広渡文利(1965):マンガン鉱物と鉱石(4)地質ニュース、1965年5月号、129、30-44.



注:原著では、句点には『.』、読点には『 』(スペース)が、用いられているが、ここではそれぞれに『。』と『、』を用いた。
注:写真類は省略。

]T.マンガン鉱石の品位
 鉱石の品位は、鉱石を取引する際に、重要な問題である。マンガン鉱石の品位をいう場合には、その用途によって大きく2つに分けられる。すなわち、二酸化マンガン鉱の場合は、MnO2パーセント、金属マンガン鉱の場合はMnパーセントで呼ばれるのである。品位の決定は、一般に需要者側(鉄鋼メーカー)の化学分析によって決められ、取引されているようである。鉱山の現場で分析設備をもっているところでは、前もって品位をチェックすることができるが、大部分のマンガン鉱山では分析設備をもたないので、結局、鉱山技術者が肉眼で品位を推定し、見込品位を決めている。したがって、鉱山側の見込品位と、需要者側の分析品位とが、だいたい一致する場合は問題ないが、著しく違う場合にはいろいろの問題が生ずるようである。
 鉱石の品位を決めるには、それを構成するマンガン鉱物の種類と量比がわかれば、必然的に品位は決るはずであるが、鉱山の現場や急を要する場合は、それらを検討する暇は与えられない。そこで、鉱山技術者および業者の経験による「カン」が発揮されるわけである。この「カン」を得るためには、ある程度経験をつめばじゅうぶんである。たとえば、金属マンガン鉱(珪マン、炭マンなど)では、熟練者になれば、分析結果に対して1〜2%の誤差で推定することができる。ところが、二酸化マンガン鉱の場合は、相当の熟練者でも、品位を推定することは容易でない。ことに用途に応じて品位と良否を決めることは、非常にむずかしい。それは、後述するように、二酸化マンガン鉱を構成する鉱物は、その鑑定がむずかしく、複雑だからである。
 以下、それぞれについて説明する。

1)二酸化マンガン鉱
 品位はMnO2パーセント、つまりMnの原子価が4価で存在する場合である。したがって、その分析方法も金属マンガンの場合と違う。ふつう工業分析では硫酸と蓚酸で分解する。その反応式は下記のようである。
 MnO2+H2C2O4+H2SO4=MnSO4+2H2O+2CO2
 そして、残余の蓚酸を過マンガン酸カリで滴定してMnO2を定量するのである。
 ところで、二酸化マンガン鉱を構成する主な鉱物は、前述したように(本誌No.118 1964-6)、クリプトメレーン鉱、パイロルース鉱、横須賀石(エンスータイト)、ラムズデル鉱、バーネス鉱、サイロメレーン鉱、轟石、水マンガン鉱などからなる。しかも、これらの鉱物が1種類からなる場合はなく、たいていの場合は数種類の集まりで、しかも個々の鉱物粒は非常に細粒で、不規則である。いわば、二酸化マンガン鉱は、「マンガンの粘土」とでも、いうことができる。したがって、二酸化マンガン鉱を構成するマンガン鉱物の組み合わせによって、その品位もいろいろと変化する。第2表(本誌No.118(略))に示しように、たとえば、4価のマンガン鉱物を主成分とする場合はMnO2としては、高品位であるが、2価の鉱物からなる場合はMnO2分よりはむしろMn分が高くなる。つまりサイロメレーン鉱や轟石のような2価のMnを含む鉱物が多ければ、MnO2としては低品位となるが、Mnとしては高品位の場合がある。
 そこで化学分析を行なう場合は、ΣMnO2とΣMnを定量するのが普通である。ΣMnO2は、マンガンが4価でのみ存在する分を定量したものであり、ΣMnはいろいろの原子価(2、3、4価)で存在するマンガン分を、Mnとして換算した合量である。
 普通、二酸化マンガン鉱の品位の規格は、その用途によって異なる。後述するように、二酸化マンガン鉱はいろいろの方面に利用されているが、その品位がもっともうるさいのは、乾電池用であろう。すなわち、乾電池では減極剤として使用されるが、鉱石の品位はMnO2 65〜85%、Fe 2%以下のものが要求される。 さらに不純物として、Cu、Ni、Co、As、Pb、Sbのような、Znに対して電気的に負の金属元素を含む場合は不適である。また、このような成分的な品位のみならず、このほかに電気的特性(活性度、起電力、放電容量など)も乾電池用鉱石としては、重要な規格である。
 つぎに、化学工業用、とくに過マンガン酸カリの製造に用いる場合は、MnO2 85%以上、SiO2 1%前後のものが要求されるが、このような鉱石は、本邦では産出しなくなったので、もっぱら輸入鉱石が用いられているようである。その他、写真材料用、亜鉛精錬用などは、MnO2 60〜70%の中級品が用いられ、ガラス工業用では、MnO2 40〜50%の低品位鉱が使用されるようである。

