池田ほか(1997)による〔『岩石組織の画像解析−その自動化における現状と問題点−』(185-186p)から〕


Abstract

1.はじめに
 岩石の組織は、全岩ならびに構成鉱物の化学組成とともに、その岩石を理解するための情報を潜在的に有している。例えば、火成岩の形成過程(冷却速度等)の推定に、組織(結晶の大きさや形など)が制約を与えうることは理論的・実験的に明らかである1)-6)。しかしながら、常に定量的な数値で表される化学組成が岩石の形成年代・形成過程等を推定するための扱いやすい道具となっているため、定性的な情報になりがちな組織は、その潜在的な情報を十分に引き出されることなく化学組成の陰に隠れてしまっていることが多い。化学分析技術の進歩(自動化・高精度化)に伴い、今後も化学組成の利用頻度はますます増えるであろう。しかし、我々地球惑星物質科学者は、岩石組織が化学組成と同様に重要な定量的情報を含み、それが化学組成から得られる情報と相補関係にあることを理解し、組織の定量的解析にも力を入れるべきである。そのためには、可能な限り自動化された使いやすい組織のアナライザー(すなわち画像解析技術)の存在が不可欠であり、また、そのようなアナライザーが存在すれば、組織は岩石の形成過程等を解明するための道具として頻度高く利用され、その定量的解析の重要性が広く認識されるものと考えられる。
 岩石組織の構成要素を完全に定義することは難しいが、構成鉱物のモード(容量比)、各鉱物あるいは空隙の粒径分布、形状(外形)、空間分布、結晶間の方位関係(選択配向など)、結晶内部のミクロな割れ目および岩石スケールのマクロな割れ目の形状やネットワーク、各鉱物の色調および岩石全体としての色調などがその主な構成要素として挙げられる。人は岩石を肉眼や顕微鏡下で観察し、これら「組織」の構成要素に関しておおよそ評価することができる。しかしながら、それによって得られる情報は定性的なものであり、観察のみから定量的な情報を再現性高く導き出すことは難しい。そこで、岩石組織をより客観的・定量的に記載するためには、何らかの手法が必要となる。これまでに、いくつかの定量的測定手法が確立され、伝統的に用いられてきている。例えばモードはポイントカウンティング法で、粒径分布は写真と物差しで、選択配向はユニバーサルステージを用いて、それぞれ行われている。しかしながら、これらの定量化手段も、観察者の経験に基づいた主観の入りうる要素をもっている。また、これら伝統的な測定手段に共通するもう一つの問題は、測定に長時間を要するということである。それに対し、もしも画像解析によって岩石の組織が十分に把握できれば、客観的かつ定量的なデータが迅速に得られるものと期待される。
 ところで、岩石組織の画像解析は、現在どの程度まで進歩しているのであろうか。21世紀における標準的な組織定量化手段になりうる可能性を有しているであろうか。Mainwaring7)によれば、岩石組織の画像解析は堆積岩中の空隙の量や構造を定量化する手段として発展した。これは堆積岩中の空隙がしばしば石油等の資源の貯蔵空間となり、これを客観的かつ迅速に定量化することが重要であったためであるらしい。また、空隙は画像中において鉱物の部分と色合いが異なり明瞭に識別できることが多く、画像解析しやすい性質をもっていたことにも起因すると考えられる。第2章で示すように、現在では火成岩や変成岩の組織の画像解析例も徐々に増えているようであるが、文献のみからでは、現状を完全に把握することは難しい。筆者ら(土山・中嶋)は総研(A)「地球惑星物質の組織学」の中で、「地球惑星物質の組織の画像解析」をメインテーマとする2回のワークショップを催し、各研究者が行ってきた画像解析の手法を紹介し合い、組織の画像解析を行う上で何が問題であるのかを徹底的に議論し、理解を深めた。本稿では、岩石組織(ここでは岩石、隕石をはじめとする地球惑星物質全般の組織を対象としている)の画像解析の現状を概説し、上記ワークショップにおいて認識した問題点、将来展望をまとめる。』

2.岩石組織の画像解析(レビュー)
 2.1 画像の取り込み(画像データの収集)
 2.2 画像処理(画像加工)
  (1) 原画像の画像処理
  (2) 目的鉱物の抽出
  (3) 2値画像の画像処理
 2.3 組織の定量的解析
  (1) モード解析
  (2) 粒径・粒径分布解析
  (3) 粒子形状解析
  (4) その他の解析
    a) 方位関係
    b) 空間分布
    c) 割れ目形状
    d) ネットワーク構造
 2.4 新たな展開−3次元解析−
3.画像解析ソフトUltimage
4.ワークショップでの議論
5.まとめ
謝辞

文献(関係分のみ)
1) Lofgren,G. (1980): Experimental studies on the dynamic crystallization of silicate melts. In: Hargraves,R.B.(ed.) Physics of magmatic processes. Princeton University Press, Princeton, pp.487-551.
2) Kirkpatrick,R.J. (1981): Kinetics of crystallization of igneous rocks. In: Lasaga,A.C. and Kirkpatrick,R.J.(eds.) Kinetics of Geochemical Processes (Revies in Mineralogy, vol.8). Mineralogical Society of America, Washington, pp.321-398.
3) Cashman,K.V. (1990): Textural constraints on the kinetics of crystallization of igneous rocks. In: Nicholls,J. and Russell,J.K.(eds.) Modern methods of igneous petrology: understanding magmatic processes (Reviews in Mineralogy, vol.24). Mineralogical Society of America, Washington, pp.259-314.
4) Toramaru,A. (1989): Vesiculation process and bubble size distributions in ascending magmas with constant velocities. J.Geophys.Res., 94, 17523-17542.
5) Toramaru,A. (1990): Measurement of bubble size distributions in vesiculated rocks with implications for quantitative estimation of eruption processes. J.Volcanol.Geotherm.Res., 43, 71-90.
6) Toramaru,A. (1991): Model of nucleation and growth of crystaks in cooling magmas. Contrib.Mineral.Petrol., 108, 106-117.
7) Mainwaring,P.R. (1989): A review of image analysis applications in petrology. In: Petruk,W.(ed.) Image Analysis in Earth Sciences. Mineralogical Association of Canada, pp.76-89.