広渡文利(1965):マンガン鉱物と鉱石(3)地質ニュース、1965年1月号、125、11-19.



注:原著では、句点には『.』、読点には『 』(スペース)が、用いられているが、ここではそれぞれに『。』と『、』を用いた。
注:写真類は省略。

(13)その他の珪酸塩鉱物
 その他、わが国で重要な珪酸塩鉱物として、つぎのようなものがある。マンガン斧石、ペンヴィス石、ネオトス石、イネサイト等。また特殊な鉱物として、吉村石、マンガン電気石、マンガンベスブ石、マンガン紅柱石(ビリヂン)、Ardennite、Sursassite、Astrophyllite、Trimerite、Laventite(aの頭に¨)、jeffersonite等がある。

 イネス石(Inesite)
 化学成分は、Ca2Mn7Si10O28(OH)2・5H2Oとされているが、吉村・桃井は、金属原子と水の間に相関々係があることから(Ca,Mn,Fe,Mg,Pb)10-xSi10O30-2x(OH)2x・6H2Oとしている。かつて、本鉱物はマンガン石灰沸石≠ニ呼ばれていた。肉眼では、淡紅色、濃紅色の針状、放射状、束状の結晶で、日光にあたると灰褐色に変色する性質がある。本邦における産状には、2種類がある。1つは、第三紀の火山岩類を切る含金銀石英脈に伴うもので、他の1つは古生層中のマンガン鉱石を切る細脈として産するものである。前者の例として最初に発見されたのは、1930年で、加藤武夫によって、静岡県蓮台寺鉱山(河津鉱山)から報告されている。その後、北海道轟鉱山、佐渡高干鉱山および秋田県院内鉱山から報告されている。一方、後者の例として、1960年、吉村豊文、桃井 斉によって、高知県香長鉱山から報告されたが、その後の産出を聞かない。

 マンガン斧石(Manganaxinite=Manganoan axinite)
 化学成分は、Ca2(Fe,Mn)B・Al2Si4O15(OH)である。硼素を含むのが特長で、B2O3として5〜6%である。本鉱物は、肉眼では、色が多種多様である。すなわち、灰色、黒灰色、紫色、黄褐色、橙色、緑黄色、青緑色等であある。本鉱物は、いわゆるスカルン鉱物であるが、マンガン鉱床にも割合いに産出することが知られている。
 読んで字のごとく、結晶は斧状の結晶面を示す場合が多いが、マンガン鉱床に産出するものは、結晶形は認められない。本邦で最初に記載されたのは、1893年で、菊地 安によって、大分県尾平鉱山から報告されている。これは、スカルン鉱物で、Fe成分の多い種類のものである。マンガン斧石として最初に記載されたものは、1950年で、吉村豊文、安部善信によって、高知県韮生・穴内鉱山から報告されている。その後、高知県国見山、柿の又、大丈鉱山、愛媛県報国、大洲、三宝、南山鉱山、宮崎県秋元鉱山、栃木県寄栗、石裂鉱山、京都府向山鉱山、徳島県ニ軒屋、白龍鉱山および群馬県万場鉱山等から発見されている。1923年に、Jacobによって、Tinzeniteとして報告された鉱物は、硼素の見落としで、Manganoan axiniteである。

 ペンヴィス石(Penwithite)、ネオトス石(Neotocite)

 ペンヴィス石は、1878年に、Collins,J.H.が、West CornwallのPenwith地方から発見し命名した鉱物である。一方、ネオトス石は、1849年にNordenskiold(後のoの頭に¨)が、スウェーデンのGestriklandから発見した鉱物で、Stratopeite、Wittingite等と呼ばれたものと同義語である。ペンヴィス石もネオトス石も、いずれも、含水マンガン珪酸塩で非晶質である。わが国では、ペンヴィス石の名前の方が広く用いられているが、ネオトス石の方がPriorityがあるように思われる。いずれ、どちらかに統一すべきであろう。
 肉眼では、黄褐色から黒褐色のものまである。また、時には赤褐色で、ビール瓶の硝子の破片に全く似たものがある。破面は貝殻状断口を示し、ガラスより柔かい。鏡下では、淡黄色〜淡褐色で、一般に複屈折は、見られないが、ベメント石、菱マンガン鉱、テフロ石等の微晶片が残る場合がある。産状に2通りがある。1つは、テフロ石、バラ輝石、アレガニー石等珪酸塩鉱物が変質して生成されたもので、他の1つは、マンガン鉱石を切る細脈として産出するものである。
 化学成分は、MnSiO3・nH2Oとされているが、非晶質であるので、成分に相当の幅があると思われる。本邦で最初に報告されたのは、1924年で、加藤武夫によって、静岡県蓮台寺鉱山から報告されている。その後、各地のマンガン鉱床から知られている。

