はじめに
第T章 宝石と人間−その魅力の源泉−
大アルベルトォス/その自然史科学/アリストテレスの鉱物学/鉱物の本/プリニウスから中世まで/中国での状況/ダイヤモンドの産地/実用書として/実用学と自然学/アルベルトォスの本/エメラルド/アルベルトォスの解釈/鉱物化の力/長く続いた汎心論/実りのなかった300年/自然科学としての鉱物学の誕生/ニコラス・ステノ/アルプスの結晶/さまざまな形の水晶/ステノの発見の意義/基本単位の形/本原形/結晶の成長/透徹した目/結晶成長の研究/日本の鉱物学/『雲根志』/深い関心−生成の秘密/見えないものへの好奇心/宝石−その生成の謎
第U章 天然宝石−生成の場所・美しさの秘密−
12の宝石/鉱物種と宝石名/さばきの胸当の鉱物/聖書の中の宝石/『鉱物の本』の中の宝石/新しい宝石鉱物/流行に左右される宝石/
『宝石の条件
宝石には、このように流行に左右される要素もあるので、常にコンスタントな需要のあるものを正宝石、そうでないものを準宝石として区別したり、あるいは貴石、半貴石および装飾用の石に区別する人もいる。この種の区別は勿論恣意的なもので、時代とともに変り、あまり意味のある区別ではない。要は、輝き、色、模様、光などの特殊な効果で、人間の身を飾ったり、小さな細工物として使ったりするだけの美しさをもつ天然の鉱物が、宝石とか貴石とか、あるいは装飾用の鉱物というわけである。これにさらに条件をつけるとすれば、日常の使用に耐えるだけの硬度をもっていること、適度な稀少性があること、という二条件であろう。
使っているうちにこわれたり磨耗してしまっては困るから、塵の中にふくまれている石英粒子よりも硬い、モース硬度の七以上の硬度が普通は要求される。しかし、これよりも硬度の低い、ひすい、オパール、トルコ石なども宝石として長い歴史をもっているから、硬さの境界もかなりあいまいである。
隕石のようにあまりに稀少なものは、特殊な蒐集家の蒐集対象にはなっても、宝石としてのポピュラー性はえられない。宝石には、適度な稀少性が必要である。ダイヤモンドのように近代的な採掘法で大量に採掘されるようになると、この稀少性はある意味では失なわれることになる。そこでダイヤモンド。シンジケートと俗称されている組織のコントロールと宣伝で、需要を増やし、価格を維持することが必要になってくるのである。もっとも、ダイヤモンド自身は、1トンの原石を掘って0.5カラット(1カラットは0.2グラム)しか採掘できないほど、おどろくべく含有量が少ない鉱物であるから、もともと金よりもはるかに高価になるのはやむをえない(金は1トンあたり10グラム含まれていれば、十分採算にあう)。
2500中の70
さて、価格の高低を問わず、宝石や装飾用として今日つかわれている鉱物種を数えてみると、全鉱物種約2500の中で、わずか70種ほどしかない。そのうちの多くはコレクター用のもので、ポピュラーに使われている鉱物種は20種あまりである。表2にその主なものの鉱物名、宝石名、化学組成、および産状をまとめてみた。
鉱 物 名 | 宝 石 名 | 成 分 | 生成場所 | ||
ダイヤモンド |
ダイヤモンド (無色、その他) |
C | 単結晶 | 上部マントルのマグマ、高温高圧 | |
コランダム | ルビー(赤) | Al2O3 | 単結晶 | 接触変成作用による大理石、広域変成岩 | |
サファイア(青、その他) | 玄武岩マグマ、ペグマタイト、広域変成岩 | ||||
スター石(アステリズム) | 単結晶(包有物) | 〔ルビー、サファイアに同じ〕 | |||
スピネル | スピネル(赤) | MgAl2O4 | 単結晶 | 接触変成作用による大理石 | |
クリソベリル | アレキサンドライト(色変り) | BeAl2O4 | 単結晶 | 広域変成岩 | |
キャッツ・アイ(蜂蜜黄色) | 単結晶(包有物) | ペグマタイト | |||
リ カ鉱 物 |
水晶 | アメシスト(紫) | SiO2 | 単結晶 | ジェオード(火山岩中の空洞)、ペグマタイト |
