『3(ママ)とおりの定義が用いられている。@性質による規定: いくつかの特定の性質の組合せによって性状が指定される鉱物粒子集合体の総称。通常次の3つの性質が挙げられている。1.微粒子の集合体。2.適量の水とよく混ぜ合わせたとき、一般に目立った可塑性を示す。3.高温に十分加熱すると焼き固まる。A粒径に基づく規定: 1.特定の粒径範囲をさす。この範囲の選定は、異なった専門分野間で、また同一専門分野内でも、必ずしも一定していないが、たとえば2μm以下の粒径範囲。2.粒径区分に基づく粒径組成の特定の範囲をさす。この区分、範囲の選定もまた専門分野によりまた研究者により、必ずしも一定していない(図:略)。これらの定義は互いに無関係なものではなく、微細な粒子が取り上げられている点で共通しており、微粒子であるということが粘土を規定する上で、重要な一性質であることが示されている。@の定義では、挙げられた諸性質が組み合わさって認められることが重要で、それらの中のいずれか1つのみが認められても必ずしも粘土を規定するに十分とはいえない。Aでは粒径に関する区分名として粘土という名前が用いられている。したがって、この定義に関する限りでは、粒径以外のことがらについては、なにも述べられていない。しかし、ここに選定されたような、粘土と名づけられる粒径範囲、また粒径組成をもつ粒子集合体には、原則として(もちろん例外はあるが)、@に挙げた性質が認められる。したがって上記の2とおりの定義は両立しうる。
以下に各定義について必要なことがらを説明する。
@歴史的情報によれば粘土(clay)は‘(ギリシア文字;略)’(glutinous substance−粘着性のある物質)に関係する言葉とされている。もちろん当初は、科学的解明に基づいて生まれた言葉ではなく、むしろ地殻表層部に広く分布している土の一部に認められたbulkとしてのいくつかの性質に基づいて、当時の知識の整理に役立つ手段として、また利用上の立脚地より用いられるようになった言葉である。水でこねると塊になり、同時に手で延ばしたり、細工することができるようになること、また火に耐える性質などは、古代人類が、火を用い、石を築き上げて住まいとしていたときから、便利なものとして注意されていたに違いない。西暦77年に完成したというG.Pliniusの「Historia
naturalis」の第35巻には、粘土を石けんの代用に用いたことが記録されているという。これは記録に残る粘土の利用の最初のものであろう。G.Agricola(1546)は「土」の説明に、水で湿すと、手で細工ができるようになり、十分水を加えると泥水になるような鉱物(集合)体であると述べている。いうまでもなく、これらの性質は粘土分の多い土(粘性土)に認められるものであって、この説明は粘土の最初の定義とみなしてさしつかえないであろう。以上のような歴史的情報から、粘土とよばれるようになったものは、実は自然物のひとつとして広く存在していたこと、またそれを指示する性質には、今日の言葉でいう可塑性、成形性、延性、水中の分散性、吸着、イオン交換などが、注意され、また記録されていたことがわかる。
科学的な観察、分析が進むにつれて、それまで粘土とよばれてきたものには、さらに数多くの性質が認められるようになった。気体、液体の物理的、化学的吸着(有機物、無機物を問わず、イオンとしてまた分子としての吸着。水の場合には吸湿性とか水和性といわれ、一般に溶媒和とよばれる)、イオン交換、気相、液相中の分散性と、その分散系にみられる性質、特に水の場合の泥水の形成、粘性、湿ったときに認められる粘着性、乾いたときには、全体として軟らかい塊になるが、こわれにくい性質(乾燥固結)などである。要するに、粒径の減少、表面積の増大を、重要なひとつの基盤として、そこから発現される豊富な化学的親和性と多様な力学的性質といえる。
粘土研究の進展に伴って、粘土の科学的定義も少なからず試みられた。そのすべてにわたって、微粒子であること、ならびに可塑性とそれに関連する物理的性質が挙げられ、特に窯業(化学工学)分野では高温で焼き固まる性質が強調され、また特に土質工学分野では泥水形成、乾燥固結が指示されている。
化学成分については、粘土について、古く、シリカ、アルミナ、水を主成分とする、と指示されたことがあるが、化学分析が進むにつれて、粘土の主要化学成分としては、地殻の主構成化学成分(酸化物の形で表せば、SiO2、Al2O3、Fe2O3、FeO、MgO、CaO、Na2O、K2O)に加えてH2Oが列挙しうることが明らかになった。この化学成分の全体をひとつのわくとして粘土の定義の中に取り入れることはもちろん可能である。しかしこのひとつのわくの中で、細かい制限をつけにくいために、化学成分に関する指示は従来粘土の定義の中に、積極的には取り入れていない。@の定義は、この後者の態度によるものである。かくして、現在、粘土のひとつの定義は@の表現に落ち着いているとみることができる。
A粒径に基づく粘土の位置づけである。特に2の粒径組成は土のコンシステンシーと関連する性質である。
粒子の形は必ずしも一定していないから、粒径を表すにはいろいろな方法がある。また一般に、微粒子集合体の個々の粒子について、直接に各方向の粒径を求めるには、繁雑な手数を要する。ここで用いられている粒径値は、水中における粒子の沈降速度を測定し、これをStokes則に照らして求めた粒径である。沈降径といわれ、個々の粒子の形を球としたときの径であるから、等価球直径(e.s.d.)ともよばれている。粒径は元来連続したものであって、これをいくつに、またどのように区切るかについては、いろいろな案が提出されている。粘土として指示される粒径範囲の上限については、地質学、堆積学などでは、1/256mm=3.9μm(Wentworthスケール)が、また土壌学、土質工学では、2μm(Atterbergスケール)がもちいられていることが多い。多くの案を総合するに20〜2μmの幅があるが、その中で5〜1μmのものが多く、中でも2μmを採用する案が多い。
直径において1μm〜1nmの範囲(必ずしも厳密な限界ではない)にある粒子はコロイド粒子とよばれている。またおよそ4μm以下の粒子は、物質の種類によらず、ブラウン運動を示すこと、特におよそ2μm以下の粒子に明瞭に認められることが知られている。また可塑性、湿分保有性などは、およそ1μmの粒径の粒子を境として急変する傾向があるとする報告がある。これらのことがらをあわせ考えるならば、粒径区分は、各専門分野における研究方針、方法に則して、選択に多少の相違があるものの、提出された粘土粒径の範囲については、大まかな対応関係ではあるが、いくつかの物理的性質と無縁でないといえる。
自然現象、自然物いずれも、本来縫い目のない連続体である。したがって、この中に、分類とか定義の枠を設定する場合には、それが知識の整理に役立つ手段(ときには利用上の立脚地)であるにしても、なお設定の方針、設定されたわくの幅などについては、人為的な選択の自由がある。またひとつの枠を設定し、それを用いるかぎり、そのわくに近接したものの中には例外として取り扱われるものがあることも当然である。歴史を通じ今日まで、次第に定着してきた粘土の定義は、主として物理性に基づいている。この定義によればたとえば、フリントクレーは例外とみられる。なおこの他に、例外は商品名で粘土とよばれているものにみられる。』