 吉村石(Yoshimuraite)
 化学成分は、(Ba,Sr)2(Ti,Fe)(Mn,Fe)2(SiO42〔(P,S)O4〕(OH)である。Ba、Srを含む複雑な鉱物である。1959年に、岩手県野田玉川鉱山から発見され、吉村豊文教授に因んで、新鉱物として報告されたものである。肉眼では、茶褐色の板状の結晶で、金雲母に類似する。大きい結晶では1cmに達するものがある。鏡下では、黄褐色から橙褐色まで変化し、多色性、光学的分散が著しい。本鉱物は、バラ輝石、アルカリ長石、リヒター石、石英等と共生する。その後、筆者と磯野 清によって愛知県田口鉱山から発見され記載されている。

Y.炭酸塩鉱物
 炭酸塩鉱物は、つぎの4つのグループに分けられる。
@方解石型(Calcite structure type)
A苦灰石型(Dolomite structure type)
B霰石型(Aragonite structure type)
Cいずれにも属さない型
 これらの中で、Mnを主成分、あるいは副成分とするものは、方解石型では、菱マンガン鉱、マンガン方解石、マンガン菱鉄鉱、石灰菱マンガン鉱などが知られている。苦灰石型に属するものでは、クツナホライト(Kutnahorite)、マンガン苦灰石、マンガンアンケル石などがある。一方、霰石型に属するマンガン鉱物は、まだ発見されていない。また、人工では、MnBa(CO32が知られている。その他、含水炭酸塩鉱物としてLoseyiteがある。
 菱マンガン鉱は、Mnを主成分とする唯一の炭酸塩鉱物であるが、マンガン方解石、マンガン菱鉄鉱は、いずれもMnを少量(MnO 4〜6%)含む方解石および菱鉄鉱の変種であり、石灰菱マンガン鉱はCaOを数%含む菱マンガン鉱の変種である。
 Kutnahoriteは、苦灰石(ドロマイト)のCaMn(CO32のMgをMnでおきかえたものに相当し、アンケル石と共にドロマイト型に属する。つまり、マンガン苦灰石、マンガンアンケル石は、いずれもMnを少量(Mn 3〜6%)含む、苦灰石、アンケル石の変種である。以下、菱マンガン鉱、クツナホライト、マンガン方解石について説明する。