シトリン(黄) | ペグマタイト | ||||
カーンゴルム(褐) | |||||
玉髄 | めのう類(縞模様) | 多結晶 | ジェオード | ||
クリソプレース(緑) | 石英脈 | ||||
碧玉(緑) | 石英脈、珪岩 | ||||
オパール | ミルキー・オパール(虹) | SiO2・nH2O | 非晶質 | 火山岩中の空洞を充填、および堆積岩中に層状・脈状 | |
ブラック・オパール(虹) | |||||
ファイアー・オパール(虹) | |||||
ジルコン | ジルコン(無色) | ZrSiO4 | 単結晶 | 酸性火成岩、ペグマタイト | |
オリビン | ペリドート(草緑色) | (Mg,Fe)2SiO4 | 単結晶 | 上部マントルに由来 | |
トパーズ | トパーズ(無色、黄) | Al2SiO4(F,OH)2 | 単結晶 | ペグマタイト、気成鉱脈 | |
ざくろ石 | ガーネット(赤) | Mg,Fe,Mn,Ca;Al,Fe,Crの複雑な固溶体鉱物 | 単結晶 | 宝石として最も一般的に使われているパイロープは、上部マントルに由来 | |
緑柱石 | エメラルド(緑) | Be3Al2Si6O18 | 単結晶 | 広域変成岩、方解石脈 | |
アクアマリン(淡青) | ペグマタイト | ||||
ヘリオドール(黄) | |||||
モルガナイト(ピンク) | |||||
ゴッシェナイト(無色) | |||||
電気石 | トルマリン | XR3Al6B3Si6O27(OH)4(X=Na,Ca;R=Al,Li,Mgなど) | 単結晶 | ペグマタイト | |
リューベライト(ピンク) | |||||
インディコライト(青) | |||||
バーデライト(緑) | |||||
ひすい輝石 | ひすい(ジェーダイト) | NaAlSi2O6 | 多結晶 | 低温高圧型変成岩 | |
角閃石族 | ひすい(ネフライト) | CaMg5Si8O22(OH)2 | 多結晶 | 広域変成作用プラス交代作用 | |
正長石 | ムーンストン(白) | KAlSi3O8-NaAlSi3O8の固溶体 | 単結晶(葉状構造) | ペグマタイト | |
微斜長石 | アマゾナイト(緑) | KAlSi3O8-NaAlSi3O8の固溶体 | 単結晶(葉状構造) | ペグマタイト | |
斜長石 | サンストン | NaAlSi3O8-CaAl2Si2O8の固溶体 | 単結晶(葉状構造) | ペグマタイト、火成岩 | |
ペリステライト | |||||
ラブラドライト | |||||
トルコ石 | トルコ石(青) | CuAl6(PO4)4(OH)8・4H2O | 多結晶 | 地表、砂漠地帯 | |
ラピス・ラズリ | ラピス・ラズリ(藍) | 4種の鉱物の混合 | 多結晶 | 接触変成作用 | |
スポジューメン | クンツァイト(ピンク) | LiAlSi2O6 | 単結晶 | ペグマタイト | |
ヒデナイト(緑) | |||||
ゆうれん石 | タンザナイト(青) | Ca2Al3Si3O12(OH) | 単結晶 | 広域変成岩 | |
孔雀石 | マラカイト(緑) | Cu2(OH)2CO3 | 多結晶 | 銅鉱山の酸化帯 | |
有機起源の宝石 | 真珠 | あられ石CaCO3 | 多結晶 | 貝の生命活動の結果 | |
さんご | 方解石CaCO3 | 貴さんご虫の骨格 | |||
こはく | 樹脂 | 非晶質 | 古代松柏類の樹脂の化石化 | ||
象牙 | アパタイトCa5(PO4)3OH | 多結晶 | 生命活動の産物 | ||
ジェット(黒玉) | 褐炭 | 非晶質 | 石炭の一種 |
/広範な生成条件/単結晶の宝石/ファセット・カット/多結晶の宝石/光の効果/スターを示す宝石/シャトヤンシー/固溶体鉱物/薄層に分離/分離の条件/オパールの色の秘密/球の密充填/球のサイズで違う色/生命活動で生れる宝石/骨や胆石も結晶/多像関係/真珠をつくるあられ石/真珠光沢の原因/有機と無機とのかかわりあい/真珠層のでき方/渦巻模様/さんごをつくる鉱物/こはく/さまざまな生成条件/
