世良(1999)による〔『資源・エネルギー工学要論』(146-154p)から〕


5.3 核分裂エネルギーの平和利用(原子力発電)
 世界最初の核エネルギーの利用、原子力の稼働は1942年米国(シカゴ)であった。目的は不幸にして軍事目的で、ウラン235からのプルトニウム239の生産、すなわち原子爆弾(1945年広島、長崎に投下)の製造であった。
 核エネルギーの平和利用は、核分裂反応エネルギーを熱エネルギーとして取出し、蒸気タービンを用いて発電する(原子力発電)ことである。天然のウランの主成分はウラン238である。容易に核分裂し核燃料(nuclear fuel)として利用できるのはウラン235のみであるが、その量は天然ウランのうちのわずかに0.72%(天然存在原子比)でしかなく、残りは安定なウラン238である。天然ウランを原子力発電用燃料として用いる場合には、一般にはウラン235を3〜4%程度にまで濃縮したもの(低濃縮ウラン)が用いられる。天然ウランの主成分である安定なウラン238からも、核反応によって核分裂性のウラン233やプルトニウム239を作り燃料とすることによって、ウラン資源の有効活用率を高めることもできる(高速増殖炉など)。
 原子力発電の世界第1号は、1956年の英国のコールダーホール発電所(プルトニウムの生産との併用)であった。わが国の第1号原子力発電所は、1965年に建設された日本原子力研究所(茨城県東海村)のコールダーホール改良型である。

5.3.1 原子炉の構成
 原子炉(nuclear reactor)は、図5.6(略)に示したように核燃料(核燃料集合体150〜200本で構成されている)、制御棒、減速材、冷却材から成る反応器(原子炉)と熱交換器、蒸気発生器、炉心冷却装置(内部、外部、安全装置)、放射能防護壁などから構成されている。
 核燃料集合体(nuclear fuel assembly)は、濃縮ウラン酸化物ペレット(外径8〜12mm×長さ10〜20mm)を原料とする燃料棒(Zr合金・ジルカロイ製、外径10mm×長さ4m程度、ペレット約270個入り)を、50〜70本程度束ねたもの(図5.7:略)であり、原子炉には集合体が300〜700本程度配置されている。
 ウランの核分裂は速度の遅い熱中性子(ウラン235に対する核分裂断面積が大きい)のほうが効果的に起きる。したがって、原子炉においてはウラン235の核分裂により生じる高速中性子(1〜2MeV)を熱中性子レベル(0.025eV前後)にまで減速する必要がある。減速材(moderator)には種々の物質(黒鉛、軽水、重水などの原子番号が小さい元素の化合物)が用いられる。
 制御棒(control rod)は、原子炉内の中性子数を調整し原子炉の出力を制御するためのものであり、中性子を吸収しやすい物質(炭化ホウ素B4C、銀合金、Cd化合物など)から作られている。
 冷却材(coolant、熱交換媒体)は原子炉を冷却すると同時に、核分裂反応によって発生したエネルギー(熱)を取出すために用いられる。冷却材には中性子と反応しない物質(軽水、CO2、Heなどのガス、溶融金属ナトリウムなどの種々の媒体)が用いられる。減速材として軽水が用いられる場合には、冷却材にも軽水が用いられることが多い。

5.3.2 原子炉の種類
 原子炉は減速材、冷却材などの種類によって表5.2に示したような種々の型式のものがある。
表5.2 種々の原子炉の型式
型式 略称 主要中性子 燃料 減速材 冷却材
沸騰水型軽水炉 BWR 熱中性子 低濃縮UO2 軽水 軽水
加圧水型軽水炉 PWR 熱中性子 低濃縮UO2 軽水 軽水
重水炉 HWR 熱中性子 天然UO2 重水 重水(軽水)
ガス冷却炉 GCR 熱中性子 天然UO2 黒鉛 CO2
高温ガス冷却炉 HTGR 熱中性子 低濃縮U(O2、C2)、Th(O2、C2 黒鉛 He
高速増殖炉 FBR 高速中性子 (U、Pu)O2 溶融ナトリウム

