須藤(1985)による〔『粘土の事典』(338-341p)から〕


『粘土の主要構成鉱物であって、粘土の特性の発現の源になっている鉱物。単一結晶とみなされる範囲の大きさ(単一結晶粒径)は微小であるが、結晶構造の規則−不規則の変化幅は広く、結晶性粘土鉱物と、低結晶質ないし非晶質粘土鉱物とに大別される。結晶性粘土鉱物は、層状珪酸塩に属する。Si(Alが一部置換して存在することもある)と酸素の結合単位であるSi-Oの四面体式配置体が連結して生ずる四面体シートの構造いかんによって、層構造と層−リボン構造とに大別される。主要化学成分を列記すれば、その数は地殻の主要化学成分に匹敵する。酸化物の形で表せば、SiO2、Al2O3、Fe2O3、FeO、MgO、CaO、K2O、Na2Oに加えてH2Oとなる。低結晶ないし非晶質粘土鉱物の主要化学成分には、SiO2、Al2O3、Fe2O3、MnO、H2Oが挙げられ、この中で特にSiO2−Al2O3−H2Oの組合せをもつものが多い。特に非晶質粘土鉱物とよばれている例では、シリカゲルとアルミナゲルの単なる機械的な混合ゲルとみなされるよりは、むしろシリカ−アルミナゲルとよばれるように、いわゆる結合ゲルとみなされるものが多い。粘土鉱物の中でも、発見されている種類の多い点、また分布の広い点について主要とみなされるものは、結晶性粘土鉱物であるが、アルミニウム質の非晶質粘土鉱物も、火山灰起源の粘土の主構成鉱物として重要である。
 粘土の性質に関連することがらとして、以下に述べることに注意する必要がある。
 粘土鉱物全般は、微結晶粒子として自然界に存在することに加えて、物によっては、結晶形態、構造の特性により、また物によっては化学的特性(たとえば交換性イオンの保有)により、顕著な物理的、化学的吸着、さらに豊富な化学的親和性を示す。中でも全般にわたって顕著なものは水和性である。水分子は粒子の表面、また内面(層構造においては層間域、層−リボン構造では、チャンネルの内面)に結合する。層状珪酸塩に属する粘土鉱物は、底面に平行な板状、薄片状の結晶形態を示し、この平たい結晶粒子表面、ならびに、種類によっては、それに平行な層間域の内面に接して、水分子は2次元的規則性をもった水分子配列層として結合する。この水分子層の結合形成は、底面に露出する底面酸素面の構造を‘鋳型’として生ずるものと考えられている。面に接してできた水分子層を鋳型として、さらにその上に水分子層が生ずるが、面から遠ざかるにつれて水分子集合は自由水(流動水)に移化する。層状珪酸塩に属し、しかも管状の結晶形態を示すハロイサイト、クリソタイルなどでは、管の内部もまた重要な水分子の結合、保有の場所を提供している。層−リボン構造では特にチャンネル内にはいわゆる沸石水があり、また露出しているマグネシウムに結合している水(結合水)が存在する。非晶質、低結晶質粘土鉱物中の水分子の存在形態は複雑で十分明らかにしえないが、単にいわゆる沸石水以外に、より強い結合性によって粒子表面に保有されている水の存在が無視できない。以上要するに粘土鉱物全般を通じ、粒子の表面、内面は、自由水、流動水とは物理的に区分さるべき水膜によって取り囲まれているというモデルによって考察することができる。十分に水を加えた場合には、水はこの水膜で囲まれた粒子間を流動しうるが、流動水と水膜の間は漸移する。このようなモデルは、可塑性をはじめとして、粘土−水系にみられる諸性質を説明するに十分である。十分水を加えたときは、開放的に分散し泥水化する。含水率の減少に伴って生ずる塊に外力を加えるときは、水膜と、それより漸移する少量の水分が、結晶粒子の相対的移動に対し、減摩剤の効果を発揮し、これをなめらかにし、抵抗は生ずるものの自由に変形できる状態をつくり出す。特に層状珪酸塩に属する粘土鉱物の結晶粒子は板状、薄片状である。このような粒子集合体については、ある方向から強く圧したり、ある方向に延ばしたりすると、片状結晶粒子は、力の方向に垂直に、または平行に配列しながら相対的に移動する傾向が生ずる。しかも減摩剤の役目を果たす水分子は、平行に並んだ各板状結晶を平らな面に沿って互いに粘着させている状態にある。したがって‘延び’が特に良好になることが期待される。以上述べたことがらより、粘土鉱物とは粘土の主要構成鉱物であって粘土の性質を司る鉱物と定義される理由を理解することができる。
 近代の知識に基づく粘土鉱物分類方針については国際粘土研究委員会の時代から現在の国際粘土研究連合(AIPEA)が受け継いで、それらの中に設置された命名委員会で検討が重ねられてきた。今日ではまだ主として結晶性の層構造の分類方針に止まっているが、この方針を尊重して、粘土鉱物全般にわたる分類表示案はいくつか報告されている。表はその一例である。
 層構造を有する粘土鉱物は、まず単位構造を構成する八面体シートと四面体シートの組合せ比率により2:1と1:1の2つの型に分けられる。各型は層間荷電の範囲に基づいて族に分けられ、各族は八面体イオン比率によって、2八面体型と3八面体型に分けられる。
 粘土鉱物の分類表示、命名と粒径とのかね合いについて注意すべきことがある。
 一般にものの分類基準は一定されるべきものではなく選択の自由がある。一般に鉱物分類は結晶化学的性質に基づいていて、表の分類もこの趣旨によっている。この分類方式には粒径とか、結晶性の良否などは取り入れていない。表に示された名称の鉱物の中には、粘土粒径範囲とつりあう微結晶としてのみ自然界に存在するものもあるが(スメクタイト、ハロイサイトなど)、中には、まれに肉眼的の結晶として見いだされるものもある(緑泥石、カオリン鉱物など)。特に雲母族には白雲母、雲母(ママ)などのように肉眼的の大きさの結晶をなす鉱物もまた珍しくない。粗粒鉱物と微細鉱物が結晶化学的分類の上で同じ種または族に入れられていても、粒径の相違以外に本質的な相違が皆無とは限らない。特に粘土粒径の範囲のものでは、物理的、化学的性質において、質においても数値においても特記するに足る変化が出現する。この点が粘土鉱物として指示されるために重要なことがらである。このような関連と変化を考慮すれば、肉眼的な粗粒結晶は、ここでは粘土鉱物のmacrocrystalline analogueと総称することができるであろう。
 は粘土鉱物の分類表であるが、その中の層構造の部分は「粘土鉱物に関連する層状珪酸塩の分類表」の意義をも示す表である。