 菱マンガン鉱(Rhodochrosite)
 化学成分はMnCO3。少量のCa、Fe[,Mgを含む。肉眼では、色は一般に紅色〜淡紅色といわれるが、結晶粒の大きさによって一様でない。粗粒のものは、灰白色、淡紅色、濃紅色、紫紅色、血紅色のものまであり、時には菱形の結晶を示す。細粒のものは、灰白色、淡紅色、黄褐色、淡青色で、肉眼では結晶粒は見られない。
 わが国では産状に2通りある。1つは、第三紀中新世の生成といわれる鉱脈型鉱床に見られるものであり、他の1つは、古生層、中生層、変成岩中に胚胎する層状の鉱床に産出するものである。前者は、一般に前述の粗粒の菱マンガン鉱の場合が多く、縞状、輪状、放射状を呈する。つねに、閃亜鉛鉱、方鉛鉱、黄鉄鉱などを伴うほか、少量の黄銅鉱、四面銅鉱、金、銀、輝安鉱、辰砂、重晶石、石膏などを伴う場合がある。
 この種の菱マンガン鉱は、わが国では一般に高品位で、Mn 41〜44%、CaO+FeO 2〜5%である。時には、FeO、CaOが著しく高い場合があるが、これはMnCO3−FeCO3系、MnCO3−CaCO3系の固溶関係か、機械的混合によるものか、いずれにしても鉱石の選鉱上、重要な問題である。MnCO3−CaCO3系の固溶関係については、1957年に、Goldsmith、Grafが実験したところによると、550℃以上では、両者は完全な連続固溶体をなすが、450℃では50〜80%MnCO3の間は、不連続であるということを報告している(第1図(略)参照)。一方、天然では、Frondel、Bauer(1955年)が、New JerseyのFranklinから産出するCaCO3−MnCO3系鉱物を研究した結果、40〜75%MnCO3の間に不連続な間隙があることを報告している。なお、MnCO3−FeCO3系については、いまだ検討されていないが、鉱石の利用および鉱床の成因を考える上において、興味ある問題が含まれている。
 つぎに、後者の菱マンガン鉱は、前述の細粒のものに相当する。後述の鉱石の項で説明するが炭マン≠フ主成分鉱物をなすものである。この種の菱マンガン鉱は種々のマンガン鉱物(珪酸塩鉱物、酸化物など)と共生するため、見かけ上、種々の色を呈するが、一般に淡紅色、淡白色である。肉眼では、個々の結晶粒は認められないが、微粒の結晶の集合である。しかしながら、この種の鉱床の母岩が花崗岩類による熱変成作用をうけた地域では、再結晶作用をこおむり、結晶が粗粒になり、肉眼でも個々の鉱物粒を見分けることができる。
 この種の菱マンガン鉱は、わが国のマンガン鉱床の中でも、もっとも重要なマンガン鉱物の1つであり、もっとも普遍的に産出する鉱物でもある。すなわち、すでに説明してきた酸化鉱物、珪酸塩鉱物、含水珪酸塩鉱物、硫化鉱物などのほとんどのマンガン鉱物と共生するのである。ただ、一般に細粒であるために、個々の詳細な鉱物学的な検討は行なわれていないのが現状である。

 マンガン方解石(Mangancalcite)
 化学成分は(Ca,Mn)CO3。方解石CaCO3のCaの一部をMnでおきかえたものである。本鉱物は、マンガン鉱石にはならないが、マンガン鉱石中の不純物、および鉱床の成因を考える上には重要な鉱物と思われる。すなわち、古生層、中生層、変成岩中に胚胎するマンガン鉱床では、後期の細脈として、しばしばマンガン鉱石を貫き、種々のマンガン鉱物、および脈石を伴う。たとえば、ベメント石、ガノヒル石、ピロックスマンガン石、ペンヴィス鉱、パイロクロイット、石英、重晶石、緑泥石、辰砂などがあげられる。一方、新第三紀中新世といわれる鉱脈型菱マンガン鉱床では、一般に金、銀に富む鉱脈に多産し、菱マンガン鉱のほかに、菱鉄鉱、輝安鉱、方鉛鉱、辰砂、重晶石、石英などを伴うようである。
 本鉱物は、いずれも白色〜淡紅色のきれいな鉱物で、ふつう、CaO 49〜52%、MnO 2〜5%である。

 クツナホライト(Kutnahorite)
 化学成分はCaMn(CO32である。本鉱物は初め、1901年にBukowskyによって、チェコスロバキヤのKutnahora産の炭酸塩鉱物に対して提唱されたが、詳細な鉱物学的検討が欠けていたため、認められず、むしろマンガンドロマイトという名称で呼ばれていたようである。その後、1955年に、Frondel、BauerによってNew JerseyのFranklinとSterling Hillから、Kutnahora産のものと全く同一の鉱物が発見され、詳細な鉱物学的検討を加えた結果、Kutnahoriteの存在を認めた。すなわち、Kutnahoriteは、ドロマイトと同じ結晶構造で、CaMg(CO32のMgをMnでおきかえたものであるとして、Manganese dolomiteとも呼んでいる。
 本鉱物の産状は、フランクリナイト(Zn,Mn)Fe2O4を切る細脈として産し、その色は淡紅色である。屈折率、複屈折率、比重は、菱マンガン鉱より、一般に低い。今日まで産出まれな鉱物で、わが国でもいまだ報告されていない。しかしながら、詳細に検討すれば発見される可能性はあるであろう。チェコスロバキヤ、New Jersey産のものは、いずれも、MnO 23〜28%、CaO 25〜28%、CO2 41〜42%であり、比重は 3.05〜3.12である。

