野口(1996)による〔『山と空と放射線』(236-238p)から〕


F宇宙線と大地放射線による被曝線量
 通常の地域に住んでいる人間が宇宙線や大地放射線など自然界に存在する放射線によって1年間に受ける被曝線量は、原子放射線の影響にかんする国連科学委員会の1993年報告書によると、表4-6のようになるという。
表4-6 自然放射線源から受ける実効線量当量(μSv/年)*

放射線源

体外被曝
体内被曝 合計
宇宙線 電離成分 300   300
中性子成分 80   80
宇宙線生成核種(炭素14のみ)   12 12
原始放射性核種(ラドンを除く)
 カリウム40
 ウラン系列
 トリウム系列
ラドンとその壊変生成物
 ラドン222の吸入

 ラドン220の吸入
 ラドン222の経口摂取
460





230



1300
(1200)**
(70)**
(5)**
690



1300

合 計(四捨五入してある)
840 1540 2400
* 原子放射線の影響にかんする国連科学委員会1993年報告書より作成。
** ラドンとその壊変生成物にかんする括弧内の値は内訳。

 これによれば、体外被曝線量が約840マイクロシーベルト、体内被曝線量が約1540マイクロシーベルト、合計約2400マイクロシーベルトになる。体外被曝線量より体内被曝線量の方が約2倍も大きい勘定になる。
 体外被曝線量の内訳としては二次宇宙線が約380マイクロシーベルト、原始放射性核種のカリウム40、ウラン系列、トリウム系列の合計が約460マイクロシーベルトとなっている。
 体内被曝線量の内訳としては宇宙線生成核種が約12マイクロシーベルト、原始放射性核種のカリウム40、ウラン系列(ラドン222とその壊変生成物を除く)、トリウム系列(ラドン220とその壊変生成物を除く)の合計が約230マイクロシーベルト、ラドンとその壊変生成物の合計が約1300となっている。
 体内被曝の場合、ウラン系列のなかのラドン222とその壊変生成物(ポロニウム218、鉛214、ビスマス214、ポロニウム214)の吸入による線量寄与が非常に大きい。また、トリウム系列のなかのラドン220とその壊変生成物(ポロニウム216、鉛212、ビスマス212、タリウム208)の吸入による線量寄与もそれなりに大きいことがわかる。これらの放射性核種は要するにラドンの同位体とその子孫核種なのだが、ラドンは周期表の18族元素(旧0(ゼロ)族元素)すなわちヘリウム、ネオン、アルゴンなどと同じ希ガス元素で、気体であるため地表面や建物の壁や床などからしみ出しやすい。
 そのため、空気中にはラドン222やラドン220、およびそれらの子孫核種が、決して目に見えるわけではないがプカプカと漂っている。おまけに、これらの核種はアルファ線を放出するものが多い。人間は片時も休まず呼吸をしないと生きていけないから、空気中のラドンの同位体とその子孫核種を1年間ものあいだ吸入し続けることによる体内被曝線量(実際に被曝するのは肺組織)はかなり高いものになる。
 なお、『生活環境放射線』(原子力安全研究協会)によれば、日本人が宇宙線や大地放射線など自然界に存在する放射線によって1年間に受ける被曝線量は、国連科学委員会の1993年報告書のより低く、体外被曝線量が約670マイクロシーベルト、体内被曝線量が約810マイクロシーベルト、合計約1500マイクロシーベルトと見積もられている。』