『軍事用プルトニウム
この節では、世界各国で軍事用に生産されたプルトニウムの量を検討する。民生用ということになっているプルトニウム生産については次節で検討する。プルトニウムを「軍事用」あるいは「民生用」と呼ぶことにいろいろ問題があるという点についてはこの章の冒頭で触れたが、この点を常に念頭に置いて読み進んでいただきたい。
核兵器保有を宣言している五か国−米国、旧ソ連、英国、フランス、中国−は、もちろん軍事目的のためにプルトニウムを生産してきた。このほかに、非公式だが一般に核保有国と目されているインド、パキスタン、イスラエルが軍事用プルトニウムを保有している。パキスタンの核兵器生産能力はプルトニウムではなく高濃縮ウランの使用に基づくものであるが、ある程度のプルトニウム生産能力も開発していることは明白である。核をすでに保有しているか間もなく保有すると考えられている国々−南アフリカ共和国や北朝鮮など−が保有しているプルトニウムの量については、われわれは具体的なデータを持ち合わせていない。
表2-1は以下に論じる八つの核兵器保有国について、軍事目的で生産されたプルトニウムの総量の推定値と生産施設の名前を示したものである。』
『
国 | 施設 | 量(トン) |
米国 |
ハンフォード サバンナ・リバー |
60.5(1) 47.8(2) |
ソ連(3) |
チェリャビンスク65 トムスク7 クラスノヤルスク26 |
40.5 53.3 28.7 |
英国(4) | セラフィールド | 〜5.0 |
フランス(5) | マルクール | 〜6.0 |
中国(6) | 甘粛省酒泉地区粛北自治県および四川省広元県 | 1.25〜2.5 |
インド(7) | トロンベイ | 0.28 |
イスラエル(8) | ディモナ | 0.4〜0.7 |
パキスタン(9) | ニュー・ラブズ | 不明 |
(1)1986年に運転中止となる前にN炉で作られた兵器級プルトニウムと燃料級プルトニウムの両方を含む。不確実性は±5%。Cochran
et al. 1987a, pp.64, 65, 75, 76を参照。 (2)Cochran et al. 1987a, pp.63, 75。 不確実性は±10%。 (3)Cochran and Norris 1982, pp.59, 62。累積量の122.5トンはプルトニウム換算なのでトリチウム生産の量にしたがって補正(低減)しなければならない。Cochran and Norris 1992は、プルトニウム換算6トン分がトリチウムの生産に向けられていたと推定している。これだとプルトニウムの生産量は約116トンになる。総量は約20トンの不確実性をともなう。 (4)コールダーホールおよびチャペルクロスで生産されたプルトニウムのうち1958年の相互防衛協定のもとに米国に送られたと考えられる0.78トンを含む。Hesketh 1984, pp.42, 85を参照。 (5)フランスが核兵器の中に、あるいは備蓄としてもっているプルトニウムについてのBarrillot 1991およびわれわれ独自の推定に基づく。 (6)Fieldhouse 1991などは、中国が配備している核兵器の量を250発から350発と推定している。プルトニウムの総量は、核弾頭の推定値と米国における核弾頭当たりのプルトニウムの量(5キログラム)とから換算できる。われわれは、核弾頭の総数は250発から500発と、倍程度の不確実性があると見る。したがって中国の軍事用プルトニウムの総量は1250キログラムから2500キログラムと推定される。 (7)Albright 1988, pp.43-45。 (8)ディモナ原子炉についてモルデカイ・バヌヌが明らかにした情報からの推定に基づく(本文参照)。 (9)ニュー・ラブズは年間10〜20キログラムのプルトニウムを分離する能力をもつ(Spector 1990, p.114)。パキスタンは保障措置の対象となっていない研究炉を建設中と伝えられている(Hibbs 1988)。 |