第V章 模造宝石・処理宝石−化粧なおしの仕掛け−
最古の模造宝石/ファイアンス焼き/おおらかな存在/ガラス玉/手のこんだ模造宝石/処理宝石/ジルコン/電子顕微鏡でみる/無色になる理由/熱処理されたアメシスト/遷移元素−色の原因/もう一つの色の原因/熱処理されるサファイア/染色・着色/コーティング処理/四つのC/むずかしいのは色の判定/ファンシー・カラー/色の評価/ごまかしの方法/放射線による着色/紫水晶のつくり方
第W章 合成宝石・人工宝石−現代の錬金術−
明るいイメージ/現代の錬金術/最初の成功/エメラルドの合成/合成ルビーの初期/フェルミーの研究/ベルヌイ法の発明/ルビー合成の影響/回復したルビーの価格/スピネルの合成/天然と合成の違い/スター・ルビーの合成/人工宝石の出現/水晶の合成/着色水晶の合成/きれいなエメラルド/チャザムのエメラルド/その後の合成エメラルド/天ぷらエメラルド/熱水合成エメラルド/性質の違い/それでも残る違い/エメラルド合成のこつ/ダイヤモンドの合成/あまざまな試み/ハネーの実験/ハネーのダイヤはU型だけ/実験の追試/隕石からえたヒント/弟子の告白/ダイヤモンド合成の王道/ダイヤモンドと石墨/地上では不安定なダイヤモンド/溶液成長の利点/より天然に近づけよう/高圧の実現/GEの成功の秘密/ASEAも成功/砂粒のはたす役割/さまざまな合成装置/その他の合成方法/大粒の結晶を合成する/宝石用ダイヤの合成/水晶の合成法と同じ/その他の合成宝石/オパールの合成法/プラスチック・オパール/多結晶質宝石の合成/人工宝石/オプトエレクトロニックス用結晶/YAG/二つのガーネット/チョクラルスキー法/キュービック・ジルコニア/スカール・メルト法/ダイヤモンドとの違い/五つのカテゴリー/宝石鑑別/宝石学の現況
第X章 ダイヤモンド−地下からの手紙−
最初の発見/ダイヤモンドのランク/ヨーロッパの場合/タベルニエの記録/インドの鉱床/ボルネオとブラジル/ひきつづく発見/ヤコブス少年のみつけたもの/ダイヤモンド・ラッシュ/黄色土壌の中から/バルナトとセシル・ローズ/キンバレー岩の発見/アフリカ各地での発見/シベリヤのダイヤモンド/最近の発見/ダイヤモンドと楯状地帯/ボルネオとタイ/火山の根/キンバレー岩とプレートの運動/古いダイヤモンド/マントルから運ばれた岩片/品位の高い捕獲岩/上部マントルから由来/エクロジャイト/キンバレー岩/ダイヤモンドの結晶/いろいろあるダイヤモンド/工業用ダイヤモンド/タフさの原因/多結晶質ダイヤの組織/コーテッド・ストン/キューボイド/結晶の形と成長条件/相互の関係/荒れた境界面の場合/スムーズな境界面/渦巻成長/成長条件で変る結晶の形/ダイヤモンドの場合/マグマの上昇とダイヤの形/炭素の量が多いとき/包有物/エクロジャイト型と超苦鉄質型/母岩中の鉱物との違い/ダイヤモンドの生成条件/丸みを帯びる天然ダイヤ/溶解作用が原因/時速100キロの上昇/溶解されやすい場所/トライゴン/溶解で生れる形/キンバレー岩ごとの違い/もう一つの証拠/累帯構造/溶解をうけた証拠/溶解でできた円形模様/円形模様が示唆するもの/結晶面からの情報/二つの可能性/入手した試料/三角ピラミッド状の成長丘/転位の分布/一対一の対応/溶液相からの成長/成長の単元/天然と合成の違い/天然と合成−溶媒の違い/T型とU型/物性の違い/半導体ダイヤの発見/熱吸収材として最適なUa型/窒素が原因/窒素の薄板/窒素薄板の成因/T型−窒素と炭素の合金/窒素薄板の分布/成長速度の変動/結晶の研究の成果/エクロジャイト中での成長/急速な上昇がもたらしたもの/可能な場所/サブダクション帯とダイヤモンド/生物起源のダイヤモンド/基本的アイディアはフランク/小さな石に秘められた情報/地下からの手紙
第Y章 エメラルドからトルコ石まで−生いたちがきめる価値−
あとがき