原田(1999)による〔『電子図書館』(1-4p)から〕


〔第1章〕電子図書館とは

原田 勝

 本章では、後の各章への序論として、まず電子図書館とはどのようなものかについて考え、それから今の電子図書館につながる各種の研究や技術について簡単に見ておく。その後、ここ数年、世界各国において電子図書館に関する研究開発を促した直接のきっかけとして、技術の面からインターネットとワールド・ワイド・ウェブについて、政府の電子図書館開発への大規模な支援という面から、アメリカの全国情報基盤とデジタル図書館について、その歴史と現在を見ておくことにしたい。

1.1 電子図書館の定義

 電子図書館は、「ネットワークを介していつでも必要な情報が入手できるシステムである」とか、「インターネットとWWWをプラットフォームとする情報提供システムである」といったように、さまざまな定義が可能であるし、実際にそのような定義を見ることも多い。しかし、誰もが合意できる電子図書館の定義はまだないし、ある定義を提示したとしても、その定義の不十分さを指摘することは容易である。
 電子図書館の定義が難しい理由として、1)要素技術レベルから、コンテンツ・レベル、単館システム・レベル、地球規模の巨大システム・レベルに至るまでの、どのレベルで定義するか、2)定義を試みる人が設計者から利用者までの間のどの位置にいるか、3)そもそも図書館をどのような役割を果たすべき機関としてとらえるか、などによって定義が異なってくることを挙げることができる。さらに、世界中のどこを見ても、誰もが電子図書館と認める大規模な統合システムが、まだ稼働していないことも大きな理由であろう。
 電子図書館のある定義は、「必要な情報を、どこにあるかを問わず、いつでも、どこにいても、簡単に入手することができ、楽に読むことができるとともに、関連のある情報へと導いてくれる、システム」となっている。これは、利用者の便宜を強調した定義といえるが、技術者には、このような要件を満たすために、つねに最新の技術を応用することを求めている。
 別の定義としては、「従来の文献検索システムとドキュメント・デリバリー・システムとを統合し、インターネット上で提供するサー-ビス」がある。これは、情報提供者の立場からの定義であり、適用すべき技術がかなり明確に定められている。これによってでき上がるシステムのイメージは描きやすい。
 また、「図書館が通信ネットワークを介して行う一次情報、二次情報の電子的提供とそのための基盤」という定義は、同じ情報提供者でも、電子図書館のとらえ方に違いがあることを示している。「基盤」ということばから、国立中央図書館のつくる電子図書館という位置づけが見えてくる。
 数年前に、著者たちは、電子図書館の特徴として、次の5つの点を挙げた。
 1) デジタル − すべての情報がデジタル化されている。
 2) ネットワーク − 多くの図書館がネットワークで結ばれている。
 3) インタラクティブ − システムとのやりとりにより、最適な情報を最適な形態で提供してくれる。
 4) マルチメディア - 文字だけでなく、音、静止画、動画を含むマルチメディア情報を扱うことができる。
 5) スケーラブル − 大規模図書館から個人図書館に至るまで、利用できる資源に応じて、さまざまな規模の図書館を構築できる。
 これは、既存のシステムの特徴ではなく、今後の電子図書館が満たすべき要件としてまとめられたものであり、ユーザーにとっての使いやすさなどは、当然の前提として含まれるから、これを技術的な観点から見た電子図書館の定義とすることもできる。
 ところで、数年前から、サーバーに搭載され、ネットワークを介してアクセスすることのできる情報資源(これをネットワーク情報資源 networked information resources という)が急激に増加してきた。今では、ネットワークから、思いがけない重要な情報も手に入るし、テーマによっては、ネットワーク情報資源なしでは必要最低限の情報を集めることすら不可能になっている。これより、インターネット上の情報資源の総体がすでに電子図書館であると考えている人も多い。
 しかし、いかに大量の情報を保有していても、資料の雑然たる寄せ集めを図書館と呼ぶことができないのと同じように、ネットワーク情報資源の総体は、大量の情報の無秩序な集まりであるから、これを電子図書館と呼ぶことはできないのである。この無秩序さは、検索エンジンの進歩によって解決できる問題ではない。
 電子図書館とは、定められた目標をもって構築される統合的な資料群を有するものであり、次のような要件を満たしていなければならない。
 1) 電子図書館は、明確な目標・目的を持っていなければならない。
 2) 電子図書館のコレクションは、一貫した方針のもとに構築されていなければならない。
 3) 個々のドキュメントは、その電子図書館の目的に合致するように評価の加えられたものでなければならない。
 4) 利用者が、自分の情報要求にあったドキュメントを簡単に見つけられるように、コレクションが組織化され、検索システムが整備されていなければならない。
 5) 電子図書館が、すべての利用者に対して、公正な利用を保証するものでなければならない。
 6) 電子図書館では、新旧の資料および情報流通の仕組みを知悉した図書館員(または、それに代わりうるもの)による支援がなければならない。
 7) 印刷資料を有する図書館では、印刷資料とのシームレスな統合がなされていなければならない。
 電子図書館は、さまざまなテーマ、現象、著者などに特化した比較的規模の小さなものから、総合図書館、国立図書館のような大規模な図書館まで、多種多様な内容・規模のものが存在しうる。しかし、それらが図書館であるためには、少なくとも上の要件を満たしていることが必要である。』