 黒鉛炉(graphite-moderated reactor)は減速材に黒鉛を用いる原子炉である。天然ウランを使用でき、ウランの濃縮が不要である利点があるが、型式としては初期のものである。冷却材に軽水を用いる黒鉛軽水炉は旧ソ連圏に多いが、旧式で低出力時に不安定特性(設計不良、自己制御性不良)があり、また防護設備に問題(建設費の節減優先)があるなど課題が多い。重大な事故を起こしたチェルノブイリ原子力発電所もこの型式である。冷却材にCO2、Heなどの気体を用いるガス冷却炉(GCR、gas-cooled reactor)には、イギリスのコールダーホール型(CO2冷却)、改良型高温ガス冷却炉(HTGR、high temperature gas-cooled reactor、He冷却、低濃縮ウラン使用)などが有名である。わが国でも新型のHTGR(日本原子力研究所、最大出力3万kW、1998年11月臨界達成)の研究が進められている。
 軽水炉(LWR、light water reactor)は軽水を減速材および冷却材として用いるものである。軽水は安価であるが中性子吸収が大きいので、燃料であるウラン235の濃縮(3〜4%)を要する。軽水炉は安価であり経済性に優れているので、現在用いられている商用発電所の原子炉は大部分が軽水炉であり、米国を中心に世界で最も広く(日、仏、独など)利用されている。軽水炉にも沸騰水型と加圧水型、その他の型式がある。
 沸騰水型軽水炉(BWR,boiling water reactor)は、概念図を図5.8(略)に示したように、原子炉内で直接中圧蒸気(300゚C、70気圧程度)を発生させる型式である。原子炉のサイズは内径7m、高さ20m程度である。燃料交換は年に1回、燃料棒の約1/4程度を交換する。
 加圧水型軽水炉(PWR、pressurized water reactor)は、図5.9(略)に示したように原子炉内で発生させた高圧熱水から、熱交換器(蒸気発生器)を用いて間接的に高圧蒸気(350゚C、140気圧程度)を発生させる型式である。燃料棒を緊密に配置する構造のため、原子炉圧力容器は比較的小さく(内径5m、高さ16m程度)できるが、容器を肉厚にする必要がある。間接蒸気発生方式であるため熱交換器にはトラブル(細管損傷)が起こりやすいが、放射能によるタービンなどの汚染がなく、炉心事故の際の放射能汚染蒸気の漏洩などがない利点もある。
 改良型沸騰水型軽水炉(ABWR、advanced boiling water reactor)は、炉心冷却設備を原子炉内に設置するなど(図5.10:略)の小型化改良して建設費の低減を図った最新型の軽水炉である。東京電力などで採用されている。ABWRではMOX(モックス)燃料を用いる発電も可能であり、わが国で世界最初のMOX燃料100%を利用する“フルMOX発電所”の計画(電源開発大間発電所、138万kW、2002年着工目標)などもある。
 重水炉(HWR、heavy water reactor)は、中性子の減速に適している重水を減速材に用いる原子炉である。重水は高価であるが、天然ウラン(ウラン235の含有量0.72%)を濃縮することなく用いることができる利点がある。カナダ・CANDU炉などが、その例である。
 新型転換炉(ATR、advanced thermal reactor)は、重水減速・沸騰軽水型原子炉である。通常の軽水炉よりも効率が高く、高速増殖炉(FBR)の開発完成までの間の高効率軽水炉として計画された。わが国では、実験炉「普賢」(ふげん)の開発に成功し1979年に運転を開始したが、実証炉開発には高コストがかかるため電力業界の賛同が得られず、開発計画〔核燃料サイクル開発機構(旧動力炉・核燃料開発事業団のこと)〕は停止状態にある。
 高速増殖炉(FBR、fast breeder reactor)は、ウラン資源の有効利用率を高めるためにウラン資源のすべて(ウラン235およびウラン238)、あるいはウランの核分裂によって生成するプルトニウム(プルトニウム239)などまでも、エネルギー源として利用するように開発された原子炉である。すなわち、ウラン235の核分裂から出てくる高速中性子をウラン238に衝突させて生成したプルトニウム239などを、ふたたび核分裂させてエネルギーを回収する(図5.5参照:略)。高速増殖炉の構成概要を図5.11(略)に示す。
 高速増殖炉では中性子を減速する必要がない(高速中性子を用いる)ので減速材は不要であり、また冷却材に溶融金属ナトリウムを用い、高温の熱源(高圧蒸気)を回収できるところに特長がある。技術開発はフランス〔原型炉Phoenix、実証炉Super Phoenix(124万kW、1985年運転開始、1998年廃炉を決定)〕、日本をはじめとし、米国〔実験炉6基、原型炉FFTF(40万kW)〕、ロシア〔実験炉、原型炉、実証炉BN-800(80万kW)〕、英国(原型炉PFR、25万kW)、そのほか4カ国で熱心に進められていたが、現在その多くは研究運転後、閉鎖されている。
 わが国は、原子力委員会を中心に2030年ころを目標に実用化開発を進め、実験炉「常陽」(じょうよう)(10万kW、1977年臨界到達)、原型炉「文殊」(もんじゅ)(28万kW、1994年臨界達成)を開発してきたが、諸般の事情(1995年文殊の2次冷却系のナトリウム漏洩事故、ソ連崩壊後のウラン燃料・余剰プルトニウムの世界的需給緩和と価格低下、世界の開発動向など)から、1997年には長期エネルギー対策としての研究用(核燃料サイクルの研究)としておみを継続する方向へと転換した。実証炉は民間で進める予定であったが、現在計画は白紙化されている。このように、高速増殖炉は優れた原子炉であるが、現状では技術がまだ未完成のところもあり、安全性、経済性(建設費は軽水炉の1.5〜2.5倍)においてもなお改善の余地がある。
 しかし、上記のように高速増殖炉は、ウランの濃縮も不要(天然ウラン使用可能)であるほか、減速材不要、熱効率が高い(冷却材に高温の溶融金属ナトリウムを用いるため)などの特長がある優れた原子炉であり、さらにウラン238および生成したプルトニウム239も燃料として利用することができ、ウランの利用効率が高いなど利点が大きい。この利点はウラン資源の寿命(約70年)を事実上無限大にする(ウラン利用率が数十倍に向上し、また、利用可能な核燃料の量が天然ウラン量の1.2〜1.3倍となる;計算上の利用可能寿命は7000〜10000年)ことを意味している。したがって、高速増殖炉の安全運転技術が完成し実用化されるようになれば、将来のエネルギー不足問題、特に電力供給問題はほぼ永久的に解決されることになり、高速増殖炉は21世紀以降のエネルギー問題解決の切り札(商用原子力発電所)としての期待が大きい。問題点をあげつらう(角を矯めて牛を殺す)ばかりではなく、21世紀以降のエネルギーのために安全性を中心にひき続き技術開発に努力を続けるべきであろう。』