原子力未来研究会(1998)による〔『どうする 日本の原子力』(57-60p)から〕


1 余剰削減は世界の流れ・・商業価値、節減効果に期待するな
 わが国が、「余剰ゼロ」の政策を打ち出して以来、皮肉なことに在庫量は増加する一方であるが、世界的にもプルトニウム在庫量は90年代に入り増加し続けている。この分野では世界的権威であるD・アルブライト、W・ウォーカー、F・バークハウトの報告によると、94年末現在で世界の民生用プルトニウム在庫量は約120トンであったが、2000年末には、約150〜200トンに達すると推定されている(図3.1表3.1)。

図3.1 プルトニウムと高濃縮ウランの世界の在庫量(推定)


(1) 1994年12月31日現在
(2) 誤差はプルトニウムが10%、高濃縮ウランは25%
出所:Albright, Berkhout and Walker. “Plutonium and Highly Enriched Uranium 1996 : World Inventories, Capabilities and Policies”, SIPRI and Oxford University Press, 1997.

(トン) 

プルトニウム

高濃縮ウラン
軍事用 250 1,750
民生用 120
(分離プルトニウム、MOX燃料加工済みも含む)
20
使用済み燃料内 790

1,160 1,770

表3.1 民生用プルトニウム蓄積・消費量の予測(metric ton)
所有国 Pu 在庫量
(1993)
Pu 在庫量
(2000)
消費/分離量比率
ベルギー 1.6 0.9 1.26
フランス 18.2 32.1 0.66
ドイツ 10.5 28 0.30
日本 10.7 29 0.20
スイス 0.2 2.7 0.29
ロシア 26 32 0.00
イギリス 58 74.4 0.00
インド 0.3-0.4 0.8-1.7 0.00

合計
125.5+ 199.9+ 0.45
出所:David Albright, Frans Berkhout and William Walker. “Plutonium and Highly Enriched Uranium 1996 : World Inventories, Capabilities and Policies,” Oxford University/SIPRI, 1997, Tables 6.8, 7.11
 さらに、軍事用プルトニウムまで考えると、世界的な余剰削減の流れはますます強くなっている。1997年9月のIAEA総会において、ロシアははじめて余剰プルトニウムの量(核兵器解体から回収されて不要となった量)を50トンと公表。これで米、ロシアとも軍事用から50トンずつを余剰分として処分することが正式に明らかになった。このような動きに影響を受けたのか、40トン以上もの民生用プルトニウムを抱える英国が、最近になってようやく「余剰削減(処分)の方法を検討中」と述べるようになった。
 このような流れの背景には二つの重要なポイントがある。まず第一に、プルトニウムの余剰は軍事用、民生用を問わず、安全保障上望ましいものではない、という世界的な共通認識ができた、という事実である。もちろん、安全保障上最も脅威となっているのは、核兵器解体後の余剰プルトニウムであり、すでに国際保障措置を受け入れ、計量管理も完備している民生用プルトニウムのリスクは、相対的に低い。しかし、それでも余剰削減は世界の安全保障上、重要な課題と認識されており、この流れは当分変わることはない。
 第二の事実は、プルトニウムを商業用燃料として積極的に購入しようという企業や国が存在しない、という事実である。プルトニウム利用に積極的といわれているわが国をはじめ、ドイツ、フランス、英国、ロシアでさえ、他国の余剰プルトニウムまで利用しよう、という国は出てきていない。そこには、プルトニウムが商業用燃料として「負の価値」しか持っていない、という現実がある。
 それでも、プルトニウム利用を進めることにより、貴重なウラン資源の節約になることは事実である。しかしながら、現在計画されているプルトニウム利用の規模では、最大利用されたとしても、その節約効果は世界的に見ても10%に至らない。節約効果を狙うのであれば、むしろウラン濃縮廃棄濃度の低減を図るほうがより有効で、コスト面でも有利である。
 さらに、本来FBRでの利用が本命とされていたプルトニウム利用はFBR商業化の遅れにより、現在プルサーマルがその主要な利用方法と考えられている。しかし、プルトニウムの資源的価値を最大限に生かすためには、プルサーマルで燃焼するのは好ましくない。本来、高速炉で燃焼してこそ、プルトニウムの資源的価値は最大に利用されることになる。長期的なエネルギー資源問題を考えれば、第1章で述べたように、プルトニウムは当面使用済み燃料のままで貯蔵しておき、将来FBRの実用化に合せて利用するほうが本来の目的に適っているはずである。
 このように、プルトニウムの商業的価値や節約効果を期待するのはもはや現実的ではなく、世界の共通認識は「余剰をできるだけ削減せよ」という方向になっているのである。そのような意味で、わが国が1991年に打ち出した、「プルトニウム余剰ゼロ」政策は、世界に誇るべき政策であり、かつ順守すべきものである。はたして、どうすれば順守できるのだろうか。』