Z.硫化鉱物
 Mnを主成分、または副成分とする硫化鉱物は、非常に少ない。今日まで知られているものは、アラバンド鉱(MnS)とハウエル鉱(MnS2)である。

 アラバンド鉱(Alabandite)
 化学成分はMnSである。本鉱物は、硫マンガン鉱、閃マンガン鉱とも呼ばれる。1832年に、Beudantによって命名された鉱物である。MnSには、人工的に、α、β、γ-MnSがあるが、天然のものはα-MnSである。本鉱物は、肉眼では黒色亜金属光沢を示し、ハウスマン鉱、およびブラウン鉱に類似する。これらを簡単に識別するには、条痕を見ればよい。すなわち、ハウスマン鉱は茶褐色、ブラウン鉱は黒色、アラバンド鉱は緑灰色を呈する。また、塩酸をかければ、容易にH2Sのにおいを発する。
 わが国では産状に2通りある。1つは古期堆積岩中に胚胎するマンガン鉱床の中で、花崗岩類による熱変成作用をうけた地域に産出する。他の1つは、第三紀中新世の菱マンガン鉱を主とする鉱脈型鉱床中に産出する場合である。前者の場合は、鉱石中に黒色の斑点状、または縞状に産出し、肉眼でも容易に識別できる。鏡下では、茶褐色、黄緑色、褐黄色を呈し、半透明で、劈開が見られる。等軸晶系で時には緑マンガン鉱に類似する。後者の場合は、菱マンガン鉱と縞状の互層をなして産出するが、一般に珍しい。北海道稲倉石鉱山ではかって多産した由であるが、今日ではほとんど産出しない。本邦で最初に発見されたのは、1935年で、原田準平によって報告されているが、これは後者の例である。
 前者の例としては、1938年に、吉村豊文によって、加蘇鉱山から報告されている。今日では各地のマンガン鉱床から産出することが知られている。たとえば、群馬県、栃木県、山口県、宮崎県等である。
 本鉱物は、理論的には、Mn 63%、S 37%で高品位であるが、Sが高いので問題のある鉱物である。

 ハウエル鉱(Hauerite)
 化学成分はMnS2。1864年にHaidingerによって命名された鉱物である。本鉱物は、非常に産出まれな鉱物で、石膏、硫黄などと共存して産出する。色は赤褐色から褐黒色で、劈開にそって赤色の内部反射が見られる。結晶の表面は、黒色の被膜にっておおわれることが多い。わが国ではいまだ産出しない。

[.オルフラム酸鉱物
 オルフラム酸鉱物の中で、Mnを主成分とする鉱物には、マンガン重石(Hubnerite(uの頭に¨))と、鉄マンガン重石(Wolframite)が知られている。これらはいずれもWolframite groupに属し、MnWO4−FeWO4で表わされる。つまり、MnWO4がマンガン重石であり、FeWO4が鉄重石である。鉄マンガン重石は、その中間の鉱物である。

 マンガン重石(Hubnerite(uの頭に¨))−鉄マンガン重石(Wolframite)
 化学成分は、マンガン重石では、MnWO4で示されるが、少量のFeを含む。FeO 0〜4.8%までをマンガン重石と呼び、FeO 4.8〜18.9%を含むものを、鉄マンガン重石と呼んでいる。マンガン重石は、1865年に、Riotteによって命名され、鉄マンガン重石は、1747年にWalleriusによって命名された鉱物である。肉眼では、黒色板状の結晶をなすのが特長である。条痕色は、マンガン重石では、黄褐色から赤褐色であるが、鉄が増えるにつれて、褐黒色から黒褐色に変化し、鉄重石では、黒色になる。鏡下では、マンガン重石は赤褐色半透明であるが、鉄マンガン重石は、褐色、橙色、赤褐色半透明である。とくにマンガン重石は、ピロファン石に類似するので注意を要する。
 マンガン鉱床に産出する場合は、一般にマンガン重石で、花崗岩類による熱変成作用を受けた地域のマンガン鉱床に産出する。一般に少量で、しかも細粒であるので、肉眼で認めることは困難である。わが国で最初に発見されたのは、栃木県西沢鉱山で、1908年に発表されている。しかしながら、これは金銀鉱脈から産出するものである。マンガン鉱床から産出するものは、山口県久杉、蓮華鉱山で、1955年にD.Leeによって発見されている。その後、栃木県加蘇、萩平鉱山、長野県八木沢鉱山等から発見されている。一方、鉄マンガン重石は、金銀鉱脈、鉛、亜鉛、銅、タングステン鉱脈から産出することが報じられている。

