森本(1989)による〔『造岩鉱物学』(19-22p)から〕


『鉱物の名前は、その鉱物の特徴的な性質である色や形態に関係したものが多いし、また、産地の名前や人名からつくられたものも少なくない。たとえばアクチノライト(actinolite)は、この鉱物が放射状に集合する長いプリズム結晶として産することから、光および石に対するギリシャ語、それぞれakisおよびlithosに由来している。また蛇紋石の一種のクリソタイル(chrysotile)は黄色から褐色がかった絹糸光沢をもつ繊維状結晶であることから、その色を表わすギリシャ語のchryros(=gold)と形態を表わすtilos(=fiber)からきている。鉱物名はそれぞれの国の言葉で表わされるが、英語、フランス語、ドイツ語、ロシア語などのようなヨーロッパの言葉では、同一の鉱物はよく似た語で表わされる場合が多く、それらの間の表現上の違いはあまり問題にならない。とくに第2次大戦以後は、英名が国際的に広く用いられるようになってきている。
 鉱物の日本名の主なものは、ヨーロッパから地質学や鉱物学が盛んに日本に移入された江戸末期から1900年頃までの間につくられ、その中には現在用いられないような特殊な漢字を用いたものや、違う鉱物が全く同音の場合もあって、適当でないものが少なくなかった。最近では、鉱物の日本名も、あまり特殊なむずかしい漢字を用いないですむような、またなるべくヨーロッパの言葉に近い、片仮名の名前を用いるような傾向になってきている。上に述べたアクチノライトの日本語訳として陽起石が用いられていたが、現在では一般に陽起石よりも緑閃石、さらにアクチノライトまたはアクチノ閃石の方が広く用いられている。日本鉱物学会(1955、1956および1964)では同会の日本語の機関誌である『鉱物学雑誌』に用いる鉱物和名として、1)片仮名を用い、2)珪酸塩鉱物などの非金属光沢をもつ鉱物には最後に石をつけ、黄鉄鉱のような金属光沢を示す鉱物には鉱をつけるように取り決めた。しかし、この取り決めを一般の場合に厳密に行うと不便なため、その後、複雑な日本名のかわりに英語名を片仮名で表わしたり、漢字を用いたりして現在に至っている。表2.1には本書に出てくる主な鉱物について、昔から用いられた漢字と鉱物学会の仮名表現、および『地学事典』(1970初版、1979第4版)、森本・砂川・都城の『鉱物学』(1975)での使用名をくらべた。その変化の様子がうかがえて興味深い。
表2.1 鉱物名の変化
 主要な造岩鉱物や硫化鉱物の本書で用いた和名を次の文献に見られる和名と比較する(配列は英語のアルファベット順)。(族)とあるのは族名として用いられる鉱物名。
 日本鉱物学会(片山信夫、桜井欽一、須藤俊男)鉱物学雑誌(1955-56) 2、320-325、426、497-500、同誌(1964) 6、344-347。
 『地学事典』(1970初版、1979第4版) 平凡社。
 森本信男・砂川一郎・都城秋穂『鉱物学』(1975) 岩波書店。
本書 英語 漢字 鉱物学会
(1955-56),(1964)
地学事典
(1979)
森本ら
(1975)
アクチノライト actinolite 透緑閃石(アクチノ閃石) トウリョクセン石(アクチノセン石) 陽起石 アクチノ閃石
アデュラリア adularia 氷長石 コウリチョウ石 アデュラリア アデュラリア
エジリン aegirine

エジリン エジリン輝石 エジリン
エジリン−オージャイト aegirin-augitee

エジリンオージャイト エジリン輝石質普通輝石 エジリンオージャイト
アルバイト albite 曹長石
(−)
ソウチョウ石
(アルバイト)
曹長石 アルバイト
角閃石(族) amphibole(group) 角閃石(族) カクセン石(族) 角閃石 角閃石(族)
アノーサイト anorthite 灰長石
(−)
カイチョウ石
(アノーサイト)
灰長石 アノーサイト
直閃石 anthophyllite 直閃石 チョクセン石 直閃石 直閃石
オージャイト augite