2)金属マンガン鉱
 品位はMnパーセントで取引されるが、この場合の原子価は、すべて2価ということではない。もちろん2価の場合がもっとも多いが、4価、および3価の場合もある。つまり、2、3、4価のMnを全部Mnに換算して、取引するのである。分析結果に、ΣMn、Total Mn(T.Mn)、Mnなどと書いてあるのは、みな同じ意味である。金属マンガン鉱を構成する鉱物は、二酸化、含水二酸化マンガン鉱物を除いたマンガン鉱物からなっている(それぞれのマンガン鉱物のMn%は、本誌No.121を参照されたい)。
 金属マンガン鉱は、その90%以上が、合金鉄、製銑、製鋼用に使用される関係上、一般に重要な成分は、Mn、SiO2、Fe、Pなどである。品位の規格は、各メーカーによって違うが、だいたい次ぎのようなものである。
 合金鉄用の中でも、フェロマンガン用では、Mn 35%以上、SiO2 20%以下、Fe 5%以下、P 0.1%以下である。一方、シリコマンガン用では、Mn 20%以上(所によってはMn 18%のものも使用されている)、SiO2 40%以上も可、Fe 2%以下、P 0.05%以下というように、その用途によって、品位の規格が違う。また、製銑、製鋼用では、普通Mn 40%±、SiO2 20%以下、P 0.08%である。これらの鉄鋼業関係に用いられる鉱石は、わが国では、炭マン、珪マン、および金属である。
 炭マンの場合は、つねに菱マンガン鉱(MnCO3)を主成分とし、そのほかに少量の酸化鉱物、珪酸塩鉱物を伴うので、一般にMn%に比べて、SiO2が低いのが普通で、SiO2 30%を超えることは珍しい。一方、珪マンの場合は、一般にSiO2を含むバラ輝石、テフロ石、ベメント石、マンバンざくろ石等からなるので、Mnに比べてSiO2が高く、時にはSiO2が40%を超える場合がある。
 鉱石の品位の中で、MnとSiO2の間には、つぎのような関係が見られる。すなわち、炭マンの場合はMn%+SiO2%が50±5%前後であり、珪マンではMn%+SiO2%が65±5%前後になるのが普通である。これらの値から著しく離れる時には、他の成分、Fe、CaO、MgOが存在するか、分析を再検討する必要がある。
 たとえば、炭マンの場合、きびマンではMn 50〜55%、SiO2 5〜6%、Fe tr〜0.5%で、Mn+SiO2=56〜61%である。チョコレート鉱では、Mn 48〜55%、SiO2 8〜15%、Fe 0.2〜0.9%、P 0.03〜0.06%、CO2 4〜10%、BaO 0.01〜0.50%である。チョコレート鉱の1つの特長として、少量のBaOを含むが、これは細脈状の重晶石(BaSO4)のためである。この場合はMn+SiO2=60〜66%である。つぎに、栗色炭マン、縞状炭マンでは、Mn 42〜48%、SiO2 9〜20%、Fe 0.8〜1.5%、P 0.02〜0.09%、CO2 9〜20%で、Mn+SiO2=55〜59%である。
 また、アヅキ炭マンでは、Mn 38〜42%、SiO2 15〜22%、Fe 0.5〜1.5%、P 0.03〜0.08%、CO2 9〜25%で、Mn+SiO2=50〜60%である。白炭マン、灰色炭マンでは、Mn 30〜35%、SiO2 8〜25%、Fe 0.2〜4.0%、P 0.03〜0.10%、CO2 15〜30%で、Mn+SiO2=42〜55%である。ブラウンでは、Mn 44〜50%、SiO2 9〜18%、Fe 0.3〜1.0%、P 0.02〜0.20%で、Mn+SiO2=60〜65%である。一方、珪マンの場合、バラキでは、Mn 28〜35%、SiO2 36〜44%、Fe 0.3〜3.0%、P 0.03〜0.06%で、Mn+SiO2=68〜75%である。テフロでは、Mn 36〜45%、SiO2 25〜35%、Fe 0.2〜3.0%、P 0.02〜0.05%で、Mn+SiO2=66〜73%である。かつお節鉱では、Mn 29〜35%、SiO2 28〜36%、Fe 0.8〜1.6%、P 0.02〜0.05%で、Mn+SiO2=70%である。珪質炭マンでは、Mn 23〜32%、SiO2 33〜45%、Fe 0.3〜2.5%、P 0.01〜0.15%で、Mn+SiO2=67〜70%である。第1表(略)に、それぞれの鉱石の分析結果を示す。


]U.マンガン鉱石の不純物
 ここでいう不純物は、マンガン鉱石を商業上取引する際に、問題になる成分および鉱物をいうのである。マンガン鉱石に伴う脈石(マンガン鉱石にならない鉱物)については説明しない。
 マンガン鉱石の中で問題になる不純物は、鉄、りん、銅、亜鉛、硫黄などである。その他、砒素、コバルト、ニッケルなども問題であるが、これらは、ほとんど問題にならないほど少量である。鉄分が問題になるのは、乾電池用または合金鉄用である。乾電池用の場合は、Fe 2%以下が要求される。また、合金鉄用では、少量の鉄は問題にならないが、Fe 8%を超えると嫌われる。鉄分の原因は、主として原鉱石が、鉄マン質鉱石であるか、あるいは赤鉄鉱、褐鉄鉱(針鉄鉱)、ヤコブス鉱等の混入のためである。また、二酸化マンガン鉱の場合は、混入する黄鉄鉱の酸化による褐鉄鉱の混入が鉄分を増加させるようである。
 りん分は、製銑、製鋼、合金鉄用には、もっとも嫌われる成分である。ことにシリコマンガン用に対しては0.05%以下が要求される。りん分の原因についてはじゅうぶんに検討されていないが、鏡下では、燐灰石が観察される場合があるので、おそらくそのためであろう。その他、第2表(本誌No.125 1965-1(略))に示されるように、多数の燐酸塩鉱物が知られているので、これらの影響も考えられるが、いまだ検討されていない。
 銅、鉛、亜鉛分は、古生層、中生層等の層状鉱床から産出する鉱石には、ほとんど認められないが、新第三紀の鉱脈型鉱床(菱マンガン鉱を主とする)から産出する鉱石には、かなり認められる。たとえば、上国鉱山の最近(昭和38年)の例では、精鉱として、Pb 0.57%、Zn 0.99%、大江鉱山(昭和39年)では、Pb 1.1%、Zn 3.2%、Cu 0.18%である。また、八雲鉱山(昭和39年)では、Pb 0.05%、Zn 0.8%である。大江、八雲、稲倉石、今井石崎鉱山では、いずれも浮選によって、Pb、Zn、Cuを回収し、除去したマンガン鉱石を焼結しているので、Pb、Zn、Cuは、認められないが、上国では、浮選せずに焙焼しているので、焼結鉱の中に、Pb、Znが残っている。また、乾電池用に使用される二酸化マンガン鉱、電解二酸化マンガン用に用いられる炭マンでは、もっとも嫌われる成分である。

