和田(2002)による〔『地球生態学』(5p)から〕


『キーワード………生態学

 生態学(Ecology)という言葉はE.Haeckel(1866)によって提唱された。彼はこの言葉の定義として、「生物とその周囲の生物学的、非生物学的な環境との関係を調べる学問である。特にその生物のまわりの仲間や敵となる関係を研究する学問である」としている。生態学は個体以上の種や種の集合体の中での生物間の関係を理解する学問として始まり、この流れの中では物理・化学的な環境には大きな関心は払われない方向で進んでいる。
 一方、周囲の環境との関係を含める見方も進展した。S.A.Forbes(1887)は著名な“The Lakes as a Microcosm”を発表し、その中で次のように述べている。「湖の内部では物質が循環し、陸上の系に比べられる定常状態が保たれている。このミクロコスムの中では、すべての生物学的なプロセスは全体との関係を明らかにすることによってその本質の理解が可能となる」。このような流れを受けて1935年A.G.Tansleyは生態系(ecosystem)なる概念を気候・土壌・生物の複合体に対して与えた。ここではヒトも生態系の一員として組み込まれている。この生態系なる研究分野の具体的な内容はR.L.Lindeman(1942)によって描かれた。具体的には食物連鎖、栄養段階、物質循環、エネルギー循環などである。彼は惜しくも27歳で亡くなったが、彼の業績は後世に大きな影響を与えることとなった。生態系レベルの研究では、当然のことながらその扱う対象は生物種に限定されていない。
 一方、1988年に世界中に顕在化した地球環境問題では、社会の側から、いくつかの素朴な疑問が提示された(1.1節参照)。生態学は地球システムのレベルで、種が集まった群集(community)のレベルで、あるいは特定の種のレベルでこれらの問いに答えることを求められるようになったのである。総合化された新しい生態系理解のニーズが極端に高まってきたわけである。
 このようなニーズにどのように答えてゆけばよいのであろうか。物質循環レベルで、生態系の機能のレベルで、生物中心の生態学のレベルで新しい視座と展開が求められることとなってきたのである。』