高木(1998)による〔『核燃料サイクルの黄昏』(9-10p)から〕


核燃料サイクルの黄昏
閉じないサイクル

 まず、本書や本稿のタイトルにもなっている「核燃料サイクル」という言葉の話からしなくてはならない。原発に絡む核燃料や放射能の流れという意味で私自身も長年使ってきたが、実はこの言葉は、海外の仲間、研究者の間ではいたって評判が悪い。サイクルと言うからには輪が閉じていて、その中をものが循環するというイメージだが、核燃料サイクルは決して文字どおりのサイクルではない。
 仮に再処理しをして、回収したプルトニウムをMOX(プルトニウム・ウラン混合酸化物)燃料にして再利用するとしても、循環されるのは流れの中のごく一部すぎない。回収ウラン(減損ウラン)は今日一般には、再利用されていない。ウランとしての品質も劣化するし、経済性の面からも再利用に値しないからだ。
 百歩譲って、回収ウランの「リサイクル」を認めたとしても、使用済み燃料中の最もやっかいなゴミである死の灰の本体は、放射性廃棄物として残る。それだけでなく、ウラン採掘から、廃炉処分に至る全体の流れに従って、ぼう大な量の廃棄物が排出され、その多くは処分がやっかいな放射性廃棄物である。この状況を図1に示すが、この図を見れば、「核燃料サイクル」はフルに稼働したとしても、実は放射性廃棄物を作り出す仕掛けのようなものであって、とても「サイクル」ではないことがおわかりだろう。

図1 「核燃料サイクル」の一例(もとは図)

M O X

ウラン採鉱

製錬
↑↑


燃料加工

原発



M
O
X
燃料加工
↑↑

→ ウラン鉱石



→ 天然ウラン



→ 濃縮ウラン



→ 核燃料





→ ↓使用済み燃料

→ プルトニウム



ウラン残土

鉱滓



ウラン廃棄物

劣化ウ

ウラン廃棄物
発電所廃棄物

超ウラン廃棄物

高レベル廃棄物

減損ウラン


超ウラン廃棄物

※低濃度の気体・液体廃棄物は薄めて放出される。
※原発の廃炉、各工程の廃施設からも大量の放射性廃棄物が発生する。
原子力資料情報室作成


 ところで、最近、日本政府や原子力産業は、核燃料サイクルというと、上のように原発に絡む核燃料や放射能の流れという一般化した意味ではなく、再処理−プルトニウム利用に基づく流れを「核燃料リサイクル」として強調し、もっぱらこの意味で「核燃料サイクル」を使う傾向が強くなった(これが最近の傾向であることは、たとえば、私の手元にある『原子力用語辞典』〔1981年刊、コロナ社〕を見ても、この言葉が、ウラン燃料の使い捨て方式も含めた燃料の全工程に対して定義されていることでも分かる)
 これは上に述べたように、ほんの部分的な「リサイクル」にすぎないのだが、その部分的な流れをとにかくも完成させたいということなのだろう。動燃(動力炉・核燃料開発事業団)が改組されて生まれた新法人の「核燃料サイクル開発機構」などその典型例である。
 この「サイクル」がまわるかどうかは、実質的には、ダウンストリームといわれる、原発から廃棄物処分までの流れの下流部分が動くかどうかにかかっている。この下流部分は、もともと原子力の最も汚い≠ニいわれる部分で動燃がもっぱら担わされてきたのだが、その組織全体がまったく汚いものになってしまって、天下に醜態をさらけ出した。これが一連の事故と「事件」である。』