Abstract
『要旨
下部ジュラ系層状チャート中の放散虫化石群集・岩相変化及び地球化学的分析をもとに、Toarcian期における海洋事変を詳細に検討した。その結果、本事変は、Pliensbachian期とToarcian期前期の2度にわたって世界的な規模での海洋環境変動として進行したことが以下の事実により明らかになった。
1)放散虫化石群集は、上記2時期をへてジュラ紀中・新世および白亜紀に多産する種に近縁なものが優勢になる変化を示し、特にmulticyrtidsにおいて顕著に観察される。このような中生代後期型への変化は、世界各地の深海・浅海堆積物中に産出する放散虫化石を含む海生無脊椎動物化石において広く識別され、その変化時期は一致している。
2)岩相は、Toarcian期前期の動物相変化層準直前において顕著に変化しており、厚い頁岩や貧酸素状態(OAE)を示すFeS2を含む黒色堆積物が深海・浅海相とも卓越する。また、まれにトリアス紀新世におよぶ堆積間隙がみられ、コノドントなどの再堆積も観察されることから、深海・浅海における底層流の変化が示唆される.
3)動物相の2つの変化相準と一致して、顕著な堆積物中の酸素・炭素同位体比の変化が報告されており、なんらかの海洋環境変化(海水温や生物生産量の変動)が動物相変化の要因となったことが推察される。
ジュラ紀古世後期(Pliensbachian期・Toarcian期を含む)は、パンゲア大陸の分裂に伴いテチス水路の形成された時期とされている。堆積物中に記録された上記の変化は,水路の開通による海流循環の表層から深層に及ぶ変化とそれに起因する環境変動モデルで説明可能である。』
1.はじめに
2.海生無脊椎動物相の変遷
3.堆積相の変化
3.1深海堆積物中のToarcianセクション
3.1.1岩相変化
3.1.2再堆積
3.1.3地球化学的検討
3.2浅海堆積物中のToarcianセクション(ヨーロッパ)
4.Toarcian期の海洋事変一何が起こったのか?
(1)海生無脊椎動物相の著しい変化
(2)岩相変化
(3)再堆積のプロセス
(4)堆積物の同位体比
5.最後に
謝辞
文献