]V.マンガン鉱石の化学的性質
 鉱石の化学的性質は、鉱石の品位を左右することはもちろんであるが、鉱石の選鉱、処理、利用などについても重要な性質である。鉱石の化学的性質の中で、とくに重要な性質は、化学成分と酸に対する性質であろう。化学成分については、すでに品位の項で説明したので、ここでは、酸に対する性質(溶解性)について説明する。
 そのためには、鉱石を構成するマンガン鉱物の種類を知ることである。これは、熟練すればある程度推定することができるが、細かく共生する鉱物や、特殊な鉱物については不明である。そこで鉱石を薄片にして、偏光顕微鏡で観察するわけである。マンガン鉱物の大部分は、偏光顕微鏡によって鑑定することができる(もちろん、不透明鉱物については、反射顕微鏡を用いる)。
 このようにして、鉱石を構成するマンガン鉱物の種類と性質がわかれば、必然的に酸に対する性質も分ってくる。マンガン鉱物の中には、酸に溶解するものが、意外に多い。たとえば、第4表(本誌N.125(略))に示すように、緑マンガン鉱、ハウスマン鉱、ハイドロハウスマン鉱、パイロクロイット、菱マンガン鉱、ベメント石、テフロ石、ペンヴィス石、アラバンド鉱、アレガニー石などは容易に酸に溶解する。一方、不溶のものは、ブラウン鉱、ガラクス石、マンガンざくろ石、ヤコブス鉱、ピロファン石、バラ輝石、マンガン輝石類、マンガン角閃石類、およびその他のマンガン珪酸塩類である。
 最近、電解二酸化マンガン用の鉱石が注目されているが、この鉱石の条件の1つに酸に対する溶解度が、問題にされている。この溶解度は、一定時間中のH2SO4に対する溶解度を数字で示したものである。
 さて、炭マンには、種々の鉱石があるが、一般に菱マンガン鉱を主成分とし、その他、共生する鉱物として、テフロ石、ハウスマン鉱、緑マンガン鉱、パイロクロイット、アラバンド鉱、アレガニー石、ガラクス石、バラ輝石、ブラウン鉱などからなっている。すなわち炭マンを構成する鉱物は、大部分は酸に溶解する鉱物からなっているために、酸に溶解しやすい性質を示すのである。また、珪マンでは、構成する鉱物が、バラ輝石、テフロ石、マンガンざくろ石、ブラウン鉱、ベメント石、プロファン石等であるが、テフロ石、ベメント石を除いたマンガン鉱物は、酸に不溶である。したがって、一般に珪マンは、酸に対して溶解しがたいことがわかる。
 このように、マンガン鉱石の化学的性質は、構成する個々のマンガン鉱物の性質によって決まるので、まず、構成するマンガン鉱物の種類と性質を知ることが大切である。

]W.マンガン鉱石の処理
1)選鉱

 マンガン鉱石の選鉱には、手選鉱と機械選鉱がある。手選鉱というのは、選鉱夫の肉眼によって鉱石とズリを選別する方法である。一般に坑内から運ばれてきた鉱石は、泥、粘土により著しく汚れているので、鉱石を水洗してから手選が行なわれる。しかしながら、良質の二酸化マンガン鉱の場合には、水洗する必要がないように採掘することが望ましい。水洗すれば良質の二酸化マンガン鉱が粉状になって流出することがあるからである。良質で粉状の二酸化マンガン鉱は、火薬を使わずできれば坑内で俵づめすることが望ましい。
 金属マンガン鉱(炭マン、珪マン系)の場合は、水洗後、さらに鉱石の性質により、鉱種別、たとえば、炭マン、テフロ、バラキ等といったように分けたり、または品位別に、たとえば、1等鉱(Mn 45%以上)、2等鉱(Mn 35〜44%)、3等鉱(Mn 25〜34%)、4等鉱(Mn 24%以下)というように選別される。
 マンガン鉱石は、前述のように、非常に多種類にわたるので、それらを肉眼で敏速に見分けることは仲々容易ではない。したがって、手選にあたっては、選鉱夫の熟練を要することになる。マンガン鉱山では、大部分選鉱場の設備が完備されていないので、組織的な選鉱は行なわれていないのが現状である。岩手県野田玉川鉱山、栃木県加蘇鉱山などには、大規模な手選鉱場が設営されている。つぎに機械選鉱には、比重選鉱と浮遊選鉱がある。比重選鉱には、さらに重液、ジガー、テーブル等の選鉱方法があるが、鉱石の種類によって、それぞれの選鉱方法が用いられている。たとえば、重液選鉱は主として菱マンガン鉱を主とする炭マンに対して使用され、ジガー選鉱器は炭マン、珪マンの1部の鉱石に用いられている。またテーブルはあまり使用されないが、二酸化マンガン鉱に対して用いられている。
 わが国で重液選鉱を採用しているのは、北海道の稲倉石、上国鉱山等が知られている。重液はいずれもフェロシリコン(比重 2.9±)であある。ジガー選鉱は、古生層、中生層中に胚胎するマンガン鉱石の中で、珪マン(1部炭マン)に対して用いられている。たとえば、岩手県野田玉川、栃木県加蘇、兵庫県山中鉱山などで用いられている。ジガー選鉱の場合、重要なことは鉱石の粒度をそろえることである。また、小規模な鉱山で用いられている手押式ジガーは、簡単で、有効である。
 テーブル選鉱は、愛媛県太平鉱山で、二酸化マンガン鉱について用いられているが、実収率があまりよくないと言われる。