\.最近発表された新鉱物
 Mnを主成分とする鉱物で、最近発見された新鉱物につぎのようなものがある。ヨシムラ石、ソノ石、大和石、神保石、マロカイト、エンスータイトなどがあげられる。神保石、マロカイトを除いては、すでに説明したので、ここでは、この2鉱物について説明する。

 マロカイト(Marokite)
 化学成分はCaMn2O4。本鉱物は、1963年にモロッコのTachgagaltから発見され、Gandefroy、Jouravsky、Permingeatらによって命名された新鉱物である。結晶系は斜方晶系で、比重は4.63。肉眼では、黒色の不透明鉱物で、暗赤色の内部反射を示す。条痕は赤褐色である。光学性は2軸性2V(−)20〜25゜で、多色性は強い。反射鏡下では、反射色は褐色を帯びた灰色で、ハウスマン鉱よりわずかに暗い。また、ブラウン鉱よりは暗く、褐色である。反射多色性は、黄灰色から灰褐色で、異方性は顕著である。産状は、方解石、重晶石の脈石中に産出し、ハウスマン鉱、ブラウン鉱と共生する。その他、Crednerite(CuMn2O4)、ポリアン鉱を伴う由である。

 神保石(Jimboite)
 化学成分はMn3(BO32である。小藤石(kotoite)Mg3(BO32のMgをMnでおきかえた鉱物である。
 本鉱物は、1963年、渡辺武男、加藤 昭他2名によって、栃木県加蘇鉱山から発見された新鉱物である。結晶系は斜方晶系で、比重は3.98である。肉眼では、淡紫褐色で、ガラス光沢を示す。鏡下ではほとんど無色で、一見テフロ石に類似するが、光軸角が小さいことと、(110)の劈開が顕著に見られることが、両者を識別する鍵である。光学性は、二軸性正で、2V(+)35゜である。産状は、加蘇鉱山の18番坑内で、縞状の炭マン鉱石中に産出する。ヤコブス鉱、ガラクス鉱からなる縞状鉱石を切る細脈として見られ、菱マンガン鉱、テフロ石、アレガニー石、アラバンド鉱などと共生する。
 以上で、重要なマンガン鉱物について説明を終わるが、最初に述べたように、[−]Vについては、鉱物名と化学成分のみを、第2表(略)に示す。

].マンガン鉱石
  さて、今までいろいろのマンガン鉱物について説明してきたが、以下、マンガン鉱石について解説することにする。マンガン鉱石というのは、前にも述べたように、各種のマンガン鉱物が、数種類またはそれ以上、集まってできたものである。したがって、その鉱物の組み合わせによって、当然種々のマンガン鉱石が生ずるわけである。そこで、これらの鉱石に対して、便宜上鉱石名≠与える必要が生じてくる。今日、もっとも普通に用いられている呼び方には、2通りある。その1つは鉱石の用途によって分類する方法であり、他の1つは、鉱山の現場で、鉱山技術家や坑夫間で用いる分類である。
 前者は、鉱石を取引する際の名称で、いわば商品名である。後者は、鉱石を構成する鉱物組成を考えた名称で、普通に用いられる鉱石名である。
 以下、おのおのについて説明する。

