白水(1988)による〔『粘土鉱物学』(7-8p)から〕


『粘土(clay)は各方面で広く用いられている言葉であるので、色々の定義を与えることができ、一定していないが、2大別すれば、(1)粘性、可塑性などの性質をもった天然産の集合体を呼ぶ場合(2)集合体の中の微粒子部分を呼ぶ場合とに分れる。(1)の定義として一般的なのは、適量の水と混合している時に可塑性を示す微細粒子の集合体、ということになろう。可塑性(塑性、plasticity)とは、力を加えて変形した形が、力を除いた後にも保たれる性質を意味している。主として粘土を窯業原料などとして利用する立場からの定義である。陶土、染土などの土に当たる。岩石が鉱物の集合体であることからいえば、粘土は一種の岩石名と見ることもできる。(2)は、土壌学、土質工学、堆積学等で用いられ、粘土は土や未固結堆積物中の粒子のもっとも細かい部分を意味している。この場合、その粒子と同じ沈降速度と密度とをもつ球状粒子の直径(等価球直径)で粒度を表す。一般に、粒径2μm(0.002mm)以下の粒子を粘土(あるいは粘土分、粘土フラクション)と呼ぶが、土質工学では5μm以下とすることが多く、堆積学では1/256mm(約4μm)以下としている。その他1μm、10μm、20μm等にとる場合もある。いずれの場合も、粘土はもっとも細かい粒子を意味し、ついで、シルト、砂、礫の順に大きくなる。粒径の分類法として、現在もっとも広く用いられている、国際土壌学会による分類では、
(gravel) >2mm
粗砂 (coarse sand) 2〜0.2mm
細砂 (fine sand) 0.2〜0.02mm
シルト (silt) 0.02〜0.002mm
粘土 (clay) <0.002mm

となっている。
 このように、粘土は、(1)の物性を重視した意味(2)の微細粒子を意味する場合との2通りがもっとも一般的な用法であるが、後者にもとづくやや異なった(あるいは第3番目の)用法として、微細粒子(粘土)を多く含む天然の集合体に対して用いられることもある。粒度も物性のひとつと見るならば、(1)と(2)にまたがった用法ともいえる。例えば、直径2μm以下の微粒子を50%以上含む岩石を粘土岩と呼ぶような場合である。
 以上のように、粘土の学術的な用法は種々であるが、いずれの場合も、微粒の自然物である点は同じであり、その構成鉱物(粘土鉱物)は共通しているので、実質的には大きな違いや不都合はない。一方、重要な粘土資源とされる陶石、ろう石などは、比較的かたく緻密な岩石として産し、鉱物粒子も2μmより大きいものが大部分を占める。しかし、主要な構成鉱物は通常の粘土とほぼ同じであり、粉砕して粘土状粉末にして用いられるので、粘土の一種と考えて誰もあやしまない。また、ろう石を粉砕して得られる粉末は“クレー”(あるいは、ろう石クレー)と呼ばれ、粉材として用いられるが、この場合の“クレー”は粘土鉱物の粉末製品に対する商品名である。粘土に入るかどうか疑問があるのは、例えば珪藻土であろう。珪藻の遺骸の堆積物で、SiO2を主とし、粘土鉱物の含量は一般に僅かであって、多孔質で軽く、断熱材、ろ過材などに用いられるが、水と混ぜても可塑性に乏しい。しかし、産状や外観から、粘土に準じて取り扱われる。』