 浮遊選鉱は、菱マンガン鉱を主とする炭マンと、酸化マンガン鉱について行なわれている。前者の例としては、大江、稲倉石、八雲、今井石崎鉱山などがあげられる(なお、上国鉱山でも近く行なう予定である)。これらの鉱山の鉱石は、菱マンガン鉱を主とするが、つねに少量の閃亜鉛鉱、方鉛鉱、黄銅鉱、黄鉄鉱を伴い、時には相当量の金・銀を含む場合がある。したがって、マンガン鉱以外に、銅、鉛、亜鉛、硫化鉱、金、銀精鉱をも回収している。1例として、大江鉱山の例を説明する。
 大江鉱山では、オール・スライム優先浮選方式を採用している。精鉱の回収の順序は、銅→鉛→亜鉛→硫化鉄鉱→マンガン鉱の順で回収される。マンガン鉱の選鉱剤は、珪酸ソーダ、ソーダ灰、オレイン酸、ケブラコを使用している。すなわち、まずソーダ灰を添加し、マンガン浮選に有害なCaイオンを炭酸塩にするとともに、pHを9.5に調整する。つぎに抑制剤としてケブラコを添加し、捕収剤としてオレイン酸を添加する。その結果、浮選の元鉱品位はMn 14%に対して、精鉱品位はMn 32%に上昇する。また、八雲鉱山の場合は、浮選元鉱品位はMn 22〜23%であるが、精鉱ではMn 32%である。今井石崎鉱山では、元鉱品位はMn 21%で、精鉱品位はMn 30〜31%である。
 一方、酸化マンガン鉱の浮選については、石けん液による浮選が有効とされている。一般に、酸化マンガン鉱は、粉砕に際して、多量のスライムを生ずる傾向が大きく、それが浮選におよぼす影響が大きいので、スライムの除去が必要である。浮選に際しては、条件剤として、ネオソープ、ケブラコが有効であるとされている。
 すなわち、酸化マンガン鉱と水酸化マンガン鉱からなる鉱石(たとえば、Mn 17〜18%のもの)を石けん液、ガス油、ケブラコ、石灰を使用して浮選し、Mn 50〜51%の精鉱を採取することに成功したといわれる。わが国で、野田玉川鉱山の鉱石について実験した結果、条件剤として、ケブラコ、ネオソープ、捕収剤として、オレイン酸を使用し、Mn 25%の粗鉱からMn 43%の精鉱を60%の実収率で採取したと報告されている。
 以上、選鉱の概要を説明したが、マンガン鉱石の選鉱については、北海道の菱マンガン鉱を主とする鉱山を除いては、あまり研究されていないのが現状である。ことに本州一帯に分布する古生層、中生層、変成岩中に胚胎するマンガン鉱山では、ほとんど大部分が手選によって選鉱されているのである。今後、マンガン鉱石の選鉱、とくに低品位鉱についての選鉱方法が研究されるべきであろう。

2)焙焼・焼結

 @焙焼
 マンガン鉱石の中には、焙焼によって品位が上昇する鉱石がある。たとえば、西南北海道に分布する菱マンガン鉱を主とする鉱石である。また、愛媛県一宝鉱山などに産する白炭マン、およびベメント石からなるかつお節鉱なども焙焼によって、やや品位が上昇する。しかし、これらは菱マンガン鉱の場合のように、著しく品位は上昇しない。焙焼には、ふつう竪型焙焼炉が使用されるが、この種の焙焼炉は、容量約20〜45トンの鉱石を収容し、燃料として薪・石炭を混用し、600〜800℃で、だいたい48〜70時間焙焼して、焼結鉱を得るのである。薪の量は、鉱石1トンに対して、約0.03トンを要する。普通、元鉱に対する品位の上昇率は、30%前後である。たとえば、大江鉱山の場合は、元鉱の品位はMn 26〜28%で、焼結品位はMn32〜35%である。稲倉石鉱山の場合は、元鉱品位Mn 28%に対して、焼鉱品位Mn 36%になっている。また、上国鉱山では、元鉱品位Mn 30.5%で、焼鉱品位はMn 41.4%になっている。

 A焼結
 マンガン浮選精鉱は、粉鉱であるので適当な塊粒(径20〜50mm)に焼結する必要がある。そのために、ロータリーキルンによる焼結が行なわれている。これを採用しているのは、大江鉱山と今井石崎鉱山(現在は休止)である。大江鉱山のキルンは、内径1.5m、炉長25.2m、据付傾斜は4%、回転数は0.8〜3.0r.p.m.で、温度は1200〜1250℃である。炉内滞留時間は40〜50分である。元鉱品位はMn 35〜36%で、Mn 47%に上昇する。今井石崎鉱山は、現在は休止しているが、元鉱品位はMn 35〜36%で、焼結鉱はMn 50%に上昇する。稲倉石鉱山では、グリナワルド式焼結法を採用している。これは、縦4m、横2m、高さ30cmの焼結炉で、粉鉱と塊鉱を混合して装入し、約1200℃で、15〜20分で焼結する。元鉱品位Mn 28%に対して焼結鉱はMn 36%まで上昇する。