粘土鉱物分類表
(T)結晶性鉱物
  (A) 層状構造

構造型


(x:単位化学式あたりの層荷電を表す)

亜 族
(Tは3八面体型、Dは2八面体型を表す)

おもな鉱物

2:1

(x〜0)
T(タルク) タルク
D(パイロフィライト) パイロフィライト

スメクタイト
(0.2<x<0.6)
T サポナイト
ヘクトライト
ソーコナイト
スティーブンサイト
D モンモリロナイト
バイデライト
ノントロナイト

バーミキュライト
(0.6<x<0.9)
T バーミキュライト
D バーミキュライト

雲母
(x〜1)
T 金雲母
黒雲母
チンワルド雲母
D 白雲母
パラゴナイト
セラドナイト
海緑石

緑泥石
(x〜変化あり)
T クリノクロア
シャモサイト
ニマイト
ペナンタイト
D-T スドーアイト
D ドンバサイト

脆雲母
(x〜2)
T
D
クリントナイト
マーガライト

スーライト
D スーライト

1:1

(x〜0)
T(蛇紋石鉱物) アンチゴライト、リザーダイト、クリソタイル
アメサイト
クロンステダイト
バーチェリン
グリーナライト
ガーニエライト(?)
D(カオリン鉱物) カオリナイト、ディッカイト、ナクライト
ハロイサイト(7Å)
ハロイサイト(10Å)
混合層鉱物
  (B) 層−リボン構造
  セピオライト
パリゴルスカイト
(U)低結晶質、非晶質鉱物
  イモゴライト
アロフェン
ヒシンゲライト
ペンウィサイト
 なお「族」はgroupの訳であるが、groupにあたる日本語としてはこのほか「群」も比較的多く使われている。