オージャイト 普通輝石 オージャイト
黒雲母 biotite 黒雲母 クロウンモ 黒雲母 黒雲母
ボーナイト bornite 斑銅鉱 ハンドウ鉱 斑銅鉱 斑銅鉱
輝銅鉱 chalcocite 輝銅鉱 キドウ鉱 輝銅鉱 輝銅鉱
黄銅鉱 chalcopyrite 黄銅鉱 オウドウ鉱 黄銅鉱 黄銅鉱
単斜エンスタタイト clinoenstatite 単斜頑火輝石 タンシャガンカキ石 単斜頑火輝石 クリノエンスタタイト
単斜フェロシライト clinoferrosilite 単斜鉄珪輝石 タンシャテツケイキ石 単斜鉄珪輝石 クリノフェロシライト
コーサイト coesite

コース石 コーサイト コーサイト
クリストバライト cristobalite

クリストバル石 クリストバル石 クリストバライト
カミングトナイト cummingtonite カミングトン閃石 カミングトンセン石 カミングトン角閃石 カミングトン閃石
ダイジェナイト digenite 方輝銅鉱 ホウキドウ鉱 ダイジェナイト ダイジェナイト
透輝石 diopside 透輝石 トウキ石 透輝石 透輝石
ドロマイト dolomite 苦灰石
(−)
クカイ石
(ドロマイト)
苦灰石 ドロマイト
エデナイト edenite エデン閃石 エデンセン石 エデン角閃石 エデン閃石
エンスタタイト enstatite 頑火輝石 ガンカキ石 頑火輝石 エンスタタイト
ファヤライト faylite 鉄橄欖石 テツカンラン石 鉄橄欖石 ファヤライト
フェロシライト ferrosilite 鉄珪輝石 テツケイキ石 鉄珪輝石 フェロシライト
長石(族) feldspar(group) 長石(族) チョウ石(族) 長石 長石(族)
フォルステライト forsterite 苦土橄欖石 クドカンラン石 苦土橄欖石 フォルステライト
ザクロ石(族) garnet(group) 柘榴石(族) ザクロ石(族) 柘榴石 ざくろ石(族)
グロコフェン glaucophane 藍閃石 ランセン石 藍閃石 藍閃石
グリュネライト grunerite グリュネ閃石 グリュネセン石 グリュネル角閃石 グリュネ閃石
ヘデンバージャイト hedenbergite 灰鉄輝石(ヘデン輝石) カイテツキ石(ヘデンキ石) ヘデンベルグ輝石 ヘデン輝石
ホルンブレンド hornblend

ホルンブレンド ホルンブレンド ホルンブレンド
ジェイダイト jadeite 翡翠輝石 ヒスイキ石 ジェード輝石 ひすい輝石
マグネタイト magnetite 磁鉄鉱 ジテツ鉱 磁鉄鉱 磁鉄鉱
雲母(族) mica(group) 雲母(族) ウンモ(族) 雲母 雲母(族)
マイクロクリン microcline 微斜カリ長石 ビシャカリチョウ石 微斜長石 マイクロクリン
白雲母  muscovite 白雲母 シロウンモ 白雲母 白雲母
オリビン(族) olivine(group) 橄欖石(族) カンラン石(族) 橄欖石 かんらん石(族)
オンファサイト omphacite オンファス輝石 オンファスキ石 オンファス輝石 オンファス輝石
オパール opal 蛋白石
(−)
タンパク石
(オパール)
蛋白石 オパール
正長石 orthoclase 正長石 セイチョウ石 正長石 正長石
ピジョン輝石 pigeonite ピジョン輝石 ピジョンキ石 ピジオン輝石 ピジョン輝石
斜長石 plagioclase 斜長石 シャチョウ石 斜長石 斜長石
黄鉄鉱 pyrite 黄鉄鉱 オウテッ鉱 黄鉄鉱 黄鉄鉱
パイロープ pyrope 苦礬柘榴石
(−)
クバンザクロ石
(パイロープ)
パイロープ パイロープ
輝石(族) pyroxene(group) 輝石(族) キ石(族) 輝石 輝石(族)
ピロータイト pyrrhotite 磁硫鉄鉱 ジリュウテッ鉱 磁硫鉄鉱 磁硫鉄鉱
石英 quartz 石英 セキエイ 石英 石英
サニディン sanidine 玻璃長石 ハリチョウ石 サニディン サニディン
スピネル spinel

スピネル スピネル スピネル
スティショバイト stishovite

スチショフ石 スティショバイト スティショバイト
タルク talc 滑石(−) カッ石(タルク) 滑石 滑石
透閃石 tremolite 透閃石 トウセン石 透角閃石 透閃石
トリディマイト tridymite 鱗珪石 リンケイ石 鱗珪石 トリディマイト
チェルマカイト tschermakite チェルマク閃石 チェルマクセン石 チェルマーク角閃石 ツェルマク閃石