3)製錬

 マンガンの製錬には、主として、
 (i)金属マンガン(メタリックマンガン)の製造
 (ii)合金鉄(フェロマンガン・シリコマンガン)の製造
 (iii)電解二酸化マンガンの製造
などが、あげられる。
 金属マンガンノ製造には、電解法と乾式法がある。電解法では、Mn 35%以上のマンガン鉱石を用い、原鉱石を粉細し、硫酸と二酸化マンガン鉱石を加えて溶解し、可溶性硫酸マンガンとし、ろ過して不純物を除き、陰極にアルミニウム、陽極に鉛を用いて電解すれば、陰極に金属マンガンが析出する。この方法により製錬された金属マンガンは、Mn 99.5%以上のものである。
 乾式法ではMn 25〜35%の鉱石でよい。エルー型電気炉内で、4段にわけて熔融を行ない、金属マンガンを作る。この場合はMn 93〜98%である。
 合金鉄の製造には、高炉、電気炉が使用されるが、わが国では、ほとんど電気炉法が用いられている。多量の電力を消費することと、輸送力の関係で、裏日本、および東北地方に工場が偏在するようである。電力の消費は、たとえば、高炭素フェロマンガンを製造するには約3,500kWh/tを要する。電気炉の代表的型式は、開放型ジロー式、エルー式があるが、その他密閉型や、炉床回転型がある。電気炉の容量は、わが国の場合は一般に小規模で1500〜3000kVaのものが多いが、最近では15,000kVaのものも現れている。アメリカのオハイオ州では、最近29,000kVaのものがあるといわれる。
 わが国におけるマンガン系フェロアロイメーカーのおもなものを第2表(略)にあげる。
 つぎに、電解二酸化マンガンの製法であるが、現在では、鉱石はもっぱら炭マン(菱マンガン鉱を主とするもの)が用いられている。つまり、酸に対する溶解度と溶解後のろ過性が重要視される。電解二酸化マンガンの製法には、いろいろの方法があつが、その1例について説明する。まず、鉱石を微粉細し、H2SO4と二酸化マンガン鉱を添加して溶解する。溶解中の鉄分は、pH 4〜4.5で、Fe(OH)3として除去する。ろ過した硫酸マンガン溶液(ピンク色の溶液)に炭素棒を両極として電解すれば、陰極に水素ガスを発生し、陽極に二酸化マンガンが析出する。この際の硫酸マンガン液の温度、濃度、電流密度が重要である。これによって、生成する電解二酸化マンガンの良否が左右されるのである。ふつう、電解に要する時間は10〜15日である。この電解二酸化マンガンはγ-MnO2である。

]X.マンガン鉱石の用途
 マンガン鉱石は、用途によって、金属マンガン鉱と二酸化マンガン鉱に分けられる。金属マンガン鉱の用途は、その大部分(95〜96%)が、製銑、製鋼、合金鉄用として消費され、残りの数%が、金属マンガン、溶接棒、電解二酸化マンガン、マンガン肥料などにあてられる。
 一方、二酸化マンガン鉱の用途は、乾電池、亜鉛製錬、化学薬品、写真材料、熔接剤、ガラス工業、窯業方面というように、多方面に消費されている。
 ところで、その消費量を見れば、昭和39年度において、金属マンガン鉱の全消費量は731,900トンで、その内、製銑、製鋼用として、34,000トン、合金鉄用として、683,400トンが消費されている。一方、二酸化マンガン鉱の場合は、全消費量は24,000トンで、金属マンガン鉱の約1/30にすぎないのである。つまり、マンガン鉱石の用途を、消費面から見れば、その大部分が、鉄鋼業用として用いられていることがわかる。以下、それぞれの用途別に説明する(第1、2図(略))。

1)金属マンガン鉱の用途
 フェロアロイ用(合金鉄用)

 合金鉄の製造は、はじめ黒鉛ルツボが用いられたが、小規模で、非能率であったので、高炉法に移行した。すなわち、高炉による合金鉄の製造が初まったのは1870年以降である。
 わが国では、明治末期(1900年前後)に、釜石製鉄所で、高炉法でフェロマンガン製法が行なわれたといわれている。その後、第1次大戦(1914年)を契機として活発な生産が初められたが、戦後は急激に需要が減少した。その後、1925年頃から次第に回復し始め、1931年の満州事変から1941年の第2次大戦まで、急激に増産が伸びた。そして戦後、ふたたび生産が低下したが、1952年頃から徐々に増産され、今日にいたっている。
 1964年度におけるフェロマンガン、シリコマンガンの生産量は、それぞれ、約21万トン、10万トンである。第3表(略)にマンガン系フェロアロイの生産量を示す。
 マンガン系フェロアロイの種類は、フェロマンガン、シリコマンガン、スピーゲルなどである。さらにフェロマンガンは、炭素の含有量によって、高炭素、中炭素、低炭素フェロマンガン等に分けられる。第4表(略)に、マンガン系フェロアロイの製品の規格を示す。
 フェロアロイ用として使用されるマンガン鉱石は、炭マン系のものでも、酸化系のものでもよい。炉の効率の点からいえば、酸化系のものがよいといわれている。それぞれのメーカーによって、鉱石の品位(規格)がやや異なるが、だいたいつぎのような規格が要求される。Mn 35%以上、SiO2 20%以下、S 1%以下、P  0.1%以下である。とくに、シリコマンガン用の場合はMn 20%以上であれば、SiO2 20%以上でも差支えない。むしろSiO2は多い方が喜ばれる。ただしPは0.05%以下が要求される。
 これらのフェロアロイは、鉄鋼業において、脱酸剤、および添加剤として使用される。すなわち、前者の場合は、製鋼作業において、主として熔鋼の脱酸作用と脱硫作用を行なうのである。また、後者の場合は、鋼んみ、抗張力、靭性、耐磨耗性などの性質を付与する働きをする。とくに、シリコマンガンは、炭素の含有量が低いことから、低炭素フェロマンガンの原料にもなる。