 用途上から見た鉱石の名称
 マンガン鉱石を用途上から見れば、2つに分けられる。すなわち、二酸化マンガン鉱と金属マンガン鉱である。

i.二酸化マンガン鉱
 これは、含有する二酸化マンガン分(MnO2%)の含有量によって取引される鉱石である。つまり後述の金属マンガン鉱とは、価格の建値が別系統で、二酸化マンガン鉱として取引する方が、はるかに有利な鉱石である。(たとえば、二酸化マンガン鉱でMnO2 80%のものは、トン当り約37,500円であるが、これを金属マンガン鉱として取引すれば、Mn 51%となり、トン当り18,900円にしかならないのである)
 さて二酸化マンガン鉱の用途は、乾電池、亜鉛製錬、化学薬品、写真材料、ガラス工業、および窯業など多方面に利用されるが、もっとも重要な用途は乾電池用である。ふつう、MnO2 70%以上のものは、乾電池用に供されるが、その電気化学的特性が重要な性質である。その特性というのは、たとえば、構成鉱物の種類、結晶度、起電力、放電容量などである。ふつう、鉱物組成から言えば、エンスータイト(横須賀石)がもっとも良く、ついでバーネス鉱がよいと言われている。二酸化マンガン鉱は、肉眼的には、黒色から黒褐色で塊状、土状、ぶどう状、放射状、腎臓状など種々様々である。またこれらを構成するマンガン鉱物は、すでに説明した各種の二酸化鉱物および含水酸化鉱物からなる。たとえば、つぎのような鉱物の混合物である。クリプトメレーン鉱、パイロルース鉱、エンスータイト(横須賀石)、水マンガン鉱、ラムズデル鉱、バーネス鉱、轟石などである。しかしながら、これらの鉱物の種類を肉眼で決定することは非常に困難で、X線粉末試験、化学分析、示差熱分析などの検討が必要である。

ii.金属マンガン鉱

 これは、含有するマンガン分(Mn%)の含有量によって取引きされる鉱石である。つまり、二酸化マンガン鉱以外の鉱石は、すべて金属マンガン鉱として売買されるわけである。なお、後述する炭マン、珪マンなどは、用途上の分類でいえば、金属マンガン鉱である。また鉱物学的には、二酸化マンガン鉱であっても、二酸化マンガン鉱としての規格(化学成分、電気化学的特性など)にあてはまらないものは、したがって、金属マンガン鉱として取引きされるのである。したがって、金属マンガン鉱として取引きされる鉱石は、非常に多種類にわたるのである。ところで、金属マンガン鉱の用途は、その大部分(約90%)は、合金鉄、製銑、製鋼用に使用される。その他1部は、溶接棒、電解金属マンガン、電解二酸化マンガンなどの製造に用いられている。第3表(略)に、最近の二酸化マンガン鉱、金属マンガン鉱の用途と消費量を示す。

 鉱石の鉱物組成から見た名称
 一般に鉱石に名称を与える場合、鉱石を構成する鉱物の種類によって命名するのが、もっとも望ましい方法である。しかしながら、後述のように、マンガン鉱石を構成する鉱物は、1種類とか2種類からなる場合は少なく大ていの場合は、数種類かそれ以上からなっている。したがって、その構成鉱物を、鉱山現場で簡単に、しかも早急に決定することは、仲々容易ではない。そこで現場でもっとも便利な方法は、肉眼的な外観によって、鉱石名を与えることである。その場合、あくまで平易で客観的な名称が望まれるのである。
 以下に説明する鉱石名の大部分は、九州大学吉村豊文教授によって命名されたものであるが、鉱山の現場ではすでに普遍的に使用されているので、これにしたがって記述することにする。ふつう、鉱山の現場で用いられる名称は、二酸化、金属、炭マン、珪マンの4通りである。

i.二酸化
 これは、前述の二酸化マンガン鉱とほぼ同じ意味と考えてさしつかえない。

ii.金属
 これは、二酸化に類似するが、MnO2%が比較的少なくMn%の方がむしろ多い鉱石である。つまり、二酸化の中で、MnO2%の低い鉱石で、Mn%で取引きしたほうが有利な鉱石である。この種の鉱石は、一般に黒色で緻密塊状、高品位に見えるので注意を要する。

