白水(1988)による〔『粘土鉱物学』(8-10p)から〕


『前述のように、1930年代に粘土の主成分が層状の結晶構造をもった珪酸塩鉱物であることが知られ、粘土鉱物(clay mineral)と呼ばれるようになった。その後、はっきりした結晶構造をもたない非晶質あるいは低結晶質(準晶質)の鉱物も、ある種の粘土の主成分として含まれることが明らかにされた。現在、粘土の構成鉱物は、第2章で述べるように、含水層状珪酸塩およびそれと密接な関係のある含水珪酸塩から成ると考えられている。粘土の諸性質は、主としてこれらの粘土鉱物に根源があるということができる。これらの鉱物以外に、土壌粘土中には酸化物や含水酸化物が広く含まれており、続成作用を受けた堆積岩などでは種々のゼオライトが多量に含まれることがある。いずれも微粒の鉱物成分として重要であり、粘土鉱物として取り扱われることもある。また、多くの粘土中には、石英、長石、その他の造岩鉱物、炭酸塩鉱物、黄鉄鉱などがしばしば含まれているが、これらは一般に粘土の特性との関係が薄いので、随伴鉱物とされる。
 粘土鉱物はこのように層状珪酸塩鉱物が主体であるが、その中でも、カオリン鉱物、雲母粘土鉱物、スメクタイトおよび混合層鉱物が、微粒の鉱物として粘土中に広く産し、粘土特有の、典型的な粘土鉱物である。蛇紋石、タルク、緑泥石、バーミキュライトなどは、粘土鉱物としても見出されるが、結晶の大きな雲母とともに、むしろ、粘土以外の岩石の構成鉱物として産することが多い。しかし、これら粗粒の層状珪酸塩は、鉱物学的には典型的な粘土鉱物と切っても切れない関係にあり、研究には欠かせないので、粘土鉱物として取り扱われることも多い。この場合には層状珪酸塩鉱物は粘土鉱物と同義語に近くなり、広義の粘土鉱物に含められる。第2章以下はこの立場で書かれている。前述の酸化物やゼオライトも異なった意味で広義の粘土鉱物に含められよう。したがって、粘土鉱物も粘土の場合と同じく、定義は明確でなく、その範囲は漠然としている。
 以上のように、鉱物の中でどこまでを粘土鉱物と呼ぶかははっきりしないが、典型的な粘土鉱物を中心にして他の一般鉱物とくらべて見ると、粘土鉱物には次のような特徴が認められる。
(1) 一般に微粒であり、そのために、粘土は単位重量あたりの表面積が大きく、コロイド的な挙動を示す。また、環境の変化に敏感で、性質が変りやすい。
(2) 同じ粘土鉱物種のなかで、鉱物学的性質の変動が著しい。結晶の不規則性が広く見られるが、不規則性の程度に大きな差異がある。化学組成も、理想式に近いものから、陽イオンの欠損や不純イオンの混入のために理想式から大幅にずれたものまである。
(3) 2つあるいはそれ以上の異なった層状珪酸塩鉱物の間で、それぞれの鉱物の単位構造層が積み重なりあって、混合層鉱物と呼ばれる一種の中間的な性質をもった鉱物が形成されている。このような混合層鉱物は粘土中に普遍的に産出する。
(4) 水が重要な成分として、OHあるいはH2Oの形で含まれ、結晶構造および物理的化学的性質の上で重要な働きをしている。また、水分子は、粘土鉱物粒子の表面、構造層の層間などに水分子層(水膜)を形成し、粘土と水の間の諸現象に深く関与する。
(5) 化学的活性と呼ぶことのできる、イオン交換能、膨潤性、有機物その他との複合体形成能などを示すことが多い。
 これらの粘土鉱物の諸性質は、具体的には第2章以下に述べるが、互に密接な関係があり、粘土の特性や利用面とも深い関係がある。』