 製銑用
 製銑用にマンガン鉱が使用され始めたのは、1901年に八幡に高炉が建設されてからである。高炉によって銑鉄を作る場合、鉄鉱石の外に、若干のマンガン鉱が添加される。この場合のマンガン鉱の働きは、脱酸作用と脱硫作用である。製銑用として使用されるマンガン鉱石は、品位としては割合い低いものでよい。たとえば、Mn 35%以上、SiO2 40%以下、S 1%以下、P 0.1%以下の品質のものでよい。また、鉄分の多い鉄マン質の鉱石でも差支えない。マンガン鉱石の装入量は、銑鉄1トンを製造するにあたって、約0.02トンである。わが国での製銑用のマンガン鉱石の最近1年間の消費量は約2万トンである。

 製鋼用
 マンガン鉱石が製鋼用に用いられるようになったのは1870年以降である。製鋼作業でもっとも広く使われているのは、平炉法である。平炉では、装入原料として、銑鉄、鉄鋼石、マンガン鉱石、合金鉄、石灰石などである。この際のマンガン鉱の働きは、脱酸脱硫作用とともに、溶鋼にマンガン分を添加することである。
 マンガン鉱の添加量は、鋼1トンを製造するに、フェロマンガン0.006トン、マンガン鉱石0.01トンが加えられる。この場合、加えたマンガン鉱石のマンガン分の40〜50%が、スラグのなかに残り相当無駄になる。このスラグは、ふたたびマンガン鉱として平炉に使用されるが、最後のスラグは、マンガン肥料の製造に用いられる。製鋼用のマンガン鉱石の品位は、フェロアロイ用と大差ない。わが国の製鋼用のマンガン鉱石の年間消費量は、約13,000〜13,500トンである。

 熔接棒用
 機械製作、造船業などで、鉄板の熔接に熔接棒が使用されるが、この熔接棒の被覆の部分に用いられている。
 被覆の部分は、Mn、Fe、SiO2などの成分を主体とする粉末を練り固めたもので、Mn 10〜15%を含有するといわれる。また、自働電気熔接機に用いられる熔接用フラックスとして、各種の製品が作られているが、このための原料として、Mn 40%以上、SiO2 18%以下、Fe 2%以下、P 0.05%の鉱石が用いられていたが、最近では二酸化マンガン鉱(乾電池に不適のもの)が使用されている。この種の熔接用フラックスは、商品名として“ユニオン メルト・コンポジション”と呼ばれ、阪神溶接機材(株)で製造されている。昭和39年度では、製品として7,500トン生産されている。

 金属マンガン用
 金属マンガン、またはメタリックマンガンと呼ばれる。
 前述したように、電解法と乾式法によって製造される。金属マンガンは、炭素、りん、鉄などの不純物が少ないので、マンガンの添加剤、脱酸剤として、特殊鋼、非鉄合金等の製造に用いられる。これに用いられる鉱石は、国内の低品位炭マンが使用されている。わが国では、中央電気工業(株)と(株)鉄興社の2社により製産されている。年間約5,000トンの生産をしている。
 
 マンガン肥料用
 Mn 30%前後の金属マンガン鉱を粉細し、硫酸を加えて可溶性にし、さらに生石灰により中和して作られる。
 このほかに金属マンガン鉱を用いた合成肥料も作られている。これに用いられる鉱石は、Mn 30%以下の金属マンガン鉱が用いられている由である。また、前述したように、平炉のスラグを原料として、珪酸マンガン肥料が作られる。

 電解二酸化マンガン用
 第2次大戦前には、わが国では1部の乾電池業者により自家消費程度に、硫酸マンガンから直接電解で二酸化マンガンが生産されていたが、本格的に工業化されたのは、昭和24年以後である。乾電池用の天然二酸化マンガンの高品位鉱の生産が減少したために、電解二酸化マンガンの需要が増大してきた。
 電解二酸化マンガンは、ほとんど大部分が乾電池の減極剤として使用されている。これに使用される鉱石は菱マンガン鉱を主とする炭マンで、Mn 30%前後の低品位鉱が、もっとも多く利用されている。いわゆる白炭マン、灰色炭マンが好適である。最近では、西南北海道にある菱マンガン鉱を主とする炭マンが注目され、共存する銅、鉛、亜鉛等の硫化物を浮選によって除去したマンガンフロスが利用されている。国内のメーカーは三井金属鉱業竹原工場、鉄興社山形工場、阪神溶接機材高槻工場、富士電気化学鷲津工場、辻中電化工業大阪工場などである。昭和39年度における生産量は、約14,000トンで、使用される鉱石の消費量は、年間約4万トンである。

2)二酸化マンガン鉱の用途
 乾電池用

 1878年、Luclancheが二酸化マンガン鉱を用いて乾電池の製造を発見してから、二酸化マンガン鉱の需要が増大してきた。わが国では、明治20年頃(1887〜1891)から、二酸化マンガン鉱お開発が初められ、当時、北海道道南地方、岩手県九戸、富山県能登地方、京都丹波地方の二酸化マンガン鉱が注目された。しかしながら、この頃は、優秀な二酸化マンガン鉱は、外国人の手によって、英国、ドイツに輸出された。当時の生産量は、年間約14,000〜15,000トンを維持したようで、しかも品位は高く、精鉱にしてMn 80〜90%の最高品であった。
 乾電池用として国内で用いられるようになったのは、1911年頃からで、今日では大部分採掘し尽している現状である。昭和39年度における消費量は、約24,000トンである。乾電池用の鉱石の品位、規格については、すでに述べたので省略するが、わが国では、原料鉱石が次第に枯渇の状態で、昭和39年度における生産量は、約11,400トンである。天然の二酸化マンガン鉱に、電解二酸化マンガン鉱を混ぜて乾電池に用いられるが、天然産二酸化マンガン鉱は、前述したように鉱物学的には複雑で、むずかしい。人工二酸化マンガンのように、天然産の二酸化マンガン鉱にも、α、β、γ、δ-MnO2に相当するものがあり、乾電池用としてもっとも適当とされているγーMnO2にあたる鉱物は、横須賀石(エンスータイト)である。

