核戦争防止国際医師会議/エネルギー・環境研究所(1993)による〔『プルトニウム』(178-180p)から〕


商業用原子炉用の混合酸化物(MOX)燃料への加工
 おそらくもっとも論争の多い処分方法は、核兵器のプルトニウムを原子力発電用の燃料として使うというものだろう。
 すでに、商業用の核燃料から回収されたプルトニウムの一部がフランスやドイツ、日本などで軽水炉の燃料として使われている。大規模な増殖炉計画は、ウラン燃料が豊富になったため、21世紀の第ニ・四半期以後に延期されている。さらに、フランスの増殖炉は、建設費用が高く運転のむずかしいものであることが判明している。フランスのスーパーフェニックスは、技術的な問題のために運転が中止されているのである。したがって、しばらくのあいだは、プルトニウムを発電用原子炉で使うということは在来型炉での使用を意味する。
 フランス、英国、日本の再処理工場で2000年までに分離される契約になっているプルトニウムは、その所有国が、ヨーロッパあるいは日本に現在ある軽水炉の中で使うことが多くなるだろう。日本はとりわけ大規模なプルトニウム利用計画をもっている。一方、ロシアはいまだに、開発中の増殖炉で使うために大量のプルトニウムを備蓄しておこうという考えをもっている。
 プルトニウム燃料を軽水炉で使うというのは、現在のところ、たとえプルトニウムがただ≠セったとしても(つまり、再処理や核弾頭の解体費用を計算に入れなくとも)、低濃縮ウラン燃料を原子炉で一回だけ使って再処理をしないという「一回通し(ワンススルー)」方式と比べて経済的ではない。なぜかというと、プルトニウムの取扱いに関連した放射能の危険が大きいために、プルトニウム(4〜5パーセント)と天然ウランから混合酸化物(MOX)燃料を作る費用が非常に高くつくからである。
 これに引き換え、ウランの価格の方は安く、将来もこの状態が続く見込みである。ドイツの最近のデータによると、MOX燃料の成形加工費は、重金属にしてキログラム当たり2000ドルと、低濃縮ウラン燃料の成形加工費の約6倍である。MOX燃料の成形加工費がキログラム当たり1300〜2000ドルとすると、たとえプルトニウムがただだったとしても、天然ウランの価格がキログラム当たり123〜245ドル〔現行価格の数倍〕のレベルに上昇してはじめて競合できるようになる。
 商業用原子力発電所でウランの代わりに核兵器用プルトニウムを燃やすということにすると、商業用の再処理の結果ヨーロッパや日本で溜まっている分離済みプルトニウムの余剰がさらに増えることになる。なぜなら、安全上の理由から、現在の設計の軽水炉の炉心に一度に入れられるMOX燃料の比率は最高で3分の1だからである。発電能力100万キロワットの軽水炉で1年に装荷できるMOX燃料に含まれるプルトニウムの量は、核分裂性のアイソトープの割合にもよるが、最高で0.4〜0.5トンである。それに、世界のMOX燃料成形加工能力は非常に限られている。
 米国では発電用原子炉でのMOX燃料の使用は許可されていない。将来、米国の発電用原子炉で核兵器用のプルトニウムを燃やすことが試みられるとすれば、おそらく、指定された少数の原子炉か、MOX燃料を炉心全体で使うように特に設計された新型原子炉がその対象となるだろう。旧ソ連では、チェルノブイリに対する市民の反応が続いていることから、MOX燃料の実験には限度があるだろう。』