辻本(1992)による〔『放射線防護の基礎』(254-256p)から〕


(2)放射性廃棄物の分類
 放射性廃棄物とは*『放射性物質および放射性物質によって汚染された物で廃棄しようとするもの』である。このように廃棄しようとしたときから廃棄物になる。廃棄物は、すべての工業産業過程において、形状は異なるが発生する。しかし、放射線および原子力施設(以後、単に原子力施設と書く)から生ずる廃棄物には放射線を発生するものが含まれており、廃棄物としての危害の上に放射線による危険性が加わる。
*放射性廃棄物の定義は下記の諸規定において行われており「核燃料物質および核燃料物質によって汚染された物で廃棄しようとするもの」となっている。
@試験研究の用に供する原子炉などの設置、運転に関する規則
A実用発電用原子炉の設置、運転に関する規則
B実用船舶用原子炉の設置、運転に関する規則
C核燃料物質などの工場又は事業所の外における廃棄に関する規則など

 放射性廃棄物は、各種の物理的、化学的形態をし、多くの産物よりなり、多種類の放射性核種で構成され、濃度レベルも異なる。そこで、いろいろな方法により分類されているが、その代表的なものを表13.1に示す。
表13.1 放射性廃棄物の分類
形態 気体
液体
固体
濃度レベル 高レベル
中レベル
低レベル
発生源 放射性同位元素取扱事業所
原子力発電所
再処理工場
その他
半減期 短半減期
長半減期

 形態的には、気体、液体、固体に分類することができる。この分類によって処理方法が大まかに決まる。次に、濃度レベルの区分によって処理方法の詳細が決まる。濃度レベルの区分は、わが国と国際原子力機関(International Atomic Energy Agency, IAEA)では少し異なっている。その比較を表13.2に示す。IAEAでは、固体廃棄物の区分をα固体廃棄物を除けば表面線量で行っているが、わが国では濃度レベルで区分している。極低レベルは、次に述べる希釈によって放出できる程度に低いもの、低レベルは直接取り扱えるもの、中・高レベルはなんらかの処置をしないと取り扱えないものである。発生源の分類では、放射性同位元素を取り扱う事業所と原子力発電所、再処理工場、その他となる。これら各々は規制を受ける法令が異なり、発生量および濃度レベルが大きく異なる。放射性廃棄物の生成量の多いものは原子力発電所であり、濃度レベルの高いものは再処理工場である。核燃料物質を産出する鉱山、鉱石の採取、選鉱、精錬、加工などの各段階においても特有の廃棄物が出る。これを「その他」とする。放射性同位元素を取り扱う事業所は量、濃度とも少ないが事業所の数が多い。また、その中で医療施設で発生するものは半減期が比較的短い。半減期の短い放射性同位元素であれば減衰を待って廃棄すればよいが、半減期の長い放射性同位元素ではそのようにはいかない。発生量、濃度および半減期の異なりにより、廃棄物の処理方法および規模が違ってくる。
表13.2 放射性廃棄物の区別

(わが国の区分)

固体廃棄物
Bq/m3

液体廃棄物
Bq/m3

気体廃棄物
Bq/m3
  極高レベル >3.7×1015  
高レベル >3.7×1013 高レベル 3.7×1015〜3.7×1013 高レベル >3.7×1014
中レベル 3.7×1013〜3.7×1010 中レベル 3.7×1013〜3.7×107 中レベル 3.7×104〜3.7×10
低レベル 3.7×1010〜3.7×107 低レベル 3.7×107〜3.7×104 低レベル 3.7×10〜3.7×10-2
極低レベル <3.7×107 極低レベル <3.7×104 極低レベル <3.7×10-2

(IAEAの区分)

固体廃棄物
mSv/h

液体廃棄物
Bq/m3

気体廃棄物
Bq/m3
高レベル >20 極高レベル
高レベル
中レベル
>3.7×1014
3.7×1014〜3.7×109
3.7×109〜3.7×107
高レベル >3.7×104
低レベル 20〜2 低レベル 3.7×107〜3.7×104 低レベル 3.7×104〜3.7
極低レベル <2 極低レベル <3.7×104 極低レベル <3.7
ただし、α固体廃棄物は別区分としてBq/m3で表示する    
注)1964年6月12日廃棄物処理専門部会報告書より引用。この場合報告書の1mR/hを0.01mSv/hに換算した。