 亜鉛製錬用
 電解亜鉛の製造の時、電解液中に含まれる2価の鉄イオンを3価の鉄イオンにするために、酸化剤として用いられる。このために使用されるマンガン鉱石の品位はMnO2 60〜80%で、粉状の鉱石が用いられる。亜鉛製品1トンに対して、約0.2kgの二酸化マンガン鉱が消費される。昭和39年度に使用された消費量は、約2,700トンである。

 化学薬品用・写真材料用
 過マンガン酸カリ、塩化マンガン、硫酸マンガン、硼酸マンガン、燐酸マンガンなどの化学薬品の製造に用いられる。これらに用いられる原料は、二酸化マンガン鉱の中でも高品位で、MnO2 80%以上、SiO2 1%以下のものである。大部分、過マンガン酸カリの製造に用いられ、この種の鉱石の品位は、さらに高品位で、MnO2 85%以上が要求される。昭和39年度における原料消費量は約1,200トンである。写真材料しては、ハイポ、ハイドロキノン現像液の製造に用いられる。これに用いられる鉱石の品位は、MnO2 75%前後である。昭和39年度における原料消費量は、約2,800トンである。

 その他の用途
 各種瓶類の着色、陶磁器類、土管、瓦、などの着色、マッチの製造、各種の酸化剤、漂白剤、消毒剤、塩素・臭素・沃素の発生用などに用いられる。

]Y.マンガン鉱石の価格
 マンガン鉱石の価格は、金属マンガン鉱と二酸化マンガン鉱とは、別系統である。

1)金属マンガン鉱
 金属マンガン鉱は、大部分が鉄鋼業用に消費されるので、鉱石の価格は、需要者側である製鉄メーカー、合金鉄メーカーと、供給者側である鉱山会社、およびその仲買業者との間の需給関係に左右される。最近では、外国鉱石の輸入によって、さらに大きく影響されるようである。したがって、金属マンガン鉱の価格は、一般に不安定で、たえずわずかな変動を余儀なくされている現状である。
 わが国では、国内マンガン鉱石価格の基準として「日本鋼管建値」なるものが、歴史的に鉱石取引の価格として用いられており、需要者側と供給者側とは、それぞれの需給関係、勢力関係によって、建値を中心として、ペナルティー、プレミヤムをつけて取引しているのが現状である。ここで、国内マンガン鉱石の価格の推移をふり返って見ることにする。第5表(略)に鉱石価格の推移を示す。国内鉱石の統制価格は、昭和21年3月に制定され、同26年3月付で廃止された。そこで、各メーカーは、○公(○の中に公)価格に種々の奨励金をつけて鉱石の確保に努めたが、購入量の多い日本鋼管の買い取り価格をもって、鉱石の建値として準用されるにいたった。同26年4月に建てた「鋼管建値」は、朝鮮ブームを反映して、従来の○公価格を大幅に上回った。その後、29年10月、建値の改訂は大幅に引き下げられたが、ふたたび神武景気の到来で、30年12月、31年7月と小刻みな値上改正が行なわれた。33年4月には、高品位鉱を低品位鉱よりやや大幅に引き上げたが、35年10月、ふたたび高品位鉱が引き下げられている。第6表(略)に金属マンガン鉱の価格を示す。

2)二酸化マンガン鉱

 二酸化マンガン鉱の中で、品位、規格のうるさいのは乾電池用に用いられる鉱石である。鉱石の価格も需要者側と供給者側との需給関係で左右される。二酸化マンガン鉱の場合は、輸入鉱石に影響されることが少ない。第7表(略)に昭和35年における鉱石の価格を示す。

]Z.マンガン鉱石の需給関係
 以上で、マンガン鉱石の種類、品位、処理、用途、および価格などについて説明したが、最後に、わが国におけるマンガン鉱石の最近の需給関係について述べることにする。

1)金属マンガン鉱
 第8表(略)および第3図(略)に、最近7年間における金属マンガン鉱の需給関係を示す。この表および図からわかるように、まず、鉱石の消費量を見れば、昭和33年、34年、35年度では、53万〜56万トンで、ほぼ大差ないが、36年度に入って大幅に増加し、73.7万トンになっている。ところが、昭和37年度では、逆に大幅に減少し、57.7万トンになっている。昭和38年度から順調に増加して行き、39年度では、36年度同様、73.2万トンが消費されている。また、各年度の在庫は、だいたい14〜16万トン前後が普通である。
 一方、国内の生産量を見れば、昭和33年度は、31.4万トンであるが、34年度では、一躍35.9万トンに増産されている。35年度、46粘土では、それぞれ32万トン、33.8万トンとやや下回るが、37年度では急激に減産し、28.4万トンに低下している。38年度、39年度では、やや上昇するが、せいぜい30万トン前後である。つまり、消費量は、年ごとに増加するのに反して国内生産量は、むしろ減産状態である。したがって、消費量をみたすには、輸入鉱石の買付量が年ごとに増大するわけである。
 すなわち、第8表(略)、第3図(略)に示すように、昭和33年度の買付量は、18.5万トン、34年度、35年度では、それぞれ23.3万トン、22.5万トンである。36年度では、急激に膨大し、一躍2倍の41.4万トンとなっている。37年度では、30.2万トン、38年度では、38.9万トン、さらに39年度では、45.5万トンに増加している。つまり、昭和33年から35年度までは、国内生産量の方が輸入量を上回っていたが、36年度頃から、逆に輸入量が生産量を凌駕するようになっている。今後も国内生産量が増加しない限り、ますます、輸入鉱石に頼らねばならないであろう。