iii.炭マン

 かっては、二酸化以外の鉱石は、すべて炭マン≠ニして一括して呼称していた。すなわち、後述の珪マンおよび金属なども、広義の炭マン≠ノ属していたわけである。ところで、今日用いられている炭マンは、主として菱マンガン鉱を主成分とする鉱石に対して用いられているが、わが国の場合は、大きく2種類に分けられる。1つは、第三紀中新世の鉱脈型の鉱床に見られるもので、紅色〜濃紅色の菱マンガン鉱を主とするものである。他の1つは、古生層、中生層中に胚胎する層状鉱床に産出する鉱石で、菱マンガン鉱を主成分とするが、無色〜淡紅色で細粒である。前者に比べて、種々の鉱石からなり、きわめて複雑な鉱石である。前者は、菱マンガン鉱を主とし、一般に縞状、輪状、同心円状、放射状などの集合体で、少量の閃亜鉛鉱、方鉛鉱、黄鉄鉱、黄銅鉱などの硫化鉱物を伴う。なお、金・銀鉱も少量含まれる。一方、後者は、菱マンガン鉱のほかに各種のマンガン鉱物を伴うため、種々の鉱石名で呼ばれている。以下、それぞれの鉱石について説明する。

 a.きびマン(あるいはきみまん)
 本鉱石は、新鮮な場合は、白色の鉱石である。酸化作用が著しく数時間で、褐色から黒褐色に変色する。構成する鉱物は、パイロクロイット(Mn(OH)2)を主成分とし、菱マンガン鉱、テフロ石などと共生する。品位は最高で、Mn 50〜55%、SiO2 5〜6%である。本鉱石が多量に産出するのは、岩手県野田玉川鉱山、および愛知県田口鉱山等である。

 b.チョコレート鉱(chocolate ore)
 肉眼ではチョコレート色の緻密な鉱石である。一般に鉱床の富鉱部に見られ、大小の塊状をなして産出する。また低品位の炭マン中に、ノジュールとして産出する場合がある。本鉱石の鉱物組成は、ハウスマン鉱、緑マンガン鉱、ブラウン鉱、テフロ石、アレガニー石、含水珪酸マンガン鉱、および少量の重晶石である。本鉱石は品位は最高に近く、Mn 48〜55%、SiO2 8〜10%である。なお、一見、チョコレート鉱に類似するもので、その色がやや赤味を帯び、やや柔らかい鉱石があるが、これは微粒の菱マンガン鉱からなり、品位が低いので注意を要する。

 c.栗色炭マン、縞状炭マン

 肉眼では、チョコレート色より、栗色に近い鉱石である。構成鉱物としては、微粒のハウスマン鉱、ブラウン鉱、アレガニー石、などが、種々の割合で混入する。チョコレート鉱に比べ、ハウスマン鉱やブラウン鉱の割合いが量的に少ない場合は、色が淡色になり、品位も低くなる。またハウスマン鉱、ブラウン鉱が縞状になれば、縞状炭マンと呼ばれる。品位は、Mn 42〜45%で、SiO2 14〜17%である。チョコレート鉱の分布する地域に産出し、チョコレート鉱よりは多産する。

 d.アヅキ炭マン、灰色炭マン
 微粒の菱マンガン鉱を主とする緻密な鉱石である。その他、少量のテフロ石、アレガニー石、バラ輝石、マンバンざくろ石などを伴う。これらの鉱物の含有する量比によって、その色が、紅色、灰色、灰緑色、褐色、赤紫色などの鉱石になる。品位は、Mn 38〜42%、SiO2 15〜22%である。

 e.白炭マン、黒炭マン
 一見石灰岩に似て貧鉱のように見えるが、微粒の菱マンガン鉱からなり、時にはマンバンざくろ石を伴う。とくに黒鉛質物により汚染された鉱石を黒炭マンと呼んでいる。品位は、Mn 30〜32%、SiO2 25〜30%である。

