で倍になり、次の18年でさらに倍になる。自然界のものはそう長く倍増を続けることはなく、何らかの制約に出会う。エネルギー消費量が急激に伸びているこの時代は、新たなエネルギー消費水準への過渡期を示している。しかし、その水準がどこにあり、どのような速さでそこに到達するかは、かなり議論の余地がある。将来については不明確なことが多く、図1.2の予測の幅の広さはそれを示している。
(以下略)』

B.化石燃料
1.炭素サイクル
2.化石燃料の起源
3.燃料のエネルギー
4.石油

 a.組成と精製
 b.利点
 c.欠点
  1) 石油の流出
  2) 燃焼排出物
5.天然ガス
 a.利点
 b.欠点
6.石炭
 a.利点
 b.欠点
 c.石炭から誘導される燃料
C.核エネルギー
1.核分裂
2.天然の放射性同位元素

 a.壊変系列、ラドン問題
 b.放射性炭素による年代測定
3.放射能−電離放射線の生物学的影響
 a.アルファ線
 b.ベータ線、ガンマ線と中性子
 c.放射線被曝
4.核分裂炉
 a.加圧水型軽水炉
 b.同位元素の分離
 c.増殖炉
 d.再処理
5.原子力の危険性
 a.原子炉の安全性
 b.核兵器の拡散
 c.核廃棄物処理
6.原子力に将来はあるか
7.核融合

 a.磁気による閉じ込め−トカマク核融合炉
 b.慣性閉じ込め炉
 c.各種核融合炉の比較
D.再生可能エネルギー
1.太陽熱暖房
2.太陽発電

 a.太陽熱発電
 b.光起電力発電
  1) 光電池の原理
  2) 光合成−自然の太陽電池
3.バイオマス
4.水力発電
5.風力
6.海洋エネルギー
7.地熱エネルギー
E.エネルギー利用
1.熱機関効率−エントロピー
2.燃料電池
3.蓄電−水素経済
4.システム効率−輸送、材料、リサイクル

 a.輸送
 b.材料
 c.リサイクル
5.エネルギーと豊かさ
F.要約
第1章問題
第1章エネルギー推奨文献



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