 つぎに、金属マンガン鉱の消費の内訳について説明することにする。用途の項で説明したように、金属マンガン鉱の大部分は、製銑、製鋼、合金鉄用に消費される。第9表(略)に、その消費実績を示す。まず、製銑用の鉱石消費量は、昭和33年度から35年度までは、ほぼ3.5万トンで一定しているが、36年度になって4.2万トンと、急激に増加している。しかし、37年度から大幅に減少し、2.0万トンとなり、38年度では、1.8万トン、さらに39年度では、2.1万トンとほとんど横ばい状態をつづけている。つまり、製銑用のマンガン鉱石の消費量は、あまり増加しないものと思われる。つぎに、製鋼用であるが、昭和33年から35年度までは、約2.5万トン前後が消費されていたようであるが、製銑用と同様に、昭和37年度から急激に減少をはじめ、38年度では、1.4万トン、39年度では、1.3万トンと減少の一途をたどっている。
 一方、合金鉄用のマンガン鉱石の消費を見れば、逆に増加していることが分る。すなわち、フェロマンガン用は、昭和33年度は、35.2万トンであるが、昭和36年度、38年度では、それぞれ48.9万トン、45.6万トンと大幅に増加しており、39年度は、50万トンを突破している。また、シリコマンガン用も、昭和33年度の12.2万トンから、徐々に増加して行き、38年度では、18.9万トン、39年度では、17.4万トンになっている。今後、鉄鋼生産量の増大とともに、合金鉄の製造も増産され、マンガン鉱石の消費量も増大することは必至であろう。

2)二酸化マンガン鉱
 最近7年間における二酸化マンガン鉱の需給関係を、第10表(略)、および第4図(略)に示す。まず、鉱石の消費量を見れば、昭和33年度の1.4万トンから、徐々に増加して行き、38年度では、2.3万トン、39年度では、2.4万トンと、少しではあるが、着実に増加していることが分る。一方、国内の生産量を見れば、昭和33年度では、1.3万トン、35年度では、1.4万トン、36年度では、1.5万トンと、やや増加するように見えるが、37年度から急激に減少し、38年度、39年度では、いずれも、1.1万トンに減産されている。
 第4図(略)から分るように、消費量は、昭和33年度から、ほぼ直線的に増加しているにもかかわらず、国内生産量は、むしろ減産の方向に向っているのである。すなわち、年毎に需要が供給をオーバーして行くので、その分だけ、輸入鉱石にまたねばならない。たとえば、昭和33年度の輸入鉱の買付量は、0.8千トン、35年度では、3.5千トン、37年度では、6.2千トン、38年度では、1.1万トン、39年度では、1.4万トンとなっている。
 昭和33年度から37年度までは、国内生産量が輸入量をしのいでいたが38年度では、ほぼ同じになり、39年度では、逆に輸入量が国内生産量を上回っている。二酸化マンガン鉱は、国内では、次第に枯渇の状態であるので、今後は、新鉱床が発見されない限り、ますます、この傾向が強くなると思われる。

 つぎに、二酸化マンガン鉱の消費の内訳について説明する。第11表(略)に二酸化マンガン鉱の消費実績を示す。消費の内訳は、前述したように、主として乾電池用、亜鉛製錬用、写真材料用、輸出、その他に分けられる。乾電池用であるが、昭和33年度では、6.7千トン、35年度では1.0万トンと増加するが、36年度から39年度までは、ほぼ一定で8.0千トンである。亜鉛製錬用は、昭和33年度から39年度まで、ほとんど2.0千トンから2.6千トンで一定している。つぎに、写真材料用であるが、これも2.0千トンから2.8千トンで、ほぼ一定である。
 すなわち、乾電池用の消費量は、全消費量の35%、亜鉛製錬用は10%、写真材料用は10%にあたり、残りの45%が、輸出、およびその他に消費されるのである。

 以上、わが国における生産量と消費実績を述べたが、ここで、世界における生産量を見てみよう。第12表(略)は世界のマンガン鉱石の生産量である。1962年における全生産量は1,559万トンとなっている。この内、ソ連、南ア、インド、中国の合計は約1,100万トンで、全生産量の約70%を占めるのである。ついで、ブラジル、モロッコ、ガーナ、コンゴなどである。わが国はコンゴに次ぎ、ギアナ、ルーマニアは、さらにこれにつぐ。今日、わが国が輸入している相手国と、輸入量を第13表(略)に示す。昭和33年度から37年度までであるが、もっとも多量に輸入している国は、インドで、昭和36年度までは、全輸入量の約60%を占めているが、37年度では36.7%と急激に減少している。ついで、ソ連、オーストラリア、南アで、だいたい17〜10%である。その他の輸入相手国は、ガーナ、モロッコ、フィリピン、インドネシア、コンゴ、韓国、タイ、フィジー、中国、モザンビック、マレー、ニューヘブライス、ペルー、ブラジル、パキスタン、マレーシア等である。

 以上、4回にわたってわが国のマンガン鉱物と鉱石について説明したが、外国の鉱物と鉱石については、ふれなかった。機会があれば、解説して見たいと思っている。

参考文献(略)

(筆者は鉱床部)


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