 f.その他の鉱石名
 以上、炭マンと呼ばれる鉱石は、大体上述のような鉱石名に限られるが、その他鉱山あるいは業者によっては、次のような鉱石名が使用されている。「テツ」、「リュウマン」、「テツマン」、「ブラウン」、「トラマン」などである。
 「テツ」というのは、硫化マンガン鉱を主とする鉱石で、黒色緻密の重い鉱石である。ブラウン鉱に類似するが、ハンマーでたたけば、硫黄の臭いがするので識別できる。また条痕色が灰緑色を示すことも有力な識別法である。鉱山によっては、これを「リュウマン」と呼ぶところがあるが、「テツ」と同じ意味である。
 「テツマン」というのは、主として粗粒のハウスマン鉱からなり、一見磁鉄鉱に類似する黒色の重い鉱石である。構成鉱物は、ハウスマン鉱、テフロ石、菱マンガン鉱、ガラクス石、アレガニー石などからなる。品位は最高に近く、Mn 52〜60%、SiO2 3〜6%で、野田玉川鉱山、滋賀県五百井鉱山に多産するが、その他の鉱山にはあまり産出しない。
 「ブラウン」というのは、黒色亜金属光沢を示す重い鉱石である。一般に細粒緻密で硬い。構成鉱物は、微粒のブラウン鉱、ベメント石、バラ輝石、紅れん石、雲母、石英などを伴う。一般に珪マン鉱床の富鉱部に塊状をなして産する場合と、変成岩中に縞状をなして産出する場合がある。品位は、Mn 48〜53%、SiO2 15〜20%である。岩手県大野地域、岐阜県根尾地域、大分県佐伯地域、長崎県村松地域に産する。
 「トラマン」というのは、黒色のブラウン鉱と灰白色のチャートが数cmの厚さで互層する鉱石で、白・黒の模様が虎の縞模様に似ていることから、その名がある。白色のチャート部を選別すれば、高品位の鉱石となるが、現在では選鉱ができないので出鉱されていない。

iv.珪マン
 一般に、バラ輝石、テフロ石、マンバンざくろ石、ベメント石、ブラウン鉱などからなる鉱石である。構成鉱物からわかるように、マンガン分に比して珪酸分の高い鉱石である。これらの鉱物の組合わせにより、次ぎのような鉱石に分けられる。

a)バラキ
 バラ輝石を主とする鉱石で、一般にマンバンざくろ石を伴う。時にはアラバンド鉱、ピロファン石、テフロ石などを伴う場合がある。色は淡紅色のものから濃紅色のものまであり、また結晶粒も粗粒ものから細粒のものまである。一般に粗粒で、濃紅色のものが品位がよい。品位は、Mn 28〜35%、SiO2 35〜40%である。花崗岩類の接触熱変成作用をうけた地域に含まれるマンガン鉱床に多産する。

b)テフロ石
 テフロ石を主とする鉱石で、一般に灰緑色〜青緑色の油ぎった光沢をなす。微粒のものから粗粒のものまであるが品位はあまり変わらない。テフロ石を主とするが、バラ輝石、マンバンざくろ石などを伴う。テフロ石のみからなる鉱石は、品位は高いが、バラ輝石、マンバンざくろ石などが増えると品位は低くなる。一般に、Mn 38〜42%、SiO2 25〜28%である。その分布は、バラキの分布と同じようである。

c)かつおぶし鉱
 ベメント石、ブラウン鉱、ペンヴィス石などを主とし、少量の菱マンガン鉱、バラ輝石、石英からなる鉱石で、その色がかつおぶし≠ノ似ていることからその名がある。きわめて微粒のあめ色〜褐色を呈する半透明の鉱石で、貝殻状断口を呈する。一見褐色のチャートに類似するが、注意すれば見分けられる。
 品位は、Mn 25〜32%、SiO2 25〜30%、H2O 10〜15%である。ベメント石を主とするので、H2Oが多量に含まれる。高知県穴内、熊本県市の俣(八代)、岐阜県鶴巻鉱山などに多産する。

d)珪質炭マン
 これは、淡紅色微粒の菱マンガン鉱とチャートとの機械的混合物である。一見、低品位のバラキに類似するが、本質的には別の鉱石である。
 また、品位が、Mn 22〜30%、SiO2 35〜45%で、バラキの成分と大差ないので、肉眼ではバラキと見誤ることがある。注意を要する鉱石である。この種の鉱石に対して珪質炭マン≠ニ呼ぶことにしている。鏡下では、微粒の菱マンガン鉱と微粒の石英の集合よりなる。したがって、菱マンガン鉱に比べて石英の量が増えれば、珪酸が高くなり、Mn分が低くなる。また、逆であれば、Mn分が高く、珪酸が低くなるわけである。

 以上、マンガン鉱石の名称と鉱物組成の概要を述べたが、それらの結果を一括して示すと第4表(略)のとおりである。

(筆者は鉱床部)


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