梶原・正路(1997)による〔『エネルギー・資源ハンドブック』(1013-1015p)から〕


1.1 元素の地球化学的分別と分類
 地殻を構成する物質は、さまざまな地質作用の連鎖によって循環する。これを地球化学サイクルという(図1.3:略)。この過程の諸段階で、多様な元素分別が起こる。それに伴って、各種元素が濃集局在化し、化学的に多様な鉱床が生成する。
 元素分別の様式は、元素自体の特性に大きく依存している。表1.1に元素の地球化学的分類を示す。これは主な地球化学的相(金属相、ケイ酸塩相、硫化物相)への親和性に基づくものである。親鉄元素、親石元素、親銅元素は、それぞれ、自由電子に富む金属相、イオン的性格を持つケイ酸塩相、半金属相ないし共有結合的性格を持つ硫化物相への親和性が強い。この親和性を支配する基本因子は、外殻電子の数と配置である。このため、これらの元素群は周期律表においてそれぞれ特定の領域を占める(表1.2)。親鉄元素は、[族および近傍の元素であり、これらの最外殻電子は完全には満たされていない。親石元素は8個の最外殻電子を持つ、イオンになりやすい元素である。親銅元素は外殻に18個の電子を持つB亜族元素で特徴づけられる。元素酸化物の生成熱に注目すると、親石元素の酸化物の生成熱はFeOの値より大きく、親鉄元素や親銅元素の酸化物の生成熱はそれより小さい。電極電位に注目すると、親石元素は高い正の電位(1〜3V)を持ち、親鉄元素は逆に高い負の電位を示す。親銅元素は両者の中間の電位を持つ。一方、それぞれの地球化学的相を構成する鉱物結晶学的相、つまり鉱物は多種多様である。元素は、これらの鉱物への分配を通じて、さらに高次の分別を行う。この分別の様式は、ある元素がどのような結晶格子に入りやすいかによって決まる。これを支配する基本因子は、元素イオンの大きさ(イオン半径)と電荷である。
 地球化学サイクルの諸段階で生じる鉱物および岩石の種類は、関与する地質作用と、それが及ぶ地質学的系の諸性質(示強因子:温度、圧力、組成など)によって規定される。元素の分別様式および生成される鉱床の種類もまた、つまるところ、これらの地質学的諸条件に依存する。

表1.1 隕石での分布に基づく元素の地球化学的分類

親鉄性

親銅性

親石性

親気性
Fe*1 Co*1 Ni*1
Ru Rh Pd
Os Ir Pt
Au Re*2 Mo*2
Ge*1 Sn*1 W*2
C*3 Cu*1 Ga*1
Si*3 As*2 Sb*2
(Cu) Ag
Zn*1 Cd Hg
Ga*1 In*1 Tl*1
(Ge) (Sn) Pb*1
(As) (Sb) Bi
S Se Te
(Fe) Mo (Os)
(Ru) (Rh) (Pd)
Li Na K Rb Cs
Be Mg Ca Sr Ba
B Al Sc Y La-Lu
Si Ti Zr Hf Th
P V Nb Ta
O Cr U
H F Cl Br I
(Fe) Mn (Zn) (Ga)
(H) N (O)
He Ne Ar Kr Xe
*1 地殻では親銅性および親石性
*2 地殻では親銅性
*3 地殻では親石性
〔出典〕 Brian Mason : Principles of Geochemistry, 3rd ed., John Wiley & Sons (1966)
     (松井義人・一国雅巳訳:一般地球化学、岩波書店(1974))

表1.2 元素の地球化学的分類と周期律表との関係
H      

親気元素:黄
親石元素:白
親銅元素:赤
親鉄元素:青
          He
Li Be     B C N O F Ne
Na Mg     Al Si P S Cl Ar
K Ca Sc Ti V Cr Mn Fe Co Ni Cu Zn Ga Ge As Se Br Kr
Rb Sr Y Zr Nb Mo   Ru Rh Pd Ag Cd In Sn Sb Te I Xe
Cs Ga La-Lu Hf Ta W Re Os Ir Pt Au Hg Tl Pb Bi      
      Th   U                        
〔出典〕 Brian Mason : Principles of Geochemistry, 3rd ed., John Wiley & Sons (1966)
     (松井義人・一国雅巳訳:一般地球化学、岩波書店(1974))



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